| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

―妖怪vs大天使―

 
前書き
いつもよりか な り長くなってます。 

 
 レイと剣山はデュエルに敗北したその後、十代と並んで今の黒崎遊矢に勝てる可能性のある人物、三沢大地に会うためにラー・イエロー寮を訪れていた。
彼の所属は一年時から既に、黒崎遊矢と共に実力でオベリスク・ブルーに昇格していたものの、ホワイト寮となっているオベリスク・ブルー寮に帰れる筈もなく、ラー・イエロー寮に身を寄せている……筈だったのだが。

 いくら呼びかけと共にドアを叩こうと、PDAで三沢大地を呼びだそうとしても通じず、端的に言ってしまえば行方不明であった。
自分たちと同じように洗脳された遊矢にデュエルを挑みに行ったのか、とレイと剣山は考えたが、同寮の友人である神楽坂によると、『三沢は一週間ほど部屋から一歩も出ていない』とのことだった。

 神楽坂の証言通りならば、三沢が部屋にいることは確定なのだが……一週間も出ていないとなると、流石にその身体が心配になってきてしまう。

「仕方ない、ぶち破るザウルス!」

 言うや否や、ラー・イエロー寮のドアに剣山は、密室殺人事件の探偵ばりのタックルを三度ほどかまし、三沢の部屋のドアを吹き飛ばした。
レイが恐る恐る三沢の部屋の中を覗いてみると……そこは、彼女の理解が追いつかない空間だった。

 部屋中のもの――壁だけでなく天井や剣山が吹き飛ばしたドアなど――にびっしりと数式が書かれており、部屋の主である三沢はソファーの上で数式が書かれた紙を掛け布団のようにし、死んだように眠っていた。
辺りには、食事にしたカロリーメイト包み紙のようなものが落ちていて、そこにまで数式が書いているのだから、この部屋が狂気に満ち満ちていることを感じさせた。

「こ、怖い……」

 出来れば一生関わり合いたくない類の部屋に、つい二の足を踏んでしまうが、幸いにも剣山がドアを吹き飛ばした衝撃で、三沢がソファーから身を起こした。

「しまった、寝てしまっていたか……レイくんに剣山? どうしたんだ?」

「どうしたはこっちのセリフだドン……」

 三沢がどうしていたかは解らないが、レイは、自分たちが遊矢に挑んだが負けてしまったこと、それでも遊矢は洗脳されきっていないことなど、今の状況を説明しようとした時、三沢の部屋を訪れた意外な闖入者がレイの言葉を遮った。

「三沢。ここの入り口に遊矢が訪ねて来ているぞ。……お前とデュエルがしたいそうだ」

 背後から聞き捨てならないセリフを言いながら登場したのは、一応このデュエル・アカデミアに在籍している学生プロデュエリスト、エド・フェニックス……その人物の登場にもレイは充分に驚いたものだったが、彼女はそれよりエドの放ったセリフの方に注目したようだ。

「遊矢様が……来てるの?」

「……様? 何をさせてるんだあいつは……ああ。ついさっきここに来たらしい」

 ずっと部屋にこもって出て来ない三沢に何を感じ取ったか、それはエド本人にしか解らないことだが、エドはこの頃ラー・イエロー寮へと頻繁に顔をだし、精霊の力を借りて籠もりきりの三沢の様子を窺っていた。
部屋の中では、部屋や紙に熱心に数式を書きながら、自らのデッキを組み上げている三沢の姿があった。

「解った。遊矢とデュエルするために、俺はこのデッキを組んでいたんだ」

 レイと同様、それは全て親友を救うためのデッキ調整だ。
テーブルの上に置いてあった自らのデッキとデュエルディスクを取り、三沢は部屋から玄関先へと出ようとする。

「三沢先輩……その、このカード入れてください!」

 部屋から玄関先へと向かうすれ違いざまに、レイは三沢へと一枚のカードをデッキに入れるように頼み込んだ。
そのカードとは当然ながら、先程遊矢から託された彼本来のマイフェイバリットカード《スピード・ウォリアー》だ。

「……ああ。任せてくれ」

 レイから差し出されたスピード・ウォリアーのカードを、三沢は一瞬躊躇した後に自身のデッキへと投入した。

 彼はデッキを構築する際、全て計算づくで構築するタイプのデュエリストであるため、一枚でも余計なカードが入っては計算が狂ってしまうという懸念があった。
だが三沢は、そんな自分のくだらない計算よりも、自身が持ち得ぬ『カードの精霊の力』を信じてデッキへと投入したのだ。


 そして、部屋から出てラー・イエロー寮の玄関先へとたどり着いた彼が見たものは――変わり果てた親友の姿だった。

「……遊矢」

 一応その名を呼びかけてみたものの返事はなく、ただただデュエルディスクを構えているだけの姿は、まさに斎王の人形そのものであり、覚悟していたがやるせない感情に襲われて自然と目をつぶっていた。

「三沢。お前が負ければ僕がデュエルしてやるから、安心して負けるんだな」

 ラー・イエロー寮の壁にもたれかかるエドの憎まれ口を受け、自分が遊矢を救うのだという決意を再確認して目を開ける。

 そのまま腕についているデュエルディスクに、彼が今考えられる中で最高のデッキを差し込んだ。
部屋中を計算式だらけにして改造されたデッキには、未だ実験段階であったギミックを搭載してあったが、従来の【妖怪】デッキでは遊矢との実力が離れていることを実感していた三沢は、迷わずそのギミックをデッキへと投入していた。

 三沢がデュエルの準備を完了させたのを見ると、遊矢も緩慢な動きではあったがデュエルディスクを展開させ、デュエルの準備が完了する。

 レイに剣山、エド、神楽坂を始めとするその数を減じさせているラー・イエローの生徒たちが見守る中、遊矢と三沢のデュエルが始まった。

『デュエル!』

三沢LP4000
遊矢LP4000

「俺の先攻。ドロー!」

 デュエルディスクが先攻を示したのは三沢であり、気合い充分と言った様子でカードをドローする。

「俺はモンスターをセット。カードを一枚伏せてターンを終了する」

「俺のターン。ドロー」

 三沢の初手は、アンデット族モンスターを墓地に送ることが出来る《牛頭鬼》であることが多いため、セットモンスターを出しただけで動かず終了とは、三沢にしては珍しいことだった。

