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DQ4 導かれちゃった者達…(リュカ伝その3)

作者:あちゃ
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第2章:おてんば姫とチャラ王の冒険
  第14話:起きたら考えるって言ったのに、先走ったお前等が悪い

(フレノール)
アリーナSIDE

私達は宿屋のカウンター側にあるラウンジで、食事をしながら昨晩(今朝早くか?)の出来事を語り合っている。
と言っても、一人勝ちした誘拐事件の顛末を聞いているのだが…

誘拐犯達は自分の命が惜しかったので、泣きながら人質(メイ)を解放し命乞いをした。
その途端、墓地周辺に身を潜めていた自警団達が現れて、誘拐犯を確保し連行していったのだ。
どうやらリュカが前もって手を回しておいたらしく、今回の恫喝も全て作戦の範囲内だったという…

サントハイム王女誘拐という大事件を未然に回避し、大罪を犯した者達の逮捕に協力をした事で、リュカの意見が自警団内に通る事となり、メイ達は王家の名を騙った罪に問われず厳重注意だけで釈放された。

「はぁ…こう言う作戦なんだったら、最初から私達にも教えてくれたって良いじゃない! 私はリュカが最低の極悪人なのかと思っちゃったわよ」
宿屋の主人が今回の事件のお礼と言って、無料(ただ)で用意してくれた食事を不味そうに食べるリュカを見て、不満をぶつける。

「何言ってんだよ…『起きたら考える』って言ったのに、先走って洞窟に行っちゃったのはアリーナ達だろ! ご丁寧に偽者達まで連れて行って…帰りを待っていたら受け渡しの時間になっちゃったから、説明も出来なかったんだ! 勝手な行動をしてるのはそっちじゃんか!」
“争いの元だから僕が貰う!”と言って無理矢理手に入れた黄金の腕輪を腕で光らせ、私達を意地悪く指差し説教するリュカ。

「だって…リュカが『僕は正義の味方じゃない』って言うから…酷い事を言う奴だと思っちゃって……」
私は俯き、両手をモジモジさせながら言い訳をしてみる。

「そうだよ…僕は正義の味方じゃないんだ! 赤の他人の為に洞窟にまで入って危険な事をしてやる義理はない。もっと簡単で危険がなく確実な方法を選択するさ」
可愛く誤魔化してみたのだが、リュカには効果がなかった様だ…

「それにしても大胆な作戦じゃったな」
「大胆とは?」
今回の事件(解決編)について、ブライが感想を述べると、不思議そうにリュカが問い返す。

「今回は誰の命も失われることなく、無事解決出来たが…下手したらメイは殺されていたのかもしれないじゃろう?」
「おいおい…爺さんは無駄に長生きをしているのですか? 今回の一連の情報をしっかり把握していれば、最も妥当で確実な作戦を実行したと言い切れるよ、僕は! ブライにならそれが理解出来ると思ってたのに…」

「ほぅ…お前の思惑では、犯人は人質を絶対に殺さないと確信していたのだな?」
それは本当かしら!?
黄金の腕輪を渡されなかったら人質は殺される…これは絶対条件な気がするけど。

「良いかい。誘拐とはビジネスなんだよ! ビジネスという物は、相手の立場になって物事を考えれば、相手が提示する条件の最低ラインが見えてくるんだ」
「相手の考え…お前はどう相手の考え方読み取ったんじゃ?」

「うん。今回の事件…事の発端は、この宿屋の愚かぶりが最たる原因だ!」
その宿屋のラウンジで、リュカは大声で言い切る。
聞いている宿屋の人々は俯きしょぼくれてる。

「本来宿屋という施設は、例えVIPが宿泊していても、その事は口外しないのが正しいあり方だ。だがこの宿屋はどうだ? 瞬く間に町内中に知れ渡った挙げ句、流れ着いた旅の者(我々)にまで、その日の内に情報が入ってきたろ」

「確かに…安全の為、宿屋全体を貸し切り状態にして、秘匿性は0じゃったな…」
「犯人連中にも情報は素早く届いただろう…そして、その事を利用しようと考えたんだ」
辺りを見渡すと、円卓を囲んで会話している私達を、宿屋の人達が囲む様に立ち聞き入っている。

「きっと数週間前から黄金の腕輪を手に入れようと、犯人達は計画を練っていたに違いない。もしかしたら当初は姫ではなく、町長の娘(家族)を攫って腕輪を要求しようと考えたのかもしれない。…だが状況が一転する! サントハイムのお姫様が、こんな田舎町に訪れ宿屋を借り切ったんだ! チャンスに見えたんだろうね…」

「何でそれがチャンスに見えるの?」
お姫様を誘拐するなんて、ハイリスクだと思う。
私は話の先を聞きたかったけども、その事が気になり問いかけてしまう。

「うん。そこが今回、人質を無事救出する事が出来るポイントなんだ! 良い所に気が付くねアリーナは」
褒められた…頭を撫でられた…
嬉しい♡

「黄金の腕輪について少し調べれば分かる事だが、コレはモンスターが多数蔓延る洞窟の奥深くに封印されている…さて、果たしてこんな田舎町の町長の娘を救出する為に、危険を冒して洞窟へ赴く人間が居るだろうか? …居たとしても少数だろうし、黄金の腕輪を持って帰ってくる事が出来る猛者が居るとは限らない。娘を誘拐し、目的のブツは回収出来なかったでは、無駄に罪を犯しているだけだからね…しかし、お姫様の命と引き替えであれば、人々の本気度も違い猛者が大勢現れるだろう」

