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第二十四話 返事、第二ラウンド
前書き
ついに原作キャラが登場。初の原作キャラはあの人です。
みなさんは分かりますか?
和也は自分の失態を呪っていた。
自らの過ちのせいで人を傷つけてしまったからだ。
なんであのときあんなことをしたんだろうか?
あんなことをしなければ、誰も傷つけることもなかったのに。
「ごめん、りんか。」
告白してくれたりんかに対し、そう謝ることしか出来なかった。
謝られたりんかはひどく悲しそうな顔をする。
当然だろう。告白に対し、謝罪で返されれば誰でも同じ表情をするに違いない。
しかし和也はりんかの表情を見て、自分の気持ちが間違って伝わっていることに気づく。
「り、りんか、待ってくれ。違うんだ。」
泣きそうな表情をしているりんかを見て、和也は必死に弁明する。
「俺が謝ったのはりんかを傷つけただろうと思ったからだ。りんかの告白に対してじゃない。」
りんかはその言葉を聞いて、悲しそうな顔が晴れたが、一方で和也がなぜあやまるのかが理解できず怪訝な表情をしていた。
「謝ったのは、りんかを傷つけた事と、今返事ができないからだ。」
「………それは誠也君を助けにいくから?」
「それもある。だけどそれ以上に、りんかにだけ返事をするのは卑怯だと思っているからだ。」
「卑怯?」
「ああ。エリとりんかの二人同時に返事をしないなら、俺はただの卑怯者だ。」
和也の表情には強い決意に満ちていた。
りんかには和也が何を思っているのかは理解できていないが、和也の思いの強さだけは理解できた。
「………うん。」
直ぐに返事がほしい。正直に言えばそう思っているが、和也を困らせたくなかったため引き下がった。
それに和也はきちんと約束を守る人とという信頼もあった。
「………だから、今は返事の代わりに、これで許してほしい。」
「え?」
和也はりんかの顎を少し持ち上げる。
りんかはその突然の行動に戸惑い、次の行動に対して少しも動くことが出来なかった。
「んっ!?」
「………。」
数秒後、和也はりんかから体を離す。
「後で必ず返事する。」
和也は真っ赤な顔を見られまいとりんかに背を向けてそう告げる。
ただ、告げられたりんかも真っ赤な顔で瞳の焦点が合っておらず、和也の言葉が聞こえていたかは少し怪しい。
「………行ってくる。」
和也はそう言い残して駆け出していった。
「見てたわよ。」
「エリちゃん………。」
「全く、羨ましい限りだわ。」
「エリちゃんだって………。」
「ま、それはそうだけどね………。」
「もう………。………ごめんね、心配掛けて。もう大丈夫だから。」
「そうみたいね。安心したわ。二重の意味で。」
「ふふっ………。私も。」
「でもちょっと妬けるわ。」
「………私も。」
「………くすっ。」
「………ふふっ。」
二人の女性の笑い声は案外長く続いて、ちょっと噂になったそうな。
「がっ……!!!」
誠也はバリアジャケットのない状態のまま、巨人の拳が直撃していた。
そしてその拳の勢いが誠也を思い切り吹き飛ばす。
吹き飛ばされた誠也はそのまま広場を突き抜け、吹っ飛ばされたまま林の中に突っ込む。
大した受け身も取れず、木々とぶつかる衝撃をその身に受けながら、止まることなく吹き飛んでいく。
そして木々が十五本ほど折れた時、誠也は十六本目の木に激突し、そのまま落ちる。
まともな人間でなくとも一巻の終わりである。
『……死ンダカ。』
拳を振り切った体勢のまま、誠也が動くかどうか観察していたが、ピクリとも動かないため死亡の判断を下す巨人。
『所詮ハタダノ人ノ子カ。我ガ拳ニ耐エルコトハ不可能ダッタヨウダナ。』
機械王は誠也に背中を向けて叫ぶ。
『シカシ、我ニ刃向カオウトシタソノ勇気ハ評価シヨウ!大イナル勇気ヲ持ツ人ノ子ヨ!!死シテ御魂ト化シ、我ガ覇業ヲ見届ケヨ!!!』
その叫びは森の木々を揺らすほど強烈なものだった。
そして戦いは終わったとばかりにその場を立ち去ろうとした時、桜色の閃光が鋼の巨人の右腕の部分を通過した。
閃光が止んだ時、巨人の右腕はそこに存在せず、肩の機械部が大きく露出していた。
『ホウ……。』
消えた右腕を見て感心する機械王。