「俺は《神の居城-ヴァルハラ》を発動」

 遊矢の背後に、散っていった戦士たちが集うヴァルハラへと通じる門が開く。
《神の居城-ヴァルハラ》について、三沢は【機械戦士】でなかったことに眉をひそめ、レイと剣山はこの短時間で【天空の聖域】からデッキタイプが変わっていると驚愕した。

 それに加えて、もしかしたら光の結社の洗脳が進んでいるのではないか、という危機感も……

「神の居城-ヴァルハラにより、俺は手札から天使族モンスター《光神テテュス》を特殊召喚する」

光神テテュス
ATK2400
DEF1800

 光と共にその門が開き、ヴァルハラから上級モンスターである光神テテュスがノーコストで特殊召喚された。

「バトル。光神テテュスでセットモンスターに攻撃」

 光神テテュスから発せられた神々しい光が、三沢のセットモンスターを攻撃し、その正体を露わにしていった。

「俺のセットモンスターは《ライトロード・ハンター ライコウ》だ! よってリバース効果が発動する!」

 光神テテュスの攻撃によって純白の色をした犬がリバースされ、そのリバース効果が発動すると共に、そのデュエルを見ていた見学者たちを驚かせた。
三沢のデッキは、遊矢の【機械戦士】がそうであるように彼自身の代名詞たる【妖怪】デッキであるという前提で考えていた見学者は、リバースするモンスターのカテゴリが、まさか《ライトロード》であるなどと解るわけがなかったからだ。

 もちろん三沢のデッキが【ライトロード】になったというわけではなく、ライトロードの特色である高速の墓地肥やしへと目を付けた三沢は、優秀な効果を持ったいくつかのライトロードを、彼の【妖怪】デッキへと投入したのだった。

「《ライトロード・ハンター ライコウ》の効果により、《神の居城-ヴァルハラ》を破壊した後、デッキからカードを三枚墓地へと送る!」

 効果を単純に見れば過去の強力カードだった《人喰い虫》の上位互換である白い犬が、すぐさま遊矢のデッキのキーカードであるだろうヴァルハラへと通じる門を破壊した。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「待て。遊矢のエンドフェイズ時《もののけの巣くう祠》を発動! 俺のフィールドにモンスターがいない時、墓地からアンデット族モンスターを特殊召喚する! 出でよ《カラス天狗》!」

カラス天狗
ATK1400
DEF1200

 三沢の主力モンスターの一体である妖怪の、《カラス天狗》が墓地から特殊召喚され、その効果を起動させる。

「カラス天狗が墓地から特殊召喚された時、相手モンスター一体を破壊出来る! 悪霊退治!」

 ライコウの効果でヴァルハラを破壊しただけでは飽きたらず、三沢はカラス天狗の扇が光神テテュスを破壊する。

 先程、ライコウの効果でテテュスを破壊していたら、この結果はなくカラス天狗の効果はただの空撃ちとなっていた。
だが、結果は見ての通りヴァルハラもテテュスも破壊することとなり、三沢の先見性とそれに賭けられる胆力を改めて感じさせた。

「このまま終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 まず最初のターンでの攻防は、遊矢のフィールドにはリバースカードが二枚だけという状況を見る限り、完璧に三沢が制したと言って良いだろう。

 そして、このタイミングで攻め込まぬ手はない。

「俺は《カラス天狗》をリリースし、《龍骨鬼》をアドバンス召喚する!」

龍骨鬼
ATK2400
DEF2000

 カラス天狗自らが起こした炎に包まれて骸骨の姿になり、その骸骨が巨大になりながら組み上げられて龍骨鬼がアドバンス召喚される。
その効果は今の遊矢のデッキ相手では活かせないので、バニラ同然ではあるが関係ない。

「バトル! 龍骨鬼で遊矢にダイレクトアタック!」

「リバースカード、《ガード・ブロック》を発動。戦闘ダメージを無効にし、一枚ドローする」

 遊矢もただでやられるわけがなく、それを象徴するように龍骨鬼の攻撃は無数のカードによって後一歩届かない。

「俺もカードを一枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー」

 今の遊矢のデッキのキーカードである、《神の居城-ヴァルハラ》と《光神テテュス》が破壊され、すっかり下り坂となってしまった遊矢だが、その瞳には相変わらず何の感情もない。

「《天空の宝札》を発動。天使族モンスターを一枚除外し、カードを二枚ドローする」

 パワーカードの代表格の宝札という名が付いてはいるが、大型モンスターの特殊召喚がメインの天使族において、特殊召喚が出来ずバトルも行えないというのは軽いデメリットではない。

「俺は《ジェルエンデュオ》を守備表示で召喚し、ターンを終了する」

ジェルエンデュオ
ATK1700
DEF0

「俺のターン、ドロー!」

 《天空の宝札》のデメリット効果によってか、遊矢はほぼ動かずにターンを終了した。
守備表示で守備されたジェルエンデュオは、ダメージを受けた時自壊するというデメリット効果はあるものの、ダブルコストモンスターでありながら戦闘破壊耐性を持つという破格の効果を持っているため、どうにか処理をしなければ天使族の最上級モンスターがアドバンス召喚されるだろう。

「俺は《陰魔羅鬼》を召喚する」

陰魔羅鬼
ATK1200
DEF1000

 墓地から特殊召喚された時に一枚ドローするという効果を持つ、カラス天狗と並ぶ三沢のデッキの主力モンスターではあるが、手札から召喚されたためにただのステータスが低い下級モンスターにしかすぎない。

「墓地のこのカードは、フィールドのアンデット族モンスターを二体墓地に送ることで特殊召喚出来る! 現れろ《九尾の狐》!」

九尾の狐
ATK2200
DEF2000

 墓地からのアドバンス召喚と同じコストを払って召喚されたのは、妖怪に詳しくない者でもその名は知っているだろうというぐらい有名な九尾の狐。
上級モンスターの割にはステータスが低いものの、墓地から特殊召喚した時貫通効果とトークン精製効果を持った、妖怪の中でも特に小回りの効くモンスターである。

