ルサールカ
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第二幕その二
第二幕その二
「話はいつもあの娘のことばかり」
「はい」
従者はそれに応える。
「だが彼女は一言も話さない。これはどういうことなのだ」
「お医者様のお話では」
「ああ、どうなのだ」
彼は従者の言葉に顔を向けさせた。
「お口や喉には何も変わりはないようなのです」
「では話せるのか?」
「お医者様のお言葉では」
「だが彼女は黙ったままだ。これはどういうことなのだ」
「司祭様のお話では人ではないのではと」
「精霊か」
その可能性を疑った。
「まさかとは思いますが」
「ううむ」
王子はそれを聞いて顎に手を当てて考えはじめた。
「精霊か」
「どうされますか?」
従者は考えだす主に問うた。
「別れますか?」
「いや」
だが彼はそれを断った。
「どうせこのまま飼い殺しの身分だ」
彼は言った。実は彼はこの国の第十二王子だ。婚姻政策からも漏れてしまっている。本来ならばこのまま朽ちていくだけの立場だったのである。
「そんな私に好きな人が出来たのだ。それがどういうことかわかるだろう?」
「ええ、まあ」
従者は応えた。
「それでは」
「だがな」
それでも王子にとって無視できないことが確かにあった。
「彼女が精霊だったならば」
「御結婚は無理ですか」
「出来る筈もない。確かに縁談すら来ない立場だが」
彼は言う。
「それでも人でない者と結婚するのは出来ないだろう」
「司祭様もそう仰っていました」
「当然だ」
そこまで言って苦い顔を作った。
「人であることを祈るが」
「精霊であったならば」
「その時は残念だが」
「別れるしかないと」
「彼女に直接聞きたいが」
だが彼女は話せない。余計に問題は入り組む。
「どうしたものか」
「では試されては?」
従者はそっと提案をした。
「試すだと!?」
「はい、試してみるのです」
彼はさらに言う。
「彼女が本当に人であるのかどうか。若し人であればそれでよしです」
「どうやってだ」
「まずは彼女を呼んで問うのです」
「話せと」
「そして十字架を見せて」
「怯えたならばか」
「それではっきりします」
精霊は人ではないので十字架を怖れるとされていたのだ。
「これならどうでしょうか」
「そうだな。それで行くか」
「はい」
「では彼女を呼んでくれ。そして司祭も」
「わかりました。それでは」
「場所はここでいい。そこでやろう」
「はい」
こうして話の場も決まった。ルサールカと司祭が呼ばれる。彼女は司祭を見てその白い顔をさらに白くさせていた。それは王子も見ていた。
(まさか)
そんな彼女の顔を見て疑念が高まる。
(精霊なのか。ならば)
別れるしかない。だが。
(それでも)
別れたくはないとも思う。彼はもうルサールカの美貌に心奪われだしていたからである。それに自分も気付いていた。だがそれでも王子という立場が。彼を留まらせていたのだ。
「よく来てくれた」
そうした心の動きを隠してルサールカに顔を向ける。
「実はそなたに聞きたいことがあってここに呼んだのだ」
「・・・・・・・・・」
ルサールカは答えはしなかった。
「そなたは。私のことをどう思っているのだ?」
彼は問う。
「あの湖で出会ってから暫く経つ。だがまだそなたの返事を聞いてはいない。だからだ」
「是非お答え下さい」
従者も言った。
「王子様の御質問に。宜しいですか」
「・・・・・・・・・」
だがやはり返事はなかった。ルサールカは俯くだけであった。
「そなたは一体何者なのだ?」
王子は心配そうな顔で問う。
「一体何処から来たのだ?教えてくれないか」
「・・・・・・・・・」
だがやはり返事はない。沈黙したままだ。
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