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なりたくないけどチートな勇者

作者:南師
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26*ある種の公開処刑

「ナルミ!早くしろ!」

「先生、ここがあいてますよ」

どうもこんにちは、鳴海です。
突然ですが、今自分はエリザとシルバちゃんと共にとある劇場にきています。

なぜかって?
理由は簡単、エリザの

『何?私達の劇をやってる?よし、観に行くぞ。』

この一言が原因である。
いや、むしろ情報をエリザに流したリム副隊長が諸悪の根元か。

とりあえず、自分達はみんなして変装し、一般客として劇場に潜り込んだのだ。
変装した理由は、話しのもとになってる人物がそのまま行く訳にもいかないというシルバちゃんの意見により、見事に変人丸出しな恰好になっている。

何たって、普通の街人の恰好にちっこいシルクハットみたいな帽子、さらにサングラスまで装備しているのだ。
いくら髪と眼を隠すためとは言え、怪しむなって言う方が無理な恰好である。

正直、帰りたい。

「先生、早く座りましょう」

自分がなんかたそがれてると、いかにも田舎娘な恰好をしたシルバちゃんに手を引かれ、彼女の隣に座らされた。
すでに左側には、これまた街娘な恰好をしたエリザがいる。

めっちゃニヤニヤしながら。

「いやぁ、やはりナルミの朝帰りからシルバは積極的だな」

何を言う、早○優。

ほら、シルバちゃんなんかめっちゃあわあわ言って茹蛸になっているじゃないか。

「いえ!あのその!まだ先生とはそう言う訳では…」

「まだって事はいずれなるのだな。城の者もみんなお前らの事は噂しているのだぞ、さっさとくっつけ。なあナルミ」

「自分に振るな。ほら、シルバちゃんも落ち着いて。そろそろ始まるから」

とりあえず、否定も肯定もせずに話しを流す。

だって、下手な事言って殺されたくないもん。

しかしまぁ……意外に人が入ってるな。
もはや満員である。
劇場の形は、半径40メートルくらいの円で、中心に半径10メートルくらいの一段下がった場所がある。
よくあるサーカスの形だと思えばいいだろう。

と、自分が観察していたら、不意にアナウンスが流れてきた。
『紳士淑女の皆さま!お待たせいたしました!これより“黒騎士英雄譚”を上演いたします!!』

………帰っていいっすか?


**********☆


『その日、街はいつもどうりの平和な日であった…』

そう言ったナレーションで劇は始まった。
ステージには街人役のひとが何人かいる、そこへ一人の青年が叫びながらかけてきた。

「魔獣だー!」

その叫びと共に、彼を追うような形で謎の巨大ぬいぐるみがあらわれた。

『だが、その平和も一体の魔獣により壊されようとしていた。』

よし、なにひとつわからない。
いつあそこに魔獣が出たか簡潔に説明を求めたい。

『兵士達は勇敢にも戦ったが、魔獣の圧倒的な力の前に、なす術もなく倒れていった。』

青年達が舞台から逃げ、代わりに兵士役の人達が数人ぬいぐるみに立ち向かった。

……が、ぬいぐるみが動くだけでなぜかみんな倒れていった。

『だが、彼らがその魔獣の力に絶望しかけていた所へ、彼は現れた。』

なんかのそのそぬいぐるみが動き、兵士にとどめをさそう(のしかかろう)とした所で、なんか黒マントに身を包んだのがぬいぐるみと兵士の間に立ち塞がって、高らかと言った。

「待つがいいそこの魔獣よ!民を虐げる悪しき存在よ!」

そう言って奴はマントを投げ捨てる。

「自分!ハセガワナルミがいる限り、そのような事は決してさせない!」

下にいたのは、魔法使いみたいな黒い変な服に身を包んだ、謎のイケメン(黒かつら付き、なぜか眼も黒い)だった。

彼が大見えを切ると同時に、会場から黄色い歓声が上がる。

「おい!誰だか知らないがあれは魔獣だ!」

「そうだ!魔獣に単体でやり合うなんて、命を捨てるような物だぞ!」

そう言うは倒れてる兵士達。
そして次に続く台詞は

「ふんっ!たかだか魔族が私に立ち向かうなぞ!命知らずめが!」

魔獣ぅぅ!!!
貴様が喋るか!
びっくりだよ!