「バトル! 九尾の狐でジェルエンデュオに攻撃! 九尾槍!」

 前述の通り、九尾の狐は墓地から特殊召喚された時に貫通効果を得ることが出来、ジェルエンデュオは守備力が0の為に相性は抜群と言って良い。

遊矢LP4000→1800

 壁モンスターとして召喚されたジェルエンデュオは、その役目を果たせずにデメリット効果で自壊し、遊矢はダイレクトアタックと同等のダメージを受けた。

「カードを一枚伏せてターンエンド!」

「お前のエンドフェイズ《奇跡の光臨》を発動。除外されている《光神テテュス》を特殊召喚する」

 相手ターンのエンドフェイズ時にモンスターを特殊召喚するという、先のターンの三沢と同じことを、《天空の宝札》によって除外されていた光神テテュスを特殊召喚した。
《光神テテュス》は、天使族限定の《凡骨の意地》とも言える効果を持っているために、三沢は遊矢のドローフェイズに回したくはなかったが、手札を見ても《光神テテュス》を破壊出来るカードは無い。

「……このままターンエンド」

「俺のターン、ドロー……引いたカードは天使族モンスター《アテナ》。よって一枚ドロー。もう一枚の《アテナ》。更に一枚ドロー」

 強力な最上級天使族モンスターが二体引かれたことに三沢は歯噛みするが、ダブルコストモンスターである《ジェルエンデュオ》は破壊したため、少なくともこのターンでは現れないだろうと考えた。

「《トレード・イン》を発動し、手札のレベル8モンスターを捨て二枚ドロー。そして《光神化》を発動。手札の《アテナ》をステータスを半分にして特殊召喚する」

アテナ
ATK2600
DEF800

 天使族の代表格であるモンスター《アテナ》が特殊召喚されるが、《光神化》によってステータスは半分だ。
だが、次に何が起きるかデッキが違えど前回のデュエルで経験したレイと剣山は、あのモンスターが大量展開されることに息を飲んだ。

「速攻魔法《地獄の暴走召喚》。手札とデッキから更に二体《アテナ》を特殊召喚させてもらう」

「甘い! リバースカード《電闇石火》!」

 まるで雷光のように走った黒い稲妻が、《地獄の暴走召喚》によって特殊召喚されかけていた《アテナ》二体を、フィールドに特殊召喚される前に同時に破壊する。
《光神化》からの《地獄の暴走召喚》による最上級モンスター大量展開は、天使族デッキにおいては常套手段である以上、三沢大地が対策をしていない筈がない。

「《電闇石火》は相手の特殊召喚を無効にして破壊する! 更に、俺は《地獄の暴走召喚》によって《九尾の狐》をもう一体特殊召喚させてもらう!」

 遊矢の《地獄の暴走召喚》による《アテナ》の特殊召喚が無効にされようと、デメリット効果による《九尾の狐》の特殊召喚は問題なく行われる。

 だが三沢にとって誤算だったのが、特殊召喚されようとしたのが《アテナ》だったということだ。

「《光神化》によって特殊召喚したモンスターは効果までは無効にならない。《ジェルエンデュオ》を召喚し、アテナの効果。天使族モンスターが召喚・特殊召喚された時、600ポイントのダメージを与える」

「……くっ、墓地の《ダメージ・ダイエット》を除外することで、このターンの効果ダメージを半分にする!」

 とっさのことで三沢が発動した《ダメージ・ダイエット》によるシールドが、三沢の周囲を守ってアテナからの閃光によるバーンダメージを半分にする。

三沢LP4000→3700

「《ジェルエンデュオ》をリリースし、《アテナ》の効果を発動。ジェルエンデュオを墓地に送り、《アテナ》を特殊召喚する」

 二体目のハート型である天使族のダブルコストモンスターが通常召喚されるや否やリリースされ、代わりに墓地から特殊召喚を無効にされた大天使が特殊召喚され、第一のアテナによる効果ダメージが三沢を襲う。

三沢LP3700→3400

 フィールドの天使族モンスターを墓地に送ることで、墓地から天使族モンスターを特殊召喚するの効果と、天使族モンスターが召喚・特殊召喚する効果は絶妙に噛み合っており、最上級モンスターを大量展開するだけでなく、バーンダメージだけで相手プレイヤーのライフを一瞬で削り取ることも容易い。

「更に第二の《アテナ》の効果発動。《光神テテュス》をリリースすることで、第三の《アテナ》を特殊召喚する」

 天使族のドローソースである《光神テテュス》をもリリースされ、《地獄の暴走召喚》となんら変わらず三体の《アテナ》が特殊召喚される。

「二体のアテナによる合計600ポイントの効果ダメージを与える」

三沢LP3400→2800

 アテナの杖から放たれる光は、《ダメージ・ダイエット》によって三沢の周囲に展開するシールドに、そのダメージを半減させるものの、確実にライフを奪っていく。

「バトル。二体目の《アテナ》で九尾の狐に攻撃」

 《アテナ》がその手に持った長い杖を九尾の狐に向けると、三沢に放っている光とは段違いの威力を持った光が放たれ、《地獄の暴走召喚》によって特殊召喚されていた九尾の狐を破壊する。

「くっ……!」

三沢LP2800→2400

「更に三体目。九尾の狐に攻撃」

 《地獄の暴走召喚》を発動する前に、すでにフィールドにいた一体もアテナの放つ光の前に破壊されてしまうが、三沢のフィールドには二体の小さい狐が守備表示で現れていた。

「墓地から特殊召喚されたこのカードが破壊された時、二体の《狐トークン》を特殊召喚する!」

三沢LP2400→2000

 二体の《狐トークン》を精製する効果、これこそが《九尾の狐》が不死のモンスターと言われる理由である。
このトークンがフィールドに残ったまま、次の自分のターンを迎えることが出来れば、再び《九尾の狐》は墓地から蘇るからだ。

「一体目のアテナで狐トークンを攻撃」


 だが、狐トークンを自分のターンに二体残すことは適わず、最後のアテナに破壊されてしまう。
いくら《光神化》でステータスが半分になっていようとも、トークンを破壊することなど容易いことだ。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 遊矢のターンのエンドフェイズ時に《光神化》によって特殊召喚されていた《アテナ》は破壊されたが、依然として《アテナ》は二体フィールドに居座っている……このターンでどうにか処理をしなければ、次のターンでモンスターを召喚されただけで三沢は敗北への一歩を着実に歩みだすことになる。

