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真剣恋にチート転生者あらわる!?

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第8話

悠斗side



揚羽様が川神院からの死合いの申し入れを、受諾してから一月が過ぎた。 季節は秋の様相を見せている。
現在俺は電車に乗って川神市に向かっている。
元の世界には、川神市なんて名前の市は存在しなかったからだ。
事前調査と軽い休みを兼ねての事だ。
揚羽様はヒュームさんと小十郎と共に山籠りの修行に行かれた。
俺も修行に参加しようとしたところ、ヒュームさんに「下見をしてこい。死合いの時に万が一揚羽様の身になにかあっても困るからな」と言われたので、今回わざわざ川神市に向かっているのだ。
服装は普段の執事服じゃなくて私服だ。上は黒い長袖のパーカーで龍の刺繍入りと青いTシャツだ。下は、蒼いジーンズを履いている。靴は灰色のスニーカーだ。後は、ドッグタグを何時もの様にしている。
電車のドアに凭れかかかりながら、外を見ると川神市の街並みが目に入ってきた。

(松笠、七浜、川神か。随分と元の世界とは違う様だな。まあ、あまり関係ないか)

そんな事を考えていると、車内アナウンスが聞こえてきた。

「次は川神。川神でございます。下車の際はドアは左側が開きます。お忘れ物の無いように」

電車が駅に到着した。俺は電車を降りてプラットホームから改札口に向かう。乗車券を改札に通して駅の構内に到着した。 周囲をザッと見渡すが、特に何か不思議な物が有るわけでは無いので、改札口の近くに有ったパンフレット置き場から、川神市の地図が載ったパンフレットを1部取りそのまま駅から出る。
駅前のバスターミナルには大量のバスが並んでいた。

(へぇ。パンフレットに書いてあるが、バスターミナルの停留所は87番まであるのか。だからこれだけ広いのか)

休日にも関わらず、沢山の人でごった返すバスターミナル。俺は並んでる人達の横を通り過ぎて、パンフレットに載っている駅前繁華街に向かう。 少しして繁華街に到着した。

(流石に休日だけあって、人が多いな。まあ、あちらこちらから視線を感じるが、敵では無いようだな)

俺は視線を気にせずに繁華街を歩き始める。

「ねえねえ。あの人凄くカッコよくない?」

「うん。凄いイケメンだったね。あんな人に口説かれてみたいな~」

「お!美味そうなイケメン発見!少々味見するか!ジュルリ」

外野が何か言っていたが、俺は特に気にせずにパンフレットを見ながら歩く。目的地は分かった。

「おい!兄ちゃん!」

(なるほど。川神院は随分遠いのだな。まあ、仕方ないか。歩いて行くのも散歩だと思えば楽しいしな)

パンフレットを閉じて尻のポケットに入れる。
顔を上げると正面にロン毛でサングラスを頭に掛け、腕に刺青の入った目付きの悪いイケメンもどきがいた。周囲の人達は俺と正面のイケメンもどきに関わりたくないのか、避ける様にして空間が空いていた。

「おい!兄ちゃん!人の話をシカトするんじゃねえ!」

「なんだお前は?」

「お前の面が気に入ってな。俺に付いて来な」

「断る。貴様のようなチンピラに構っている暇は無いんでな」

正面のイケメンもどきから嫌な気配がする。てか、顔が気に入ったてなんだよ!?真性のホモか!?付いて行ったら絶対にヤバイ。正確には尻がヤバイ気がする。
俺が拒否を示すと、男は握りこぶしを作った。

「なら!実力でだ!」

そう言って右ストレートを放ってくる。俺はそれを左手で受け止めて、抜けないように掴む。

「な?馬鹿な!?」

「喧嘩を売るなら、相手を選んでから売るんだな」

「なに!?かはぁ・・・」

俺に拳を受け止められて驚いているイケメンもどきに、開いてる右腕で腹に拳を打ち込む。男の体がくの時になり、宙に浮いた。手を放してやると量膝を付いて、腹を押さえて顔面からコンクリートの地面にキスをしにいった。

