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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百五十話 転封

 
前書き
前回A○Bネタですけど、同盟への文化侵略って感じなんですよ、以前のオフレッサーのお笑いウルトラクイズみたいな感じ。

今回は焦土作戦の話です。 

 
帝国暦485年1月12日

■オーディン ノイエ・サンスーシ 謁見の間

テレーゼ皇女のローエングラム大公爵位叙爵内定記念に建設されたローエングラム大公記念劇場のこけら落としの余韻が覚めないこの日、記念式典に参加した貴族達の中でイゼルローン回廊に近い位置に所領を持つ所謂辺境貴族と言われる者達40名が揃って皇帝陛下への謁見を命じられた。

具体的な位置で言えば、ヴィレンシュタイン星系よりイゼルローン回廊寄りの星系に所領を持つ貴族達であった。これらの星系は旧ヴィレンシュタイン公爵領であるヴィレンシュタイン星系を除けば辺境地域と言えた。

この地域の星系は30年前のイゼルローン要塞建築前にはイゼルローン回廊付近で多発していた自由惑星同盟を僭称する叛乱軍総司令官ブルース・アッシュビー率いる宇宙艦隊の攻勢によりイゼルローン回廊付近に設置されていた拠点地域の後背にあたるが故に損害が出る度、人的物的にも過剰に徴集された結果、禄に開発が進まず、更にイゼルローン要塞建設に際しても資材、作業員等の強制徴集により、著しく発展途上の地域になっていた。

その様な逆境にも係わらず辺境の領主達はオーディンの中央政治などに野心や関心を持たずに自領の発展に努力してきたが、如何せん先立つ物がないために手詰まりとなっていた。中央の大貴族は貴族専用金融機関からの無期限無催促無担保の低利資金融資を受けられるのであるが、辺境の貴族にはその恩恵もなく貴族と言うより土豪と言った方が良い者までいる始末。しかし彼等には臣民と共にあるという自覚が有るために大貴族と違い臣民を慈しんでいた。

その上、大貴族が徴集等を逃れるために政治的圧力を加え徴集逃れをして肥え太る中、建前上は徴集、徴兵等は帝国全土須く平等であるが故に、ただでさえ少ない労働人口を失い生産力が落ち、其処から更に徴集され末に飢饉が多発するという負のスパイラルに陥る星系も多々見られた。

その為に、最近の皇帝陛下のお変わり様に期待し、態々オーディンまで来たからこそ、辺境に何か画期的な政策をして貰えるのではと期待していた。

貴族達が謁見の間に集まり皇帝の登場を待つ。

何時ものように古式豊かなラッパのファンファーレも式部官の声もなく、静かにリヒテンラーデ侯が先導した形でのフリードリヒ四世の登場に謁見に来た貴族達が驚く。

皆の驚きの顔を見ながら、フリードリヒ四世が話し始める。

「この度はテレーゼの為に集って貰いテレーゼも喜んでおる」
フリードリヒ四世の言葉に参加している40人の貴族が頭を下げる。
「臣として恐悦至極に存じます」

代表して一応は皇族の連枝であるバルトバッフェル男爵が返礼するが、その目は決して笑っていないことから判るように、普段であれば殆どオーディンに上洛してこないにもかかわらず、集まってきている理由である辺境の開発うんうぬんを教えて貰わなければ、来た甲斐がないと訴えている様であった。

「皆に集まって貰ったのは他でもない、この度、帝国国土省惑星開発局に開発させていた新規開拓40星系が居住可能になったのじゃ」

集まった貴族にしてみれば、自分達の星系の宇宙港、上下水道、道路の舗装などのインフラ整備の支援の話を期待していたのであるが、全く関係無い話をされて内心無駄骨だと思い始めていた。

そんな貴族の顔を見ながらフリードリヒ四世がからかうように話す。
「卿等の顔を見れば判るが、普段オーディンに来ない面々がこうして集まっておるのじゃ、期待はずれの話としても聞いていて損はないと思うが、どうなのじゃ」

フリードリヒ四世の言葉に顔色を変える面々。

「陛下、そろそろ臣が説明致しましょう」
「うむ国務尚書任せた」
リヒテンラーデ侯がフリードリヒ四世に代わり説明を始める。

「卿等が、オーディンに来た理由が殿下の祝いの為だけではないことは、陛下も重々承知なのだ。陛下も辺境の疲弊を憂いでおられる」

リヒテンラーデ侯の話を聞く辺境貴族達だが、彼等にしてみれば、今まで散々な目にあわされてきた中央政府の首班たるこの老人の言葉は、自分達の財産を強奪した強盗が上辺だけの慈悲心を見せて居るようにしか見えず、余り関心がないようである。

