戦闘描写練習文──ラインアーク攻防──
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ホワイトグリント撃破(後)
前書き
前回更新から実に10ヶ月。見ている人などいないと思いますがとりあえず後編を作りました。
ストレイドが突きつけた狂気の高出力ハイレーザーライフルから放たれた光の奔流は、ホワイトグリントの左腕を貫通し、その背後にあったOBユニットの一部をもぎとった。
背部のMBが途切れ、ホワイトグリントは道路に墜落する。
『そんなっ!』
ラインアークのオペレーター──フィオナ・イェルネフェルト──の悲痛な声が響き、そのまま糸が切れるようにホワイトグリントのカメラアイから光が消失する。ネクスト反応消失。
『ネクスト、ホワイトグリントの撃破を……』
それを遠くから確認したオペレーターが事実を追認するかのように告げる。だが彼はそれを無邪気には受け入れられていない。
「……違う」
言いようのない勘ではあったが、彼にはホワイトグリントが沈黙したようには思えなかったのだ。
「これは……」
呟き掛けた瞬間、胴体各部からPA整波装置がせり上がり、光の消えたカメラをシャッターが覆う。その意味を確かめる前にストレイドはBBを吹かしていた。
『……っ!』
瞬間的にホワイトグリントのPAが再展開し、即座に反転する。道路の舗装が捲れあがり、衝撃波が3機のネクストを揺さぶる。
──AA
威力は極僅かでしかなかったが、大量に放出されたコジマ粒子はステイシスとストレイドのPAを大幅に減衰させる。何よりも、その閃光はメインカメラの機能を麻痺させるのに十分な輝きを放っていた。
『……再起動だと?』
ステイシスとストレイドは経験と勘に任せてサイドQBで散開。直後二機の居た場所を火線が通過する。
『有り得るのか、こんなネクストが……』
メインカメラが復帰したとき、二機の前には051ANNRを構えた純白のネクストの姿があった。
「……一筋縄では行かないか」
流石はリンクス戦争の英雄と呼ばれたレイヴンだ。あの程度で墜ちて終わるはずはなかった。
『やはり只では死なんか、ホワイトグリント!』
その予感は最強のリンクスたるオッツダルヴァも共有していたもの。彼は即座に戦闘起動を再開させた。その動きに動揺は見られない。或いはそれも想定内だったか。
それとは対照的に首輪付きは動揺を隠せずにいた。
「問題は……どうするか、だな」
墜ちたのすら欺瞞だったとすれば、"彼"の戦い方はまだ明らかにさえなっていないことになる。
『怖じ気付いたか?』
「……恐怖がないというのは嘘になる」
"彼"の放つ気が明らかに違う。荒々しく、研ぎ澄まされた殺気。先程までの機会のような正確さは感じさせないが、むしろその危険性は増したようにさえ彼には思えた。
『ならばそこで見ているがいい』
オッツダルヴァは関心を失ったと言わんばかりに言い放つ。傭兵らしいそうしたドライさが、生え抜きの第四世代リンクスとは違う独特の風格を醸していた。
『貴様が何に怯えたのか』
その言葉を聞いた首輪付きは、皮肉げに呟く。
「その誇りに呑まれるなよ、ランク1」
──目覚めさせたのは唯の鴉じゃないかもしれないのだから
それを実証するかのようにホワイトグリントが掻き消える。
「……っ!」
再起動前の鈍重だった動きが嘘のような超高速機動。予めその事態を想定していた首輪付きも反応しきれない。流石にカメラ性能が追い付かないのであれば追尾しようがなかった。
「速い……」
『貴様……!』
今やホワイトグリントは、戦闘機をも上回る高速で純粋な攪乱を続け、こちらの二機の動きを分断しようとしていた。
……弾を一発も放つことなく。
「なんだ、これは……」
軍事関係者であれば多かれ少なかれ、伝説と呼ばれるリンクスに畏敬の念を抱いている。
だが、その動きを体験した者はその尊敬を簡単に捨ててしまう事が多かったと言われる。
「化け物、なのか……?」
