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とある誤解の超能力者(マインドシーカー)

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第3話 勧誘




牧石は、放課後の教室でクラスの委員長である樫倉と、ふたりきりで話をしていた。

牧石は、樫倉の言葉を聞きながら、今日の昼食時に食堂で繰り広げられた会話を思い出さずにはいられなかった。



「福西、昨日はありがとう」
牧石は昼食を食べながら、福西に礼を言った。

牧石は、福西のおかげで磯嶋の陰謀を白日の下にさらすことができた。
おかげで、磯嶋のことを「姉さん」と呼ばなくて済む。
牧石にとって、「姉さん」と呼ぶ相手は一人で十分だった。

「何を言っている。
俺は当たり前の事をしたまでだ」
「なあに、暁くん。
当たり前の事って?」
福西の隣で話を聞いていた迫川が質問する。
牧石は、迫川に一から説明するのは面倒だと考えていると、福西が代わりに説明してくれた。

「真菜が一番と言うことだ」
牧石がどうやって説明しようか考えていた事とは別の説明を、福西がしてくれた。
「うん。
当たり前のことだね」
迫川が普段と変わらない表情で頷いた。

牧石は説明の手間が省けたことを少しだけ喜んだが、他の感情が邪魔をして、どうしても福西に感謝の気持ちを伝えることができなかった。

「牧石も、いい加減に慣れたらどうだ?」
牧石の隣でバナナ牛乳を飲んでいた目黒が話しかけてきた。
「そうだぞ、啓也くん。
私たちや、目黒くんにだけ話していると、他のクラスメイトと仲良くなれないぞ」
迫川が、かわいらしく言いながら、右手の人差し指を牧石の鼻の頭に押し当てる。

牧石はいつもと違う迫川の攻撃におもわずのけぞると、今度は目黒から言葉での攻撃を与える。
「大丈夫だ。
牧石は、今日の放課後にうちの委員長と話をするそうだ」
話し終わった目黒は、フルーツ牛乳を飲み始めた。

「そうなのだ。
啓也くん、おめでとう!」
迫川は、牧石の鼻をつついていた指を一端引っ込めて、今度は両手を使って牧石の両手を押さえると、おもいっきり上下に動かした。

「そんなものではないよ!」
牧石は、あわてて否定するが今度は福西が会話に割り込んできた。
「牧石。
素直に喜んだらどうだ。
人は一人では生きられない。
お互い支えあいながら生きている」
福西にしては珍しくまじめな話をしている。

「たとえ、君に声をかけてきた理由が、誰もなり手のいない委員会委員の参加要請だったとしてもだ」
「……」
牧石は、福西から事実を突きつけられただけなのに、非常にむなしくなった。

「暁よ、委員長は優しいぞ」
目黒は、福西の言葉に対して、飲んでいたコーヒー牛乳を机において反論する。
「……そうか、そうだな」
福西は、目黒の言葉に妙に納得しそれ以降何も言わなかった。



「目黒は、いったい何本牛乳を飲めば気が済むのだ?」
「えっ!何か言った?」
「……いや、なんでもない」
樫倉は牧石の独り言に過敏に反応したようだったが、牧石の言葉に納得した。

「ちなみに、滝山さんは図書委員よ」
「滝山さん?」
牧石は、尋ね返した。
「昨日1ーGに転入してきた、お嬢様よ」
牧石は樫倉の言葉で、転入生の姿を思い浮かべようとして、断念した。

「まだ会ったことがないな」
牧石は、教室でクラスメイト同士が交わしていた会話を思い出す。
「年齢よりも幼く見える」
「金髪で、前髪を長めにフェイスラインを包み込むようにしてあるのと、胸の前まで伸ばしたエアウェーブにより、ちょっとした大人の印象が魅力的」
「隠れ巨乳」
「普段は穏やかな微笑をたたえているが、授業に集中している顔は凛として美しい」
「言葉使いは、少し関西のイントネーションが入っているが、丁寧な言葉遣い」
「関西のイントネーションが入っているのは、実家が神戸の商家だから」
「この学校に編入した理由は、婿をさがすため」
「身長は162cm程度」
「趣味は、フルート演奏。
かつて、全国コンクールで準優勝し海外留学の話もあった」
という話だけでは牧石は、滝山さんのイメージが想像できなかった。
「牧石君?」
樫倉は、考えごとをしている牧石に声をかける。

