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なりたくないけどチートな勇者

作者:南師
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15*ホームシック

敵さんの本拠地から戻ってきた自分達は、さっそく会議室に集まり今回の暴走による被害報告とこれからについての作戦会議を開いていた。
今回は隠れないで、自分も一緒に会議に参加した。
今回の作戦で、自分はとても重要だからだそうだ。

「報告します、敵の死者は約3000、あの門にいた者は皆始末しました。」

ゼノアの報告を聞きながら、半分麻痺した頭で自分は考えていた。

……やっぱり、死者は出てしまいますか。
平和ボケした日本人には余り実感沸かないけどね。
だけど、その死者の中にいつ自分が名を連ねても不思議では無い所に自分は来ている。

「対するこちら側の死者は3785、援軍の約六割がやられました。」
そして、死んだ敵兵の3000人は、全てでは無いにしても大部分が『始末』されたのだ。
他でも無い、自分の攻撃によって動け無い所を。

つまり、間接的にでも自分は人を殺したのだ。

そう考えると、とても気持ち悪くなってきた。

「……大丈夫か?ナルミ。」

うなだれていると、エリザが心配して声をかけてきた。

「……あぁ、大丈夫だ。」

自分でも解る、声に力が無い。
今にも泣きそうな弱い声だ。

でもそれをごまかすため、自分は嘘をついた。

「……今日のあれ、やるとけっこー疲れるんから、それのせいさ。」

「………そうか。」

嘘をついたが、多分ばれている。
他の会議に出席している人達は納得してるようだが、少なくともこの娘にはばれている。

「なら会議が終わり次第、休め。今体を壊されたらたまったものでは無いからな。」

言い方は作戦に支障をきたさないように言い聞かせる口ぶりだが、自分の事を本気で心配してくれてる目をしていた。

その優しさが、一層自分の罪悪感を大きくした。

「わかった、気をつける。」

今の自分には、それしか言う事ができなかった。

「………では、明日の作戦についての修正、および変更点を伝える。各自質問や意見は…………」

話しが明日の作戦についての物に変わったが、自分の頭はそれを認識できず、気が付けば会議が終わってた。

そのまま、自分は夕食も食べずにフラフラと部屋にいき

ボフンッ。

重力に任せ、ベッドへと体を預けた。

そこで今日の報告を思い出し、次いで出てきたのが

「……グスッ……帰り、てぇよぉ………」

自分の世界、家族や親友との思い出だった。

この日、自分は初めて人を殺した。
この日、自分も死ぬかも知れないと思った。
この日、自分はこれからも人を殺す事になるだろうと思い知った。

言い知れぬ恐怖感が自分を襲う。

数少ない自分の理解者にすら相談できない、支えてくれない、救ってくれない。
その事実がいままさに自分にのしかかる。

様々な事が重なり、誰にも相談出来なでいる自分はとうとうホームシックにかかってしまった。
これからの事、今までの事、会えない悲しみ、死への恐怖、それらが心で渦巻き、絶望に変わる。