正確には、恐怖という原始の感情に押しつぶされ、他の感情を失うのである。
──あれは人間じゃない
リンクス戦争を生き残ったほんの僅かの人数だが、とある記者の取材に応じることが出来たリンクス、レイヴンが、敵味方関係なく口を揃えて語ったという。
──鬼神、あるいは死神だ
と。
『ストレイド、戦闘再開する』
そして生き残ってその取材に応じることが出来たのは、その恐怖に飲まれなかった一握りの完成された戦士だけだったのである。
『オペレーター、指示を』
彼女は自らの教え子がその完成された戦士であるかどうか、まだ確信が持てていなかった。
ただ一つ言えることは、当初の見込みであった2機のネクストの連携によるスイッチング戦術が明らかに破綻したことだけだった。
本来なら協働して戦うことも滅多にないリンクス同士。ステイシスとの連携は即席の物であっただけに崩壊も早い。接近と後退を繰り返すスイッチング戦術を基礎に据えていたストレイドと、中距離を保ち射撃戦で決着を図るステイシス。元々信頼関係も無く、基礎戦術も相違があった以上、共同して戦うこと自体に無理があったと言えるだろう。
第一の破局はストレイドが後退するステイシスの援護に前進したときに起きた。ホワイトグリントの追撃タイミングを見誤った首輪付きは、OBを止める瞬間をほんの少し間違えたのである。
その隙を見抜いたホワイトグリントはOBを使わずにQBで前進。ストレイドの後背に陣取る。QTで即座にストレイドに向き直ると051ANNRで射撃。
PAの内側から放たれたライフル弾が、閉じようとしているストレイドのOBユニットに直撃。小爆発を起こした。
「ぐっ……」
耐圧ジェルでも誤魔化せない衝撃が首輪付きを揺さぶる。その一撃が背部にあるコックピット昇降口を狙った物であったのは明白だった。
『AP、70%減少』
AIの警告。AMSによって供給される視界がチラツき始める。
「長くは持たない、か」
内部機構にも打撃があったのかジェネレーター出力も低下した。元々出力が低いGN-HECTORにはそれは許容できない損害だった。
『何をしている! おまえも行け!』
その結果ホワイトグリントの動きに追随しきれなくなったストレイドと、余力を残して追撃を掛けたステイシスの距離が離れた。
「……エネルギー切れだ。動けない」
ジェネレーター内部のコンデンサに蓄積された電力がほぼ空となり、ストレイドはQBを吹かすことができなくなったのだ。首輪付きは敢えて地上に留まり、エネルギーの回復に専念する。
いい的になる危険もあったが、ステイシスとの戦いを観察できれば突破口が拓けるかもしれないと考え、静観する構えを見せたのだ。
──それが、ステイシスを見捨てることになっても、だ
ステイシスが作戦領域に指定されていたエリアを飛び出し、ホワイトグリントが追随する。その先で何回か二機が交差した後、オッツダルヴァの驚愕の声が響いた。
『メインブースターが逝かれただと?!』
「……」
確かに連続した高速機動の後だ。QBもOBも吹かす余裕はないだろう。
『狙ったかホワイトグリント! よりによって海上で……クッ、駄目だ。飛べ』
台詞が途中で途切れる。聞くのが無駄だと判断した首輪付きは通信をシャットアウトしていた。
『水没? 馬鹿な、あの程度で……』
協働が見込めなくなったのが判明した時点で、彼にとってステイシスというネクストはいないに等しかったのだ。
「……なるほど」
なにより、LAHIREフレームのOBなら兎も角、メインブースターは狙い撃ち出来るほど的は大きくない。戦線離脱の口実と言ったところだろう。
『単機でやれと言うのか?』
彼にとって、或いはオーメルにとって復活したホワイトグリントを無理に葬る必要が無くなったということだ。首輪付きの思惑とは逆に、この状況では見捨てられたと言えるだろう。
「或いは逃げるか……」
まるでその言葉を待っていたかのように相手方のオペレーターから離脱の勧告が届く。
『退いて下さい』
「ほう……」
