とある誤解の超能力者(マインドシーカー)
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第8話 運命の出会い
最初のトレーニング結果が出てから、一週間が経過した。
牧石は、毎日、早朝と夕方の二回測定試験を行い、昼間は瞑想と講義を受けていた。
たまに、地下にあるジムで運動していたが、基本的には、超能力トレーニングが中心の毎日だ。
訓練自体は同じことの繰り返しだったが、牧石はそれほど苦痛には感じていなかった。
この世界に転生する前は、受験勉強の毎日だったのでこれまでの日常から大きな変化があったし、訓練をすればなにかしらの超能力を使用できるということもあって、モチベーションはかなり高かった。
そのかわり、嫌なこともあった。
磯嶋以外の研究者からの視線が、非常に厳しいことである。
磯嶋に理由を聞くと、「コンピュータールームの使用については、牧石君の能力開発が最優先されているから」と教えてもらった。
それを聞いて牧石は納得してしまう。
「とある」の世界で登場したスーパーコンピューターは、予言というレベルの精度で天気予報を行うことができるほど性能が高い。
そのような高性能な機械を、中学校を卒業したばかりの、今のところ何の能力もない少年に対して使用してもいいのか?という疑問は、牧石自身も感じていた。
一方で、早く能力を開発すればいいじゃないかということもあった。
磯嶋から、所長の話として能力が確認できるまでは研究所から出せないと言われたこともある。
磯嶋が済まないと言った表情で話していたが、仕方がないと言った。
牧石は、ここで逆らっても意味がないこと、逆に自分が強制的に人体実験させられる可能性を考えれば、今のところ素直に能力開発を受けた方がいいだろうと考えていた。
そのような状態であった牧石が、一人さびしく食堂にいるということは、ある意味当たり前とも言える。
ちなみに、牧石にとって唯一話し相手になりそうな磯嶋は、自室でデータの解析を行っているようだ。
牧石の能力について彼女は、
「非常に興味深い。
ひょっとしたら、この状態が君の能力と関係している可能性もある。
だが、逆に能力開発ができない人間という可能性もある」
と説明してくれた。
牧石は、転生時に神様から聞いた話をもとにして、後者の説はあり得ないと考えていた。
しかし、自分の能力がどういったものなのか、いまいち理解ができていなかった。
「ここは、空いているかな?」
牧石は、低い男性の声に反応して、思考を中断する。
牧石の視界に入ったのは、研究所ではこれまで見かけたことのない、3人の男女であった。
「……どうぞ」
牧石は、他のテーブルも空いていると思いながらも、拒否する理由が思いつかなかったので、席を勧める。
「ありがとう」
先ほど話しかけてきた、背の高い筋肉質な男がお礼を言うと、牧石の向かい側に座る。
「お邪魔しまーす」
小柄な少女が、元気よくその隣に座る。
「じゃあ、俺はここだな」
黒縁の眼鏡をかけた少年は、牧石の隣にすわった。
「どうして、ここに座ったのだ?」
牧石は、長身の男に質問した。
「立ちっぱなしで食べるほど、器用でもないし、そのような能力も持っていないのでね」
「……」
牧石は、微妙に違うベクトルの回答をする長身の男に「天然さん?」という名の第一印象
を持った。
「せっかくなので、自己紹介をしよう」
長身の男は、牧石の沈黙を無視して、牧石が食べていた「煮魚定食」と同じメニューを目の前に置いて、話を始めた。
「俺の名前は、福西暁だ」
つぎに、牧石の隣にすわっていた眼鏡をかけた少年が「カツカレー(大盛り)」の前にスプーンを置いて、
「目黒修司だ」
最後に、牧石の斜め前にいる、「日替わり定食(ご飯少な目)」の味噌汁の上に箸をおいた少女が、牧石の手を両手でしっかりと握りながら、上目遣いで、
「迫川真菜なの。
よろしくね」
と言ってきた。
「あ、ああ、よろしく。
僕は牧石啓也だ」
「啓也くんか~。
よろしくね」
迫川は牧石の手を握ったまま、軽く腕を上下させながらウインクする。
とたんに、牧石の顔が赤くなった。
「牧石君。
残念なお知らせを、最初に言っておくよ」
牧石の隣にいた目黒が、左肘で牧石につつきながら、説明を始めた。
いつの間にか、眼鏡をはずしていた。
どうやら、カツカレーの熱で眼鏡が曇ったようだ。
「迫川は、暁とつきあっているよ」
「……、そ、そうなのか?」
「事実だ」
福西は黙々と魚をつつきながら答える。
「暁くん。
もうちょっと嬉しそうに答えなさいよ!」
迫川は、福西の答えに不満そうに頬を膨らませる。