「俺は《ソーラー・エクスチェンジ》を発動! 手札の《ライトロード》を一枚捨て、二枚ドローした後にデッキからカードを三枚墓地に送る!」

 劣勢の今の三沢には心強い、手札交換と墓地肥やしカードを兼ねた新たな魔法カードを引き入れて発動する……そして、そのおかげで三沢は願っていたモンスターを手札に引き入れることに成功した。

「俺は《狐トークン》をリリースし、《砂塵の悪霊》をアドバンス召喚する!」

砂塵の悪霊
ATK2200
DEF1800


 スピリットであるため、アンデット族では致命的とも言える特殊召喚不能効果を持っているが、そのデメリットを補って余りある効果を、この砂塵を意のままに操る妖怪は持っていた。

「このカードが召喚された時、相手フィールドのモンスターを全て破壊する!」

 砂塵の悪霊はその名が伊達ではないことを証明するように、アテナたちを巨大な砂嵐を起こして包み込む。
砂塵によって水分を奪われた者の末路は人間だろうと天使だろうと変わることはなく、ただ水分を奪われたことにより干からびて死ぬだけだった。

「バトル! 砂塵の悪霊でダイレクトアタック!」

「リバースカード《リビングデッドの呼び声》を発動。墓地から《アテナ》を特殊召喚」

 万能蘇生カードによって、墓地からアテナが砂塵の悪霊が発した砂をかき消しながら特殊召喚される。

「《砂塵の悪霊》の攻撃を中止し、カードを二枚伏せターンエンド」

「俺のターン。ドロー」

 三沢にとって防がれることはまだ想定内だったが、《アテナ》の特殊召喚は想定していた中でも悪い方に位置する結末だった。
せっかく《砂塵の悪霊》が《アテナ》二体を破壊したというのに、このままでは先のターンの二の舞になるだけなのだから。

「俺は《ジェルエンデュオ》を召喚」

 三体目の召喚となる天使族のダブルコストモンスターは、またもや効果を使われることはなく運命は決まっていた。

「アテナの効果発動。ジェルエンデュオが召喚されたことで、600ポイントのダメージを与える」

三沢LP2000→1400

 もう墓地に《ダメージ・ダイエット》のようなカードはなく、効果ダメージを防ぐことは出来はしないため、三沢は甘んじて第一の光を浴びた。

「更にジェルエンデュオをリリースすることで、《光神テテュス》を墓地から特殊召喚する」

 特殊召喚されたのは二体目のアテナではなく、ドロー効果を持った光神テテュスだった。
もうデュエルも中盤になったことで、お互いに手札が心もとなくなる頃であるし、アテナだろうと光神テテュスだろうと、理論上三沢にはトドメはさせるのだから大した問題は無いだろう。

三沢LP1400→800

「バトル。光神テテュスでダイレクトアタック。ホーリー・サルヴェイション」

「リバースカード、オープン! 《レインボー・ライフ》! 手札を一枚捨てることで、このターンに受けるダメージ分ライフを回復する!」

 光神テテュスの光を三沢の前に現れた虹が無力化し、そのまま三沢のライフへと還元されていき、三沢のライフポイントは800から3200の安全圏へと移る。
《砂塵の悪霊》……というかスピリット特有の効果によって三沢はフィールドを空にせざるを得ないため、二枚のリバースカードで守っておくのは当然であるのだから守ったこと事態に驚くことはない。

 三沢にとって重要なのは、《アテナ》のバーン効果を相手にするのに安心出来るライフになったことだった。

「カードを一枚伏せてターンエンド」

「遊矢。君のエンドフェイズに《妖魔の援軍》を発動。1000のライフを払うことで、墓地から《カラス天狗》と《陰魔羅鬼》を特殊召喚する!」

 《レインボー・ライフ》の効果によって安心して発動出来る罠《妖魔の援軍》によって、三沢の最も愛用している主力妖怪二体が墓地から特殊召喚される。
お互いに墓地から特殊召喚した時、発動する効果がある妖怪たちだ。

「《陰魔羅鬼》によって一枚ドローし、《カラス天狗》によって《アテナ》を破壊する! 悪霊退治!」

 二体とも墓地から特殊召喚するだけで容易にアドバンテージをとれる優秀な効果であることに加え、二体並べて特殊召喚した時にはその相乗効果が更に期待することが出来る。

 事実、フィールドを制圧していた《アテナ》は《カラス天狗》の扇の一振りで破壊されたのだから。

「ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 遊矢の改めてのターンエンド宣言を受けてカードをドローし、手札に残る《砂塵の悪霊》を手に取った。
遊矢のフィールドに伏せられている、あのリバースカードは十中八九《砂塵の悪霊》に対抗するためのカードであるだろうが、どちらにせよ《砂塵の悪霊》を召喚しなければ《光神テテュス》を突破することは出来やしない。

「《カラス天狗》をリリースし、《砂塵の悪霊》をアドバンス召喚! 効果により、《光神テテュス》を破壊する!」

「カウンター罠《天罰》を発動。手札を一枚捨て、《砂塵の悪霊》の効果を無効にして破壊する」

 《砂塵の悪霊》の頭上にある天空が裂けていき、そこから放たれた光が《砂塵の悪霊》を貫き、まさに神が悪霊に天罰を与えているようだった。

「陰魔羅鬼を守備表示にし、ターンエンド」

「俺のターン。ドロー。引いたカードは《ウィクトーリア》、一枚ドロー。《ジェルエンデュオ》を引いた。もう一枚ドロー」

 天使族モンスター《ウィクトーリア》と《ジェルエンデュオ》が計二枚ドローされ、遊矢は《光神テテュス》の効果によって三枚のアドバンテージを獲得することに成功する。

 遊矢のフィールドには光神テテュスが一体で、三沢のフィールドは陰魔羅鬼が守備表示でお互いにリバースカードはなく、ライフポイントは遊矢が1800で三沢が2200……三沢のフィールドのモンスターが下級モンスターであること以外は、ほぼ互角と言って良いだろう。

「《ウィクトーリア》を召喚」

ウィクトーリア
ATK1800
DEF1500

 先程のドローフェイズに《光神テテュス》のドロー効果を起動させた、光り輝く龍に乗って杖を持った天使が召喚される。
天使族を攻撃対象に選択させない効果はともかく、相手の墓地のドラゴン族のコントロールを奪う効果は強力だが、三沢のデッキ相手に使えることはない。