桜色の飛んできた方向に改めて振り向く。
「………勝手に………殺すなよ………!」
誠也が右手を前に突き出し、左手を肋骨のあたりに当てながら立っていた。
よろよろと歩き、巨人の前に再度立つ。
『意外ト頑丈ナノダナ。我ガ拳ヲ受ケテ未ダ生キテイルトハ。』
「ああ……。一歩間違えば死ぬところだったけどな。」
実は誠也が機械王の拳を受ける直前、回避が不能だと悟った誠也は咄嗟に身体強化の魔法と簡易障壁の二つの魔法を発動させていたのだ。
勿論簡易障壁は破られ、誠也に拳が直撃したのだが、目いっぱい魔力を込めた障壁のおかげで威力は大きく削がれ、身体強化によって頑丈になった肉体は拳の直撃を受けても致命的なダメージをもらわずに済んだのだ。
この二つの魔法がどっちかでも一瞬発動が遅れていたら、今頃死んでいただろう。
それほどぎりぎりいっぱいの生還だったのである。
『貴様ハ機械ニ頼リキリノ軟弱ナ魔導師デハナカッタヨウダナ。』
機械王にとって魔導師とは、己の持つデバイスに頼りきった魔法しか使えない堕弱な魔導師という認識があったらしい。
これには確かに間違いはない。
今でこそその重要性が知られているために、デバイスに頼らない魔法の習得が重要視されているが、その昔はデバイスに頼った魔法の発動が主であった。
デバイスがなければ戦闘行動はとれず、デバイスが整備中だったりすると一切使い物にならないような魔導師が昔は多数いたのだ。
現在は、対魔法技術に対抗するのにデバイスと術者の両方が一つの魔法を協力して発動させることが最も効果的と言われているため、魔導師の教育にもデバイスに頼らない魔法の訓練が組み込まれている。
それでも今なおデバイスに頼り切りの魔導師も多い。昔はさぞたくさんいたのだろう。
誠也は幼いころから祖母に叩きこまれた訓練の成果によって、今こうして立つことができているにすぎない。
『我ヲ昔封印シタノモ、貴様ノ様ナ機械ニ頼ラナイ魔導師デアッタ。』
機械王は誠也を一瞥し、己の過去を明かす。
誠也は何故このタイミングで、と疑問を持ったが、どちらにしろ、誠也にとっては好都合しかないためその疑問を口に出すことはなかった。
『アレハ七十年ホド前ノ話デアッタダロウカ………。』
新暦90年ごろのこと。
その頃、機械王はとある次元世界のとある遺跡にて封印されていた。
その遺跡のあった次元世界には多くの人が住んでいたが、そこはその世界では悪魔の住む地として言い伝えられていたため、未だ誰も近づいたことがなく、機械王の封印されている遺跡は誰にも発見されたことはなかった。
この時までは。
つまり、誰かが封印を解いたのだ。
『我ヲ目覚メサセタノハ誰ダ?』
起きぬけ一番で機械王はそう問う。
ぼろぼろの鋼の巨躯の頭を振り、誰も見つからなかったからだ。
「僕だよ。」
その声が聞こえてきたのは足元からだった。
足元の方へ眼をやると、そこには少し薄めの色をした金髪の男性がそこに居た。
『人ノ子ヨ。何故コノ地ニ踏ミ入ッタ?』
「僕は新しく見つけた遺跡を発掘しに来たんだ。」
碧眼を覆うその眼鏡をクイっと直して、男性は機械王にそう告げる。
「だから本当はあなたを起動させるつもりはなかったんだ。ただあなたを封印していた術式に触れたら、何もしなくても封印が解除されてね。」
不可抗力だったんだ。男性はそう言った。
だが、機械王にとってそんなことはどうでもよかった。
かつては己の願いを達成することはできなかった。
なぜならそこには邪魔ものがいたからだ。
一人は自爆人形を使役した王。
一人は義腕でもって剛腕を振るう優しい王。
一人は大切な者のために命を賭けて覇をなす王。
一人は稲妻で全てを薙ぎ払う王。
幾多の王達が機械王の願いを阻んだ。
普段争い合い、決して相容れない多くの王達が、その時だけは結託して。
そして戦いの果てに機械王は封印された。
今の体はその時の損耗した状態のままだ。
だが、ここを抜け出す程度の力は残っているだろう。
王はそう判断する。
『人ノ子ヨ。我ヲ起コシテクレタコトニハ感謝スル。タダ、我ニハ為サネバナラヌ悲願ガアルノダ。』
この言葉を聞いた男性は非常に決意に満ちた表情をしていた。
恐らく初めから予感そのものはあったのだろう。
封印されているということはそういうことだ。