牧石は、樫倉の呼びかけに気がつかないのか、
「ウクライナ人の母親に顔は似ている」
「滝山さんのクラスメイトたちは、他のクラスメイトの毒牙から滝山さんを守るために、有志で「滝山親衛隊」を結成した」
「滝山親衛隊は、有志と言いながらクラスメイト全員が入隊した」
「滝山親衛隊の結成により、他のクラスメイトからの侵略を防いだが、滝山さんの情報提供のあり方を巡って、穏健派と保守派が対立。
穏健派の一部が、親衛隊から離脱し「さわやか見守り隊」を結成した」
「混乱した事態を収拾するため、1ーGの委員長が両派の幹部たちを集めて三者会談を開催する」
「右目のそばにあるほくろがキュート」
という、クラスメイトの話を思い出しても、
いっこうに滝山さんの事で、派閥争いするこの学校は大丈夫なのかと、真剣に悩んでいた。

「何を、悩んでいるの?」
委員長は、牧石の真剣な姿に押されて、小さな声しか出なかった。

一方牧石は、
「三者会談の最中に、日頃陰の薄い副委員長が滝山さんに委員会加入の相談を持ちかけて図書委員に加入させた」
「このことにより、三者会談は急遽中断。一方で、副委員長は、クラスの図書委員を中心に、両派の不満分子を集めて「図書委員派」を設立。混乱に拍車がかかる」
「一時的に対図書委員派で統一戦線を結ぶことにした、滝山親衛隊とさわやか見守り隊の行動により、他の図書委員と生徒会という外部からの介入を許すことになる」
「三者会談を主導した委員長は、責任を取り辞任。
後任は、委員長の推薦と、副委員長の委員長昇格を恐れた滝山親衛隊とさわやか見守り隊により統一候補根岸を擁立し、激しい選挙戦の結果、根岸が副委員長を僅差で破り初当選した」
「選挙結果に不満を持った副委員長は、選挙の無効と、選挙管理委員会立ち会いによる再選挙の実施を要求。
この行動により、生徒会のみならず選挙管理委員会介入の口実を与える」
「ここで、滝山さんが下校する」
「副委員長があらかじめ仕掛けた埋伏の計により、滝山親衛隊の半数と、さわやか見守り隊の一部が滝山さんと一緒に下校」
「滝山さんの、好きな食べ物が鍋物と判明。第1次鍋物ブームの到来」

牧石は副委員長の暗躍に心を痛めるとともに、第1次鍋物ブームということは、第2次があるのか?と、どうでもいいことを考えていた。


「牧石君、そろそろいいかしら?」
「すいません」
牧石は、樫倉の言葉に気がついて、思い出すことを中断した。

これから、根岸による独裁政権と、副委員長の追放劇。元委員長の鮮やかなクーデター。教師の介入による、副委員長の新たな復活。第1次エビめしブーム等、「1ーG戦国時代絵巻」はまだまだ序盤の展開ではあるが、牧石には興味の対象ではなかった。

「図書委員は争いごとに巻き込まれそうなので、遠慮します」
つい先ほど、福西から「第2次鍋物ブーム到来!」というタイトルのメールが送られたことから、1ーGの戦いは未だに混沌としているのだろう。
久しぶりにカレー鍋が食べたくなった。
だが、一人暮らしで鍋を食べるのは敷居が高い。

「そうね、賢明な選択ね」
樫倉は、牧石の言葉に感心した様子でうなずいた。
「いろいろ、忙しい身ですから」
牧石は、疲れた表情をみせる。
今のところ、順調にサイレベルが上昇しているが、今後の事はわからない。
ならば、できるだけやっかいごとには巻き込まれたくはない。