思い出の中の、もう会えない両親や親友の笑顔がより一層自分を悲しくさせ、心に闇が広がっていくのが自分で分かった。


~エリザ&シルバサイド~

会議中、放心状態だったナルミは会議が終わるとすぐに食堂とは逆の、宿舎の方向へと向かって歩き出した。
その後ろ姿をエリザは心底心配しながら眺めていた。

「あの技って相当きついんですね。」

いつのまにか出てきた近衛隊のメンバーのうち、ミミリィが誰に言うでもなく呟いた。

それを皮切りに、反動を省みずに仲間を救おうとしたナルミを讃えるように皆話し始めた。

だが、一人だけ違う反応を示す者がいた。

「……いえ、違います。あれは…」

近衛隊の中で、誰よりもナルミを見て、知ろうとしている少女、シルバである。

彼女の発言により、近衛隊の面々は皆、彼女に注目した。

どうゆうこと?
ミミリィがそう聞こうとした時、今まで沈黙を守っていたエリザが口を開いた。

「…あれは…ナルミは今罪悪感に押し潰されそうになっている。多分ナルミは……」

そこで言葉を区切り、近衛隊に向き直って言った。

「多分、今まで誰かを殺すという事をした事が無いのだ。」

ミミリィ達はそれを聞き、唖然とした。
あれだけの力を持ち、一人で七体の魔獣を屠り、5000もの軍隊を打ち倒した者が魔族を殺した事が無い。

ありえない、そう思った。

しかし、考えてみると思い当たる節もある。

盗賊の襲撃も、敵軍を撃破した時も誰一人として死者はいなかった。
皆気絶してはいたが、命に別状は無かった。

何故かと思案していると、エリザが歩き出した。

「シルバ、行くぞ。他の者は隠れてろ。」

「はい。」

それについていくシルバと、慌てる他の隊員達。

「ちょっ、姫様。どこに行くんですか。」

「決まっているだろう。」

リムの質問に、立ち止まり当然と言わんばかりにエリザが答える。

「ナルミの所だ。下手に混乱してるお前らは隠れながら成り行きを見ていろ。私達がなんとかする。」

そして再び颯爽と、歩きだした。


**********※☆

ナルミのいるはずの部屋は明かりもつけておらず、外と同じ漆黒の闇が支配していた。

コンコンッ
ガチャッ

「ナルミ、入るぞ。」

「失礼します。」

「……来ないでくれ。」

その部屋に本人の返事も無視して入った二人が見たのは、いつもよりも弱々しい、それこそ触れば壊れてしまいそうなくらい脆くなったナルミがいた。

「先生…」

「……帰ってくれ、今の自分を見ないでくれ。」

ナルミのベッドの隣のベッドに座りながら、思わず声をかけたシルバに対し、ナルミは力無く反応した。
月明かりに照らされた顔には、充血した眼と涙の跡がある。

「……たんとーちょくにゅうに言う、ナルミは今まで戦争とかで誰かを殺すことは無かったのか?」

シルバの横に座りいきなり核心をつく質問をしたエリザに、シルバは驚きながらもナルミの顔を見て、答えを待った。
しかし、答えは案外あっさりかえってきた。

「…ハハハ、うちの国であった最後の戦争は60年以上前だ、17の自分には無理な話しだよ。しかし…」

やっぱりばれてたか…

渇いた笑いとともにそう言ったナルミは、真っすぐに二人の顔を見て言った。

「……自分の国では、人を殺すのは犯罪だ、いかなる理由があろうとも。」

そして、語り始めた。
二人はそれをただ黙って聞いていた。

彼の国について、家族について、彼が通う学校という施設と唯一の親友について。

ただ、平和な国だった。
しかし、紙一重な平和である。

彼の国で起きる犯罪は、この国では考えられないほど残虐で、他国とのいがみ合いや一瞬で都市を灰にする兵器、腐敗した国の上層部。

剣先に立つよりも難しいバランスで保たれたその日常が彼の強さの秘密なのだと彼女達は考え、言葉を失った。

「……確かに、平和に守られ暮らしてきた自分は誰かを殺した事は無い。しかし、これから生きるために殺さなければならない事になるだろう。けど、そうなった時に自分がマトモでいられる自信が、自分には無い。だから…」