「て・てめえ!か・必ず・・・・して・・る」

それだけ言って、イケメンもどきは気絶した。
青い制服を着た男性が二人此方にやって来た。
所謂警察官だ。彼等に事情を説明してイケメンもどきを連れて行ってもらった。拘留所で1日頭を冷やしてもらえばいいからな。
予定外な事で時間を取られたが、俺は川神院を目指して再び歩みを進める。
多馬川・山梨、東京、神奈川を流れる一級河川だ。夏には花火大会等も行われる川で、1部では蛍も見れるとのこと。近年は外来種による生態系への影響が心肺されている。パンフレットより抜粋
そんな多馬川に掛かる多馬大橋を渡る。パンフレットよると変態橋とも呼ばれている。

(なんで変態なんだ?そんなに、不審者が多いなら外灯の整備とか警察官の巡回を増やせば良いだろうに)

内心でパンフレットに書かれている事に文句を言いながら、橋を渡り更に歩みを進める。暫く歩いていると、土産物屋が沢山ならんでいる商店街に着いた。

「えーと、此処が仲見世通りか」

パンフレットを確認する。この道を真っ直ぐ歩いて行くと川神院があると書かれている。周りを見ると沢山の観光客で溢れている。

(まあ、此処までくれば迷子にはならないか。丁度目の前に茶屋もあるから、一休みするか)

目の前の看板に小笠原と書かれた茶屋があった。暖簾を潜り中に入る。

「いらしゃいませ!何名様ですか?(あ!かなりのイケメンじゃない!)」

「一人だ」

「かしこまりました。此方にどうぞ。(チャンスね!1人なら観光客かも!なら手を出しても問題ないわね)」

店の中に入ると茶髪のスタイルの良いはっぴを着た女性店員が出迎えてくれた。彼女に案内されて席に着く。お品書きに目を通す。

「ご注文がお決まりでしたらどうぞ」

「そうだな。葛餅とお団子と緑茶で」

「はい。かしこまりました。オーダーでーすー」

女性店員が厨房に向かって行き、オーダーを伝えている。そんな彼女を尻目に、俺はパンフレットを確認する。

(ふむ。川神院は魔除けの寺院なのか。参拝位していった方が良いな。俺の厄除けも兼ねて。後は、川神院てのは武道が盛んな寺院でもあるのか。だからこそ、わざわざ揚羽様に死合いを申し込んだりする強者を輩出しているのか)

パンフレットを読んでいると、先程の店員がお茶と葛餅と団子をトレイに乗せてやって来た。

「お待たせしました。葛餅とお団子と緑茶になります」

「ありがとう」

「どうぞ。ごゆっくり」

俺の座っている席のテーブルに葛餅、団子、緑茶が並べられる。俺は葛餅を菓子切りて一口サイズに切ってから口に運ぶ。 葛餅の柔らかい食感ときな粉の程よい甘味が、口の中に広がる。
湯飲みを取って緑茶を飲む。緑茶の苦さが口に広がり、葛餅の甘さを洗い流してくれる。

「ふぅ。美味い。やはり、和菓子は落ち着くな」

「ありがとうございます。作ってる職人さんも喜びます!」

「あれ?君は戻ったんじゃ無いの?」

先程下がって行ったはずの女性店員が俺の座っている席の近くにいた。

「あはは。今は丁度、店が落ち着いてる時間ですからね」

女性店員がそう言って笑う。時計を確認すると、まだ、2時を少し回った所だ。店の中のお客さんは疎らで若い男性は俺だけだった。他のお客さんはご老人と言った年代の方達が多い。

「そうか。でも良いのかい?俺に付いていてさ?」

「大丈夫ですよ。この席は入口に一番近い席ですから。そう言えば、お客さんは観光で入らしたんですか?」

「ああ。まあ、観光がてら来てみたんだ。住んでるのが七浜だから、此方に来るのは初めてなんでね」

寧ろ、川神市まで電車で一駅しか間隔が空いてない事に驚いたよ。葛餅を全て食べ終え、団子を頬張る。みたらし団子の食感と餡の甘さが程よく口に広がりる。緑茶を口にして女性店員を見る。