「ふっ…自分は魔族では無い、自分は…」

そう言いながら、ハセガワナルミ(以下黒いの)はポケットから紫の手帳みたいなのを取り出し、それを上に掲げ

「誇り高き正義の使者!人間だ!」

言うと同時に振り下ろす。
すると、ランプの光みたいなのがぬいぐるみに集中し、ぬいぐるみがよがり出す。

「ぐ……がぁぁぁぁ!」

そして萎れる。

なんだこれは。

「大丈夫か、そこの者」

そんな不思議なぬいぐるみには一切関心を示さず、黒いのは後ろの兵士に声をかける。

「あ、ありがとうございます……あなたは一体」

「自分は人間の、ハセガワナルミだ。この国を救うため、来たる戦争に勝利をもたらすために自分は来た。さぁ、自分を謀将の姫騎士、エリザ様の元へ案内してはくれないか」

黒いのがそう言うと、兵士達は慌てる演技をした後に、黒いのを城に案内すると言う言い出した。
そして、その兵士と共に黒いのは一旦舞台から消えた。

………うん、何この茶番。
いろいろ思う所はある、が……一番言わねばならぬのはこれだろう。

なにが正義の使者だバカヤロー。


***********★


「そなたが私に会いたいと言う者か?」

「はっ。自分の名前はハセガワナルミ、この国を救うためエリザ様の元へやって参りました」

なぜエリザにひざまずくなぜ敬語をつかうなぜ自らエリザの元につこうとする!?

「聞くところによるとお前は人間だとか、それは真か?」

他に疑問があるだろう。
なぜに不審者がいきなり姫様にの前にいるとか。

「はっ。自分は人間の、王族の血筋に当たる者。そして自分のオーラは覇王と勇者の二色を有しております。それを証明する物はここに」

そう言いながら、黒いのはどこから出したか長く炭みたいな黒い棒をエリザ役に差し出した。

「それは我が家の家宝、サムライの武器カタナと申す物であります。名をイチゴと言い、人間にしか扱えない代物です」

「ふむ……わかった、お前を私の近衛隊に入れる事にしよう」

早いなおい。
いろいろ疑問が残るぞこれは。

「{{待って下さい!」」」

そう言って現れるは……まぁ、近衛隊役の方々である。

その中の一人、ミミリィ隊長役(多分)の人が一歩前に出てこう言った。

「私達近衛隊に、弱い者はいりません。確かに噂だけでは強いかも知れませんが、実際に見てみない事には私達は納得できません」

「ふむ、ではどうしろと」

「私達と彼を戦わせて下さい。そうすれば私達も納得できましょう」

……たーしか建前はそんな感じだったけど、彼女が最初に自分と戦う理由はもっと不純だった気がする。

「いいだろう。私もナルミの強さを見てみたい。ナルミ、いいか?」

「エリザ様のご命令とあらば」

……これ、何の劇?

「……本物のナルミもこれくらい忠誠心があればよいのだが」

「…黙って観てろ」

エリザの呟きに対応しつつ、芝居を観る自分。
正直、あそこまでいったら自分じゃねぇよ。

と、なんだ?
なんか段々暗くなってきたぞ?

「主を護りし勇敢な者達よ、その姿に敬意を評し、我が秘術を見せてやろう」

黒いのがそう言うと、完全に真っ暗になり、そして

「ディガリブク!」

呪文と共に明かりがつき、でっかい何かが中央にのさばっていた。
なんか、黒いのがきていた服を着た、でっかい黒いの人形だ。

意外と完成度は高い。

つか、“ディガリブク”って“ディカポルク”の事か!?
どんだけよ。

「……な…なんだ、これは…」

驚いているエリザ。
そして、弱腰になる近衛隊。

『これが自分の秘術の一つだ、さあ、戦いを始めよう。』

なんだこのくぐもった声は。

とりあえず、そんな黒いのの声を聞いてもなお動けない近衛隊。
すると、途端に再び暗くなり、二三秒してまた明かりがついた。
中央に人形は無く、再び黒いのが立っている。

そして、黒いのは息を吸いおもいっきり一言。

「軟弱者がぁ!」

………あっれー?
自分こんなこと言ったっけ?