ここまで言い終えると、リュカは出された紅茶に手を伸ばし一口啜った。
私も先程飲んだが、酷く不味い…
リュカも顔を顰めティーカップを置くと、水を要求する。

「さて…犯人がハイリスクを選択した理由は分かったね。じゃぁ次は犯人側の気持ちになって考えるんだ。ハイリスクを背負っても大丈夫な理由は?」
「つまり逃げ延びる算段があったってこと?」
私が躊躇いがちに聞くと、指を“パチン”と鳴らし褒めてくれる。

「そうなんだよ。どういうルートか分からないが、犯人達は黄金の腕輪を売却し、余所の国へ逃げ延びる算段があったんだと思う。でなければ、今回の様に誘拐を鮮やかに成功させるのはムリだったと思うし、その後の要求提示方法も段取り通りな動きだったと思うんだ! つまり犯人達は緻密な計画の下、今回の犯罪を実行していったんだね」

「し、しかし…それとメイさんの命を無事救出出来るかは、別問題だったのではないでしょうか!? 緻密な計画を練っていたのであれば、人質を殺す事も計画に入れていたと私は思うのですけど!?」
今回、リュカの行動に激しく憤慨していたクリフトが、強めの口調で抗議する。

「おい若いの…まだまだ青いなぁ、お前…」
クリフトはリュカに対して反抗心があるらしく、ムッとした表情で睨み返す。
でも、私も同じ事を考えてたわ。

「考えても見ろ…そこら辺の道具屋に黄金の腕輪が売られていたら? 100%犯人がその道具屋で金に換えたんだと考えるだろう! となると、犯人達の足取りが簡単に分かるんだ。一般市民であれば、それを調べるのに時間はかかるだろうが、今回の相手は国家だ。当初は町の自警団だったかもしれないが、それだって組織力は馬鹿に出来ない。つまり、そこらの道具屋には売る事が出来ないって事だ!」

「なるほど…じゃぁ犯人達は黄金の腕輪をどうするつもりだったの? …まさか家宝にするつもりだったとか?」
リュカは私の疑問を聞くと可笑しそうに笑い、彼の考えを答えてくれた。

「ははは…もしそうだったら、今回の事件は単独行動じゃなきゃ説明が付かない。腕輪が1つしかない以上、仲間には報酬を払わなければ協力しないだろうから…って事は、そこらの道具屋ではない誰かが裏にいて、腕輪と大金を交換してくれる予定になっていた事になるんだ。もしかしたら金以外にも、世界中の何処にでも逃亡出来る手筈を整えていたのかもしれない」
そこまで話すとリュカは水を飲み、聞き入っている私達を見回した。

「ここまで説明すれば判ってきたと思うけど、犯人共には黄金の腕輪が生命線だったんだ。それが手に入らない事には、大金どころか逃げ延びる事も出来なくなる…ましてや計画を変更して、王族を誘拐してしまった以上、逃げ延びる手筈だけは入手しなければならなかったはず…人質を傷つける訳にはいかなかったんだね(笑)」

「そ、そこまでは解りました…ですがリュカさんは、犯人達に向かって『黄金の腕輪は渡さない』と言い切ったじゃないですか! こんな事言えば、パニックに陥り殺してしまうかもしれないじゃないですか!?」

「だから僕は、最後まで彼女が王族であるフリをし続けたんだ! 僕の得意魔法である、風だけのバギを使い、偽のお供を殺した様に見せた…王家のお供を殺したんだ、それがバレたら僕は拙い立場になる。だけどその場に生きている王族は人質だけ…その人質が何も喋らなければ、僕は英雄扱いになるだろう。でも…僕自らが姫様を殺したら、流石の王家も気付き、僕はお尋ね者になっちゃうんだ。誘拐犯達は、掴まっても『姫様に危害を加えるつもりは毛頭なかった! 黄金の腕輪が欲しかっただけなんだ!』と力説すれば、誘拐の罪のみで殺人罪は免れる。だって殺人を犯したのは僕だからね(笑)」

「そうか! あの場でのやり取りで、メイの命を最大限に重要な物にしたのね! 凄い…犯人達は、自分のみを守る為にメイの事を殺せなくなったんだ…」
私だけじゃない…周囲の者皆がリュカの説明に感心し唸っている。

「交渉術だよ…相手にとって重要な物に仕立ててしまえば、それを放棄する事はなくなる。自分たちの思い描いた結末じゃなくても、最もベターな選択をするしかなくなる…そう仕向ける事が必要なんだ。正義感だけを振り翳したって、相手の思う壺に陥っちゃうんだよ」

流石のクリフトもグゥの音も出ない様子。
リュカって凄いなぁ…

アリーナSIDE END



 
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