とある誤解の超能力者(マインドシーカー)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第7話 電撃戦
午前6時27分 第1区サイキックシティ中央駅南口
サイキックシティ第1区は、市役所等の行政機関のビル群が建ち並んでいる。
月曜のこの時間には、通勤に向かうサラリーマン達が駅から出るという光景がよく見られる。
そのようないつもの日常の光景を妨げたのが、2メートルを超えた黒い機体であった。
黒い機体は第1区の玄関窓口である、サイキックシティ中央駅に現れると、周囲を見渡す。
サイキック中央駅は、既に多くの警察によって包囲されていた。
サイキックシティの警備が強力である理由は、犯罪捜査に超能力を活用しているからである。
予知能力に優れた専門の捜査員を抱える、捜査第四課はサイキックシティに7体のロボットが登場し、重要施設で破壊活動を展開することを予知していた。
そのため、サイキックシティ警察本部は、サイキックシティ防衛隊との連携により出撃していた。
「それにしても、ロボットがテロを起こす時代かね」
がっちりした巨体に、警察の服装をまとった壮年の男は軍人のような服装をした若い男に話しかける。
若い男も、かなり体格は良いのだがそれ以上に長身のため、太さを感じない。
「ロボットがではなく、ロボットを操ってという方が妥当な表現ではないですか」
「そうかもしれないが、さてどうする?」
「対人であれば、拘束系の装備で問題ないが、あいつは機械だし。
戦車などの通常兵器なら、君たちの兵装で破壊すればすむのだが」
二人の視線の先には機敏に動く、黒いロボットがあった。
ロボットは、装備した特殊金属棒により、戦車を次々と無力化していく。
「さて、どうしますかね、白銀大佐」
壮年の男は、軍服の男に話しかける。
「そうですね、人型機動兵器を無力化するための兵装は用意していますから、投入しますか。
後かたづけが大変になるのでいやだったのですが。
機動隊の一時待避を願います、田沼警視正」
「了解した、白銀大佐」
田沼は白銀の提案を受け入れ、部下に指示を出す。
午前7時21分 第1区ホテルサイキック24階2405室
サイキック中央駅から2キロメートルほど離れたホテルの一室から7台のモニターで確認する男がいた。
巨額詐欺事件で逮捕された羽来であった。
羽来は、見知らぬ人物から保釈金を受け取って保釈されると、ホテルの一室に籠もっていた。
羽来は、自分を捕まえた牧石と目黒に恨みを持っていた。
もちろん、二人に近づくことなど不可能なため羽来は別の方法を考えていた。
羽来は、怪しげなメールを元に、葛桐医療器が開発した「レプトン」と呼ばれる怪しげなロボットをハッキングにより、自分の制御下においた。
羽来は、7体のロボットのうち5体を、テロがねらうような施設で暴れさせているうちに、残り2体で牧石と目黒をしとめる計画だった。
羽来はディスプレーを確認しながら、二人の存在を捜索している。
その時、7台あるモニターのうち6台の映像が消失した。
「いったい、何が……」
羽来は、「レプトン」が搭載しているモニターが、使用できなくなった事を理解して、インターネットから自分が起こした事件を確認した。
「……、なんだこれは……」
羽来は絶句した。
羽来が見ている映像は、どこかのテレビ会社がチャーターしたヘリコプターからの中継映像である。
サイキックシティ中央駅付近が、粉々に砕け散り、残骸だけが散乱していた。
それは、羽来が破壊させた戦車などの装甲車両だけではなく、さきほどまで羽来が操作していた「レプトン」の破片らしきものも存在していた。