「バトル。ウィクトーリアで陰魔羅鬼に攻撃」

 ウィクトーリアが杖を陰魔羅鬼に振りかざすと、ウィクトーリアに操られているドラゴンが陰魔羅鬼に向かって光を放って破壊した。

「更に光神テテュスでダイレクトアタック。ホーリー・サルヴェイション」

 光神テテュスの背後から放たれる光が、モンスターという壁がない三沢へと襲いかかっていくが、墓地から飛びだした三沢のデッキ唯一の戦士族が代わりに受けた。

「墓地から《ネクロ・ガードナー》を除外し、バトルを無効にする!」

 《ライトロード》関連の効果によって高速で墓地肥やしされる以上、戦士族とはいえ汎用性の高い《ネクロ・ガードナー》を採用しない理由は見当たらなかった。

「ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 《ネクロ・ガードナー》のおかげで危ないところを切り抜けられたことに感謝し、ドローしたカードを見てニヤリと笑う。

「魔法カード《光の援軍》を発動! デッキからカードを三枚墓地に送り、デッキから《ライトロード・サモナー ルミナス》を手札に加える!」

 ライトロード専用の《増援》といったカードの《光の援軍》で、ライトロードの中でも有数の強力な効果を持ったルミナスが三沢の手札に加えられた。

「ライトロード・サモナー ルミナスを召喚!」

ライトロード・サモナー ルミナス
ATK1000
DEF1000

 ステータス自体は攻撃力も守備力も1000といった貧弱な数値ではあるが、『サモナー』というその名の通り墓地の《ライトロード》を特殊召喚する効果を持っている。

「ライトロード・サモナー ルミナスの効果! 手札を一枚捨てることで、墓地から《ライトロード》と名の付いたモンスターを特殊召喚する! 来い、《ライトロード・パラディン ジェイン》!」

ライトロード・パラディン ジェイン
ATK1800
DEF1500

 遊矢のフィールドにいる天使族《ウィクトーリア》と偶然にも同じステータスを持った《ライトロード》におけるアタッカーであり、下級モンスターの打点が低い三沢のデッキにとって、アタッカーとしても墓地肥やしとしても一粒で二度美味しいモンスターだった。

「更に墓地の《馬頭鬼》を除外し、《カラス天狗》を墓地から特殊召喚する!」

 ライトロードシリーズの墓地肥やしのおかげで、墓地に送られていた《馬頭鬼》の効果によってまたも墓地から《カラス天狗》は特殊召喚され、その効果が発動した。

「《カラス天狗》が墓地から特殊召喚されたため、《光神テテュス》を破壊する! 悪霊退治!」

 もう三度目になるカラス天狗の扇の振りが、《光神テテュス》を効果破壊して遊矢のフィールドを《ウィクトーリア》のみにする。

「このターンで終わらせてもらう! ライトロード・パラディン ジェインで、ウィクトーリアを攻撃!」

 《ライトロード・パラディン ジェイン》と《ウィクトーリア》のステータスは同じであるが、光の聖騎士は攻撃する時に300ポイント攻撃力をアップさせる効果を持っている。
聖騎士による光る剣戟がウィクトーリアを切り裂き、遊矢に《ジェルエンデュオ》へと貫通ダメージを与えた以来の戦闘ダメージを与えることに成功する。

遊矢LP1800→1600

「更に、カラス天狗でダイレクトアタック!」

 カラス天狗とライトロード・サモナー ルミナスの二体のモンスターの攻撃で、遊矢のライフポイントは0になる。
今の遊矢の【天使族】デッキに、斎王から得られる可能性のある《冥府の使者 ゴーズ》を始めとする、手札で発動するカードは《宣告者》と呼ばれるシリーズ以外はないと、三沢は推測したのだが……

 彼は、結果として親友の《機械戦士》に対する想いを見誤っていたのかもしれない。

「手札から《速攻のかかし》を捨てることで、バトルフェイズを終了する」

「なっ!?」

 今まで天使族モンスターで白く光るモンスターしか採用していなかったことにも関わらず、突如として出現した《速攻のかかし》がカラス天狗の遊矢への攻撃を自分を犠牲にして庇ったのだ。
別に、《速攻のかかし》は採用されていてもおかしくないカードだが、三沢には遊矢が《機械戦士》のカードを採用して、未だ斎王からの洗脳を耐えているのだと考えた。

「……君は……ターンを、終了する……」

 エンドフェイズ時に、《ライトロード・サモナー ルミナス》と《ライトロード・パラディン ジェイン》の効果によって、合計で五枚のカードがデッキから墓地に送られていく。
三沢の予測よりも、ライトロードの墓地肥やしが早く――そこが利点なのだが――デッキ切れを起こしそうなところである。

 短期決戦でいかなければ、と《速攻のかかし》によって少し緩んだ気を引き締めた。

「俺のターン。ドロー」

 三沢の《光の援軍》と《ライトロード・サモナー ルミナス》を軸とした展開力に、遊矢のフィールドにいた《光神テテュス》と《ウィクトーリア》は破壊され、リバースカードもなくフィールドは正真正銘の空だった。

「《神の居住-ヴァルハラ》を発動」

 一ターン目に《ライトロード・ハンター ライコウ》によって破壊された、戦士たちが眠る聖域へと繋がる門が遊矢の背後へと開かれる。

 まさか、このカードの発動のために先のターンで《アテナ》の効果で展開力に秀でた《アテナ》より、手札を潤沢に出来る《光神テテュス》を選択したのかと、三沢は思い至る。

 もしもそうなのであれば、自分は《神の居住-ヴァルハラ》で切り札を特殊召喚出来るように誘導されたということになるのだろうか――と。

「《神の居住-ヴァルハラ》により現れろ、斎王様より賜りし無慈悲な天使、《大天使クリスティア》」

大天使クリスティア
ATK2800
DEF2300

 天使族の代表格とも言えるレアカードに、三沢はその効果も含めてその登場に戦慄する。
大天使クリスティアを相手にするのは三沢と言えども始めてだったが、その強力な効果は良く聞き及んでいた。

 一つ目の効果は、デュエルの中盤になっているこのタイミングには意味を成さないとはいえ、自分と相手双方に特殊召喚を封じる効果は特殊召喚をメインとする三沢には弱点と言って良い。
最上級天使族モンスターを特殊召喚する遊矢のデッキにも、大天使クリスティアの効果は良く刺さる筈なのだが、もはや大天使クリスティアがいる今では他のモンスターなど必要なく、いざとなればダブルコストモンスター《ジェルエンデュオ》がいる。