「じゃあ、この街は初めてなんですか。(ラッキー!もし彼女がいないなら、チャンスね)」

「ああ。初めてだね。川神院に御参りに来るのが目的だからね」

「そうなんですか。なにか、大変な事が有ったんですか?」

「まあ、厄払いをしておいた方が良いと思ってさ。ごちそうさま。葛餅にお団子美味しかったよ。会計頼めるかな」

「あ?はい!此方になります」

席から立ち上がり、レジに移動して会計を済ませる。

「ありがとうございました。また、来てくださいね」

女性店員がニッコリと笑顔を見せる。

「ああ。縁があったらまた来ようかな。ごちそうさま」

俺も女性店員にニッコリと笑顔を返す。何故か、女性店員の顔が赤くなっていた。俺はそのまま和菓子屋を後にするのだった。




悠斗sideout



和菓子屋の店員side




さっきまでいたお客さんは不思議な人だった。
最初はただイケメンが来たから話していたけれど、彼が話す時の横顔がカッコ良く見えてしまった。

(何て言うのか、不思議な雰囲気の人だったな。あの人に見つめられると、なんだか視線をはずせなくなっちゃう。それにあの最後に見せてくれた笑顔。スッゴく素敵だったな)

去り際に見せてくれた笑顔はあまりにも素敵だった。思わず顔が紅くなったが、彼からは見えていないと信じたい。

「千花?まだ、お皿下げて来ないの?」

「あ!はい!今、持ってくよ」

厨房から声がかけられる。私は彼が使ったお皿や湯飲みをかたずけるのだった。




和菓子屋の店員sideout



悠斗side



店を出て気づいたのだが、お茶屋だと思っていたら和菓子屋さんだった。 そのお店を後にした俺は、仲見世通りを歩いて上に向かって歩いて行く。暫く歩いて行くと大きな門が見えてきた。門の正面まで歩みを進める。

(これが、川神院か。パンフレットによると関東三山のひとつらしいな)

近くで改めててみるとでかい。学校の教科書に出てくる羅生門と良くにた形をしている。

(まあ、此処まで来たんだから参拝してかないとな)

俺は門を潜り中を進む。 川神院の中は広大だった。また、武道が盛んな寺院なだけあって、あちこちにいる修行僧達も隙が少ない。

(まあ、揚羽様と比べると弱いな。だが、本命は別にいるようだな)

川神院の中に入ってから感じるのが、戦いに飢えた強い殺気だ。揚羽様と戦う相手は余程の手練れらしい。

「コラ!百代!修行の途中じゃぞ!何処に行く!」

「うるさい!100人組手はもう、終わったんだ!なら私は出かけるよ!」

「待たぬか!お主はまだ、精神的な修行が足りておらん!」

敷地の奥の方から、黒髪ロングヘアーの少女と長い髭とまつげを生やしたご老人が此方に向かって来ながら言い争いをしている。

「うるさい!クソ爺!揚羽さんとの死合いまでまだ、時間があるんだ!少し位は遊ばせろ!」

「百代!ワシの言うことを聞かぬなら、お主の力を暫く封印させてもらう!」

「チッ!つくずくうるさいね。だいたい、精神の修行の何が役にたつんだ!」

(なるほど。彼女が揚羽様の相手か。確かに強いな。だが、所詮は獣か。まあ、俺も変わらないか。あの髭が長い人が、ヒュームさんが言ってた、川神院の総代川神鉄心殿か。挨拶位はしておこうかな)

二人が口論しているのを尻目に、俺は参拝を済ませて事の成り行きを見守るのだった。




悠斗sideout



川神院side



現在川神院では、かつて最強と呼ばれた川神鉄心と現在は武神と呼ばれる孫の川神百代の口論が続いていた。

「だいたい百代!お主は我慢を覚えんか!」

「私は普段から我慢してるさ!だいたい高校生になっても小遣いが少ないのはなんでなんだよ!クソ爺!」

「あ、あのう。鉄心様。参拝客の方々が何事かと見ておられますが」

「渇ぁぁぁぁぁつ!言うことかいて、ワシにクソ爺じゃと!?百代!お主はやはり我慢が足りん!」

「なんだと!ふざけるな!」

修行僧の1人が口論を止めさせようと声をかけるが、川神鉄心の一喝て気を失う。事の成り行きを見ていた一般の参拝客もほぼ全ての人が気を失った。他の修行僧達が駆けつけて、一般の参拝客を安全な場所に運んだりして介抱している。
1人のジャージを着た男性が止めに入る。