このまま勢いに乗って撃破しに掛かってくると思っていた首輪付きは意外の意を込めて感嘆の息を漏らした。
『既に結果は見えています』
"彼女"が口にしたとおり、既に結末は固定されつつあった。基本装備が03-MOTORCOBRAに限られるストレイドがホワイトグリントを倒す手段は無いといっても過言ではない。
更に撃ち合いで消耗戦に持ち込んでも、ストレイドにはそれに耐えるだけの残弾はない。
『……退避しろ』
オペレーターにしてもこの状態で戦闘を続けて撃破できるとは思わなかったようだ。今まで一度も──グレートウォールで雷電にはち合わせたときでさえも──出したことがなかった、無条件での撤退の指示を出す。
「……そうも行かなくなってきたみたいです」
だが、ホワイトグリントとそのオペレーターの意思に関わらず、"ラインアーク"は此処で"企業のリンクス"を仕留める決意を固めていたようだ。
『ノーマル部隊だと? ……ラインアークも必死か』
今まで出てこなかったGA製ノーマルAC部隊が姿を見せつつあった。単機なら火力差を利用した包囲戦で撃破できると見込んだのだ。実際実弾防御がお寒いこの軽量フレームで耐えられるとは考え難い。
「この状態では逃げ切れません」
先程の被弾からストレイドのOBの調子は明らかに悪くなっていた。作戦領域外まで吹かし続けるには不安定すぎる。必ず途中で集中砲火に飲み込まれる。
かと言って、ノーマル部隊だけ撃破するのをホワイトグリントが許すかと言えばそれも否だろう。
「各個撃破で倒すしかないでしょうね」
それならば全て撃破する位しか手はない。ホワイトグリントを撃破し、ノーマル部隊の動揺の隙をついて離脱するのだ。
『最悪白旗でも』
肩の051ANAMをパージ。重量がフレーム設計時の想定値内に戻ったストレイドは速度を跳ね上げる。流石にステイシスのような超音速領域の戦闘は出来ないが、AALIYAHフレームも速度特化型で設計されていた。決して今の新鋭軽量フレームに劣りはしない。
「高速戦闘はランカーだけの特権じゃない」
次の瞬間、ストレイドが連続QBを発動。ステイシスにも劣らぬ速度でホワイトグリントに迫った。
本来のストレイドの機動力は高い。先程までの鈍重な動きが何かの間違いであるかのように俊敏な動作で閃光に迫る。
それは、"彼"が記録で"見せられた"映像と基本的には同じだった。すなわち──
「……読める」
目覚めたばかりで乗機に慣れていなかった"彼"にとって、それは僥倖とも言える事態だった。
普段"彼"を公私とも支えている支えているオペレーターは何故か、一切の指示を出してこない。当然、何故戦うかという理由も、依頼内容も理解できていなかった。
ただ、彼女のために戦わなければならないという事を感じ取っていただけである。そして、"彼"にとってそれ以上の事実は必要なかった。
アナトリアの傭兵に倒せない敵など存在せず、ラストレイヴンとは不敗の称号なのだから。
武器を殆ど持っていない純白のネクストは自らの傷を増やしつつも、ストレイドと呼ばれるネクストの力を徐々に、かつ確実に削いでいた。
03-MOTORCOBRAのマガジンを交換。最後の92発が装填される。その直後、ホワイトグリントから放たれた銃弾がPAを貫通し、右肩のPA整波装置に突き刺さった。
『AP、90%減少!』
機体のアラートが鳴り響く。この先はちょっとした被弾でも機能を停止する危険性がある。のんびり飛んでいるわけには行かない。
「……一か八か」
調子の悪いOBを起動し、ホワイトグリントに突撃する。近距離瞬間火力重視の03-MOTORCOBRAを有効に使うには至近距離の張り付き戦をするしかない。その決断を出来ずにずるずると消耗戦を重ねていたが、消耗戦で勝てないというのは既に明白になりつつあった。
「飛び込む!」
AA発動。本来のKP出力と比べてしまえば程遠いものだが、それでも十分な威力は残っている。ホワイトグリントのPAが弾け飛び、ストレイドはその閃光の中に03-MOTORCOBRAを放ちながら飛び込む。ホワイトグリントは引き下がりながらも051ANNRのリロードを済ませていた。
