IS インフィニット・ストラトス~転生者の想いは復讐とともに…………~
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number-42 who is girl? and recollection
前書き
少女は誰? ……想起。
この場合は、織斑マドカ。夜神鳥麗矢。
「なっ……!」
踵を返して管制室へ向かおうとした千冬の背中にかけられた言葉。
その言葉に反応して千冬が振り返ると、そこにいたのは見覚えがある――――いや、自分と全く容姿が変わらない少女。
しかもその少女ははっきりと千冬に向かって『お姉ちゃん』と言った。
千冬の瞳は絶え間なく、小刻みに揺れている。
動揺の色を隠しきれていない。
もし、この場に一夏がいたとしたら、あいつはどんな反応をするだろうか。
ほぼ、間違いなく何か勘違いをするだろうことは安易に予測できた。
そして、動揺しているのは千冬だけではない。
この場にいる者。
特に箒と鈴は顕著だ。しかし、意外なことに束は何にも反応しなかった。
その理由としては簡単なことである。
麗矢が束に前もって伝えていたから。
それだけでは何かしらの反応を見せると思うが、麗矢はメールで千冬そっくりの少女の写真を送っていた。
幼き日の千冬を思い出させられて、悶えてしまったのは束だけの秘密である。
「れっ麗矢……その子は……?」
楯無はその場にいる者を代表して麗矢に問いかけられたものだった。
麗矢はスコールと目を合わせ、頷き合う。
少女に関してはスコールの方が麗矢よりも詳しいため、麗矢は彼女に説明を任せたのだ。
楯無は目を合わせるだけで意思疎通ができるあの二人、もっと正確に言えばスコールに嫉妬していた。
思わず、手に力が入る。
「この子は私と麗矢の子供よ」
「おい、真面目に言え」
スコールが冗談めかしに子どもというが、それは麗矢に否定された。
そのやり取りも羨ましく感じてしまう楯無。
ふと、束の方を見ると悲しそうな眼をして俯いていた。
「はいはい……この子は、織斑千冬のクローン。最近作られて出てきたものよ。名前は、織斑マドカ」
これをあの少女――――織斑マドカ――――が聞くと錯乱してしまいそうだが、今は麗矢に背負われて話していたようで聞いていなかったようだ。
楯無は心にチクリと痛みが奔るのを感じている。
麗矢の隣に立っているあの女性が羨ましい。
本来ならその位置には私がいたはずなのに……
束はこの場にいるのが心苦しかった。
なんだか息苦しくなってきた。
だから先に第三アリーナに向かった。
目の前の現実から逃げるように……
「じゃあ、行きましょうか」
スコールは束がアリーナに向かっていくのを見て、いまだにマドカに驚いている千冬たちに対して音頭を取った。
ようやく現実に戻ってきた千冬は咳払いひとつして、再び踵を返して歩いていく。
千冬に続くようにして学園組が歩いていく。
その後ろから麗矢とスコールが歩く。
しかもマドカを背中から降ろして真ん中にし、手を繋いでいる。
麗矢は繋ぐことはなかったが、三人の姿が家族に見える。
楯無は悲しそうに目を伏せる。
◯
第三アリーナ。
ここは麗矢と一夏が初めて戦ったところである。
あの時は一夏はまだ搭乗時間が圧倒的に少なかった。
麗矢の方が技術も経験も何倍も上だった。
あの試合は麗矢の勝ちという形で決着がついた。
だが、それは単一能力《ワンオフ・アビリティー》である《零落白夜》をちゃんと理解していなかったがために起きた一夏の自滅である。
それでも最後はハンデとしてつけていた重りを切り裂いたが。
それは一撃とカウントしてもいいだろう。
それ以来戦っていない。
一夏が次に戦う時は俺が勝つ時と宣言したため、時たま、訓練に協力することはあっても試合として戦わなかった。
あの時からおおよそ5か月――――9月。
長いようで短い時間が過ぎて、また麗矢と一夏は対峙する。
今度は手加減なし、最初から本気で。
二人は地上10メートルのところで向かい合っている。
麗矢は自然体で、一夏はすでに《雪片二型》を展開して構えている。
開始3分前になってようやく武装を展開した麗矢。
左手には《バルフィニカス》が、右手には《スラッシャー》が。
以前の麗矢は《バルフィニカス》の反動を抑えることが出来なかったため、両手で持ち、一々構えてから撃っていた。
だが、今の麗矢は違う。
銃の扱いに慣れ、片手で反動を相殺できるようになった。結果として戦い方に幅が広がった。
「絶対にお前を倒してやるぜ!」
「手加減はしない」
麗矢は自然体であったが、開始の合図からすぐに動けるように、腰を低く落として《バルフィニカス》のトリガーに指をかけた。
それを敏感に察知した《白式》は一夏に警告する。
それを確認した一夏は《雪片二型》を前に構えた。
試合開始まで1分を切った――――
◯
麗矢は自分と一夏をこう表す。
一夏が本物の勇者。そして、自分が偽物の勇者と。
麗矢は直感的に分かっているのかもしれない。
この世界に自分はイレギュラーな存在であることを。――――自分はこの世界の人間ではないことを。
いや、確かにこの世界で生を受けた。前世の記憶を持って。周りと容姿も違って。
麗矢は昔を思い出していた。
もともとはごく普通の子供だった。
前世の記憶を持っていたから、大人びていたが。
面倒なことが嫌いな麗矢は普通を願った。
平穏で代わり映えの無い日々を望んだのだ。
――――今となっては儚いものだった。
人の夢は儚い。まったくその通りだった。
現実はうまくいくことの方が少ない。
だったら長くダラダラと生きていくより、短くてもいいから鮮烈な人生を送りたいと思ったのだ。まあ、平穏を望むことは忘れないが。
そこで出会ったのがISの発明者にして天才、篠ノ之束。
発明者の手によってピーキーな機体になっていた今の《アルティメット・バード》だった。
このISが動くためにはコア人格に認められることと自らの命を差し出すこと。
嬉々として麗矢は乗った。
そして動かせた。
これがISを動かせるようになるまでの経緯だったけと想いながら、《バルフィニカス》と《スラッシャー》を握る手に力を入れた。
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