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牧場の娘

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第三章

「それは酪農でもだからな」
「そういうことですか。それじゃあ」
「その時も頑張ってくれよ」
「わかりました」
 智和はオーナーの言葉に頷きながら羊達の世話をしていた。時々キーウィ、この国にしかいない鳥や犬の相手もした。
 そうしたのどかな日々を送る中急に目の前に豊かな波がかったブロンドにエメラルドの瞳を持つ女が来た。ラフなジーンズとシャツを着ていて背は結構高い。
 顔立ちは整っている、その彼女が来て智和に英語で言ってきた。
「ここの牧場で働いてるのね」
「そうだよ」
 智和は覚えてきた英語で答えた。
「日本から来てね」
「日本jね。また遠いところから来たわね」
「自分でもそう思ってるよ」
「日本は羊はあまりいないんじゃなかったかしら」
「こんなにはいないな、確かに」
 周りを見る、のどかな緑の牧場の中に二百頭位の羊達がコリー達に守られながらいる。
「日本にはな」
「だよね。オーストラリアは違うけれどね」
「あんたオーストラリア人かい?」
「いや、昨日までいたところよ」
 女は笑って智和に答える。腰に右手を当てて左に大きな鞄を下げていてよく見れば胸の膨らみはそこそこある。
 足も長い、スタイルはいい。
 その彼女がこう智和に言ってきたのだ。
「ニュージーランド人よ」
「祖国に戻って来たんだな」
「そうよ、それにね」
「それに?」
「今の家にも帰ってきたのよ
「家!?まさか」
「そうよ、ここ私の家よ」
 女は笑って智和に言ってきた。そしてその日の夜。
 智和はオーナーとその奥さん、一緒に働いている同僚達と同じテーブルに着き夕食を食べていたがそこにその女もいた。女の名前はアマンダといった。アマンダ=キャリーといった。
 その姓から彼も悟っていたがオーナーが食事の場で笑って説明してくれた。
「ああ、この娘は姪だよ」
「初耳ですけれど」
「言ってなかったかい?姪がいるって」
「いえ、全然」
 智和にとってははじめて聞くことだった、聞いていても忘れていた。
 それででかい牛肉のステーキを食べながら言ったのである。
「本当に今聞きました」
「そうかl、けれどな」
「オーナーの姪御さんですか」
「わし等夫婦には子供がいなくてな」
 そうだったというのだ。
「それで弟夫婦の二番目の娘のこの娘がな」
「養子ですか?」
「いや、跡継ぎだよ」
 それだというのだ。
「この牧場のな」
「そうなんですか」
「歳はシノさんと同じだった筈だよ」
 智和の仇名は何時の間にかこうなっていた、篠原という姓なのでそれが短縮されてシノさんになったのだ。
「昨日までオーストラリアの牧場に行ってたんだよ」
「そこで勉強してたんですか」
「そうだよ。わしは日本でな」
「私はオーストラリアだったのよ」
 アマンダの方も笑って智和に言う。
「そういうことなのよ」
「何か国際色豊かだな」
「いや、オーストラリアは隣だからな」
「海越えてすぐだからね」 
 オーナーとアマンダは智和の今の言葉にはこう返した。
「言葉も通じるし行き来も多いからな」
「普通に行けるのよ」
「兄弟みたいなものか」
「そうだよ、ニュージーランドとオーストラリアはな」
「そういうものよ」
 二人で智和に教える。 
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