 更になんとか魔法・罠によって破壊したとしたとしても、大天使クリスティアは墓地ではなくデッキトップへと戻ってしまう。
本来ならばデメリット効果であるはずのその効果は、最上級天使を容易く特殊召喚出来る《神の居住-ヴァルハラ》の効果により、再利用し易くなるメリットへと変わるのだ。

「《ジェルエンデュオ》を召喚し、バトル。大天使クリスティアでライトロード・サモナー ルミナスに攻撃」

「ぐあああっ!」

遊矢LP2200→400

 《レインボー・ライフ》によって回復したライフを一瞬で奪われてしまい、もはや風前の灯火と言ったライフになってしまう。

「更にジェルエンデュオでカラス天狗に攻撃」

「ぐうっ……!」

三沢LP400→100

 首の皮一枚だけ、なんとか100ポイントだけ繋がって三沢のライフは残った。
だが、先程まで散々手こずっていたバーン効果を持った《アテナ》を特殊召喚され、効果が発動しただけで三沢のライフは尽きるのだから。

「これでターンを終了」

「俺のターン……ドロー!」

 三沢はこれ以上後がないために、気合いを込めてカードを引くが、この状況を打破出来るカードを引くことは出来なかった。

「《酒呑童子》を守備表示で召喚……!」

酒呑童子
ATK1500
DEF800

 だが引いたカードは、墓地のアンデット族を利用することで一枚ドローする効果を持っている妖怪《酒呑童子》であり、次なるターンに希望を届けることは出来るようだ。

「《酒呑童子》の効果発動! 墓地のアンデット族を二体除外し、一枚ドローする!」

 酒呑童子によって引いたカードは自身のエースカード《赤鬼》であり、このカードを召喚することが出来れば、《大天使クリスティア》を手札に戻してこの状況を打破する策はある。
だが、このターン三沢は既に通常召喚を終えており、手札に《二重召喚》と言ったカードは無い。

「カードを二枚伏せ、ライトロード・パラディン ジェインを守備表示にしてターンエンド」

「俺のターン。ドロー」

 ジェインの効果でデッキから二枚墓地に送られる……やはりここは、守備を固めて一ターン耐えるしか三沢には道はなかった。

「大天使クリスティアで《酒呑童子》に攻撃」

 三沢のライフをほとんど削りきった光相手では、《酒呑童子》に耐えられることが出来るはずもなく、あっけなく破壊された。

「続いて、ジェルエンデュオでライトロード・パラディン ジェインに攻撃」

「墓地から《タスケルトン》を除外し、バトルを無効にする!」

 先の《ネクロ・ガードナー》のアンデット族版のモンスターが、ジェルエンデュオの攻撃を止めた。
《ネクロ・ガードナー》と違ってデュエル中に一度しか発動出来ないデメリット効果があるため、もう再利用は望めないが……

「ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 《タスケルトン》のおかげで遊矢の攻撃をなんとか耐えきった。
フィールドには一体のモンスター《ライトロード・パラディン ジェイン》しかいないが、そこは三沢大地、赤鬼をアドバンス召喚する布石は既に打ってある。

「墓地のモンスター《スリーピー・ビューティー》の効果! このカードが墓地にいる限り、手札のアンデット族モンスターのレベルを1下げる! この効果により、ライトロード・パラディン ジェインをリリースして《赤鬼》をアドバンス召喚する!」

赤鬼
ATK2800
DEF2100

 結果的にアドバンス召喚する場合のリリースするモンスターの数を、一体少なくすることが出来る《スリーピー・ビューティー》により、満を持して現れる三沢のエースカードである閻魔の使者、《赤鬼》が炎を吐き出さんと力を溜め込んだ。

「赤鬼がアドバンス召喚に成功した時、手札を捨てた枚数だけ相手のカードを手札に戻す! 一枚捨てることで、大天使クリスティアを手札に戻す! 地獄の業火!」

 出来れば《ジェルエンデュオ》も戻したかったものだが、三沢自身の手札が少ないことと、潤沢にある遊矢の手札からまたも《速攻のかかし》が現れたら一番厄介故にジェルエンデュオは対象に選ばなかった。

「バトル! 赤鬼でジェルエンデュオに攻撃! 鬼火!」

 赤鬼から発せられた炎を延々と受けながらも、自身の効果で戦闘破壊はされずにジェルエンデュオは耐え抜いた。
だが、戦闘ダメージは発生したために、耐えきったのもつかの間即座にデメリット効果によって自壊してしまう。

遊矢LP1600→500

 三沢にとって親友を救うための負けられない戦いは、《ライトロード》を始めとする新しいカードと《赤鬼》たち妖怪のおかげもあって、一進一退の攻防を呈していた。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン。ドロー」

 遊矢のフィールドにはモンスターがいないため、《神の居住-ヴァルハラ》の条件を満たして再び《大天使クリスティア》を特殊召喚出来る。
だが、それをさせないところまでが三沢の策略だった。

「トラップカード《マインドクラッシュ》! 宣言したカードが手札にある時、そのカードを捨ててもらう! 俺が宣言するのは当然《大天使クリスティア》!」

 《マインドクラッシュ》と言ったカードは、相手の手札が未公開情報である以上不確定なものであるが、《赤鬼》の効果で手札に戻したのだから話は別だ。
フィールド上から墓地へ送られる場合のみ、大天使クリスティアのデッキトップへと戻る効果は発動するため、手札から捨てられてしまえば効果は発動しない。

 遊矢は手札から《大天使クリスティア》を三沢に見えるように墓地へ送ると、他のカードを手札からデュエルディスクに置いた。

「我が分身《アルカナフォース0-THE FOOL》を守備表示で召喚」

アルカナフォース0-THE FOOL
ATK0
DEF0

 アルカナフォースの中でもその戦闘破壊耐性に目を付けられ、通常の【天使族】デッキでも採用されることのある、大アルカナでも特別なナンバーを持ったザ・フールがフィールドで回り始めた。

「……ストップ」

 アルカナフォースの効果に従って、三沢が回るザ・フールにストップの指示を加えた。

「逆位置。よって、ザ・フールは逆位置の効果を得る。ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 いくら戦闘破壊耐性を持っていようとも、守備表示で召喚してくれたのならば、三沢の手札にあるモンスターにとっては好都合だった。

