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東方守勢録

作者:ユーミー
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第十話

「美鈴手伝って」

「はっ……はい!」


状況が飲み込めない一同をしり目に、咲夜は美鈴に手伝わせながら壁の一部を壊し始めた。


「咲夜。どういうことか説明しなさい」

「もう少しお待ちくださいお嬢様。ちゃんと説明させていただきますので」

「……」


数分後

セメントレンガでできていた地下室の壁には、大きな穴が出来あがっていた。

奥からは微かにひんやりとした風が吹いてきている。俊司たちは一瞬でぬけ道だと理解した。


「妖精メイドがいるころは、万が一に備えて極秘で作らせていました。もちろん、誰もいなくなってからは私一人で行っていました」

「そう……主である私に許可を得ずにね……」

「……申し訳ありません」

「……まあいいわ。これはどこまで続いてるのかしら?」

「霧の湖周辺につながっています。ここからなら誰にも見つかることはありません」

「だいぶ……長いな……」

「命には代えられませんよ。さあ、皆さま急いで」


一同は咲夜に誘導されるがまま、ぞろぞろと抜け穴に入って行いく。

そんな中、レミリアはなぜか浮かない顔をしていた。


(……ほんと……なぜそんなことを考えたがるかしら……咲夜は)

「お嬢様、お忘れ物です」


咲夜はそう言うと、二本の傘をレミリアに渡した。


「一本は妹様のものです。予備はありませんので、大事にお使いください」

「……ありがと」


レミリアは日傘を受け取ると抜け穴の中に入っていく。咲夜はそんな彼女をなぜかさみしそうな顔をしながら見ていた。

咲夜は軽く深呼吸をすると、ポケットからマッチの箱を取り出す。そのまま火をつけようと中からマッチ棒を取り出した瞬間、


「……咲夜」


という主の声が彼女の手を止めた。


「はっ……はい」

「……一つ命令を下すわ」


レミリアはそう言いながら、ゆっくりと彼女の元へ歩みよる。

少し間を開けてから、レミリアは口を開いた。


「咲夜、あなたはここに残りこの穴をふさぎなさい。その後、己の体力が持つまでやつらに抵抗し、時間を稼ぎなさい」

「お……お嬢様……?」

「運命を操れる私が……気付かないと思っていたの?」

「!」


咲夜は図星だったのか、軽く目を見開いて驚いていた。レミリアはやっぱりと言わんばかりに溜息をつくと、話を続けた。


「私の許可も得ず二度も変なことをしようとして、黙っていれるとでも思ったの?」

「申し訳ありま……」

「謝られるのは飽きたわ」

「……」

「私に無断でやろうとしたのが気にくわなかっただけ。あとは思っていた通りにやりなさい」


レミリアはそう言うと、咲夜に背を向けて歩きだす。彼女は何も言い返すことなく、ただ自身の主の背中を見ることしかできなかった。

すると、何を思ったのかレミリアは再び足を止めると、振り向くことなくしゃべり始めた。


「……ってきなさい」

「え……」

「戻ってきなさい……必ず……生きて……。あなたはここのメイド長よ。あなたの代わりなんていない。死ぬことは絶対に許さないから」

「お嬢様……」

「返事は!!」

「はっ……はい!」


一通り言いたいことを言いきったのか、レミリアは咲夜に軽い笑みを見せるとそのまま抜け穴の中を進んでいった。


「必ずや……戻ってまいります……それまで……どうかご無事で」


咲夜はそう呟くと、マッチに火をつけ抜け穴の入口に投げ込んだ。







ドゴオオオオオオォォォン





ものすごい爆発音が抜け穴の中を突き抜けて行った。


「今のは……一体……」

「入口からですね……」

「かまうことないわ。進みなさい」


一同の背後からレミリアが声をかける。


「レミィ……咲夜は?」

「残らせたわ。時間稼ぎをしてもらうためにね」

「お姉さま……どうして?」

「大丈夫フラン。咲夜は戻ってくるわ……私が命令したもの」


レミリアはそう言いながら歩き続ける。

そんな彼女の後姿を見ながら、一同はすべてを把握していた。







「外の世界ならではの作戦はたくさんあるんだ。たとえば……」


一同が出口に向かう中、俊司は歩きながら外の世界の戦い方についてさらに詳しく説明していた。


「ほんとに物知りですね……俊司さん」

「そうでもないさ。単に興味のあったことだからだよ」

「へぇ……なら、私たちがでてる……『東方project』だっけ?それも興味があったのか?」

「まあ最初は友達に薦められただけだったんだけどね。それから見事にはまっちゃって」

「幻想郷で実際に起きた出来事が外の世界ではゲームになってる……なんか複雑ね」

「確かに……」

「もしかしたら、この戦いも誰かが書いてたりするんですかね?」


と冗談半分で鈴仙は口にしたが、


「……」


いやな間と静寂な空間が一同を襲っていた。


「あ……あの……冗談です。すいません……」

「いや、あり得ないこともないかもな……」

「あはは……」

「あ……どうやら出口みたいだぜ?」


そう言って魔理沙が指さす方向には、明るい光が差し込んできていた。


「フラン。日傘を差しなさい」

「うん」

「さて…どこにつながってるのやら……」


一同は万が一の時に備えながら、ゆっくりと外に出て行った。





「何もない……か」


一同が出てきたのは、霧の湖周辺にある小さな森の中だった。

抜け穴の出口は、森の中で違和感のないように作られており、そのかいもあってか周囲に革命軍の気配は見受けられなかった。


「脱出成功ね」

「そうですね。でも、油断はできません…すぐに永遠亭に向かいましょう。鈴仙、先導を頼む」

「はい」


つかの間の休息を終え、一同は再び歩き始める。

その時だった。



ドゴオオオオォォォォン



「!?」

「なに……今の……」

「抜け穴から聞こえてきた……あいつら……壁を爆破でもしたのか……?」

「咲夜……」

「急ごう。兵士はある程度訓練されてるはずだから、すぐ追いつかれる」


俊司たちは進攻の速度を速めながらも、辺りをじっくり警戒しながら永遠亭に向かった。




数分後


「……」


最後尾を歩いていた俊司は、時折背後を確認しながら歩いていた。


「俊司さん、何か変わったことは?」

「とくにないな……とりあえず、文に連絡入れとくか……」


俊司はポケットから携帯を取り出すと、着信履歴から文の携帯を選択して電話をかけた。


「もしもし俊司さん?」

「文緊急事態だ。紅魔館が革命軍に攻撃された」

「!! 状況は!?」

「残念だけど、紅魔館は陥落したよ。ほとんどの人たちは無事だけど、咲夜さんは時間稼ぎで……」

「そんな……とにかく、無理だけはしないでくださいね……こちらから援軍を送りましょうか?」

「そうだな……そしたら……」

「いたぞ!!」

「!?」


背後からいきなり男の大声が響き渡ってくる。

俊司が振り返ると、そこには10人ほどの兵士がこっちに向かってくるのが見えていた。一同の背中に悪寒が走る。


「俊司さん……?俊司さん!?」

「……ごめん文、一旦切るよ」

「なにがあって……俊司さ……」


文の問いかけを聞こうとしないまま、俊司は通話を切った。


「さてと……どうするか……」


そう呟いてハンドガンを構えると、せまってくる兵士たちを睨みつけていた。 
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