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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その16

 
前書き
その15の続き。
サスケ視点。 

 
何か不思議な感触の生温い物を額に感じながら俺は目を覚ました。

そして、目の前に広がる色にぎょっとなる。

血と見間違えた赤い色は、良く見れば血の色とは違って、どこまでも明るく金色が透かし見えた。
見覚えのある色にほっとする。

これは血じゃない。
あのウスラトンカチの髪の色だ。

寝起きのぼんやりした頭で判断して、安堵の息を吐く。

血の色じゃなくて良かった。
いつか俺の目にする物は、その色だけに染まるとしても、今はまだその色を見たくない。
俺はまだ弱っている。
そんな姿を晒したくない。

ぼうっと、朝日に煌めいて朱金に輝く赤い髪を眺めながら、どこからか漂う仄かに甘くて優しい匂いに胸が落ち着いた。

この匂いは知っている。
母さんが使っている洗髪剤の匂いだ。

だが、母さんはもう居ない。

それを思い出した途端、胸に鋭い痛みが走り、その痛みで覚醒し、はっとなった。

待て。
ちょっと、待て!

思わず目を見開いて、目の前に広がる赤い色をしかと目に写す。
こんな色を持つ奴は一人しか知らない。

それに、こいつの事について、俺は何か聞き捨てならない事を聞きはしなかっただろうか。
そして、強くなる為にした取引とはいえ、一緒にいる事に抵抗があり、こいつの事を避けては居なかっただろうか!?

何でそいつがここに居る!!!!

思わずがばり、と身を起こし、俺は絶句した。

そこには。
左向きに横になっていた俺とは逆に、俺の枕元でナルトの奴が身体を丸めて右向きに眠りについていた。

な、何でナルトの奴が俺の枕元で眠ってやがるんだ!!

ナルトの奴がここに居る理由を思うより先に、無防備な姿を見られた不快感が込み上げる。
こいつの気配に気付かなかった自分に腹が立つ。
避けてやっていたのに、関わろうとするウスラトンカチにムカついた。
あの日、こいつが囁いた、耳にこびり付く甘い諫言が蘇り、腹が立った。

こいつが言った事に証拠は無い。
だから、アイツが父さん達を自分の意志で殺した事だって否定できない。
だけど、あの時俺に囁かれたコイツの言葉は、俺の中に根を張って、希望のような物を芽生えさせた。

絶望的な現実なのに。

苛々とむかつきに支配されかけた時、ナルトの奴がころりと仰向けに寝返りを打った。

「ん…」

やけに耳に付く甘ったるい声と、合わせが崩れた寝間着の浴衣から見える肌にぎくりとする。
何故か酷く焦っていく。

コイツについて、俺は信じられないような事を自来也とか言う奴に聞かされた。
その事だけを思い出して強張って行く。

何か酷く追い詰められた気持ちと、焦燥感だけが膨れ上がる。
微妙に俺の物とは違うように感じる肌の白さにどぎまぎする。

こいつは確か女じゃなかったか!?

それだって、証拠の無い戯言に近い事だけど。
じっくりと観察するには気まずくて。
こんな奴に構っている暇なども惜しくて。
そんな事もあって避けても居たのに。

何でコイツはここに居るんだ!
つか、何でコイツがここで寝てやがる!?

混乱した頭は同じ疑問に辿り着く。

「おい、ナルト!!お前ここで何してやがる!!!!」

返答次第では問答無用で殺す。

そういう気持ちで、十分殺気を乗せて怒鳴りつけてやったのが良かったらしい。

ぽわんとした寝起きの顔を晒しながら、ナルトが瞳を開けて身を起こした。
幼い仕草で目を擦るナルトに、どきりとした。
ナルトの動きに肌けていく浴衣の隙間から垣間見える、華奢で、少し丸みを帯びた身体の線にどぎまぎとする。
見えそうで見えない感じが、よりいっそう視線を集めてしまう。
そして俺を目に写した瞬間、酷く嬉しそうにナルトは笑った。

今まで俺が見た事が無いほど無邪気で可愛らしい微笑みに、思わず目が奪われる。
硬直した俺の耳に、酷く緩み、甘えたナルトの声が届いた。

「おはよぉ。さすけぇ」

身体の芯を擽るような甘い疼きが胸に沸いて、気が変になりそうだ。
そんなふうに、初めて感じるばつの悪い気持ちで不快になったときだった。

「あのさぁ、僕、思ったの。さすけ、これから強くなるんだろ?だったらさ、僕ところしあおうよ」

は?
今何てった?