最後に一拍おいて、彼は言った。

「君達に、自分の理解者になって欲しい。自分が壊れそうな時に、支えて欲しいんだ。」

そう締め括り、彼は話しを終えた。

しばしの沈黙が流れた後、最初に喋ったのはエリザだった。

「ふぅむ、複数同時に求婚とは……それもニホンの文化か?」

「はぃ?」

「ふぇっ?」

悪戯が成功したようにからから笑いながら喋るエリザと、予想外の反応に驚くナルミ、それと…

「そ、そんなき、きゅ、求婚だなんて、わ、私に先生が……キャー!!」

真っ赤になりながら奇声を発するシルバ。
もはや完全に自分の世界へとリップしてしまっている。

「い、あ、いやいやいや、まてこら。どこをどうとって求婚なんて……とれ、るか?」

「うむ。これが求婚で無いなら何が求婚か。」

さらにニタニタしながら追い撃ちをかけるエリザ。

「いや、その……わかってるんだろ?自分の言いたいこと。」

「はい!最初は女の子がいいです!!」

シルバの爆弾発言に思考が追い付かないナルミと、爆笑するエリザ。
もはやナルミの顔には先程までの暗い表情は無くなっていた。

「ちがっ!なに!?ちょ、勘違い!勘違いだから!!どこまで素敵な未来予想図広げてんの!?エリザも笑ってないで誤解を解け!」

エリザは、いつも通りのナルミに戻った事に安堵した。
そして、覚悟を決め、自らの弱さに向き合う事のできるナルミの心の強さを垣間見たきがした。

その強さの一端を担うことができるのを少しばかり誇らしく感じながら、二人のやり取りを眺めていた。

「ちょっ!聞いてる!?助けて!」

「そうだな……、シルバ、名前は私が付けてやろう。」

「はい!」

「火に油を注ぐなぁ!!!」

とりあえず、今はナルミをからかって遊ぼう。
そう心に決め、エリザはシルバを煽り始めた。

それからしばらく、その部屋からは楽しそうな声がこだましていた。


~ナルミサイド~


つ、疲れた…

確かに落ち込んだ自分を励ましに来てくれたのはうれしい、それは素直に感謝しよう。
だがね、

「いやぁ、楽しかったぞナルミ。」

「うぅ~、恥ずかしいです。」

自分で遊ぶのやめていただけないでしょうか、エリザ様。
ぶっちゃけシルバちゃんの誤解を解くのは疲れました。

彼女はウブだから、求婚とかのキーワードで素敵な未来を思い描いて暴走したのです。
相手が自分っていう最悪な状況を完全に忘れて。

……いや、マジでプロポーズはしとらんですよ?

「にしてもどうだ、少しは気が晴れたか?」

「ああ、さっきまでの欝な自分はもういません。いつもどーりの自分です。誰かさんのせいで疲労はたまりまくりですが。」

嫌みたっぷりに言ってやった。

「そうかそうか、シルバ、お前が調子に乗るからナルミが疲れたそうだ。」

「あぅぅ、す、スイマセン…」

「ちげーよ貴様だじゃじゃ馬姫エリザ。」

もう、自分こいつに勝てる気がしない。

「ハッハッハ、冗談だ冗談。そんな事より疲れは明日に残すなよ?こんな事の直後で酷だが、明日の作戦は予定通りに行われる。お前が倒れたら全てが狂う。」

あー、そうだった。
すっかり忘れてたけど明日あそこに侵入するんた。
今からきっちり休まねば。

「わかった、じゃあこれから飯食って風呂入って寝るわ。」

「ん?」

ん?
どした。

「ナルミ、“フロ”とはなんだ?」

「あ、私はお兄様の部下の方が話してるのを聞いた事あります。なんでも、心と体を清める儀式だって。」

ゼノアの部下ったらあの二人か?
つか、話題になる程の物なのかね、これは。

「ほぅ、それは興味深い。よし!そのフロと言う儀式、見せてくれ!」

「私も興味あります。」

……

…………え?

まてまてまて、つまりこの二人の少女は自分が風呂に入るのを見る気満々なわけ?
つまりこのままだと自分が裸になるのを見られる訳?

……

ガシッ!

危機を感じた自分は、音よりも早く二人の肩を掴んだ。

「うおっ、どうしたナルミ、いきなり。」

「うぇ?な、なんですか?」

「頼む、お二方、それはやめてくれ。」

そして光より早く頭を下げる。

「ど、どうした。そんなに危ない儀式なのか!?」

「いや…うん、ある意味危ない。今君らを連れてったら、自分の色んなものが崩壊する。」

主に心、特に自尊心。

「だから頼む!こんどお菓子作ってやるから!!」

「む、むぅぅ。わかった、じゃあ王都に帰ったら即座に作って貰うぞ。」

よかった、案外あっさり引き下がってくれ……

「毎日昼食の後に出して貰う事にしよう。」

無かった…
毎日て、専属コックですか…

「では期待している。シルバ、戻るぞ。」

そう言ってエリザは、シルバちゃんの手を掴み、颯爽とでて行った、、

「え、あ、あの、失礼しまちた。」

急でびっくりしたのか呂律が回らないシルバちゃん。

なんというか、全くタイプが違うのに仲いいよねあの二人。
それとも実は根本的なところで通ずる物があるのかな?



***********~☆

さてさて、今自分は食事を終えて、砦から出るために廊下を歩いています。
もちろんお風呂に入るため。
風呂はこの前の石ドラム風呂、ポケットに入れていつも持ち歩いています。

しかし、食堂での好奇心に満ちた皆さんの眼は忘れる事ができませんね。
今もすれ違う度に振り返えられたり凝視されたりしてけっこーきついです。

とかなんとか下らない事を考えていると、自分のポケットでありえない事が起き始めた。

『みっくみっくにしてやんよ~♪』

!!!??

なぜここで自分の嫁が歌ってる!?
周りの人達なんか、いきなりの事に驚いて、即座に臨戦体制をとりはじめた。

自分は、発信源であるポケットに手を突っ込み、即座に原因を突き止めた。

その手にあったのは、この世界では使う事が無いだろうと思っていた物。
現代っ子の必需品、携帯電話である。

いまだ鳴り響く携帯のディスプレイには、着信『みらくるごっど』の文字が。

………

……………ピッ

『あ、やっとで「現在この番号は使われておりません、だから帰れ、それか存在を抹消されろ。」

ピッ、ツーツー…

さて、では風呂に…

『ボクはなんのために歌うバラジクロロベンゼン♪』

!!
な、なぜ!?
なぜあえてベンゼンシリーズ!?
しかもこれは設定した覚えないよ!?

