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吊るし人

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第三章

「そそっかしいところありますよね」
「おっちょこちょいっていうかね」
 部長も少し苦笑いになって言う。
「足元不注意な感じだから」
「フォローですか」
「先輩としてお願い出来るかしら」
「わかりました。それじゃあ」
「いい娘だからね」
 部長は愛生のフォローも言う、勿論ゆかりもわかっている。
「二人で一緒にやってね」
「シングルでレギュラー危ないって思ってたんですけれど」
「あっ、シングルの方はね」
 部長はここでこのことも言う。
「諦めてね」
「そうですか」
「シングルの枠は埋まってるのよ」
 ゆかりの最初の望みはこれで消えた、だがそれでもだった。
「ダブルスはあるからね」
「あの娘とですね」
「二人一緒にね」
「私がリードするんですね」
「そうしてね、先輩としてね」
「わかりました。それにしても」
 ゆかりも愛生を見た、するとだった。
 一生懸命走っているがふと躓きかける、それを見て言うのだった。
「ううん、やっぱりですね」
「おっちょこちょいよね」
「そのことは覚えていますんで」
「あとね。怖がりでもあるからね」
「厳しく怒ったら駄目ですよね」
「気が弱いのよね、おっちょこちょいに加えて」
 愛生の性格にはこうした特性もあるのだ。
「だからこのことも気をつけてね」
「それでやっていきます」
「じゃあダブルスでお願いね。あんたもダブルスはじめてだったわよね」
「だからどうしていいかわからないところはありますけれど」
「それでも頑張ってね」
「はい」 
 そうした話をしてゆかりは愛生とダブルスを組むことになった、挨拶をしてきた彼女は確かに大きい。だがその表情はというと。
 おどおどした感じで如何にも気が弱そうだ、かまぼこを思わせる形の優しい目に黒のショートヘア、口は大きめだ。
 顔立ちは背に似合わず可愛い、だが気弱そうにゆかりにこう言うのだった。
「あの、私」
(これは確かに気が弱いわね)
 ゆかりは部長の言葉を思い出して内心で呟いた。
(確かに。ただやるからには)
 それならばと決心して愛生に返した。
 笑顔を浮かべそのうえでこう言ったのだった。
「宜しくね」
「あっ、はい」
「これから一緒にやっていきましょうね」
「本当にお願いします」
「これから練習は二人一緒よ」
 ゆかりは部長に言われた通りリードに入った。
「それでいくわよ」
「わかりました」
「走ってサーキットトレーニングもしてね」
「基礎練習も一緒ですね」
「勿論よ。ストレッチもね」
 そうした基礎から一緒にすることにした、そうしてその日から早速だった。
 ゆかりは愛生と部活の間はいつも一緒になった、初心者だが背も高く運動神経もいい、だが部長の言う通りだった。
 愛生は気が弱い、しかもおっちょこちょいだった。
 誰かに何か言われるとびくりとなり躓くことが多い、練習中いつもだった。
 他の部活の部員、コートの外をたまたま通りがかった彼等からこんなことを言われた。
「もっと腰落とせよ、さもないと動きがよくないぜ」
「えっ?」
「気にしないで」 
 ゆかりはすぐに動きを止めそうになった愛生に言った。今丁度ダブルスでの練習中だった。
「フォームはそれでいいから」
「そうですか」
「周りの、他の部活の部員の言うことは気にしないで」
 こう言うのだった。
「私の言う通りにすればいいから」
「わかりました、それじゃあ」
「周りの言うことは気にしなくていいのよ」
 我を失いそうになる愛生にこうしたことを言うことが何度もあった、そしてだった。 
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