なんとなく嫌な予感がしながらも、決意を定めて巨人に問う。
「悲願とは、何?」
『機械ニヨル機械ノタメノ世界ヲ創造スルコトデアル。』
『後ハ貴様トサホド変ワラヌ。世界ヲ滅ボシ、悲願ヲ為ス。ソウ言ッタラ、彼ノ者ハ全力デ阻止シテキタ。』
誠也は、機械王に気付かれないように体に回復魔法を施しながら、その言葉に耳を傾ける。
『幾多ノ王達トノ戦イニヨリ疲弊シタ体デハ、彼ノ者ニハ敵ワナカッタ。彼ノ者ノ使ウ鎖ハ我ガ体ニ動クコトヲ許サズ、彼ノ者ノ使ウ盾ハ我ガ拳ヲ完全ニ防ギキッテイタ。我ハ為ス術モナク封印サレタノダ。』
機械王は誠也を一瞥し、さらに続ける。
『ダガ、数年程前ニソノ封印モ解カレ、我ハモウ一度悲願ヲ叶エル時ガ巡ッテキタ。我ヲ封印スルベク追ッテ来ル魔導師ドモヲ蹴散ラシ、ドウニカコノ地ニ辿リ着イタ。』
機械王はもう一度誠也を見て、その紅い瞳をギラリと輝かせた。
『モウヨカロウ?』
「えっ?」
突然機械王に尋ねられ戸惑いを隠せない誠也。
一体なにが良いと言うのか。
『貴様ノ時間稼ギニハ付キ合ッテヤッタ。モウ十分ダロウ?』
それを聞いた誠也はびくっと体を震わせる。
最初からばれていたのか?
誠也は機械王の言動からそう察する。
機械王からの受けたダメージが甚大だった誠也は、その傷を癒すために先ほどから治癒魔法をずっと使っていた。
勿論、誠也の使う治癒魔法でしかなく、治癒と言うよりは応急処置程度の魔法でしかないのだが、それでも気休めにはなると機械王の話の間中ずっと使っていた。
まさか、分かって話をしていたのか?
おそらくそれが答えなのだろう。
機械王は初めから誠也が治癒魔法を使っている事を気付いていて、それが完了するのを待っていたのだ。
『我ハ王ゾ。手負イノ獣一匹狩リ獲ッタトコロデナンノ自慢ニモナルマイ。』
その通りだった。
機械王は誠也の治療が完了するまで待つために、話をしたのだ。
わざわざ過去の話をしたのはただ興が乗ったからでしかないだろう。
自分の誇りのために相手に猶予を与える。
それを驕りや油断ととるかは人次第だろう。
だが、目の前の鋼の巨人にとってそれは己の誇りを誇示するためだったのだろう。
「まいったな………。」
正直なところ誠也は現状を考えると目の前の巨人に勝てる気がしなかった。
全力の魔力収束、全力の簡易防御、全力の砲撃、全力の治癒。
これらで魔力を使い過ぎていた。
勿論誠也の魔力が少ないわけではない。
恐らく常人の魔導師のレベルで言えば、誠也の全力の半分以下の魔力を使っただけで魔力切れになってしまうだろう。
誠也はそれほどまでに多量の魔力を有していた。
だが、それほど大きな魔力量を持っていても限界はある。
誠也の魔力残量は残り半分とちょっと。
特に誠也の適性に一致しない簡易防御と治癒魔法に、使用した魔力の九割近くを持っていかれていた。
これらに加えて、射撃魔法は一切通じず、ただの砲撃も一切通らない。
全力砲撃は相手の腕を削り取ることに成功した。
ただ、チャージの時間を考えると戦闘でそう何度もできるものではないだろう。
もう一度初めから戦えたならまだわからないかもしれない。
ただ、今の手持ちの戦力で考えていくと誠也の勝てる見込みは少ない。
そこにさらなる絶望が誠也を襲う。
『アア、ソウイエバ忘レテイタナ。』
その言葉と共に機械王の右腕がぼんやりと光る。
すると広場の外から螺子や歯車、さまざまな機械部品が森から飛び出してきて機械王の右腕に集まっていき、徐々に機械王の右腕が肩から再度作り上げられていく。
その光景を十秒ほど見つめた後、そこには機械王の右腕が元通りになっていた。
『タカマチセイヤ、我ガ悲願ノ礎トナレ。』
勝てる見込みはひとかけら程度しか残っていない。
後書き
正解が一体誰かは皆さんならきっと予想がついているでしょう。
でも、分からない方もご安心ください。
分からなくても物語にはなにも問題ありません。
エリやりんかの会話の意味がわかった方はいらっしゃるのでしょうか?
一応、あの段階でほぼ三人の関係は決着がついています。そのためのシーンでした。
補足みたいなものは後で必ず入りますので分からなかった方もご安心ください。
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