「高々これだけで足がすくんでいてどうする!近衛なら主を護る為、いかな強敵であろうとも立ち向かうだけの勇気をもたんか!これから自分がその根性を叩き直してやる!」

そう黒いのが言うと、近衛隊達は泣き出した。
なんか感動したらしい。
それから彼らは黒いのに先生だのなんだの言って、とてもカオスだった。


***********★


それからしばらくの描写は、なんか余りに異常すぎて詳しくはいいたくない。

少し言うと、自分が王都に向かう途中空腹で倒れたシルバちゃんに自らの血を無償で分け、さらに血が少なく弱った所で攻めてきた帝国軍からシルバちゃんを護るために矢を背中に受けながら、気迫で彼らを気絶させた後、最後にシルバちゃんが寝てる自分を介抱して、ついでに感謝の言葉を言いながらキスをするシーンとか。
(この時本物は真っ赤になって気絶しそうだった。ついでに、さっきエリザが言ってた噂の正体を自分は見つけた。)

バリスと決闘(つか死闘)を行い、真の強さやらについてなんかきょーれつに語り、バリスと意気投合した後にそれを王様に認められて二つ名を貰ったり。

砦に出向いて朝早くから奇襲してきた敵を、敵が召喚した魔獣ごと“じげんていでっき”という秘術で倒し、『奇襲なぞ、誇り無き者がする事だ!』とかいいながらブチ切れてたり。

なんか阿保将軍が帝国と繋がっていて、援軍を騙して敵の門に突撃させ、援軍が壊滅しかけている所で自分が歌を歌い(なんか滅びの子守唄とか言ってた)、そこにいた者全ての意識を刈り取るとか、限りない混沌ぶりである。

宇宙の法則もここまで乱れまい。

そして、次の場面は

「姫、ご武運を」

「ああ、ナルミもな」

お城に潜入するあそこである。

そして、黒いのはさっそく内部に潜入し、そこでしばらく考えていた。

「さて、いかがしようか。適度な混乱をもたらし、なおかつ味方の助けになる事」

と、黒いのがしばらく唸っていると、彼の眼にはあるものが。

……あ、なんかよくみたらあれ黒でない。
ただの濃いめのダークブルーだ。

まぁとりあえず、彼は飛竜(やっぱりでっかいぬいぐるみ)を見つけた訳よ。

「飛竜か…これらを味方につければ、戦いも有利に進められよう」

は?
何、味方に?
竜を?

「そこの飛竜よ、自分の言葉が聞こえるか」

『…おや、我らの言葉がわかるのか黒き者よ。珍しい、お前は一体何者か。』

飛竜ぅぅ!!!
貴様は絶対喋っちゃ駄目だろ!!

「自分は人間のハセガワナルミと申す者。この戦いを終わらせるため、貴様達飛竜の力を貸して欲しい」

『なんと!あなたが人間だと!?いや、確かに我ら飛竜と会話出来るのは人間のみ。もはや疑う余地もあるまい。だが、我らにもこの国に恩がある、やすやすと裏切りを働く訳にもいかん。』

お前ら飼われてるだけだから。
恩とか普通あるのか?

「ふっ……どこぞの将軍よりも忠誠があるな。だが安心しろ、この国の魔王は今、邪な者に操られている。自分はわかる。自分はそれを開放し、邪な者に鉄槌を下す事を約束しよう」

