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とある誤解の超能力者(マインドシーカー)

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第3話 サイランド




赤茶けた大地。
所々に見かけるまばらに生えた名も知らぬ草。
むき出しになった岩。
北の遙か先にある山脈を除いて、果てしなく広がる地平線。

荒野と呼ぶにふさわしい場所に、二人の人物が立っていた。


青い髪をした青年は、左手に細身の剣であるレイピアを構えながら、目の前の相手を眺めていた。
青年の目の前には、白い法衣を身に纏う小さな少女がいた。

少女は、右手に持つ杖を強く握りしめながら、静かに青年に話しかけた。
「……、フェゾさん。
いえ、氷の奇行師さんですね」
「お嬢さん。
私が氷の貴公子であることをよくご存じですね。
貴女は、私の運命の人ですか?」
青年は、さわやかな笑顔で少女の呼びかけに応じる。

少女は、子供らしさの残るあどけない笑顔を青年に向けて、静かに宣告する。
「全世界が、あなたの死を望んでいます。
我が豊穣の神アーニャも同じように望んでいます」


「なるほどね。
確かに、貴女のように神聖な力でもなければ、死なない限り女神様と会うことはできませんね」
フェゾと呼ばれた男は、少女の挑発に喜びの声で応える。
「神様にまで惚れられるとは、私の美貌と人気は天にも届いているのですね。
ですが、私が死ぬ前に、地上のすべての女性に愛を囁くという、崇高な使命を果たさなければなりません」
フェゾは断言すると、左手に構えていた剣を地面に置いた。

「……。
いまさら、命乞いですか」
少女は、剣を置いたフェゾに軽蔑のまなざしを向ける。
「神を愚弄し、私を籠絡しようとする。
それは、許されることではありません」
少女は杖を、フェゾに向けて戦闘の準備を整える。

「お嬢さん。
勘違いしないで欲しい。
私は、女性相手に剣を向けることはしないと誓っているのでね」

「それは、私への侮蔑ですか」
「それも勘違いだよ、お嬢さん。
私が求める理想のために、剣は不要。
直接肌をあわせなければいけないのです」

フェゾが少女に近づくにつれて、フェゾの目に輝きが増していく。
少女はフェゾの瞳に恐怖を覚え、頼るべき神の名を呼ぶ代わりに、
「来ないで!」
と叫びながら後ずさる。


ここで、どこからかはわからないが、戦闘開始のかけ声が二人に向けられた。

フェゾは、ゆっくりと歩みながら少女に近づく。
しかし、その足取りは重く、動きもぎこちなさにあふれており、周囲から見れば酔っぱらいの動きと見るかもしれない。

一方、白い法衣を纏った少女は、後ずさりを止め、フェゾの緩慢な動きを視界の端に収めながら、静かに祈りを捧げる。

「……我が祈り、天に届け(ガールズプレイ)!」

少女の祈りが天に届いたのか、二人の頭上に突如白い雲が出現し、銀色に輝く何かが二人に迫る。
その輝くものが細長い銀の槍であると、フェゾが知ったのは、自らの背中に槍が突き刺さってからであった。

「……」
フェゾは、致命的な一撃により、体を支えることができなくなり、地面にうつ伏せに倒れる。


「言い残す言葉はありますか?」
「大地とではなく、貴女と口づけを交わしたかった……」
フェゾは動かなくなった。



一台のモニターに、
「レーシャ WIN!!」
という文字と、片膝を付き、手を額にあてながら、神に祈りを捧げる白い法衣を身に纏った少女の姿が映し出される。

その後に表示される、
「GAME OVER」
の表示にあわせて、牧石は意識を取り戻す。


意識を取り戻した牧石は、装着したフルフェイスヘルメットに似た形状の装置を取り外す。

サイキックシティの先端技術により、脳波に直接データを送り込むことで仮想現実を提供する装置、通称「ヘルメット」を取り外すことで、現実世界へと意識が戻される。
牧石は、座っていたシートから立ち上がり、個室のトイレより大きい装置の外に出ると、周囲を見渡す。

「お疲れさま。
どうでしたか?」
赤いショートヘアの女の子が、牧石に近づいて話しかけてきた。
胸元に「インストラクター ミナコ」とかかれた名札を身につけた女性は、初めて入店した牧石に親切丁寧に説明してくれていた。

「ちょっと難しいよ、これ」
牧石が少し不満そうに言うと、
「フェゾ様は難易度が高いキャラクターだから、操作は難しいよ。
最初に遊ぶなら、主人公の黒霧零司(くろむ れいじ)がいいと思うよ?」
ミナコは、牧石に解説してくれた。

牧石はミナコの解説を聞きながら、この店に入店した理由を思い出していた。



牧石は、研究所での訓練ができなくなったことにより、どうやってサイレベルを上昇させるべきか悩んでいた。

従来であれば、自室のコンピューターでの訓練も可能ではあったが、磯嶋の手によるのか、自室のコンピューターの機能が制限され、現在では瞑想等の基本的なトレーニングしか使用できなかった。

それならばと、目黒に相談したところ、サイランドと呼ばれる店を教えてくれた。

牧石は、目黒が送ってきたメールの内容を頼りに、店を訪れた。
「ゲーセンか?」
牧石はアミューズメントパークと呼んでも違和感のない小ぎれいな商業施設に対して、親しみをこめながらつぶやくと、サイパークと記載された看板の下にある扉を通過する。