「《ライトロード・モンク エイリン》を召喚!」

ライトロード・モンク エイリン
ATK1600
DEF1000

 ライトロードの格闘技を極めた修行僧がフィールドに現れる。
彼女の効果は、守備表示モンスターに攻撃した時にダメージ計算前に攻撃した守備表示モンスターをデッキに戻すというもので、今の状況に適した効果であった……三沢としては、欲を言えばアンデット族モンスターを召喚して、墓地から《九尾の狐》を特殊召喚したかったが。

「バトル! ライトロード・モンク エイリンで、ザ・フールに攻撃! デッキへと戻ってもらう!」
 ライトロード・モンク エイリンがザ・フールをデッキへと戻そうと迫るが、攻撃を加える前にザ・フールがその触手でエイリンの胸を貫いた。

「《アルカナフォース0-THE FOOL》の逆位置の効果。このカードを対象にするカードの効果を無効にして破壊する」

 アルカナフォースは、逆位置の効果がメリットであるカードも少なからず存在していることを頭に入れておかなかったことを悔いながら、三沢はそのまま守備を固めてターンを終了する。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー」

 だが、遊矢の方も戦闘破壊耐性のあるザ・フールのせいで《神の居住-ヴァルハラ》を発動することは出来ず、一体だけのリリース素材でアドバンス召喚出来る《光神テテュス》では赤鬼の攻撃力を超えることは出来ない筈だ。

「《コート・オブ・ジャスティス》を発動。レベル1の天使族がいる時、一ターンに一度天使族モンスターを特殊召喚出来る」

 そんな三沢の思惑も外れ、遊矢はまた別の特殊召喚の手段である光と正義が支配する法廷を用意をしてくる。
戦闘破壊耐性がいる限り、フィールドに天使族がいたら特殊召喚出来ない《神の居住-ヴァルハラ》と違って、毎ターン最上級天使族モンスターを特殊召喚される気配をはらんでいた。

「《コート・オブ・ジャスティス》の効果。《大天使クリスティア》を特殊召喚する」

 光と共に、再び特殊召喚される無慈悲な天使が赤鬼の前に立つ。
三沢と遊矢のエースカード同士が睨み合い、大天使クリスティアが赤鬼へと攻撃の意志を示した。

「大天使クリスティアで赤鬼へと攻撃」

 大天使クリスティアの光と赤鬼の炎がぶつかり合い、同じ攻撃力の為に双方同時に破壊されてしまう。
だが赤鬼と違って、大天使クリスティアには墓地へと送られる代わりにデッキトップへ送られる効果を持っているため、ドローロックをされるが再利用は《コート・オブ・ジャスティス》のおかげで容易だ。

「ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー! 《貪欲な壷》を発動して二枚ドローする! ……カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

 これで三沢のフィールドはリバースカードが二枚のみで、遊矢のフィールドにはザ・フールと神の居住-ヴァルハラとコート・オブ・ジャスティスの二枚が控えている。

「俺のターン、ドロー」

 遊矢はデッキトップの大天使クリスティアを引き、フィールドが空となっている三沢へとトドメを刺さんとデュエルディスクにセットした。

「《コート・オブ・ジャスティス》の効果発動。《大天使クリスティア》を特殊召喚する」

「そこだ! カウンター罠《閻魔の裁き》!」

 コート・オブ・ジャスティスから光が放たれて大天使クリスティアが特殊召喚されようとした時、黒い炎と共に地獄の門番閻魔大王が現れ、現れかけていた大天使クリスティアを地獄に落とした。

「《閻魔の裁き》は相手の特殊召喚を無効にして破壊し、デッキから《赤鬼》を特殊召喚する!」

 閻魔大王が現れていた黒い炎が姿を変えていき、自分が地獄へと戻る代わりに閻魔の使者が特殊召喚される。
大天使クリスティアは、フィールドに出る前に召喚を無効化されたためにデッキトップへと戻れず、三沢のフィールドにはエースカードが舞い戻った。

「《ウィクトーリア》を守備表示で召喚し、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー! 《ピラミッド・タートル》を召喚!」

ピラミッド・タートル
ATK1200
DEF1100

 ドローしたカードは待望のアンデット族モンスターであり、戦力としてはあまり期待出来ないリクルーターではあったが、三沢の手札にあるカードにとって、モンスターが召喚出来ればそれで良かった。

「フィールドに二体のアンデット族モンスターがいる時、このカードは特殊召喚出来る! 招来せよ《火車》!」

火車
ATK?
DEF1000

 三沢にとって赤鬼がエースカードならば、この特殊召喚されたモンスターは切り札とも言えるカード。
かつてセブンスターズの一人、タニヤとデュエルした際にもフィニッシャーとして活躍したその効果を、このデュエルでも十全に活かす。

「火車がフィールドに特殊召喚された時、全てのモンスターをデッキに戻し、戻したアンデット族モンスターの数×1000ポイント攻撃力をアップさせる! 冥界入口!」

 火車の開いた冥界への入口に、三沢の赤鬼とピラミッド・タートル、遊矢のザ・フールとウィクトーリアが吸い込まれていく。
ザ・フールの対象に選択されたら無効にして破壊する効果も、ウィクトーリアの他のモンスターを攻撃対象に選択させない効果も、冥界という名のデッキに戻されては何の意味まなさない。

「火車でダイレクトアタック! 火炎車!」

 赤鬼とピラミッド・タートルという二体のアンデット族モンスターをデッキに戻したため、その攻撃力は2000という物足りない数値ではあるが、遊矢僅か500という遊矢のライフを削りきるにはオーバーキル過ぎるぐらいだ。

「墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外し、バトルを無効にする」

 このタイミングでの予想だにしない《ネクロ・ガードナー》の登場に、火車の必殺の攻撃が止められてしまう。

 《ライトロード》シリーズを使って高速で墓地肥やしを行っている三沢と違って、遊矢が墓地へとカードを送ったのはただ一度だけ。
それは、カウンター罠《天罰》で三沢の《砂塵の悪霊》の効果を無効にした際、コストで墓地に送ったカードが一枚……ここまで温存していたということらしい。