してねーよ。

『…つまりそれまで時間を稼げと。』

「理解が早いな、では頼む」

そう言うと、黒いのはどこかに走っていった。
後にのこったぬいぐる飛竜は

『行ってしまったか…なんとも不思議な者だった……しかし、魔王様が操られているのを助けるてなれば協力しない訳が無い。』

そう言い、ぬいぐるみは羽(布)を広げ、高らかに雄叫びをあげた。

………もう、知らん。


*********★


「ふふふ…よく俺が黒幕だと見破ったな」

「貴様から溢れる邪な魔力、気付くなと言う方が無理な話しだ」

さてさて、見せ場である。
黒いのは王様を助け、ぼっこをもちながらついに黒幕と対峙する場面だ。

ちなみに、端っこには戦いをしている兵士達がいたりする。

「お前はなかなかやるようだが、他の者はどうだろうかねぇ」

「どう言う意味だ?」

「こういう意味だ!いでよ魔獣!」

黒幕がそう叫ぶと、やっぱりぬいぐるみがいっぱいでてきた。
なんつーか、よくこれだけつくったな。

そして、ぬいぐるみはみんな戦いを続けている兵士の所に向かい始める。
逃げ惑う兵士、高笑いする黒幕。

「ハッハッハッハッハ!どうだこの魔獣の数!貴様に全ての兵士を救う事が出来るかな!?」

そう言いながら、なおも笑い続ける黒幕。
しかし、黒いのはやたら余裕そうだ。

「……ふっ」

「何がおかしい!」

「浅はかだな、やはり小物か…」

そう言いながら黒いのは黒幕を睨みつける。

「自分の弟子が、この程度でやられると本気で考えているのか?」

そう言ったとたんに、カミナリやら風やら何やらがぬいぐるみを直撃し、八つ裂きにした。
これはもう再利用きかないな。

「さあ、貴様の悪事もここまでだ」

そう言いながら棒を構える黒いの。
対して黒幕は

「クク…ククククク……これで終わりのつもりか?俺にはまだ、奥の手がある」

そう言った所で、劇場は真っ暗になり再び明かりがつくとそこには。

『コー…フー…これが、俺の真の姿…さぁ、俺に歯向かう愚か者よ…死ぬがよい!!』

他のぬいぐるみの二倍はあるぬいぐるみがそこにいた。
ぬいぐるみは、のろのろよたよた黒いのに拳を向けるが、赤子でも避けれそうな速さなので、黒いのは軽々とそれを避ける。

そして、ここが最大の見せ場。

「……欲にまみれた哀れな者よ…今、貴様の運命を断ち切らん!!」

そう言ってぬいぐるみに駆け出す黒いの。
そして

ズバシャァァ!

効果音と共に不自然に切れるぬいぐるみ。
そして恰好をつけながら黒いのが一言。

「また、つまらない物を切ってしまったか……」

そう言いながら、仲間のもとへと歩いていく黒いの。

「ナルミよ、ご苦労だったな」

「先生のご指導のお陰で、私も魔獣を打ち倒す事ができました」

などなど、いろいろ言っている。
中身はなさげなのでぶっちゃけ飛ばすが。

そして、最後に黒いのが一言。

「自分は、悪を打ち倒し、君達を護るためにここにいる。自分の名はハセガワ・ナルミ、虚無の黒騎士。自分の命がある限り、あらゆる厄災から君達を護る事をここに誓おう」

そう会場のお客さんに言い放ち、劇は終わった。
観客からは歓声が上がっている。

………パトラッシュ…自分もう死にたいんだ……。

だって何これ!?
三時間近い劇だったけど、全く事実と違いすぎるよ!?
なんか無駄に黒いのがかっこつけてるし、エリザに至っては本物よか常識あるし、なにもかもが違う!!
ツッコミ所満載よ!?

「……なんか、凄い劇だったな…」

ほら!
エリザすら違和感バリバリなんだよ!?
なんでこんな事になっちゃったん!?
「……本物の先生の方が恰好いいです」

……まぁ、この娘には触れないどこ。

とりあえず、もう一度言おう。

なに、この茶番?

とてつもなく理解ができない。
それこそ、駄目すぎて何が駄目だかわからなく、思考回路を遮断してしまいそうな程めちゃめちゃだ。

いや、話しとしたらきちんとなってはいるが、なにせ事実とあまりに差がありすぎなのだ。
なぜにこんな事になっているのだろうか…

「……ナルミ、帰ろう」

「ん、お、ああ」

考えを巡らせすぎて、周りが帰ってる事にきがつかなかったようだ。
エリザとシルバちゃんは既に立ち上がり、帰る準備は万端だ。

「……なんか、この言葉にできない感情は何でしょうか」

本当に、ねぇ……
と、帰らなくては。

そう思い、自分が立ち上がったその時

ぱさっ

帽子が落ちた、そして…

「……あ…本物だぁ!!」

大パニック発生。
なんかみんなしてこっちに寄ってきた。

これは、下手なホラー映画よりも何倍も怖い。

「え、エリザ!シルバちゃん!逃げるよ!」

本能で危険を察知した自分は、二人の腕を引っつかみテレポートした。
イメージした先は、いつも近衛隊が訓練している中庭だった。


***********☆


「おわっ!」

「キャッ!」

「おっと」

バサッ!

