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椿姫

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第三幕その七


第三幕その七

「こんなことになるとはな。後悔しても何にもならないが」
「・・・・・・・・・」
 アルフレードは沈黙してしまった。その間に客達はヴィオレッタの周りに集まっていた。そして彼女を気遣う。
「どうか御気を確かに」
「さあ、目を開けられて」
 客達の言葉で彼女は気付いた。そしてようやく目を開けた。
「よかった」
「気を取り戻されましたか」
「はい」
 彼女は弱々しい声で頷いた。だが顔は蒼白なままである。
「何とか」
「ジェルモン君」
 男爵はそれを見届けた後でアルフレードに顔を向けてきた。
「君は大変なことをしてくれた。彼女の名誉を汚してくれた」
「・・・・・・・・・」
「私はこれを見過ごすことはできない。そしてそれを正してやる」
 そう言いながら懐から何かを取り出した。白い手袋であった。
 それをアルフレードに対して投げつける。それで決まりであった。
「いいな」
「はい」
 アルフレードは頷いた。彼もそれから逃げる程愚かではなかった。
「では明日の正午に。場所はルーブルの裏だ」
「わかりました」
 アルフレードは応えた。
「いいな。逃げることは許されない。私は剣を持って行く」
「では僕も剣を」
「そうだ。彼女の名誉を晴らす。それでいいな」
「わかりました」
 こうして決闘が決まった。ヴィオレッタはその間に何とか立ち上がった。フローラが彼女を支えている。
「アルフレード」
 彼に声をかける。だが彼は答えられなかった。自分にはその資格がないのだとさえ思っていた。
「今は言えません。けれど」
 彼女は振り絞るようにして言う。
「何時かは。その時は必ず来ます」
「・・・・・・・・・」
「アルフレード」
 ジェルモンは沈黙するしかない息子に対して声をかけてきた。そしてこう言った。
「行こう。今の御前はここにいてはいけない」
「はい」
 それに頷くのがやっとであった。顔は蒼白となり遂先程までの怒りは何処かに消え去ってしまっていた。
「明日だ」
 男爵が彼に対してまた言った。
「君の罪を償う時は。いいな」
「ええ」
 それには応じた。だがそれが最後であり彼は父に連れられ屋敷を後にすることになった。二人で寂しく後にした。
「貴女は」
 フローラがヴィオレッタに声をかけた。
「私ですか」
「まだ顔が青いです。休まれた方が宜しいかと」
「いえ」
 それを断ろうとする。だがそれを周りの者が止めた。
「駄目です」
「けれど」
「今は御聞き下さい。お願いですから」
「・・・・・・わかりました」
 誠意ある言葉であった。それにあがらうことは彼女にはできなかった。こくり、と頷いた。
 そしてその場を後にした。そのまま屋敷を後にする。こうしてこの宴の主役達は全て姿を消した。だがこれで全てが終わったわけではなかった。むしろその最後の幕を告げる序曲のようなものであった。
 
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