「二人とも止めるヨ!普通の人達に被害が出てるネ!」

「ルー師範!黙っていてくれ!これは私と爺の問題だ!」

「ルー。下がるのじゃ。ワシに構うより、一般人の介抱をするのじゃ!」

「な!だけど・・・・」

ルー師範が何かを言おうとするが、次の瞬間彼を含めた3人が強烈な殺気に包まれる。誰1人、言葉を発する事が出来ない。だが、彼等は優れた武道家であったため、即座に迎撃出来る様な体勢をとる。次の瞬間には彼等を襲った殺気は消えていた。彼等は殺気が放たれた方を見てみると、1人の男が立っていた。

「今の殺気はお主はか?」

川神鉄心が強い口調で問いかける。優男に見える男が此方に歩いてくる。 3人がいる場所の少し手前で止まった。

「はい。俺です。川神鉄心殿とお見受けしました」

「いかにも。貴様は何者だ?」

優男から放たれる気の強さが尋常ではないと悟り、警戒を解かない3人。優男から気が消える。

「俺に戦う意思はありません。ただ、武の道を行く者として目指す境地にいる川神鉄心殿に挨拶をしたいと思いまして」

「そうか。お主、名をなんと言う?」

「そうでしたね。名を名乗っていませんでしたね。九鬼家侍従隊所属、不動悠斗と申します。初めまして川神鉄心殿」

優男が頭を下げる。それを見て、3人が構えを解いた。川神鉄心殿が髭を撫でつつ話かける。

「ほう。九鬼家の者だったか。なるぼど。それならば先程の殺気の強さもうなずけるの。となると、ヒューたんの弟子なのじゃな」

「はい。ヒュームさんには普段から稽古をつけてもらっています」

「なあ、爺。ヒューたんって誰の事なんだ?」

川神百代が呆れた表情で両手を組んで質問する。 ルー師範代はいつの間にか居なくなり、他の人達の介抱をしていた。

「うん?九鬼家の武術の指南者じゃ。まあ、ヒューたん、てっちんと呼び会う仲じゃ」

「仲がよすぎるだろ。まあ、いいか。それよりお前、なかなか強そうじゃないか。私と手合わせしないか?」

指をポキポキ鳴らしながら、川神百代が訪ねる。

「俺では貴女の相手にはならないでしょう。大体、揚羽様と死合いの約束をされていますよね?ならば、その時まで自身を鍛えるべきではありませんか?」

「チッ!つまらないな。こんな美人からデートのお誘いなんだぞ?男なら、潔く受けろよな」

つまらなそうな顔をする川神百代。不動悠斗は、彼女の態度を特に気にする様子はない。

「はぁ。ゴホン。では、俺は失礼させていただきます」

「む?帰るのかの?」

「はい。本来俺はあくまで川神院に参拝しに来ただけなので。挨拶はついでなので申し訳ありません」

不動悠斗はそのまま、一礼して川神院を去って行くのだった。




川神院sideout



百代side



九鬼家の侍従を名乗った不動悠斗とか言う、優男が院から去って行った。 私が爺と口論していたら、尋常ない殺気が襲ってきた。久し振りに強者が戦いを挑んで来たと思ったら、ただ参拝に来た普通の客だった。

(爺に挨拶していく辺りが、武道家ならでわか。私より、強いと思ったんだけど気のせいだったか?)