そして、周辺には13体の「レプトン」と同様の黒いロボットと、4枚の羽を持つ1体の巨大な白いロボットが存在していた。
「……」
羽来は沈黙を続けているため、テレビ音声だけが聞こえる状態であったが、羽来の背後から新たな物音がくわわった。
「失礼します、羽来雄二郎さん。
我々は、警察のものです。
今朝発生した事件について、事情を伺いにきました」
ここで、羽来の計画は頓挫した。
午前8時03分 第7区 区営駐車場
「予定通りだな」
天野は、テレビ中継車のような車両の中で複数のモニターを同時に眺めていた。
天野は、羽来に「レプトン」という餌を与えて、先陣を切らせた。
もちろん、羽来は天野の存在など知らなかったが。
羽来の計画を支援させようと見せかけながら、その計画を頓挫させる為に過剰な火力を使用して混乱を発生させる。
その間に、牧石と磯嶋を倒す。
これが、天野の建てた計画だった。
警察が特に警戒するのは、テロ行為や殺人等の重犯罪行為である。
その、天野の計画もテロ行為に相当するが、天野はあくまでも「羽来の行動を阻害する」ことが目的で、「その結果、周辺施設や住民や牧石がどうなろうとも」関係ないという考えだった。
その結果、警察は天野ではなく羽来に注意が向けられてしまったのだ。
「さて、本命はどうなっているかな?」
天野は、ひとつのモニターを注視した。
午前8時20分 第7区 とある高校の校庭
普段であれば、始業時刻に近づいているため、遅刻しないように慌てて登校する生徒達が走り出している校庭である。
が、今日は急遽学校が休校となったことから、二人の牧石しか存在しなかった。
「さて、あれは君の仲間だったのかな?
メカ牧石君?」
牧石は、もう一人の牧石に対して一つの残骸を指し示す。
そこには、少し前まで「レプトン」と呼称されている黒いロボットが存在していた。
牧石の電撃により、無惨な姿をさらしていた。
もう一人の牧石も、「レプトン」が破壊された瞬間を目撃していたはずであるが、冷静な表情で言い返す。
「やれやれ、僕があれほどアンドロイドであることを宣言しているのに、全く理解できていないとは。
もう一度、ジュニアハイスクールからやり直した方がいいようだね、ロリコン牧石君」
「やれやれ、これだから機械は固い頭をしているのだよ。
僕には、亜浪さんという素敵な女性がタイプなのでね。勘違いしてもらっては、困るよ」
「君の方こそ、勘違いしているようだね。
彼女は、結婚して一人娘がいるよ」
「なんだと、……」
「おや、知らなかったのかい。
その程度で、彼女の事を知った気になるなんて。
彼女の息子さんはね、君と一緒に公園で遊んでいた子どもの一人だよ」
「どうして、それを」
「君のような才能の無い人間が、どのような無駄な努力をするのか興味があってね、調べさせてもらったよ」
もう一人の牧石は牧石に説明する。
「本当は、僕の才能を恐れたのだろう?
だから、必死で尾行したのか。
ロボのくせに必死だね」
「僕を、あそこにいる「がらくた」と、一緒にしないでもらいたいものだ。
それに、子どもがいるくらいで彼女のことをあきらめるとは、やっぱり君はロリコンのようだね」
「……お前は、許さない」
口先での戦いに負けた牧石は、もう一人の牧石に攻撃をしかける。
牧石が破壊した「レプトン」に対して行ったのと同じ攻撃を。
牧石の雷撃は、刹那の時間だった。
「……」
しかし、もう一人の牧石は攻撃を避けることなく、右手を前につきだしていた。
「……まさか!」
牧石は、もう一人の牧石が、「右手で能力を打ち消すのではないか」と、最悪の予想をしたがそんなことはなかった。
だが、牧石が放った電撃の効果が無かったという意味では、変わることがなかった。
「吸収した?
