ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~
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第三十四話
シルヴィアとはしばらく逢瀬を重ねたけれど、彼女をシアルフィ家で預かってもらうという計画はなんとか実現できた。
お互いちゃんと大人になってからでもいろいろ遅くは無いということで。
その時の会話を思い出すたびせつなくなる。
「あたしのこと嫌いになっちゃったの?」
「まさか、そんなことないよ。大切だからちゃんとした環境で守ってあげたいんだ」
「……守ってあげたいって、やっぱり、あたしには何にも出来ることなんて無いんだ……ごめんね」
「そういう意味じゃ無いよ、お前を攫って人質にして俺を、俺の国をどうこうしようって奴に目をつけられたらここだと守れないもの、お前がそんな目に遭わされたらそういう悪い奴の言うことに俺は逆らえなくなるし、お前はそんな俺を見て苦しくなると思うし……
それに、あの一座から引き離してしまったのだからお前が世の中で暮らして行く為の何かを考えてみて、シアルフィ家で働いたり学んだりがいいと思ったんだ。
たしかに押し付けかもしれないよ、その日の日銭さえ稼げればそれでいいって暮らしかただって止める権利は無い。でも、それじゃぁ無責任……って思って」
「……あたしってバカだね。そんなにもあたしのコト考えてくれてるのに、自分のコトばっかりで。でも何時だってどんな時だって少しでも会いたいし少しでも話したいし…それにね、誰に迷惑かけたってどうしようがミュアハの全部をあたしのものにしたいの。でもこうやって困らせちゃう自分がイヤで、でもわがまま聞いてほしくて、くるしくてくるしぃよ…」
感情の奔流にのみ込まれ、涙とすこし鼻水まで覗かせて訴えるシルヴィアになんて言い聞かせたらわからなくて、思ったことをただ伝えようと思った。
「俺はさ、ずーっといろんな人の前で礼儀正しいいい子とかを演じてきてそれを当たり前にしようとしてきて、それに疑問も持たずに生きてきたけど」
「……うん、最初に出会った時も、一緒に出かけた時もいつだってミュアハは他のみんなにお行儀よくて、あたしとは住むところが違う世界の人だって、思い知らされてるもの……」
「……そうやって偽りの態度や中身の無い飾った言葉で生きてきたけど」
「…うん」
「お前に出会えて、お前の前だけで、初めて素直な自分の言葉で話せたんだ。
いまではアゼルとレックスの前でもこんなふうに喋れるようになったけど、その切っ掛けをくれたのはお前だよ。そして、今でもほとんどの人の前ではこんなふうに喋れない」
「うん…」
「素直な自分の、ほんとの気持ちで話せるのはお前の前だけだよ、何も出来ないなんてことは全然無くって、お前だけが俺の心を素直にさせてくれるかけがえの無いひとなんだよ」
それまでは幾度彼女にねだられてもごまかして、せいぜい髪にする程度だったけれど、彼女の顎に手をかけて、うまくやる自信なんて全然無い接吻を交わした。
そのまま両手を彼女の背に回すと痛くないくらいに加減して抱きしめた。
彼女の唇から俺のそれを外し新たな空気を求めようとすると、それを逃さまいと喰いつくように彼女は自分の唇を押しつけて……
「続きは、もっとお互いちゃんとした大人になってから……いいね」
「もうこのままあたしを大人にしてよ…」
いつもの元気にすらっと伸びた若木のような彼女が、ぐんにゃりとして頬どころか体中を上気させ潤んだ瞳で俺に縋ってきた。
俺は甘くて、そして…苦い思い出が頭をよぎった。
「…それは大人じゃ、無いよ。ただ、欲に負けただけの大きな子供」
「どうして…」
「……もし、我慢できずに愛し合って子供が出来たら、どうやって育てる? 俺が王子だって言っても、シルヴィと俺のことを父上が認めないどころか勘当でもされたらどうやって互いの食いぶちを賄い、子供も養っていくんだい?俺が傭兵でもやったとして、仕事で死んだらそのあとはどうなる?乳飲み子を抱えたお前がどんな苦労をするのか…考えるだけでも苦しいよ」
「……ミュアハは、オトナだね。あたし恥ずかしいよ……」
「そんなことない、それにお前の事が大事だからこんなふうに考えるって思ってほしい」
「うん…ありがと、だいすきだよ」
「シルヴィ、ありがと……」
「あたし、ミュアハの前に出ても恥ずかしくないオトナになる、なれるようがんばる」
もう一度口づけを交わして、一緒に泣いて、ちょっとだけお互いオトナに近付いたかな…
シアルフィではシルヴィアを下働きとして住み込みで雇ってくれるということになった。
勉強はスサール卿の孫、つまりオイフェと一緒に、というかたぶんオイフェが教えてくれるんだろうなぁということになった。
バイロン卿、シグルドさん、ありがとうございます。
月に1回、時には2回くらい、士官学校が全休の日に合わせてシグルドさんかバイロン卿はシルヴィアを連れてきてくれて、俺も彼女もそれぞれどんな生活をしているのか語ったり少しいちゃついたり一時の別れを惜しんだり…
そんな日々が半年も続くと俺は次の年次に進み、下宿先を探さないとならなくなった。
最初はアゼルが借りた部屋にレックスと俺とで3人で住んでみようとしたが狭いのもあったので、俺は身を引き、シアルフィ家を頼ってみた。
家賃の支払いを断られたので書生のように屋敷の雑務などを率先して行うことで少しは罪滅ぼしになればとやっていたら、家賃の受け取りをする代わりに自己研鑽に専念するように言われた。
……シアルフィ家に寄生しすぎですね、ごめんなさい!
