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吊るし人

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第一章

                吊るし人
 タロットカードの大アルカナには奇妙なカードが多い。
 悪魔に塔、死に運命の輪とどうしてこうしたカードになったのかと少し見ただけでは首を捻る人が多い、その中でも特に。
 吊るし人のカードがある。片足を縛られ逆さに吊るされてる男だ、この男のカードについては様々なことが言われている。
 今江坂ゆかりは首を捻りながら黒い女にそのカードを見せられて微妙な顔になっていた。
 占いで黒いスーツとズボン、赤いネクタイに白いブラウスの長身の美女の前にいた。美女の顔は切れ長の睫毛の長い目に小さな紅の唇、白い細面の顔に。
 長い髪を頭の後ろであげて団子の様にしている、後ろから見ればうなじが見えそうだ。その美女が吊るし人を見せてこう言うのだった。
「いいカードね」
「いいですか?」
「ええ、吊るし人だけれど」 
 それでもだと言う美女だった。
「これは逆さまになってるわね」
「はい」
「つまり立ってるのよ」
 見ればそうなっていた、逆さになっているがそれが逆になっていれば立っていることになる、美女はそれをゆかりに見せて言うもだ。
「これは貴女にとっていいことよ」
「意味がわからないですけれど」
 見れば美女が座っている卓の上には十枚のカードが変わった十字の形にある、ケルト十字という占い方だ。
 その最後のカードに吊るし人が出ていたのだ、その逆が。
 立っているそれを見せて美女は言うのだ。
「貴女は今占いたいことでは危機だったわね」
「はい、実は」
 ゆかりはこくりと頷いて美女に答える。
「部活ですけれど」
「部活は何かしら」
「テニスです」
 テニス部に所属している高校二年生なのだ。
「そうなんです」
「そう、その部活は」
「最近スランプで」
 こう困った顔で言うゆかりだった。
「どうなるのか。どうしていいのか」
「それがわからなくてなのね」
「困ってました」
「それで私のところに来てよね」
「占ってもらいました」
 そうした事情だったのだ。
「それでなんですけれど」
「そうね。おおむねね」
 美女は十字全体を見た、見ると。
「結構順調ね。けれどはっきりとした状況ではないわね」
「はっきりとは、ですか」
「占いの詳しい状況は聞きたいかしら」
「ううん、何か難しそうですね」
 ゆかりは実はタロットのことは詳しくない、美女のところに来たのもよく当たると噂を聞いてのことだ。一応美女の名前は聞いている、松本沙耶香というらしい。
 その沙耶香にこう答えるゆかりだった。
「お聞きしてもわからないと思いますから」
「いいのね」
「はい」
 こう答えた。
「お気持ちは有難いですけれど」
「わかったわ。それじゃあね」
「はい、大体の内容でお願いします」
「トンネルから抜け出る感じだけれどね」
 それでもだと言う沙耶香だった。
「色々としがらみもあるけれど」
「それでもですか」
「ええ、今のトンネルを抜けてね」
 そしてだというのだ。
「未来に出られるわね。ただね」
「ただ」
「このカードをよく見てくれるかしら」
 沙耶香はゆかりにその吊るし人の逆のカードを見せた、見れは確かに立ってはいるがそれでもだった。
 両手が後ろに縛られている、表情は晴れやかではないが暗くもない、見れば見る程不思議なカードである。 
 そのカードを見せられたのだ、そのゆかりの言葉は。
「何ていいますか」
「不思議よね」
「はい、とても」
 ゆかりに対してもこう言う。
「立っていますから明るい筈なのに」
「表情は晴れないわね」
「そうですね。暗くもなく」
「そして両手は縛られてるわね」
「自由なのは片足だけですね」
「この状況についてどう思うかしら」
「そうですね」
 難しい顔になって答えるゆかりだった。 
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