それが、牧石にとって非常に魅力的に映ったが、彼女は福西とつきあっている事実を前にしてうなだれるしかなかった。
「……まあ、なんだ、がんばれよ少年」
目黒は、「お前の気持ちはよくわかる」といったなれなれしい顔をしていたが、不思議と嫌悪感はなかった。
むしろ、苦楽を共にした戦友のような印象をもった。
「目黒君。君もか」
「いんや。
暁とは幼稚園の時からの腐れ縁でな。
最初っからこんな感じだったから、地雷は踏まなかったよ」
「何という幸運……」
牧石は、目黒の幸運をうらやんだ。
牧石は、食事をしながら福西と迫川がつきあったきっかけを聞いて、「リア充爆発しろ」と心のなかで3回ほどつぶやいてから、質問する。
「ところで君たちは、どうしてここにいるの?」
「昼食を取るために。
詳細に説明を求めるのであれば、煮魚定食を食べるためだ」
福西は微妙に、牧石の聞きたいことを外して答える。
牧石は福西の天然度のステータスを1段階引き上げた評価にする。
「そうじゃなくて」
「牧石君と一緒だとおもっていたのだが?」
「どういうことだ?」
牧石は真剣に聞き返す。
「午後からも用事があるのに、わざわざ外食をする必要性を感じなかったということだが。
牧石君は違うのかい?」
牧石は、福西の天然度数について最高値にまで評価を引き上げてから、質問の内容を変えてみた。
「午後からの用事とは何かな?」
「超能力の測定さ」
福西は、当たり前の質問をなぜするのかわからないと言った表情をする。
「学生が、この施設を超能力の測定以外の目的で使用できるとは聞いたことがない。
ひょっとして、牧石君はその例外なのかな?」
「いや、そんなことはない。
この施設以外でも測定ができると思ったので……」
牧石は、慎重に言葉を選びながら質問する。
牧石は、自分がいる場所を「「とある」世界の舞台である、学園都市内の研究施設」と考えていた。
ただし、自分がいる時代が原作開始時期と異なっているのではないかと、危惧を抱いていた。
さらに、アニメ化されていない部分がどうなっているのか知らない以上、自分の知識を過信してはいけないとも、牧石は思っていた。
「そうだね。
たしかに測定だけなら学校でもできる。
ただし、この研究所での測定は他にはない特徴がある」
「そうだな」
「そうね」
福西の言葉に、目黒と迫川がうなずいた。
「この研究所は、……」
「自宅に近い」
「食堂のお姉さんがカワイイ」
「食事が安いのよ」
三人の想いは一緒ではなかった。
「……ぷっ!」
牧石は吹き出した。
「貴重な栄養分を吐き出すとは……」
「食堂のお姉さんをバカにしているのか!」
「吹き出すことないでしょう!」
こんなやりとりが、しばらく続いた。
「ごちそうさま」
牧石は、食べ終わると三人に声をかける。
「たのしかったよ」
「そうだな。
よかったら、今度あったときは能力を見せてほしい」
福西の言葉に、牧石は悲しい表情を見せる。
「どうした、秘密にしているのなら、無理に見せなくてもいいぞ」
「いや、まだ自分の能力がわからないのだよ」
「……。
そうか、悪かったな」
福西は素直に謝る。
「いいよ。
いつか、がんばって、能力を発揮するから」
牧石は、明るい表情で応えた。
「牧石、がんばれよ」
再び眼鏡をかけた目黒が、牧石の背中をたたく。
「がんばってね」
迫川が、自分の胸の前で両手をあわせて、祈るような表情をする。
「無理はするなよ。
苦手なメニューがでたら、残すんだ。
吐き出すのはやめた方がいい」
福西は、どこかずれた声援を送った。
牧石は、3人に手を振って別れた。
「どうして、福西がもてるのか」
そんなことを考えながら。
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「どうして、福西がもてるのだ。
天然にもほどがあるのに……。
いかん、いかん。
今は、目の前の扉に集中……ん?」
牧石の目の前にあった扉がいつの間にか開いていた。
視線の先には通路がはっきりと見える。
「どうやら、集中しない方が超能力を発揮できるようだ。
ようやく僕の能力が開花したのだ!」
牧石が喜びを爆発させていると、通路の途中にある、右側の廊下から、野球のユニフォームの上に白衣をまとった女性が現れた。
「牧石君。
残念ながら、それは君の早とちりよ」
「磯嶋さん。
どういうことですか?」
「君が来るのが遅いから、外側からサイロックを開けさせてもらったよ」
「……そうですか」
牧石はうなだれた。
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