寝起き直後の目覚めきらない舌足らずな声音で呟かれた言葉に俺は耳を疑った。

「きっとさ、ただ手合わせするより役にたつよ。私だってふくしゅうしたいし。ふくしゅうするには、ちゃんところせなくちゃ。とどめさすの平気になんなきゃいけないから。だから、練習するのにちょうど良いと思うの」

ぽやぽやと夢の中をさまよいながら紡いで居るような声と、その声で紡がれていく言葉の数々との相違に、俺は思わず顔をひきつらせた。

コイツは一体何を言ってるんだ?
確かに、アイツを追うのならば、それはいずれ必要になると思う。

が。

何故、今、ここで、俺に言う。

「さすけも強くなりたいでしょ?私もなの。だからね、私には九喇嘛がいるから、私ところしあってたらさすけにゆうりだよ。二人でどっちも選べるくらいに強くなろうよ。イタチさんのおもわくどーりに乗せられるのはしゃくじゃない?強くなっていたちさんをびっくりさせよーよ。僕、ずっとかんがえてたんだけど、それが一番いいとおもうの」

寝ぼけた声でぽやぽやと告げられる言葉に俺の顔が歪んでいく。

何なんだ、コイツは。

「わたしもね、ころしたいの」

とろり、と眠気を訴える瞳で、明確で何かに対する殺意を突き付けられて、俺は硬直した。

「でもね、私、よわむしなの。ころしたいのに、生きてるひとがしぬのは嫌」

割と整っている細い眉が歪み、その下の青い硝子のような瞳が涙に潤む。

「でもきえないの。くるしくって、きもちわるくてだまってられないの。くいちぎってやりたくなるの。だから、強くなるんだ。サスケも一緒に強くなろ?」

痛みと弱さを涙に隠して、殺意と闇に揺れ、儚く笑う青い瞳に、俺は何も言えなくなった。
舌足らずな寝ぼけ声であどけなく告げられたナルトの負の感情は、理解できる物だった。

それに、あの時里がどうこうと言っていた。

里人からコイツがどんな扱いを受けていて。
コイツに関わるようになってから、母さん達が里の奴らからどんな風に言われていたのかも知っている。
それらを繋げてしまえば、コイツがどんな気持ちなのか、嫌でも分かる。

分かるから、コイツの誘いを、振り切れない。

「……忍術使えないお前と修行しても役に立たない」

提案をはねのけようと突きつければ、ムッとした顔でナルトは口を尖らせた。

「立たなくないよ。忍術で殺すだけが人を殺す方法じゃないもん」

さっきよりも明瞭になった口調に、ナルトも覚醒した事が分かる。
それに、さっきよりもしっかりと、俺と視線を合わせてきた。

「それに僕、尾獣持ちだって言っただろ?尾獣の殺気って、イタチさんの殺気より凄いよ?九喇嘛の殺気に慣れてれば、イタチさんの殺気も平気になるんじゃないかな、きっと。サスケ、うちはだし。多分、本気で九喇嘛も殺気ぶつけると思うしさ。僕の中の九喇嘛に会うのは写輪眼の修行にもなるんじゃない?殺気に慣れちゃえば、恐い物なんてなくなるよ?」

初めて目にする不遜な笑みで俺に笑いかけるナルトに、気を飲まれる。
そんな俺に気付く事無く、ナルトは言葉を繋げた。

「僕の敵もさ、写輪眼を持ってるんだよね」
「何だと!?」

その言葉は聞き捨てならなくて、ナルトに詰め寄った。

「というか、九喇嘛の敵が『うちは』なんだよね。木の葉の人柱力に封印されるきっかけ、『うちは』みたいだし。だから、僕に取っても、写輪眼持ってるサスケと修行するのは好都合なんだよ」

真っ直ぐに、瞳術使いの俺の目を見据えてナルトは笑う。

まっすぐ過ぎるその視線に、一体何を言えば良いのか分からなくなる。
そこへナルトは畳み込んで来た。

「ね、サスケ君。僕と一緒に強くなる為に修行しようよ」

その、今まで通りのいつもの口調と呼びかけの誘い言葉に、怖気が走る。
本性らしき一端を知った今、ナルトの普段通りの呼びかけは気色悪い。
だから思わず言っていた。

「サスケでいい」
「……え」

俺の言葉が意外だったのか、ナルトはきょとんと目を丸くした。
そうしていると、ナルトは意外と可愛らしい顔をしていると気がつき、顔に血が登った。
不自然にならないように視線を外す。

「だから!俺の事は呼び捨てでいいって言ってんだ!」

吐き捨てるように要求すると、何故か沈黙が落ちた。
何も言わなくなったナルトが怪訝に思い、視線を移す。
そして絶句した。

ナルトは只でさえ大きめの青い瞳を、これ以上無いくらい見開いて、頬を紅潮させて食い入るように俺を見つめていた。
全身で喜びを露わにしている青い瞳に見つめられ、居心地が悪くて落ち着かなくなっていく。

