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とある誤解の超能力者(マインドシーカー)

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第4話 贈り物




磯嶋は、福西の顔を見ながら答える。
「そうね、助成金の話をしなかったのは、牧石君の力を試す為でもあるわ」
「試す必要があるのですか?
野田研究員の予知能力を駆使すれば、試験の結果は予知できそうな話でしょう」
福西は、磯嶋に問いただす。

「牧石君の力を試した結果を現実に反映させる必要があるからよ。
東京に会議に出かける必要があるのに、飛行機を使用すれば東京にたどり着けるという知識を得たからと言って、実際に東京にたどり着かなければ意味がないでしょう」
「これを使用した結果で成長した彼の力が必要ということですか」
つまり、本当の目的は牧石を成長させることにあるということか。
福西は納得した。

「そうね、最初は所長の道楽かとおもったけれど、本気だったようね」
「まあおかげで、俺はこうやって稼ぐことができるからね。
ありがたいことです」
福西はここにいない人物に感謝の言葉を告げる。

「実物を見せてもらえるかしら?」
「ええ、どうぞ」
福西は、鞄から小さな包みを取り出すと、磯嶋に見せる。

「なかなか、おもしろい志向ね」
「お褒めいただき幸いです」
「私が褒めても意味がないでしょう?」
「いえいえ、磯嶋先生にもご愛用いただけたら」
「結婚してもいない私にあげるなんて、嫌がらせかしら?」
磯嶋は、眉をひそめる。

「備えあれば憂いなしとも言います」
「有効期間は3ヶ月と聞いているわよ?」
「気の持ちようでしょう」
「遠慮します」
磯嶋は、福西に返した。
「それは残念」
福西は、研究室を後にした。



「と、言うわけでプレゼントだ」
「ありがとう、目黒」
牧石は、食堂で目黒から茶封筒を受け取った。
牧石は封筒から中身の書類を取り出すと内容を確認する。
「確かに、全教科そろっているな」

「それだけじゃ無いぞ、どうだ!」
目黒は、鞄から白い封筒を取り出した。
「これは?」
「中身を見るが良い」
「どれどれ……」
牧石は、封筒の中の書類に目を通す。
「さっきの内容と違うようだが……」
「そうとも、これは一年前に行われた中間試験の問題と解答例だ」
「すごい!」
牧石は、目黒が気を利かせて1年前の問題を用意してくれたことに驚きを表した。

「牧石、驚くのはまだ早いぞ!」
目黒は、再び鞄から取り出したのは、黒い封筒だった。

牧石は、
「宛先とか書きづらいから、郵送には向かないだろうな」とか「いや、シールを貼れば問題ないか」とか考えながら中身を見た。
「請求書!」
中には、36,000円の請求書が入っていた。

「ああ、すまん。
関係ないものが混ざったようだ。
まあ、払ってくれるなら嬉しいが」
「そこまでは、無理だ」
牧石は、ため息をついて他の書類を見た。
「第1期編入試験問題「数1」だと?」
「ああ、知り合いに頼んで、ちょうど1年前のあの日に編入試験を受けた人から問題集を譲ってもらった」
「ありがとう」
牧石は素直に感謝の言葉を述べた。

「じゃあ、今度は私の番ね!」
迫川が大きめの手提げ袋を重そうにテーブルの上に置いた。

「……。うぁ」
牧石は、その量の多さに唖然とする。
迫川が牧石の為に用意したのは、学校の授業で受けた内容のノートであった。
しかし、1学期の中盤という時期にあってノートの枚数は20冊を越えていた。

「どれどれ、……」
牧石は一番手前にある熊のイラストが表紙のノート「国語1」を広げてみた。
「!」
牧石は、ノートの内容に驚愕した。


「第1話 始まりの日」

校舎のそばに咲く桜の木を背景にしたタイトル。
次のコマは、外から見た教室の風景。
その次のコマは、教壇の中央に立つ少し年配の教師の姿。
牧石が読み進めたノートは、最初の授業を題材にした16ページの読み切りマンガになっていた。

ページの最期には、次回予告と「最近ゲートボールにはまっている、さこたん先生に励ましのお便りを!」と記載されている内容を見て思わずノートを持つ手が震えた。


「さすが迫川、相変わらず構成が上手いな」
ノートを牧石の背後からのぞき込んで眺めていた、目黒から賞賛の声がでた。
「珍しいわね、目黒くんが私のことを褒めるなんて。
でも、おだてても何も出ないから」
「ああ、わかっているさ。そんなことくらい」
目黒はいつもの調子で答えていた。
「……」
牧石は、衝撃で何も言えなかった。