なんとか脱出には成功したようで、自分達は今中庭の茂みに落ちてきた。

「…う~…な、何が起こったのだ?」

「城に帰ってきた」

「…………もう慣れた、今度この転移術について教えてくれ」

そう言ってぐったりするエリザ。
自分とシルバちゃんも例外無くぐったりしている。

やはりあれは、観ているだけで精神とか心とかなんかが疲れる。

「……とりあえず、戻ろう」

こんな所にいつまでもいる訳にも行かないので、部屋に戻る事を自分は提案して茂みから出る。
それについて二人も出て来る。

「あたっ」

そしてなにかにぶつかる自分。
そのなにかとは

「…先生、何やってるんですか?」

ムー君だったりする。
彼は自分を見て、そのあと後ろの二人を見る。
そしてため息。

「先生、シルバはともかく、姫様にまで手をだすなんて……さすがにそれは…しかもいっぺんに食べましたか」

「よし、なにひとつわからない。何が言いたい」

「いえ、茂みからでてきて、こんなに服が乱れて疲れた顔をしてたら、誰でもそういう考えに行き着きますよ」

そう言われ、二人を見てみる。
二人はなんか疲れた顔をして、茂みから出て来た彼女らはそのせいで服が所々乱れている。

なんか、激しい何かをしていたように見えなくもない。

「違う、自分らは劇場で劇を観てきただけだ。やたら混沌とした内容で、観てて疲れただけだ。ここから出て来たのは事故だ事故」

必死に弁解。
ただ疲れてるので勢いが無い。

だが、ムー君はわかってくれたようでなんか納得してくれた。
そして、重要な情報を口にした。

「ああ、あれですか。確かに事実を知ってたらいろいろ突っ込み所がありすぎてキツイですよね。まぁ、さすがはリム副隊長って所ですか」

マテ。

「なぜにそこでリム副隊長の名前が出るん?」

「え?彼ら劇団に先生の事を教えたのは副隊長だからですが……知らなかったんですか?」

「詳しく話せ」


ムー君の言う事をかみ砕くと、リム副隊長が彼らに教えたのを劇団員は忠実に再現した結果あの茶番になったという訳だ。
つか、監督が彼だとか。

後ろの二人も、反応から察するに全く知らなかったようである。

しかし、なぜに彼は劇を観るようエリザを誘導したのだろう。

「なんか、副隊長はやたら自信たっぷりに自分が作った劇だーって言ってましたし、よほど自慢したかったようですからてっきりもう知っているかと…」

……つまり観してから“俺の作品すげーだろ”っていいたかったと。

「エリザ、どうする?」

「……好きにしてくれ。私は寝る。疲れた」

エリザから許可が下りた。
よし、これで勝つる。

「ムー君、奴の居場所を教えてくれ」

後ほど聞いた話しだが、この時自分は悪魔みたいな笑顔だったとか。


*********☆


ムー君に引き連れられながら、自分とシルバちゃんは食堂で兵士と立ち話をしているリム副隊長を発見した。
食堂には他にも結構な数の兵士やらメイドやらがいる。

自分はそれらを押しのけ、満面の笑顔を張り付けながら彼に近付く。

「リーム副隊長♪」

自分が気持ち悪い声で彼に話しをかけると、副隊長と話しをしていた兵士はみんな顔を固くし、ぴしっとなった。
だが、シルバちゃんを少しみると、“やっぱり噂は本当だったのか”とか小声で言い出した。

「…あ、ナルミ君、どうだった?楽しかった……」

この諸悪の根元が。
処刑、決定だ。

副隊長がなんかほざいているのを無視して、自分は彼の胴体を掴み

「ウルトラバックドロップ!!」

ドゴォ!!

「ピギャ!?」

呼んで字の如く、ウルトラなバックドロップを奴に決めた。

シルバちゃんとかムー君とか兵士達とか、とりあえず周りにいた人達はみんなして目を丸くしている。

そんな視線も無視して、自分はリム副隊長に

「自分が最強の格闘王、NARUMIだ!もう一度やるか?」

こう勢いに任せて言ってしまった。
まぁ、どーでもいいが。

「うう……何がどうして…」

「わからないか?もう一度やるか?」

「いえ……遠慮しときます」

「遠慮するな。ウルトラバックドロップ!」

ドゴォ!

「ニョ!?」

それからしばらく、自分はリム副隊長に受けた精神的苦痛ぶん正座に説経とバックドロップをくらわせた。

………いやぁ、すっきりした。

「……うぅ…何が悪かったのさ。ナルミ君をかっこよく脚色して、みんなの憧れにしてあげたんだよ?」

「それが悪いと言っているんだ。気付けよ」

全く、こいつは…




ちなみに余談だが、この直後いまだにグダグダ言っていた副隊長に、いつのまにか闇化したシルバちゃんが、“先生を困らせる者は私の敵です”って具合に殺しにかかっていった。

なんとか止めたが、マジ、この娘の将来はどうなるんだろうか。
そして、いつ自分がまた襲われやしないか内心ハラハラしている自分がいた。
 
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