「いらっしゃいませ、サイランドにようこそ!」
牧石が、サイランドの中央にある受付に行くと、赤いショートヘアの髪型の店員が元気な声で話しかけてきた。
「牧石だが、この施設について教えて欲しい

牧石は、身分証明書に自分のサイレベルとサイポイントを表示させてから、店員に手渡す。

店員は、牧石のカードに記載された内容を確認すると、
「牧石さんですね、はじめまして。
サイランドでインストラクターをしているミナコよ。
よろしくね」
とあいさつし、カードを返却する。
「よろしく」
牧石は、カードを受け取りながら、返事を返す。

「では、牧石さんはレベル3だから、超能力を用いたゲームに参加することができます。
これからあなたに、詳しく説明をするから、しっかり聞いてね!」
牧石がうなづくのを確認して、ミナコは話を始めた。

「サイランドでは、超能力を使用したゲームで楽しく超能力を鍛えることができます」
「すごいな」
「とはいっても、レベルが低いと逆に鍛錬の障がいとなるので、レベル3以上ないと遊べないよ」
「なぜ?」
「説明すると長くなるけど……」
と、言いながらもミナコは話をしてくれた。

ミナコの説明によると、超能力の能力育成プログラムについて、サイキックシティ内にある様々な研究機関が取り組んでいた。

その中に、脳波に信号を送ることで、五感を刺激して、仮想現実を提供する装置を制作していた会社が、超能力育成の応用として開発したシステムがある。

このシステム「次世代型総合的神経系具現化システム」は、現実の世界に比べて、超能力の発動を容易に行えるようにシステムが補助することで、能力使用時のイメージを具体化させることが可能となった。

そのシステムは、これまで用いられていたほかの育成プログラムに比べて、圧倒的な学習向上効果が現れた。

しかしながら、試験使用の段階で大きな問題が発覚した。

現実に即した演出により、自分の力に過信した被験者たちが、制御能力が失われた状態で超能力を発動させてしまった。
少し前の牧石みたいに、常時透視能力を発動したり、テレポートを誤って、石の中に出現させたりということが発生したのだ。

結局、いろいろな対策を施したが、レベル3以上しか使えないという制限が今でも残っているということだった。

「わかった。
とりあえず、今使用できるものがありますか?」
「ええ、「超能力者が魔法世界に召喚されたようです」はどうですか?」
ミナコは、施設内に張られているポスターの一つを指し示す。
「このゲームは、超能力を駆使することで思いのまま魔法や超能力が使えますよ!」
「……超能力はいいけど、魔法は?」
「能力開発センター監修のもと、適切な超能力を使用することで魔法が行使できるようになっているの。
試してみる?」
牧石はうなずいた。


牧石が想像していたのとは異なるが、「これも魔術と超能力が交差した」ことになるのかと思っていた。


牧石は、ミナコに案内された一つの大きめの装置の前に案内される。
装置は、人が一人中に入れるようになっており、中には飛行機などに見られる様々な計器が設置されたコックピットが用意されていた。

牧石は、シートに座り、そばに置かれたヘルメットを装着する。
「身分証明書を目の前の挿入口に入れるとゲームが始まるよ。
ちなみに魔法使いは青い少年よ」

牧石は、ミナコの説明に従い、カードを挿入すると、牧石の視界が暗転した。
牧石は少しだけ驚いたが、しばらくすると「ようこそ、「超能力者が魔法世界に転生したようです」の世界へ」
の表示とともに、鮮やかな世界が目の前に広がった。


「すげえ……」
映画の主人公にでもなったかのように繰り広げられるオープニングの映像に感激しながら、牧石は画面に表示された「スタートと言ってください」という言葉に従って、言葉を発した。

牧石の目の前に、様々な衣装の男女が現れ、剣を振ったり、祈りを捧げたりと思い思いの行動をとっている。
「青い男か……」
牧石が、視線を向けた先には、氷の刃を飛ばしている青い髪の青年がいた。
「フェゾ=Y=ホワイト」
という名前を確認して、名前を呼ぶと呼ばれた青年の姿が消え、自分の着ている服が青年と同じ衣装に変化した。

そして、「GAME START」という表示とともに荒野にとばされ、先ほどの僧侶の女の子と戦うことになった。



「それにしても、魔法使いなら、ロクス君なのにどうして、フェゾ様を選んだの?」
「青い男を選べと言われたから……」
牧石は、ミナコからの質問に対して、ミナコのアドバイスを指摘する。

「……ああ、ごめんなさい。
フェゾ様の髪は確かに青いわね。
ただ、フェゾ様は、例外だからね……」
ミナコは、いたずらっぽい表情を見せる。

「わたしが選んで欲しかったのは、この子なの」
ミナコは、ポスターの右側に移っている、青いローズを纏った少年を指さした。
「彼の魔法は、単純だけど使い勝手がいいから初心者でも使いやすいの。
それに比べて、フェゾ様は対戦相手の心を超能力で読むくらいしないと……」

ミナコは牧石に対して、フェゾというキャラクターがどれだけ難しいのか、丁寧に説明し「でも、フェゾ様のストーリーは熱いから、本当はクリアして欲しいのだけどね」
という言葉で締めくくった。 
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