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シモン=ボッカネグラ

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第一幕その三


第一幕その三

「それは本当ですか!?」
「私は嘘は言いません。誇りにかけてそれは誓います」
「ならば彼女の本当の出生は・・・・・・」
「それは私も知りません。ご主人様はお嬢様をピサの修道院で拾われたと仰ってます」
「それはどういう経緯でですか?」
「ご主人様の本当のご息女はピサの修道院で亡くなられたのです。ご主人様がその修道院に葬儀と永遠の別れを告げる為に来られた時その前に捨てられていたのがお嬢様だったのです」
「そしてグリマルディ家の娘となったのですね」
「はい、その通りです」
「しかし何故家督まで継ぐ事になったのです?確かに形式上は一人娘だとしても」
「あの総督のせいですよ」
 彼は顔を顰めて言った。
「あの男の」
 ガブリエレも顔を顰めた。彼も総督とは対立しているからだ。
「あの男は事あるごとに貴族の財産を狙い奪い取ろうとしております。それを防ぐ為とやはりお嬢様がいとおしかったからです。まるで亡くなられた本当のお嬢様のようだと」
「そうですか。それはあの人らしい」
 ガブリエレもこの家の当主と交際がある。非常に優れた人格者である。
「どうですか、お嬢様は貴族ではなく素性の知れぬ孤児だったのです。由緒正しき家柄である貴方はそれでもあの方を妻に迎え入れられますか?」
 彼はガブリエレの目を見て問うた。
「・・・・・・当然です」
 彼はそれに対して毅然として言った。
「僕はアメーリアを愛しています。これは彼女の姿と心が好きなのです。さっきも言いましたが僕は例え彼女が何者であろうとも愛しています、そしてこの気持ちは永遠に変わりません」
「そうですか」
 老人はそれを聞いて微笑んだ。
「それでは認めます。貴方はお嬢様に相応しいお方です」
「有り難うございます!」
 ガブリエレはその言葉に大喜びで答えた。
「そのかわりお嬢様を永遠に幸福にして下さい。あの方はそうあるべき方なのですから」
「はい、天の主と子に誓います。彼女を幸せにします」
 彼は高揚して言った。その時ラッパの音がした。
「む、あの男が来たか」
 ガブリエレはその音を聞いて言った。
「では私はこれで」
 老人はそれを聞くとそそくさと庭を後にした。
「ごきげんよう。それでは婚礼の日に」
「はい」
 二人は庭園から立ち去った。
 その誰もいなくなった庭園に総督であるシモンとその部下達が入って来た。シモンの隣にはパオロがいる。皆豪奢な服に身を包んでいる。
「おや、アメーリア=グリマルディはここにはいないのか」
 シモンは庭に入ると言った。
「どうやらそのようですね。一体何処に行ったのだ、総督が来られたというのに」
 パオロはそれに気付いて眉を顰めた。
「まあ待て、そんなに怒る必要は無い」
 シモンはそんな彼を窘めた。
「ハッ、これは失礼」
「わかればいい。じきに来るだろうしな。ところでここはすぐに離れた方がいいぞ」
「何故ですか?」
「うむ。ガブリエレ=アドルノがこの辺りに潜伏しているらしいのだ」
「あの男がですか!?まさかまた総督の御命を」
「おそらくな。何しろわしはあの男の父の仇だ」
「だとしたら厄介ですな」
「何、気をつけていれば心配は無い。だが油断をしてはいけないな」
「御意に」
 そこへアメーリアがやって来た。
「来たか」
 シモンはそれを見て微笑んだ。そしてパオロ達に対して言った。
「皆少し休むがいい。長旅で疲れただろう」
 そう言うと部下達を庭から下がらせた。
「あの娘がもうすぐ俺の妻になるのだな」
 パオロは下がりざま彼女の顔を見て言った。後にはシモンとアメーリアだけが残った。
「お久し振りです、総督」
 アメーリアは一礼して言った。
「はい、お元気そうで何よりです。ところで」
 シモンは早速彼女に尋ねた。
「貴女のご親戚はまだこのジェノヴァに帰っては来られないのですか?」
「それは・・・・・・」
 アメーリアはその質問に口ごもった。シモンとは友好的な関係にあるグリマルディ家だがやはり彼と仲が良くない者もいるのだ。彼等はピサ等に亡命している。
「仕方ありませんな。ここに帰れば私に頭を下げなければならない。プライドの高い彼等はそれが嫌なのです」
 その通りであった。彼等はその誇りを維持したい為に平民出身であるシモンに頭を下げたくはなかったのだ。
 
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