メリー=ウイドゥ
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第二幕その二
第二幕その二
「フランス人ですから。女性で美しければ誰でも」
「それは偏見ではないかい?」
「いえいえ」
笑ってダニロの言葉に首を横に振る。
「かつては王様御自ら励んでおられたではないですか」
国王自ら盛んに不倫をしていた、フランスでは事実だ。アンリ二世とディアヌ=ド=ポワティエもそうであるしフランソワ一世も太陽王ルイ十四世もだ。フランス王は好色な王が多かった。
「そんな歴史がありますから」
「まあサルトルもデュマもね」
そのうえ哲学者や文豪も。お盛んであった。
「フランス人はそうだね」
「そうですよ。何を今更」
彼は笑ってダニロに言う。さらに調子に乗って言葉を続ける。
「しかし亭主は馬鹿者ですな」
まさか自分だとは思いも寄らない。
「妻にあっさりと欺かれて。私でしたらな」
「どうするのかね?」
「ロジョンさんにお勧めします。何でしたらその人妻を自分の奥方にしなさいと」
「ほう、それは大胆な」
ダニロもその話を面白そうに聞く。
「とんでもない背徳だね」
「背徳だからこそいいのでしょうな」
男爵は完全に他人事で言う。
「そうすればロジョンさんは伯爵夫人に言い寄ったりしませんし」
「結局はそれなんだね」
「左様、できればですな」
「うん。何かな」
「伯爵夫人です」
ここを強調してきた。
「そして閣下は伯爵」
「うん、それで?」
「釣り合いが取れているではありませんか」
今度は爵位を出してきたのである。いきなりダニロに奇襲を仕掛けた形だ。
「違うでしょうか」
「そうかな」
しかし彼はそれには惚けてみせてきた。
「僕はそうは思わないけれど」
「それは閣下がそう思われているだけで」
男爵も強引に言葉を進める。
「実際はそうではないのでして」
「といっても何故か彼女の周りに最近よくいるね」
「よいことです」
ダニロに対して微笑んでみせる。
「できればこのまま」
「いやいや、僕はね」
「何ですの?」
ここにハンナがやって来た。そのうえでダニロに声をかけてきた。
「何やら楽しそうなお話。大使閣下は何をお楽しみかしら」
「お酒を楽しんでいます」
手にしているカクテルを見せて応える。
「これは中々」
「左様ですか。それはいいことです」
「いや、美酒は実にいいものです」
カクテルを手にまた言う。
「これさえあれば世の中は最高のものになります」
「お酒だけで満足ですか?騎士殿」
「はい、満足です」
ハンナの声の突きをまずはかわした。
「到って」
「欲がないこと。娘達は騎士殿を品定めしてそこから何かを見つけないといけないのに」
「大変ですな、それはまた」
「女性は皆娘ですわよ」
そっと自分も含めてきた。
「騎士殿が戻って来られればそっと捕まえて」
「そして?」
「その方を生涯の伴侶に」
「いやいや、騎士というものは気紛れです」
じっと自分を見てきたハンナに対して頓智めいて言い返す。
「嫌ならすぐにお別れですね」
「あら、薄情な」
「人間とはそういうものです」
彼はあえてこう言う。
「騎士もまた」
「騎士は娘を護るものではなくて?」
「それではどうすれば」
「手を差し出せば」
ここでさっと手を差し出す。
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