考えてみれば、あの男が放った殺気は尋常ないと感じた。まあ、自分で私の相手にはならないと言った位だから、自分の力量をきちんと理解してるくちなのだろう。

「ふむ。なかなかの好青年じゃったの。しかし、実力がいまいち掴めぬ男じゃな」

「なんだ爺。耄碌したのか?」

「馬鹿モン!誰が耄碌じゃ!ワシはあの不動悠斗の力量が計り知れんと思っただけじゃ!」

「そうか?殺気は良かったが、実力なら私より遥かに下だろ?」

少なくとも揚羽さん程強そうには感じなかった。 爺は髭を撫でながら口を開く。

「いや、今の実力ならモモより下かも知れんが、あやつの潜在能力はお主より上かも知れん。まあ、ヒューたんの弟子になるくらいじゃからな」

「そうか。なら、数年後が楽しみだな。私の相手になるくらい強くなってくれよ」

ニヤリと私は笑う。数年後に会ったら私が楽しめる強者になっていろよ不動悠斗。
それから私は院から抜け出して、弟をからかいに行くのだった。




百代sideout



悠斗side



川神院を去ってから俺は多馬川の土手の芝生の上で寝転んでいる。上着のパーカーに付いてるポケットから、愛用している巻き煙草を取り出して口に加えてジッポーライターで火をつける。 ライターをポケットにしまって、煙草の煙を吐き出す。さっきから頭の中では思考がぐるぐるしている。

(なんであの時、無意識に殺気を放ってしまったんだ?介入するつもりは無かったんだがな)

川神院での出来事は俺自身、予定外な事だった。 巻き煙草を吸う。チリチリと煙草が燃えて灰になる。俺はポケット灰皿に灰を落として煙を吐き出す。だが、煙草を吸っていても気分が紛れない。煙草をポケット灰皿に押し付けて消す。

(俺がまだまだ未熟なだけか。修行なら数千億年したのだが、精神がまだまだ未熟なんだな!)

俺はそのまま、腕を頭の後ろに回す。空を見上げると所々に雲があるが綺麗な青空が広がっている。太陽の陽射しがポカポカして暖かく、眠気を誘ってくる。

(ふぁ。まあ、考えるだけ無駄だな。修行が足りないならすればいいか。少し寝てから帰るか)

俺はそのまま睡魔に誘われて目蓋を閉じる。
そのまま暫く眠る。


(ん?なにか、重いような気がするな?)

暫くして俺が目を覚ますと、既に太陽が沈みかけている。右手を頭のしたから動かして時計を見ると、5時を過ぎた所だった。

(やれやれ。長い昼寝をしてしまったな。帰らなきゃな)

体を起こそうとしたとき、何故か体が重い事に気が付いた。首を動かし頭を上げると、俺の胸に頭を置いて抱き付いて眠っている少女がいた。

「zzzz~」

「お~い。お嬢ちゃん起きてくれないか?」

「zzzz~」

「やれやれ。勘弁してくれよ?」

幸せそうに眠る少女。俺は上半身を起こす。彼女は器用に頭を右腕の下に動かした。
俺は抱き付かれたままなので、彼女の肩を片方掴んで揺らす。

「おい。起きてくれないか?」

「う、う~ん?おはよう」

「おはよう。さて、君は一体誰だい?」

寝惚け眼で俺と向き合う少女。青いロングヘアーの髪が特徴的だ。まあ、後は豊かな母性も特徴的だな。

「私?私は板垣辰子だよ。辰子って呼んでね~」

「そうか。辰子か。俺は不動悠斗。好きなように呼んでくれ。それで辰子、何故俺に抱き付いて寝ていたんだ?」

「う~んとね。今日はポカポカしていたから、お昼寝しようと川原に来たら、先に悠斗が寝てたから。zzzz」

「はい。起きてね」

再び辰子を揺らす。再度夢の世界に飛び立ってもらっても困る。

「は!え~と、何処まで話したっけ?」

「俺が寝てた所だよ」

「それでね、悠斗の側に行ったらなんだか落ち着いたから、そのまま一緒に寝てたの」

経緯は分かった。どうやら、辰子のお昼寝ポイントで俺が先に昼寝をしていたから、彼女は側に寄ってきて昼寝をしたんだな。

「(はあ。まあ、叱る訳にはいかないしな)事情は分かった。まあ、先に昼寝をしていたから仕方ないか。辰子は門限は大丈夫なのか?家族の方は心配してないか?」

「う~ん。天ちゃんが晩御飯を待ってるかな?アミ姉は、仕事だったと思う?竜は出かけてるからいないかな?」

頭に?マークを浮かべ首を傾ける辰子。その仕草が和やかな雰囲気を醸し出している。反面危なかっしい感じもする。

「(やれやれ。両親は余程過保護に育てた様だな。まあ、のほほんとしてるのは辰子の個性だな。まあ、これも何かの縁だから、彼女を自宅に送り届けるか)そうか。なら、自宅まで送ろう。辺りも暗くなってきたしな」