何だ?
こいつのこの反応は。

「良いの!?」

きらきらと期待に目を輝かせて確認して来たナルトに引きながら、不愉快になりつつ承諾する。

「今更お前に君付けされるとか気持ち悪いんだよ!」

今更コイツに君づけで呼ばれるのは気持ち悪い。
それは間違いない。
そして、それ以外の意味など無い。

はっきりと、そう言ってやったと言うのに。

「うん!分かった!」

非常に嬉しそうに笑う、ナルトの笑顔にどきりとした。

抑えても抑えきれないとでも言いたげに、ナルトは頬を染めて笑み崩れている。
何がそんなに嬉しいのか判らないが、ここまで嬉しそうにされれば、俺だって悪い気はしない。
それに、何だか気恥ずかしくなっていく。
だって、こいつは本当は女な訳だし。

俺の名前を呼び捨てにするだけでこんなに喜ぶなんて、もしかしてこいつ……。

ある予感に俺が胸を高鳴らせた時だった。

「じゃあ、僕、これからサスケの事、呼び捨てにするからね!?」

非常に期待に満ちて、嬉しそうにするナルトが紅潮した顔のまま、俺に詰め寄ってきた。
余りの顔の近さにどぎまぎとする。
そんな俺に、ナルトはとんちんかんな事を言い出した。

「それでそれでさ、サスケも僕を呼び捨てにしてね!?僕の事、呼び捨て以外で呼んだら駄目だからね!?」
「……あ?」

俺はコイツを呼ぶ時、既に呼び捨てで呼んでいる。
なのに何故こんな事を言われなきゃならない。
そう思った俺の背中は、ナルトの浮かれた声が紡いだ言葉に冷えた。

「僕もサスケに僕を呼び捨てで呼ぶの許してあげる!僕を呼び捨てにしていいのはサスケだけだからね!」

ニコニコと無邪気に笑うナルトに、ぞっとする。
ナルトが本気だという事は嫌でも伝わってきて、ナルトの里に対する負の感情の深さを垣間見た気がした。

何故なら、ナルトを呼び捨てにしている奴など掃いて捨てるほどいる。
そいつらにも、コイツは穏やかな笑みを浮かべて親切に対応している。

コイツが親しげに接している奴らだって、その中にはいるのに。

ナルトの言葉からは、そいつらがコイツを呼び捨てにするのを許して居ないように聞こえた。

「何だよそれ」
「んーん。対した事じゃないよ。サスケは特別になったってだけ!だって、他の皆は僕の事勝手に呼んでるだけだしね!」

にこにこと嬉しそうにしているナルトには、どこにも嘘を吐いている気配が無い。
そして深く納得した。

コイツもまた、復讐者であり、俺と同じく憎しみに捕らわれているのだと。
憎しみの対象は俺とは違っていても、腹に溜まるどす黒く冷えた感情で心を凍らせているのだ、と。

理解した途端、くっと俺の口元が自然に笑みの形に歪んでいく。

「何だそれ。火影やイルカもそうかよ」

問い掛ければ、打てば響くように応えてくる。
俺の予想した通りの答えを。

「うん。まあ、そうかな?呼び捨てにされても不快感は感じなくなったけどね。ミコトさんやイタチさんみたいに、僕を呼び捨てにしてもいいかなって思う人達ではあるけど、サスケみたいに許してはないなあ」

けれど、俺をアイツと同格に並べられた時、俺はどす黒い怒りを感じた。

「お前の中で俺とアイツは同じなのかよ!」

俺の怒りの根底を理解仕切った顔で、ナルトは哂う。

「ううん。同じじゃないよ。イタチさんは年上だし、僕と対等だと思ったから呼び捨てを許せるだけ。サスケは僕の友達だから、僕を呼び捨てにする権利があるし、呼び捨てにしていいの!!」

そして、初めて見るくらい全開な満面の笑みで笑い、聞くに堪えないくらい恥ずかしい事を言って来た。

「なっ!?」
「サスケを呼び捨てにしていいって事は、サスケもそうだって事だよね!?」

その言葉に思わず詰まり、確信を込めた期待の眼差しに追い詰められたような気になって、俺は頬を紅潮させて詰め寄るナルトから視線を逸らした。

 
 

 
後書き
サスケ、ナルトの箍を外すの巻き。

めでたく友達認定で、ナルトはサスケに遠慮なく甘えるようになりました。
無 意 識 に。←ここ大事。 
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