「できれば、あまり時間が拘束されないものがありますか?」
「そうですね。
これなんかどうですか?」
樫倉は少し考えたあと、3つの委員会を説明してくれた。

「そうですね。
ところで、参加する委員会を決めるのは、明日でもいいですか?」
牧石はあとで、目黒と相談しようと思った。
目黒ならば、学校内の混乱の中でも適切な助言が得られそうだ。
「ええ、先生には了解をもらっているから大丈夫よ。
本当は、園芸委員をお願いしたかったのだけどね。
あそこは、親切な人が多いから、いろいろと学校の事を覚えてもらうには最適なのだけど。
でも、夏休みに拘束されることが多いのよね」
「そうだね。
夏休みは、集中的にサイレベルをあげたいから」
牧石は、自分が考えている計画を、初めて樫倉に披露した。
研究所でできるだけ多くの訓練を積めば、早く上昇できるのではないか。
そんな期待を胸に抱いていた。

「牧石君。
がんばるのはいいけど、そんなに簡単にサイレベルはあがらないよ」
樫倉は、いたずらっぽく微笑んだ。
いつも、硬い表情を見せる樫倉が柔らかい表情をみせることで、牧石の心は少し動いた。
「そ、そうなの?」
「いくら成長の早い人でも、レベルがあがるのは半年程度かかるわよ。
編入試験の試験の話覚えている?
超能力の実技試験レベル2以上は免除なんてあるけど、普通に外部から来た人は絶対に試験の免除にはならないわ。
そのような編入生は、予備校から学校に推薦状を出すことでそのまま編入できるから、そもそも編入試験を受けないし」

「そうだったのか……。
僕の勉強の苦労はいったい……」
牧石はめまいを覚えた。
「だから、この学校の編入生にサイレベル2の編入生がいるという噂を誰も信じないって、牧石君もしかして?」
樫倉は、話の途中で牧石の顔の変化に気がついて問いただす。
「僕のことらしいね」
牧石は自分のサイレベルが記載されているサイカードを樫倉に見せた。

「そうだったの。
すごいね、牧石君。
私なんか9年もかかって、ようやくレベル2なのに」
樫倉は、牧石の話を聞いて素直に感心していた。

「運が良かっただけだよ。
研究所の人たちや、目黒たちのおかげだよ」
「そうなんだ。
目黒君と親しく話をしていたから、驚いた。」
「目黒は誰でも、気軽に話をしているだろう?」
牧石は思ったことを口にした。
「目黒君はね、気に入った人じゃないとあそこまで打ち解けないんだよ。
これまでは、福西君と迫川さんだけだったけど」
樫倉は少し、寂しそうな表情をした。


「それよりも、牧石君。
牧石君の才能はすごいんだよ。
自分の力を誇っていいんだよ」
「そういってくれると、もう少しがんばれそうだ。
ありがとう樫倉さん。
いろいろと、親切にしてくれて」
「そ、それは私が委員長だから……」
樫倉は急に顔を赤くして、そわそわし始めた。
牧石は、樫倉が顔を赤くした理由を悟ると、「そうだよな」
とつぶやいた。

「どうしたの?
牧石君」
「ああ、わかっていたよ、はじめから」
牧石は深いため息をついた。
樫倉は牧石に対して質問する。
「何がわかったの?」

「樫倉さんの目黒に対する気持ちがね」



牧石、日々強くなる日差しを手で遮りながら、校舎を背にしながら歩いていた。
途中、廊下に置いてあった段ボールにぶつかってしまい、転んだときに当たった膝が少しいたい。
「……。
予想通りとはいえ、さみしいものだ」
牧石は、膝をさすりながら独り言をつぶやいていると、目の前でたたずむ一人の男が話しかけてきた。

「牧石君だね。
君にとって、興味深い話を持ってきた」
牧石は男に視線を向けると、男は自分の額の前で右手首を動かす仕草をしながら、話しかけてきた。 
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