「大丈夫だよ。私はこう見えても姉ちゃんだから」

「そうか。なら、そんな辰子を撫でてやろう」

俺は右手で辰子の頭を撫でてやる。辰子の青い髪はサラサラして触り心地が良かった。

(うん。悠斗の手温かいな。撫でるのも気持ち良いな~)

暫く辰子の頭を撫でてやってから、手を離して俺は立ち上がる。手を離した際に「あ!」と辰子の声が聞こえたが、それを無視して辰子の前に手を出す。

「じゃあ。帰ろうか。もう日は沈んだがな」

「うん。ありがとう」

辰子は差し出された俺の手を握る。俺は辰子の手を引いてやり、立ち上がらせる。

「じゃあな。俺は川神駅に行かなきゃならないからな」

「うん。私も、家が。クシュン!」

辰子が可愛らしいくしゃみをする。いくら日中が暖かいとは言え、日が沈めば流石に寒いものだ。 ましてや、辰子は上半身は半袖のTシャツだ。
俺は自分が着ていたパーカーを脱いで辰子に渡す。

「寒いだろう。やるよ。着な」

「良いの?悠斗は寒く無いの?」

「大丈夫だ。Tシャツが長袖だからな。それよりも、辰子が風邪を引く方が良くないからな」

「ありがとう。じゃあ、着るね」

俺からパーカーを受け取り、袖を通す辰子。
胸元まで確りとファスナーを閉めた。
それから二人で川神駅まで歩いて行った。
道中辰子と話ながらだったが、彼女に姉と妹と弟が入ることを知った。
後は、帰りの電車に乗ってから気づいたのだが、パーカーに巻き煙草とジッポーライターを入れっぱなしにしていたのだった。




悠斗sideout



辰子side



お家に帰った私は、台所で夕飯の仕度をしていた。今日、川原で会った悠斗は優しくて温かい人だった。

「~♪」

「なんだ?辰が随分機嫌が良いじゃねえか?」←弟

「ああ。なんでも、川原で会った男がお気に入りらしいぜ」←妹

「へぇ~。辰子にも春が来たんだね」←姉

家族の皆が何か言っているが、今の私には聞こえていなかった。

(えへへ。悠斗。また、会えると良いな)

初めて見たとき、川原で寝ている彼の寝顔は可愛らしかった。

(一目惚れだよね。悠斗の事を考えると胸がポカポカするもん)

夕飯を作りながら、私は悠斗に撫でられた事を思い出していた。お鍋がグツグツと煮えてきた。

(悠斗に撫でられた時、全く嫌じゃなかったな~。寧ろ、もっと撫でて欲しかったよ~。また、会ったら撫でてもらえるかな?)

「辰姉!夕飯まだ~?」

「腹へったぜ!」

「あんたたち!少しは落ち着いて待てないのかい!?」

私は布巾で鍋を掴んで、テーブルに運ぶ。今日の夕飯は悠斗が食材を買ってくれたから海鮮鍋だ。

「はい。出来たよ。沢山食べてね」

「ヤッホー!私が一番食うぜ!」

「天てめえ!俺が狙ってたホタテ食いやがったな!」

「早いひもん勝ひだよひょ!」

「口に物を入れたまま喋るんじゃない!行儀が悪いよ!」

竜と天が鍋を食べながら、言い争いをする。まあ、何時もの食事風景だ。アミ姉がため息を吐く。

「辰。今日の鍋は随分奮発したね。なにか、臨時収入でも有ったのかい?」

「ううん。悠斗が奢ってくれたの。スーパーで夕飯の買い物するとき、「これも、何かの縁さ。家族が多いなら、食費もかかるだろうから気にするな」て、奢ってくれた」

「へぇ~。まさか、辰は悪い男に騙されてるんじゃないよね?」

「大丈夫だよ。悠斗はそんな人じゃないから」

アミ姉がため息を吐く。それから皆で仲良く鍋を食べるのだった。




辰子sideout 
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