「恐れ多き事なれど陛下の御心中を知るよしもない我等にしてみれば、何故辺境ばかりが犠牲になるのかと常々疑問に思っておりました」

バルトバッフェル男爵が口では何とでも言える。我等の苦しみを知らずに贅沢三昧の生活をしてきたくせにと言うニアンスで嫌みを込めている。

「卿等と卿等の臣民が塗炭の苦しみをしている事は予の無策のせいといえよう」
フリードリヒ四世のいきなりの言葉に皆が驚愕の表情を浮かべる。

「陛下、その様な事を……」
フリードリヒ四世の独白に今までの疎外感的な違和感が消える。
「卿等の土地が今だ天水に頼る農法を行い連作障害の結果、土地が痩せ、堅くなり、塩害と酸性化により年々収穫量が落ちつつある事も知っておる」

フリードリヒ四世の今までの姿を知っている辺境貴族達は皇帝が確りと情報を把握している事に驚きを隠せない。
「陛下、その通りにございます」

「更に、フェザーン資本により単一作物だけを作付けしたうえ、その作物を商社により買いたたかれ、生活必需品は輸入に頼らねばならないなど、憂慮すべき事態が多きことも判っておる」

フェザーンは借金にあえぐ辺境貴族へ言葉巧みに取り入り、星系内の未開発資源を担保に高利で資金を貸し出し、プランテーション式の農場で星系の首根っこを掴んで、大もうけするという事もしていた。

「陛下、其処までお分かりなのですか」
判っていて何故助けて貰えないのかと言う不満の表れが有る貴族の口から出る。

「うむ、今までは改革しように、内務省の者共の妨害でどうしようも無く手を拱くしか無かったが、先年の改革でやっと対処が可能になったのじゃ。その為に今回卿等を呼んだのじゃ」

フリードリヒ四世の話に、期待が持て始めた辺境貴族の顔に喜色が見え始める。
「それに、予とアンネローゼの皇子に負債を与えたくはないのでな」

グリューネワルト伯爵夫人の皇子の言葉に、辺境貴族が驚く。
「陛下、伯爵夫人が御懐妊致しましたか?」

その言葉に、フリードリヒ四世は笑いながら答える。
「そうではない、ルードヴィヒが死に予の世継ぎがおらん状態じゃ、それでは些か不味かろう。それにこの所体調もすこぶる良いのでな、そろそろアンネローゼと子でも作ろうと思っておるのじゃ」

皇帝の惚気にどう言ったら良いのか判らない状態が続く。
「陛下、それよりも、辺境開発のついて続けませんと」
リヒテンラーデ侯が話を戻すように提案する。

「おお、そうであったな。卿等の星系の詳しき情報を国土省惑星開発局に照査させたが、500年に及ぶ土地と資源の採掘により再開発は資金が掛かりすぎると出たのじゃ」
フリードリヒ四世の話に再度くらい表情になる辺境貴族達。

「其処で、卿等に転封を命じる事にした」
「転封?」
皆が、その言葉を聞き疑問のある顔をする。

「そうじゃ、卿等の所領を新規に開発した星系へ移封させる事にしたいのじゃ」
皆はいきなり所領移動と言われても困るという顔をする。
「恐れ多き事ながら陛下、突然のお申し出、我等一同困惑しております」

自然と代表者になっていたバルトバッフェル男爵が皇帝へ答えると多くの辺境貴族が頷く。
「確かに、いきなりであった。卿等の忌憚なき意見を聞きたい」

フリードリヒ四世の言葉にリューデリッツ伯爵が質問する。
「陛下、その新地の住民は如何ほど居るのでしょうか?」
「開発が済んだばかりで、開発庁の職員以外は殆どおらぬ」

その答えに皆が驚く。
「陛下、恐れ多き事なれど、住民が居なければ何もすることが出来ません」
クラインゲルト子爵の言葉に全員が頷く。

「その事じゃが、転封は卿等だけではなく卿等の所領全ての住民を移動させることにしておる」
「全住民でございますか?」
「そうじゃ、此より2年間かけ卿等の星系より全住民を移住させる」

その壮大さに皆が驚くが、ミュンツァー男爵は先祖譲りの聡明さで、処罰覚悟で問題点を指摘する。
「陛下、全住民を移住させますと、最初から土地を作らなければなりませんが、人力で耕すことがどれ程大変か、臣として領民の苦労を考えると恐れ多きことなれど、賛成する訳には行きません」

ミュンツァー男爵の言葉に多くの貴族がギョッとした顔になるが、フリードリヒ四世は咎めることもなく答える。

「男爵の懸念も尤もじゃ、其処で予は、フェザーンで行われている大規模集約農業という機械を使う農業を行って貰うつもりじゃ」
「大規模集約農業?」

「そうじゃ、今までのような鍬で農地を耕すのではは無く、集団農場を作り大型トラクターで農地を大規模に耕し、コストを削減し大量の作物を育てる方法との事じゃ」
「陛下、現在の領地でトラクターを使う事は出来ないのでしょうか?」