「……これでターンエンド」

「俺のターン。ドロー。《貪欲な壷》を発動し二枚ドロー」

 三沢と同じように遊矢も《貪欲な壷》で手札を補充すると、二種類ある天使族モンスターサポートの内、遊矢の背後にそびえ立ったヴァルハラへと門を開いた。

「《神の居住-ヴァルハラ》を発動。《大天使クリスティア》を特殊召喚する」

 《貪欲な壷》によってデッキに戻したのだろう、再び門から遊矢の切り札である無慈悲な天使が、光とともに特殊召喚された。

「バトル。大天使クリスティアで火車に攻撃」

「《和睦の使者》を発動する!」

 攻撃表示の火車が破壊されて敗北することは避けられたが、またも特殊召喚封じの大天使クリスティアが召喚され、もう三沢には《マインドクラッシュ》や《閻魔の裁き》のようなカードはない。

「ターンエンドだ」

「俺のターン……」

 このデュエルも、お互いのライフを考えると終盤戦となって三沢のライフも手札もデッキも限界を迎え、一枚だけあるリバースカードも特殊召喚する関連カードであったので、大天使クリスティアの効果によって発動すら不可能となってしまっている。

「……三沢」

 デッキからカードをドローする直前に声をかけられて顔を上げると、遊矢が人形のようだった瞳ではなく、いつもの遊矢へと戻っているように見えた。

「自分と、その自分が組んだデッキを信じろ――そうすれば、デッキは応えてくれる」

 遊矢はそう一言言葉を絞り出すと、先程までの洗脳された人形のような瞳へと戻ってしまう。

 その言葉を聞いて、三沢は遊矢らしいと思うと共に羨ましいとも思った。
それは凡人である自分には、カードと頭脳で補うことでしか到達出来ない境地だろうから……かつてカイザー亮は、遊矢と【機械戦士】のことを『デッキに入っているカードを全て理解し、信頼し、組み合わせることでどんなに強いモンスターをも倒す』と例えたらしいが、的を射ていると自分でも思う。

「……ドロー!」

 だが自分とてこの【妖怪】デッキを信じていない訳がなく、ただデッキを信じてカードを引いた。

 そして、引いたカードとは。

「俺は《スピード・ウォリアー》を召喚!」

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

『トアアアアッ!』

 力強い雄叫びをあげながら、デュエル前にレイから託された遊矢のフェイバリットカードが召喚された。
絶望的な状況からの《スピード・ウォリアー》を使っての逆転劇は遊矢の領分であるが、彼のデッキの精霊とやらが力を貸してくれたのだろうか。

「《ミニマム・ガッツ》を発動! 火車をリリースし、大天使クリスティアの攻撃力を0にする!」

 アンデット族モンスターを展開する三沢のデッキには、《ミニマム・ガッツ》の効果条件を満たすことは容易い。
《大天使クリスティア》はその効果によって遊矢のデッキトップに戻ってしまうため、《ミニマム・ガッツ》による効果ダメージは望めないが、攻撃力を0にするだけで充分だ。

「バトル! スピード・ウォリアーで大天使クリスティアに攻撃! ソニック・エッジ!」

 攻撃力を倍にする効果は、遊矢のライフポイントやリバースカードがないことを併せて考えると使う必要はなく、使って《朱光の宣告者》が発動でもされたら笑えない。

 だがスピード・ウォリアーが攻撃しようとした時、大天使クリスティアに元々とは別の白銀の翼が二つ生えてきて、突如として力を取り戻した。

「手札から《オネスト》を発動する」

 光属性と属する主力モンスターがほぼ天使族にとっての切り札《オネスト》の登場に、大天使クリスティアの攻撃力はスピード・ウォリアーと同じ攻撃力まで上昇し、双方とも相討ちという結果となった。

 前述の通り、《大天使クリスティア》はその効果によって遊矢のデッキトップへと戻っていく為に、《ミニマム・ガッツ》の発動条件である『墓地へ送る』ことが出来ないので効果ダメージを与えることは出来ない。
更に三沢にとって追い風となるのは、遊矢のフィールドに健在の《神の居住-ヴァルハラ》と《コート・オブ・ジャスティス》の存在で、デッキトップにあるために次のドローで引くことが確定している《大天使クリスティア》が、特殊召喚されることもまた確定しているようなものだった。

 そして、三沢にはもうその特殊召喚を封じる策は残されていない。

 だが、そんな状況にもかかわらず三沢の表情は笑っていた。

「《オネスト》があることは予測済みだった。そして、お前の相棒を直接叩き込む為に利用させてもらった! リバースカード《奇跡の残照》を発動し、《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」

 遊矢も多用する罠カード《奇跡の残照》により、大天使クリスティアと相討ちになったそのままの姿で舞い戻ったスピード・ウォリアーは、未だにバトルフェイズの為に攻撃する構えをとっていた。

「バトル! スピード・ウォリアーで遊矢にダイレクトアタック! ソニック・エッジ!」

 スピード・ウォリアーの二度目の攻撃は遂に遊矢本人へと届き、そのまま遊矢のライフポイントを削りきった。

遊矢LP500→0

「ぐああああっ!」

 敗北した遊矢が頭を抱えてうめきだすのを、三沢は計算通りだと思い胸をなで下ろした。
レイが目撃した三沢の部屋に書かれていた計算式は、三沢がデッキを作った時に書いたものだけではなく、勝った後に遊矢を助けるための理論を書き上げていたのだった。
斎王の洗脳による光の結晶からの支配を断ち切るために、尊敬するツバインシュタイン博士の論やカードの精霊の力を借りたその計算式には自信があり、事実遊矢には有効に働いているようだった。

 遊矢が頭を抱えて倒れ込むのを目撃した後――計算通りならば文字通り目覚めるはずだ――三沢も、大地に膝をついた。
一週間の部屋へと籠もった影響で、三沢も色々と無理をしていたのだ。

 レイやラー・イエローの友人が駆けつけて来てくれるのを聞きながら、三沢はやり切った心地よさと共に意識を手放した。
 
 

 
後書き
三沢vs遊矢(白)でした……どこで切るか悩んでいたら、気が付いたら最後まで行ってしまいました……

※《アテナ》の効果で《アテナ》を特殊召喚出来ないのを失念していました……もはや修正不可能の域に達しているため、このまま残しておきます……すいません。


感想・アドバイスなどお待ちしています。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