こういう話も国元へ連絡は欠かせていないが……シルヴィアのことは女の子の友達が出来た。
そんな程度の軽い報告にしておいた。
やっぱり照れちゃうよね…ほとんどありのままで理解されそうな気もするけれど。
新しい学年になってからは座学に神学の時間が加わり、ありがたい説教の時間が加わった。
俺は信仰心は薄いほうだが体裁を取り繕うのはそれなりに技量を磨いてきたつもりだったので問題の一つも起こさないとタカをくくっていた。
だがやはり向こうもプロなので見透かされてしまうこともままあった。
本心を偽って信心深い振りをするほうが罪深い…たしかにそうなのだが、ではどうすればいいものか!
俺の信仰心が薄いのが幸いしたのかどうかわからないが、会ってみたい人物が神学の時間にやってきてくれた。
誰あろう、クロード神父だ。
講義の方は態度だけ真面目に受けはしたが早く終わらないかとやきもきしていた。
「……では、本日の話はここまでにします。質問のある方はいつでも講師室にいらしてください」
すぐに追いかけるのも不審であったので、昼食休みの時間に彼のもとを訪れた。
挨拶もそこそこに
「歩兵科のミュアハ候補生です。クロード様、ご質問よろしいでしょうか?」
「……ええ、もちろんですよ」
なんとも魅きこまれそうな慈愛に満ちた眼差しをこちらに向けてくれた。
「……じつは、懺悔を行いたいのです」
「そうなのですか。しかし、バーハラ市街にもここにも礼拝所や教会はあるのですよ、今日のあなたの務めが引けたあとにでも訪えばよろしいでしょう」
「はい、しかし、いま、すぐにでも行わないと意味の無いものですから…」
「……どうやら事情がありそうですね。よろしいでしょう、救いを求める者にいついかなる時も閉ざされた門など無いのが神の教えです」
「ありがとうございます」
場所を移して俺はグラン歴757年から始まる出来ごとを語っていった。
もちろんディアドラの出生の秘密にアルヴィスのロプト教との繋がり、クルト王子が謀殺されバイロン卿とリング卿が下手人に仕立てあげられ、シグルドさんもまた討たれること、その時にクロード神父も巻き込まれてしまうことも、兄上とねえさまも悲惨な運命に追い込まれることもだ。
「……恐ろしいお話ですね。神は全て聞き届けられました。そして、謂われなく人々を誹謗することのあやうさをあなたにお示しくださることでしょう…。よろしいですね?」
「今起きても居ないことを神父様に信じていただけないことは重々承知しております。ただ、これは神の代理人としてでは無く一人の人間として聞いていただきたいことがあるのです」
「……まだ何かあるのですね?」
彼の穏やかな声は相変わらずだが、きっと心の奥では多少なりとも呆れや失望があると思う…
「神父さまには生き別れの妹君がおられるはず、このことを存じている者はそう多く無いと思いますがわたしは存じております、付け加えるならば士官学校に招かれるまでグランベルに足を踏み入れたことはございません。そして妹君は今13~14の齢のはず」
「…な…なぜ…それを御存じなのです?」
クロード神父は初めて、自身の感情を俺の前に晒したのでは無いだろうか?
「話せば長くなりますが……」
俺は自分が異世界人であること、ゲームの話ではなく俺の世界の神話としてこの世界があると脚色をして語った。
「にわかには信じがたいことではありますが……レンスター王国が優れた諜報機関というのをお持ちで調べあげたと私が申したらどうされます?」
「それならば、こんな回りくどい方法で神父さまに伝えようとせずに、もっと平易な方法で情報を提供し神父様に恩を売っていたと思います」
「そうですよね……わかっていても、そうであって欲しいと思うがゆえそう尋ねてしまいました。
そして、妹は今、どうしているのです?」
「一年近く前ですが、偶然保護することが出来ました」
俺はシルヴィアとの出会いを語り、今はシアルフィで世話になっていることも知らせた。
「あぁ……あなたを疑うこと無く信じることが出来れば、今、私は飛びあがって喜んでいることでしょう……」
「真偽を見分ける方法は神父様ご自身がよく御存じのはずです」
「……そうですね、そこまでお見通しとは。しかし、確認させてください、人を疑うなど聖職者としてあるまじきことを先程申しましたが…それでも、なお……」
「……クロード様の家、エッダ家に伝わる杖に問うてみていただくことが真偽を見定める確実な手段と存じております。それに彼女の体のどこかに聖痕があるやもしれません。
あの時我慢せずに確かめればよかったか……いや、それはよくない……あったとしても形がわからねば判別も難しいですよね。
わたしにはノヴァの小聖痕がありますが、知らない人にはただの痣にしか見えないでしょうしね」
俺は左手の親指あたりにあるノヴァの末裔を表す控えめな聖痕を示した。
……そうして俺はクロード神父の聖地巡礼の随員に選ばれた。
--四章おわり--
後書き
四章終わりました。戦闘シーン無しになりましたがどうだったでしょう…
七話で一章という課題は果たせたのでほっとしております。
この章のヒロインはアゼルきゅんの予定でしたが、レプトール絡みの話が使えなくなったので
急遽大幅に物語を変更しシルヴィアとクロード神父に登場していただきました。
次の章が面白くなるよう頑張ります、目を通していただきありがとうございます。
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