「それじゃが、現在は自作農が少量の土地を耕している。その場合各々がトラクターを購入せねば成らずに、大規模耕作が出来ないとの事じゃ」
「陛下、移封致しましてもそれだけの初期投資をするだけの資金が我々にはございませんし、数年はまともな作物が育たずに、納付することも出来ず、飢饉になる恐れがあります」

「それは尤もな意見じゃ、其処で予はこの移封に伴う資金の一切を下賜する事に致す。更に今後10年間は一切の徴集、徴兵を停止致す故、卿等は所領の開発に尽力して欲しい」

この後、数か月のすり合わせにより。皇帝陛下の意志の強さに驚いた彼等が移封を受け入れる事になった。

確かに先祖代々の開発してきた土地を離れるのは断腸の思いであったが、領民が餓死や身売りすることを考えれば、致し方無しと納得するしかなかったそうだ。

また領民も10年間無税、更に借金まで棒引きのためによほどの偏屈者以外は移封を受け入れた。その際先祖代々の墓地なども移動させる事が出来たことも移封反対に繋がらなかった要因であった。

この転封は帝国暦485年4月アムリッツア星系から始まり2年後の487年8月のボーデン星系まで続く予定となっている。移住人数5000万人という一大プロジェクトを国土省、軍務省、内務省、運輸省、商務省などの各省庁が垣根を取り払い協力することで2年強という短期間で移動を完成させる物である。


帝国暦485年1月13日

■オーディン ノイエ・サンスーシ 小部屋

小部屋でフリードリヒ四世、リヒテンラーデ侯、グリンメルスハウゼン上級大将、ケスラー中将、テレーゼが集まり、今回の首尾について話し合っていた。

「テレーゼ、バルトバッフェル男爵達の反応はかなり良い状態ぞ」
「流石です、お父様。演技派ですわ」
「ハハハ、アンネローゼとの惚気は国務尚書も唖然としておったわ」

みんなの目が、リヒテンラーデ侯に向く。
「陛下が、あの様な事を仰いますから、胆が冷えましたわい」
リヒテンラーデ侯があの時のことを思い出して愚痴を言う。

「済まぬな、ああでも言わんと、転封の理由付けができんのでな」
「せめて事前にお知らせ頂ければ良い物を」
「許せ、そちの仕切り直しで話が進んだのじゃから、結果オーライじゃ」

フリードリヒ四世のはっちゃ気振にリヒテンラーデ侯が顳顬(こめかみ)と額に手を置いて渋い顔をする。

「ホッホッホ、国務尚書殿も苦労なさいますな」
グリンメルスハウゼンが笑いながらリヒテンラーデ侯を弄る。
「えぇい、卿が、陛下を甘やかしたからこの様な悪戯好きになったのだぞ」

「いえいえ、滅相もございませんぞ。陛下の悪戯好きは生まれつきでございます」
身分の上下も関係無く気の置けない者達の話し合いは進む。

「テレーゼ、アムリッツア星系からボーデン星系までの臣民を移住させると言う事は、焦土作戦は如何致す?」
フリードリヒ四世が当然の疑問をぶつける。

「はい、それは、以前からケスラーに命じて作っていた名簿により、各星系に旧叛徒系解放農奴、捕虜、政治犯の共和主義者、重犯罪者、農奴、流刑民などを入植させます」
「それでは、その者達を囮に使うと?」

出席者の驚きの中、ニヤリと笑うテレーゼが話す。
「そうです、アムリッツアからボーデンまで2億人近い叛徒に友好的な人々が食うや食わずで居れば、彼等は間違えなく食糧の配給を行うでしょう。しかも焦土作戦を知らない訳ですから、直ぐに補給計画が破綻します」

皆、テレーゼの話を固唾を呑んで聞く。

「更に、通商破壊を行い、補給を完全に干上がらせます。其処で一気に反撃し叛乱軍の主力戦力を葬り去ります」
「うむー、聞きしに勝る才能ですな」

「国務尚書、余り賞める出ないぞ、ただでさえ危ないことに頸を突っ込むのじゃから」
「御意」

「後は、敵の補給船団を鹵獲(ろかく)と、味方船団によって、敵からの奪還地域に速やかに補給と医療等の支援を行います。此により、叛乱軍に好意を持つ者達も我々に好意を持つように出来るでしょう」

「うむ、確かにあの者達の待遇は最低限度の食糧による飼い殺し状態、其処へ皇帝陛下のお慈悲で支援が受けられるとなれば、確かにそうなりますな」

「此ばかりは、転んでみないと判らないけど、その時の対応により臨機応変にするしか無いわ。叛乱軍が来るまでの最低限度の食糧は残すとかね」

「それが良かろう」
「小官もそう思います」
「うむ、叛乱軍が来るまでの最低限度の食糧は残すことと致そう」
 
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