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ナブッコ

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15部分:第四幕その二


第四幕その二

「だが」
 しかしそれは取り消すしかなかったのである。
「あれは。あまりにも不寛容だ。厳粛であり過ぎる」
「ではフェネーナ様の方が」
「そう思うのだ。だが」
 それでも悩みは尽きない。彼は今王としての苦しみの中にあった。
「あれはあれで情に溺れてしまいやすいのだ。それもまた」
「そうですね」
 問題がある。王に求められるものは実に多い。
「御二人はそれぞれに御心に弱いものを持っておられますので」
「そうだ。それに」
 ナブッコは言う。
「今はアビガイッレを止めなくてはならない」
 顔を上げて目を光らせてきた。
「このままでは取り返しのつかないことになる」
「そのフェネーナ様のことですね」
「そうだ。しかしだ」
「何か」
「アビガイッレには。フェネーナは殺せない」
 彼は今それをはっきりと言った。
「殺せませんか」
「それでもだ」
 ナブッコの目の光が強くなっていく。
「過ちは犯させはせぬ」
「それでは」
「うむ、行くぞ」
 御付きの者に声をかけた。
「よいな、兵士達に声をかけよ」
「その必要はありません」
「何だと!?」
「これ」
 御付きの者、即ちかつての重臣はここで後ろに声をかけた。
「皆の者、時だ」
「まさかそなたは」
「はい、この時が来るのを待っていました」
 彼は言った。扉が開きそこには武装した兵士達が待っていた。
「さあ王よ」
「アブダッロよ」
 ナブッコは彼の名を呼んだ。
「では行くか」
「はい」
「娘達を救いに」
「そして国を救いに」
「あの者達も殺させはせぬ」
 ナブッコは今ヘブライの者達も救うと宣言した。
「よいな」
「我等の心は王のもの」
「その御心のままに」
「済まぬ。では」
 ナブッコはアブダッロ、そして兵士達を連れて今部屋を出た。そのまま自らの本来の場所へと向かい娘達を止める為に。彼は今王に戻ったのであった。
 ヘブライの者達はバビロンの城壁の外にいた。高く堅固な城壁が彼等の後ろにある。
 そこは荒野であった。反映する都のすぐ側は荒野であった。彼等はそこに連れて来られていた。
 その中にはザッカーリアもいた。彼は共にいる少女に声をかけていた。
「どうして貴女まで」
「姉上の御言葉で」
 その少女フェネーナは答えた。
「それだけです」
「馬鹿な、王の娘である貴女が」
「はい、共に死ぬようにと」
 フェネーナはザッカーリアに言う。
「そう言われました」
「フェネーナ」
 彼女の側にはイズマエーレがいた。支えるようにして側にいる。
「貴女もまた我々と」
「はい、ですから」
 フェネーナは彼を見て述べる。
「恐れることはないのです。貴方と最後まで一緒なのですか」
「済まない」
 イズマエーレはそれを聞いて呟いた。
「そこまで私を愛してくれて」
「そうだったのか」
 ザッカーリアはここでようやく二人の心を知った。
「そなた等はそこまで想い合っていたのか」
「はい」
 二人はそれに答える。
「今まで隠していましたが」
「私達は」
「これも神の御意志だろう」
 彼は考える顔をしてから言った。
「運命だったのだ。そう、運命だ」
「では」
「そうだ、神が許されている」
 ザッカーリアは述べた。
「だからこそ。私はそなた等の愛には何も言わぬ」
「有り難き御言葉」
 二人はその言葉に頭を垂れた。
「いや」
 だがザッカーリアはそんな二人に対して言った。
「むしろ謝るのは私だ」
「えっ」
「それは何故」
「そなた等に言った言葉だ」
 ザッカーリアは今己の今までの二人への言葉と感情に恥を感じていた。それが彼を責め苛んでいたのだ。
「裏切り者と言い、そしてその命を利用しようとした。そのことは謝っても許してはくれぬな」
「兄上」
 そんな彼に妹のアンナが声をかける。
「そこまで思われているのですか」
「そうだ、私は大切なことを忘れていた」
 こうも言った。
「神への信仰を追い求めていると思っていても。その御心を知ることはなかった」
「我々もだ」
「そうだ」
 ヘブライの者達もそれを聞いて気付いた。
「あまりにも他の者を見てはいなかった」
「自らのことだけを考えていた。だから」
「だからだ。今のこれは報いなのだ」
 ザッカーリアは顔を上げて言う。
「全てはな」
「言いたいことはそれだけか」
 だがそこにアビガイッレがやって来た。そして冷たい声でザッカーリアに対して言った。
 
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