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魔弾の射手

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第三幕その二


第三幕その二

「薔薇の様に明るい笑顔をお願いしますよ」
「わかったわ」
 ようやく彼女は明るさを取り戻してきた。
「そうよね。私が明るい顔をしていないとあの人も心配するわ」
「その通り」
 それに合わせて頷く。
「では花の冠を」
「あら、忘れていたわ」
 ハッとして気がついた。
「すぐに取りに行かないと。大変なことになるわ」
「そうです。お急ぎあれ」
 エンヒェンはわざと急かした。
「いえ」
 しかしすぐに思い直した。
「私が取りに行きます。ここでお待ち下さい」
「頼めるかしら」
「それが私の仕事ですから」
 そう言って部屋を後にした。入れ替わりに扉をノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ」
 彼女はそれに入るように言った。すると数人の着飾った少女達が入って来た。それは花嫁の付き添いの少女達であった。
「いらっしゃい」
 アガーテは笑顔で彼女達を出迎えた。
「はい」
 見ればその着飾った服はこのボヘミアの服であった。アガーテのそれとは違い花環や花は付けてはいない。
「このすみれ色の絹を」
 一人がアガーテに絹を差し出した。
「有り難う」
 彼女はそれを受け取った。そしてそれを肩に巻く。もう一人前に出て来た。
「私はこれを」
 それは緑の花輪であった。
「喜んで」
 アガーテはそれも受けた。
「頂くわ」
「はい」
 こうして彼女は次々に飾られていった。少女達はそんな彼女を微笑みながら見ている。
 また出て来た。今度は金色の亜麻であった。
「まあ」
 彼女はそれを見て顔を綻ばせた。
「何て美しい」
 そしてそれを身に纏った。白を基調として多くの色に飾られていった。
「後は一つだけですね」
「ええ」
 少女達はそう話した。
「花の冠だけ」
「けれどそれももうすぐ」
 そこにまた扉をノックする音が聞こえて来た。
「どうぞ」
 アガーテが入るように言うとエンヒェンが入って来た。そのてには紐で結んだ丸い箱がある。
「それは」
「遂に届きましたよ」
 彼女はアガーテに満面に笑みを浮かべてそう答えた。
「じゃあそれは」
「はい、花の冠です」
 彼女はそう答えた。そしてアガーテの前にやって来る。
 まずは紐を解いた。そしてそれをアガーテの前に差し出した。
「どうぞ」
「ええ」
 アガーテはそれを受け取った。それからゆっくりと開ける。しかしその中にあるものを見た瞬間彼女だけでなく他の者も皆凍りついた。エンヒェンもである。
「これは・・・・・・」
 それは何と葬式用の銀の冠であったのだ。あまりにも不吉なものであった。
「死の冠。どうしてこんなものが」
 アガーテの顔は再び青くなっていた。
「これは何かの間違いですよ」
 エンヒェンはそれを見て慌ててその場を取り繕った。
「使いの者か誰かが間違えたのでしょう。けれどその責任は問わないで。神聖な婚礼の場なのですから」
「え、ええ」
 アガーテも少女達もそれに頷いた。
「このことは忘れましょう。いいですね」
「はい」
 エンヒェンに言われ皆頷いた。こうしてこの場は何とか収まった。
「とりあえず花の冠ですが」
「それだったら」
 アガーテがここで口を開いた。
「薔薇を使いましょう、白い薔薇を」
 そう言って花瓶にあるあの白い薔薇を指差す。
「隠者様から頂いたあの白い薔薇を。それならいいでしょう?」
「あ、それでしたら」
 エンヒェンはそれを聞き明るい顔に戻った。
「よろしいかと。では早速花の冠を作りますね」
「ええ、お願い」
 こうしてエンヒェンは花瓶の側に行き素早い動きで花の冠を作った。そしてそれをアガーテの前に差し出す。
「どうぞ」
「はい」
 あらためてその冠を受け取る。そして彼女はそれを被った。
「まあ」
 それを見たエンヒェンも少女達も思わず感嘆の息を漏らした。あまりにも美しい姿だからである。
「どうかしら」
 アガーテは彼女達に尋ねてきた。
「とてもいいですわ」
 皆口を揃えてそう答えた。
「それでしたら問題はないと思います」
「それどころかかえってよいような」
「じゃあこれで行くわね」
 アガーテもそれを聞いて安心した。そしてそう尋ねた。
「はい」
 皆それを認めた。アガーテはそれを聞いてまた微笑んだ。
「よかった、さっきはどうなることかと思ったけれど」
 そして頭にある白い薔薇に手をやった。
「頼むわね。婚礼の間私を護ってね」
 隠者に言われた言葉を思い出していた。そして彼女はエンヒェンや少女達と共に婚礼の場に向かうのであった。
 
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