IS インフィニット・ストラトス~転生者の想いは復讐とともに…………~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
number-46 infinite stratos and drive ignition
前書き
無限の成層圏。そして、ドライブ・イグニッション。
麗矢は学園を抜け出していた。
束が去ってから、一夏が起きて医務室から出ていくまでいつも通りの『麗矢』を演じ続けた。
命が燃え尽きようとしている麗矢ではなく、いつもの麗矢に。
だが、それはとてもつらかった。
一夏はなかなか医務室から出ていこうとしないし、お見舞いに来た人たちが騒がしいったらありゃしないのだ。
もう、医務室でいこうかな……と思ったほどに。
だから昼前に全員出て行ったときはとてもうれしかった。
一抹の罪悪感を感じながら《アルティメット・バード》を起動させて、太平洋上空まで一気に飛んでいく。
体にかかる圧力も今となっては、心地よくすら感じる。
もうすぐ麗矢は五感を失い、意識も失い、最後には肉体も失う。
だから、今感じられていることに喜びを感じて、寂しさもあって、悲しさもあった。
束とは別れを交わした。
流石にIS開発者の目は誤魔化せなかった様だ。
こんな先の無い人を好きになって、生涯この人だけと決めたあいつは苦しんでいくのだろうか。いや、それはない。
あいつは一人で何だって出来てしまうのだから。思い出として心の中に留められているのだろう。
楯無とは……何もしていない。
あいつは人の仕草や声の様子で嘘を何でも見抜いてきた。
束の様子からこの状態に気付いたのだろう。
第三アリーナで戦っているのを観戦しているときの目が、これから死に行く者を尊ぶものだった。
だからこそ、あいつとは話したくなかった。
セシリアとラウラはお見舞いに来てくれた時に話した。
勿論、これから死ぬなんてことは言えない。
最後の会話になるだろうが、いつも通りの、日常会話で終わらせてしまった。
麗矢は最後にシャルロット・デュノアのことを思う。
あいつを死の間際にまで追いやるつもりはなかったんだ。
いや、言い訳になるからやめておこう。
あいつが被害者、俺が容疑者。丁度いいではないか。
…………でも、もし言い訳をするならば、あの攻撃は制御できなかったんだ……こんなところだ。
まあ、今更あいつが死のうが死ぬまいが関係ない。
仇である俺がもう逝くのだから……
思えばルティアとは一番長い付き合いだったな。
これを拾って一週間して束にあったんだ。
戦闘のほとんどをカバーしてくれたんだ、ルティアがいなければ俺はもうこの世にいなかったとさえ思うほどに。
俺には過ぎたもの――――いや、今は人か。
過ぎた人だったよ。
麗矢は思い返していると一面見渡す限りの海原の上に浮いていた。
辺りを見渡しても、何も見えない。陸も島も。
そんなところに浮いていた麗矢は、垂直に飛び始めた。
グングンスピードを上げて空へ空へ登っていく。
……どのくらい上っただろうか?
本来なら気圧の差で体が異常をきたすのに、ISのおかげで異変はない。
ただ、今は何も考えずに空に昇っていくだけ――――
◯
織斑一夏は悩んでいた。
夜神鳥麗矢が死ぬという事実を箒や鈴、セシリアたちに言ってしまってもいいのかと。
麗矢は今日、セシリアたちと話していた。
でも、麗矢はそういった話を一切しなかった。断言できる。
理由として、そんなことを言って大騒ぎされたくなかったことと、単純に悲しませたくなかったということなのだろう。
麗矢が言わなかったのに、俺が言っていいのか、と葛藤する。
一夏は教室で教卓に立っている千冬を見ながら考える。
どうしても言わなくてはならないのかと。
――バシン!!
突如として頭に衝撃が走った。
例のごとく、千冬が持っていた出席簿で一夏の頭を叩いたのだ。
千冬はすぐに武力を振りかざすが、それは間違った時。
普段はスボラで――――
――バシン!!
二回目の衝撃が走った。
やはり千冬に叩かれた。
読唇術でも持っているのだろうかと考えてしまう時がしばしば。
顔に出ているらしいが……一夏にはまだ分からないようだ。
これ以上考え込んでまた叩かれない様に、一夏は考える事を止めた。
――――だが、それは何の解決にもなっていない。
広域サーチに引っかかることを願いつつも気持ちは勉学を取る。
結局、見つけることはできなかったが。
◯
「ここが……」
麗矢はたどり着いたところを見て、声が出なかった。
麗矢が向かっていたところは成層圏と言われるところ。
IS、正式名称《インフィニット・ストラトス》の名前に付けられている無限の成層圏にいるのだ。
前は真っ黒。後ろは海の色である青。
ISがあるからこうして呼吸が出来ているが、なければ死ぬだけ。
麗矢は死ぬ前に一度でもいいから来てみたかったところである。
束がなぜこの名をつけたのか。
それはここへきて分かった。
息をするのを忘れるくらい素晴らしい所だ。
できることならずっとここに漂っていたい。
だが、それも叶わぬ夢。
ブースターによる推進力を亡くした。
重力に逆らう力がなくなった今、ただ重力に従って落ちていくだけ。
しかも麗矢は瞬時加速《イグニッション・ブースト》を行った。
当然スピードは格段と速くなる。
空気を切り裂く音を後ろにおいてきて、目前に海が広がる。
――バシャン
小さい音と共に水しぶきが上がった。
小さく宙に舞った水滴は再び海に戻った。
――――そこから、夜神鳥麗矢の姿を見た者はいない。
深い海の底であいつは静かに逝ったのだ。
専用機も巻き添えにする形であることを後悔しているのかもしれない。
それでも、終わってしまったのだ。
――――命の炎を揺らめかせ、最後まで己のために生きたあの青年は消えたのだ――――
後書き
もうちょっとで簡潔なんだ……!
なのになんで学校があるんだっ!
ページ上へ戻る