いや、避雷針の原理か」
牧石は、もう一人の牧石の対応を理解した。
「そうだ。
すぐに、わかったことだけは賞賛してあげよう。
だが、それだけだ」
もう一人の牧石は、背中から翼を取り出すと宙に浮かぶ。
「君が僕を倒すのであれば、直接手を下さななければなるまい。
だが、君には空を飛ぶことはできまい」
もう一人の牧石は牧石を見下ろしていた。
「確かにそうだな。
だが、今の僕には力がある」
牧石は、右手の手のひらを地面に向けると、地面が浮き上がる。
牧石は右手を動かして、砂鉄でできた山から小さな玉を生み出す。
「たとえば、
こんなのはどうかな?」
牧石は、小さな玉を浮かべると軽く、空を飛ぶ牧石に投げつける。
その勢いは、余りに弱く、もう一人の牧石に届く前に地面に到着するかと思われた。
「ふん!」
牧石が、右手に力を込めると、玉は急に上昇をはじめ、もう一人の牧石の右手に迫る。
「ふっ」
翼を持つ牧石は素早く回避行動をとったのだが、翼の一部に命中した。
「なるほど、少しはやるようになったか。
ならこれはどうだ?」
空を飛ぶ牧石は、手首から先を落とす。
そして、手首から収束させた光を生み出した。
「今回は両手だ、はじき返してやる」
「できるかな、それが?」
牧石は、複数の玉を同時に作り出し、宙にいる牧石に向けて放つ。
「!」
牧石が放つ玉は、途中から急加速するが、どの時点で加速させるかどの程度加速させるかという事を牧石は自在に操る。
そして、空中で回避や迎撃する牧石の能力を超過していた。
「君はいつまで、空が飛べるかな?」
空を飛ぶ牧石は、回避行動を続けるが、翼が余りに大きいため、次々と損傷箇所が増えてゆく。
「くそっ!」
翼を持っていた牧石は、翼をしまうと、地面に降り立ち素早く行動する。
「残念だな、
僕もその程度なら加速できる!」
牧石は、磁力の力でほんのわずかに宙に浮くと、すさまじい速度で加速する。
それと同時に牧石は、もう一人の牧石に向かって砂鉄で作った壁を周囲で取り囲む。
「そこまで、するか!」
もう一人の牧石は急激に厚くなる壁の前で叫ぶ。
「羽を奪い、壁に閉じこめ動きを封じる。
無力化に適した戦術とは思わなかったかね?
今、ここに先ほどの残骸から奪った武器がある。
だから、敗北を受け入れるのだな」
牧石は、もう一人の牧石に向かって勝利宣言をする。
ちなみに牧石は、透視能力で壁の中にいるもう一人の牧石の状況を完全に把握していた。
「残念だが、負けるにはまだ早い」
壁に囲まれた、もう一人の牧石は、両手首から放つレーザーを収めると、余裕の表情を浮かべる。
「君は、ドリルとか、ワイヤーアンカーに興味があるかい?」
牧石は、もう一人の牧石の言葉に反応して、砂鉄の壁を強化したが、失敗した。
牧石の目の前には、もう一人の牧石がいた。
右手に装着したドリルは、牧石の額に近づけ、左手に装着したワイヤーアンカーは牧石のわき腹に押し当てていた。
「これで、君の敗北だと思うがね?
まあ、翼を折ったことについては、敢闘賞ものだがね」
「……」
牧石は苦悶の表情を浮かべ、敗北を悟った。
「僕の……」
牧石は、自分の負けを認めようとした瞬間。
「なんだと、……」
もう一人の牧石は、吹き飛ばされていた。
「なんだ、あれは……」
牧石の目の前には、機械でできた大きな天使が5体いた。
右手にはそれぞれ、様々な形の杖を持ち、吹き飛ばした牧石を眺めていた。
「僕たちの戦いを邪魔するとは、ゆるさん」
吹き飛ばされたもう一人の牧石は、立ち上がっていたが、様々な部分に損傷を受けていた。
ふつうのロボットであれば、安全性の観点から機能停止をしなければならないと思われるほどに。
だが、もう一人の牧石は自らの行動でそれを否定した。
「牧石!」
「どうした?」
「僕たちの神聖な戦いに部外者が紛れ込んだ。
あいつ等は敵だよな?」
「そうだな」
牧石は、もう一人の牧石の質問に即答する。
「しょうがない。
しばらく休戦だな」
「本当に、しょうがないな」
二人の牧石による、最初で最後の共闘が、幕をあけた。
後書き
次回で、最終話となります。
ページ上へ戻る