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ルサールカ

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第二幕その四


第二幕その四

「あの人の側に」
「もう駄目なんだよ」
 そんなルサールカに言い聞かせる。
「終わったんだ」
「けれど」
「何もかも終わったんだ。だから」
「そんな・・・・・・」
「さあ帰ろう」
 お爺さんは最後に言った。
「もうここにいてはいけないから。あの優しい湖の中に」
「お爺さん・・・・・・」
 二人は水に変わりそのまま霧の様になって姿を消した。後には何も残ってはいなかった。
「精霊でもか」
 王子は二人が消えてしまったのを見て項垂れて呟いた。
「生きていて恋をする」
「王子・・・・・・」
 そんな彼に従者が心配して声をかける。
「知らなかった。人でなくてもそうだとは」
「それは・・・・・・」
 司祭も何も言えない。豊かな学識を持つ彼もそうしたことは知らなかったのだ。とりわけ恋に関しては。彼は何も知りはしなかったのだ。
「私はどうすればいい?」
 彼は問う。
「どうすればいいのだ、これから」
「それは・・・・・・」
 従者も司祭も答えられなかった。王子は項垂れる。彼等は何をしていいのかわからなくなってしまっていた。自分達のしてしまったことに対しても。
 ルサールカは湖に戻った。髪の色も目の色ももう精霊のそれに戻っている。だが。心はそうではなかった。
「ねえルサールカ」
 お爺さんが湖のほとりで悲しそうに俯く彼女に声をかける。
「もう、笑わないのかい?」
「御免なさい」
 ルサールカは悲しい顔でそれに答える。森は夜の帳に覆われておりあの時の白銀の月が見える。しかしルサールカはそれを見ようとはしない。
「もうこの奇麗な湖を見ても美しい森を見ても何も思えないの」
「そうなのかい」
「ええ」
 悲しい顔のまま頷く。
「どうしても」
「やはり。まだ忘れられないんだね」
「・・・・・・・・・」
 その言葉には答えはしない。
「今も。そうなんだね」
「・・・・・・ええ」
 沈んだ声でそれに返す。
「そうかのか、やっぱり」
「どうしても忘れられないの、私」
「姉さん達や妹達が心配しているよ」
「それもわかっているわ」
 彼女はそれにも答える。
「けれど」
「そうなのか」
「あの方のことばかりなの。思うのは」
「けれどね、ルサールカ」
 お爺さんはルサールカを諭す。
「もう一度来たらどうなるかわかっているのかい?」
「どうなるの?」
「あの王子は御前を裏切ったんだ」
 お爺さんはまずこう言った。
「それは・・・・・・」
「精霊達の中で恋の裏切りがどれだけ罪深いことは知っているね」
「知ってるわ」
 ルサールカも精霊である。それを知らないわけはない。
「恋の裏切りは死」
 暗い声で呟く。
「そう、死なんだ。その時はあの王子は死なないといけない」
「どうしても?」
「そう、どうしても」
 お爺さんは言う。
「死ななくてはならない。それが掟なんだから」
「けれどそうなったら」
「同じだって言いたいんだね」
「王子様がいなくなったらそれは」
「けれどどうしようもないんだ」
「どうしようも」
「だから。もう諦めるんだ」
 お爺さんはまた言う。
「あの王子のことは。いいね」
「それは」
 出来ないと言おうとする。言いたかった。けれどそれは。
「わしはあの王子が来ないことを祈ってるんだ」
 おじいさんの言葉に防がれてしまった。
「そうしたらあの王子は死ななければいけない。御前がもっと悲しむことになるだろう?」
「お爺さん・・・・・・」
「悲しみは早くお忘れ。そして新しい恋に生きるんだ、いいね」
「新しい恋なんて・・・・・・」
 考えることも出来はしない。
 
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