「啓也くん。
これ、私だと思って大事に使ってね……」
迫川は、鋭い目つきが特徴の鋼鉄ウサギがかかれたイラストが表紙のノートを牧石に手渡した。
「……。あ、ああ」
「よかったな、牧石」
目黒が嬉しそうな顔で祝福した。

「牧石」
これまで、じっと話を聞いていた福西が突然立ち上がった。
牧石は、自分と迫川とのやりとりに腹を立てたのかと思った。

福西が続けた言葉は、
「俺には何かくれないのか?」
という言葉だった。

「……」
牧石は、しばらく考えたが福西の言葉の意味が分からなかった。
「……。
なぜ?」
牧石は、あきらめて本人に言葉の意味を確認することにした。

「もらってばかりだと、バランスがくずれるので誰かにあげた方がいいと思ったから」
「どうして、今ここでバランスをとる必要がある?」
牧石は納得できる答えが得られるのか心配しながら質問した。

「うちゅうはバランスのみだ。
そこに深さとしてのリズムがある」
「?」
牧石は顔全体でわからないという表情をした。

「最期の予言か」
「知っているのか、目黒?」

「宇宙の真理を表す言葉らしい。
言葉遊びにも聞こえるが、深遠な意味があると考えられている」
目黒は、黒縁のメガネを右手で上下させながら神妙に答えた。
「ちなみに、なぜ福西が今この場面でその言葉を使用する理由については?」
「福西に直接聞いてくれ」
目黒は視線を福西に向ける。

「……。宇宙の法則が乱れる可能性を指摘した」
目黒と牧石から視線を向けられた福西は、いつもと変わらない調子で答えた。
「代替手段として、受け取ってくれ」
福西は、仕方がないという表情で牧石に小さな紙袋を手渡した。

「……これは?」
「あけてみるといい」
牧石は福西の指摘に従って紙袋を開け、中のものを取り出した。

「お守り?」
「そうだ、これで守ることが出来る」
福西は牧石に説明する。
「確かにお守りは身を守ると言われているが……」
牧石は、超能力と科学が融合するこの都市でお守りという、非科学的なものを目の前に出されたことにも驚いたが、それ以上に気になることがあった。

「なぜ、安産のお守り?」
お守りには「安産祈願」と縫い込まれていた。

「役に立つはずだ」
福西は断言する。
「そ、そうか」
結局、牧石はお守りを受け取ることにした。


「いいなぁ~。
私も、暁くんのお守り欲しかったな」
牧石と福西とのやりとりが終わったところで、迫川がさみしそうにつぶやいた。

牧石は心の中で、
「安産のお守りが欲しい?
確かに僕が持つよりは、良いかもしれない。
でも、迫川さんが欲しいということは、子どもが欲しいのか?
いや、産むことを考えたら既にお腹の中にいる?!
いや、迫川さんはまだ15歳だぞ。
結婚は出来ないし、その年齢での出産は体への影響が……。
いや、そもそもこの世界では結婚できる年齢はどうなっている?
たとえば、10歳から結婚可能な法律が……」
などと、取り留めもないことをかんがえていると。

「何を言っている?
お守りなどより、俺自身の方が役に立つだろう」
と、福西は優しい声で迫川にささやいた。
牧石は、昼間から何を言っているのだこいつは!という表情をした。

「あのお守りの力は、俺の能力で作ったものだ。
効果は3ヶ月も持たないだろう。
だが、俺がお前のそばにいる限り効果が続く。
どちらが良い?」
「もちろん暁くん!」
「ということだ、またな!」
福西は立ち上がり、食堂から出ようとする。
迫川は、福西の後ろをついてゆく。

「ま、まさか……」
牧石は二人の後ろ姿を眺めながら、この後の二人の行動を想像し絶句する。

「じゃあな」
目黒は、お茶を飲み干してから去っていった。
「ああ、牧石よ。
あの二人に限って、お前の考えているようなことは起こらないから」
という、言葉を置き土産にして。


牧石は、目黒が自分の心を読んでいるのではないかと、一瞬考えたが、左右に首を振るとその考えを打ち消した。

「……さて、勉強するか」
牧石は、テーブルに広がっているものをまとめると、席を外した。 
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