…ハァ、しかたない。

ピッ

『なんですぐに切るかな、携帯の使い方解ってる?』

「解ってるよ、現代の若者嘗めんな。で、何用か。」

『あ、そうそう。君にさぁ、鍵の説明忘れてたから、それをしに。』

鍵?
なんぞそれ。

「なにそれ。」

『この前言ってた封印に入るための道具。』

あぁ、そーいやあったねそんなもの。
でもね、

「なぜに携帯で?」

『う~ん、驚きを求めて?』

おいっ!

『でもいちいち思念を電波に変えるのめんどくなってきた。だからやっぱり直接話すわ、じゃ。』

プツッ、ツーツー

…あいつ、いつか締める。

『できるもんならやってみなさいな。』

………出てこい、やったる。

『や。』

チッ!
で、説明っつーのをちゃっちゃとしちゃってくれ。
自分は風呂に入りたいのだ。

『兵士無視して外に出て、ちゃっかり準備完了してる奴の言うことじゃないよね。』

うるせー、いいから早く。

『はいはい、とりあえずポケットに手を突っ込んでみ。』

ん、こうか?
………あ、なんか棒状の物がある。

『それ、取り出す。』

はいはい、よっ
…………え?

『それが私から君に贈る鍵兼武器、名前は……勝手に付けて。』

いや、名前以前にこれ、ぼっこじゃん。
真っ黒な2メートルくらいの木の棒じゃん
端からみたらただの長い炭だよ?

『は?君の眼はピンポン球?よく見てみな。』

よくって……ん?

『ふふーん、これは私が草薙剣《くさなぎのつるぎ》を改良して、丹精込めて創った刀なのだ!』

おおっ!

……はい、驚き終わり。

『え?それだけ!?』

おうともよ、いまさらお前のやる事に驚いてられるか。
つか、こいつなんで刀身まで真っ黒さ。

『いや、なんか黒好きそうだから。』

あーはいはい、そうですね。
ありがとうございました、活用さして貰います。

………うん、いい湯加減だ。

『……むぅ、つまらん。』

詰まろうが詰まらなかろうが自分はしらん。
それよりずっと外にいると冷えるんだ、もう我慢できん、自分は風呂に入る。

ふぃ~、これぞ至福の時。

『……おやじ。』

なんとでも言え、そして用件済んだら帰れ。

『……あ』

あ?

『いやなんでも無いよ、ちなみに言うと、その刀は君が望めばなんでも切るし、望まなければ何も切らない。外を切らないで中だけ切るって芸道も出来ちゃう凄い奴。呪いとかを退治するのにも一役買うよ。』

あーそう、斬○剣ね、よーするに。

『ちょっと違うけど、あと名前付けてあげてね。君との繋がりを強くするために。』

名前ねぇ……
よし、君の名前は一護に決定。

『理由は?』

黒○一護。

『……ふっ、所詮その程度、ね。』

うるせー、卍解すんぞ卍解。

『まぁ私はどーでもいいけど。じゃあ私もう帰るわ。』

おー、二度とくんな。

『あ、あと』

なによ、まだなんかあるんか?

『二人の乙女を傷付けた償いはきっちりしなさいね。じゃ、オーバー。』

……え?

ましゃか。

自分が恐る恐る後ろを振り向くと、そこには

「…あ、いや、な、ナルミが砦を出て行くのを着いていったら……いきなり…その…」

「……あの、そ、その、姫様に着いていって、その、先生が、あの、ハダカ…で……」

顔を真っ赤にして慌てる二人の少女の姿がそこに。

「……いつから?」

「………何か、変な声が、よくわからない言葉が出る物をナルミが取り出した時から…」

最初からでないか。

「…いや、ま、まさかハダカになるなんて…思わなくて……」

「そ、そうです!私達にも予想外でして……」

しばしの沈黙、そして

「「し、失礼しました!」」

脱兎の如く走り去った。
速い、あの二人いつもの自分よか速いぞ。

しかし……

せっかく得た理解者と接しずらくなってしまった…
そして、自分の色んな物が崩壊した。
主に心、特に自尊心。

どうしよう……





その日、彼女達は自分に目を合わせてくれなかった。
なんとか風呂の説明をして、いつもの通りにもどったが、自分は地味に傷ついた。


余談だが、後に彼女達も風呂の虜となるのに時間は掛からなかった。
 
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