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西域の笛

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第二章

「何があっても」
「強いな、意志が」
 学友もこう言うばかりだった、そしてだった。
「本当に」
「意固地でしょうか」
「それは違うさ」 
 学友はそうではないと答える。
「御前の場合は意志が強いっていうんだよ」
「そちらですか」
「ああ、そこまで強い意志ならな」
 それならだというのだ、
「行け、そうしろよ」
「経典は必ず持って来ますので」
 玄奘は決意していた、そしてだった。
 彼は密かに長安を出て西域に向かった、生きて天竺に迎えるかどうかもわからなければ帰られるかなぞよりわからなかった、しかも。
 皇帝の命に逆らっている、罪である。
 帰って来られても処罰される、だがそれでもだった。
 玄奘は経典を手に入れる為に西に向かった、その彼に。
 共に来た彼を慕う従者達は心配する顔で問うた。
「あの、本当にいいんですか?」
「若し生きて帰られても咎は玄奘様だけが受けられるんですか」
「私共には及ばない様にする」
「そこまでして頂くのは」
「構いません」
 馬上の玄奘は周りに歩く彼等に告げた。
「これは私が決めたことですから」
「しかし私等も決めてご一緒させて頂いてます」
「それなら同じですが」
「それでもですか?」
「玄奘様だけが」
「唐に帰られた時は」 
 罪を受ける、そのことについて問う従者達だった。
 しかし玄奘の言葉は変わらず前を見たまま言った。
「貴方達は何の心配も要らないです」
「ですか、それじゃあ」
「このまま天竺にですね」
「向かいましょう」
 玄奘を慕う彼等は彼のその深い心に感激しながら何処までも彼と共にいようと決めた、一行はただひたすら天竺に向かった。
 しかし砂漠を何日も歩いている間に水が尽きた、しかも。
「駄目です、何処にもありません」
「泉は何処にもありません」
「勿論食べるものもです」
「何処にもないです」
「そうですか」
 玄奘は従者達の話を静かに聞いてから述べた。
「では」
「危ういです」
「もう水はありません」
「まだ砂漠は続く様ですし」
「これでは」 
 誰もが死を覚悟した、だがだった。
 こで玄奘の耳に声が入って来た。その声は。
「笛、ですね」
「はい、笛です」
「胡の笛、違いますね」
「我が国の笛ですね」
「それもかなり古い」
「この笛は」
 玄奘は笛の声を聴きながら言った。
「漢代以前ですね」
「それより前ですか」
「といいますと」
「はい、東周の頃ですね」
 その頃だというのだ。
「かなり古い笛です」
「その頃からの笛ですか」
「まだそんな笛が残っていたのですか」
「この西域には」
「また妙な話ですね」
「これは妙なことですね」
 玄奘は首を捻りながら話す。 
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