「これで……」
ほぼゼロ距離からHLR71-VEGAを放つ。至近距離から放たれた太い閃光は一直線に伸び、ラインアークの名の基になった橋の基部に直撃。その上に陣取っていたノーマル部隊を海面へと叩き落とした。
「……外したか」
ホワイトグリントはQBで前進し、肩後方のOBユニットでHLR71-VEGAを弾いていた。背部ハードポイントは熱で融解していたが、それ以外に打撃は無い。
GA製の重量級ノーマル部隊の過半が推力を維持できずに沈没したが、それは彼らにとって関係ないことに過ぎなかった。
『……油断したか?』
接触回線。ホワイトグリントのリンクスから通信に思わず息を飲む。それはずっと正体不明だとされていたNo.9"Unknown"が初めて口にした言葉だった。
『同じ手は二度は喰らわない』
それでも、この展開までは彼の予想通り。
「まだ、さ」
ストレイドはエネルギーを失ったHLR71-VEGAをホワイトグリントに叩きつける。大質量を誇る大型の銃器はホワイトグリントの右腕部フレームを僅かに歪ませ、精密射撃という051ANNRの最大の武器を葬った。
『惜しかったな』
だが、ゼロ距離においてその事実は何の意味も持たない。ホワイトグリントは051ANNRを突きつける。
『警告はしました』
"彼"のオペレーターの淡々とした声が響く。それを聞く余裕など首輪付きに残されてはいない。そして同時に、まだ彼の攻撃は終わっていなかった。
「……"リンクス"を嘗めるなよ」
ストレイドは左腕のHLR71-VEGAを投げ捨て、格納領域からEB-O700を引き出す。返す刀でホワイトグリントの頭部を切り飛ばした橙色の閃光は、間違いなく切り札と呼べるものだった。
居合いの概念を取り入れたオーメル製の新鋭レーザーブレード。威力が低い代わりに格納装備が可能なこの小太刀は、確かに暗器として機能した。
『無駄だ、と言った』
だが、制御中枢を失った筈のホワイトグリントは、無造作に引き金を引く。
「何……?」
その動きに支障は全く見受けられない。
『さようなら』
そして次の瞬間、放たれた051ANNRの弾がアリーヤの胸部PA整波装置を貫通。再び集まりつつあったコジマ粒子が拡散し、AALIYAHの傷だらけの装甲と剥き出しになった内部機構を蹂躙する。
『静かに眠れよ。……リンクス』
致命的な損傷を受けた制御システムがその機能を停止させ、視界が急激に色あせていく。
──……ごめんなさい
伝説のオペレーターの告げる冷淡な謝罪の言葉と共にホワイトグリントが離れた直後、首輪付きの意識は透明な暗黒へと落ちていった。
『……馬鹿野郎』
最後に聞こえた言葉が誰のものであったかを理解することもなく。
──ラインアーク侵攻部隊壊滅。
オーメルが誇る最強のリンクスを投入し、新人とは言え恐るべき実績を叩き出していたスーパールーキーを同行させて、なおネクスト1機を葬ることが出来なかったという事実は、世界の勢力図を全面的に塗り替えた。
相次いでリンクスを失ったオーメルグループが空中分解。優秀なリンクスを有していたローゼンタールと、弱小連合と言うべきアルゼブラ、テクノクラート。コジマ技術を核にし、それなりの資本、兵力を残していたオーメル本社へと分裂したのである。
一方ラインアークは旗幟を鮮明にし、GA陣営に組することを発表。GAもまた、統治地域の民主化へのロードマップを発表し、ラインアークへの配慮を滲ませる。
安寧の中にいた揺籠の市民たちは、"世界の敵"が失われ、緩衝材となるべき第三極もまた消滅したことをようやくに理解したのである。
三竦み構造の崩壊はGA、インテリオルの直接的衝突を促し、世界は再び全面戦争への道を歩み始めたかに見えた……。
後書き
以上、新手のタイトル詐欺でした。
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