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東方守勢録

作者:ユーミー
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第八話

「……クリア」


土埃が消え去ったあと、男はそう呟いていた。

大きな爆風で門は大破してしまっていた。そばにいた門番の姿はどこにも見当たらない。男は安全を確認すると、身振り手振りで兵士に指示を出していった。

兵士はライフルを構えながら徐々に近寄っていく。


「……左右に注意しろ。門番の死体を捜せ。生きていたら厄介だからな」

「了解」


兵士は指示通り門番の死体を捜す。だが、死体どころか服の切れ端すら見当たらない。

木端微塵になったにしては、血しぶきもないし肉片も見えない。それに相手は妖怪。肉体がばらばらになる可能性は低いと思われた。


「どういうことだ……」


一人の兵士がそう言いながら辺りを見渡す。きょろきょろとあたりを見渡す彼には、小さなスキが微かに見え隠れしていた。

その近くでかくれながらこっちを警戒する少女がいるのも知らず……。


(……ここ!)


近くの茂みに隠れていた少女はそのスキを見逃しはしなかった。


「えっ……」


兵士の目の前に一瞬赤い何かが姿を現す。そして


「おぐっ……がはっ!?」


ものすごい勢いで体が吹き飛び、背後の壁に叩きつけられた。


「……やはり生きていたか。中国……いや、紅美鈴」

「居眠りしているとはいえ……あのような攻撃でありましたら気付きます」


美鈴はそう言って構えをとり戦闘態勢に入った。


「計算通りだな……」

「なにが……」

「総員構え!」

「なっ!?」


男が命令した瞬間、美鈴は黒く光る無数の銃口に包囲されていた。

さっき美鈴が隠れていた茂みのようなものはあるにはあるが、数が少ないうえに体系が彼女より大きい彼らが隠れるような場所は少ない。それに人が隠れていても気配を感じ取ることは、武術を使い慣れている美鈴にとってはたやすいことのはずだった。

だが、これだけの人数がいたにも関わらず、美鈴は誰一人気付くことができなかった。


「やはりギリースーツはこういう時に役に立つ。牧野の作った気配を消す装置も効いてたようだな」

「ぐっ……はあっ!」


美鈴は地面を思いっきり蹴ると、一人の兵士めがけてとび蹴りを繰り出す。

距離はそこまで離れてはいない。当てようと思ったら当てれる。彼女はそう確信していた。

だが、それが安易な考えだったことにすぐさま気付かされる。


「しゃがめ!」


一人がそう叫び、全兵士が銃口を下ろしてその場にしゃがみこむ。


(攻撃してこない……なぜ……!?)


疑問に思っていいた美鈴は、兵士の後ろにある何かに気付く。

一見何もないように見えるが、微かに空間に漂う何かがある。それも網目状をしていた。

それだけではない。ところどころでパリッといった何かが走る音が発生している。


(電流!?くっ!)


美鈴はとっさの判断でしゃがんでいた兵士の肩をつかむと、自身の勢いを殺し兵士を突き飛ばしながらその場に落ちた。


バリバリバリ!!


「あぐおおおおおおお!?!?!?!?」


半透明の何かにぶつかった兵士は奇声を上げながらその場に倒れこんだ。


「あぶなかった……」


美鈴は起き上がった瞬間無意識にそう呟いていた。


「軍が開発した捕獲用の半透明フェンスだ。見破るとは……まだまだ修正が必要だな。だが……敵ながらあっぱれだ」


男はそう言いながらスイッチを切る。すると、半透明だったフェンスがその姿を現した。電流はストップしていたが、フェンスは周りを囲むように設置されており、美鈴は兵士とともに閉じ込められていた。


「それはどうも……」

「だが、危機を脱したわけではないぞ?」

「わかっています」


そう言って美鈴は再び戦闘態勢をとった。それに合わせて兵士たちが銃口を向け、彼女を凝視する。

だが、指揮をとっていた男だけが美鈴を見ていなかった。


「総員退避!」

「たっ隊長……?」

「美鈴よけて!」

「えっ!?」

「よし!いくぜ!!」


恋符『マスタースパーク』


白黒の魔法使いが壊れた門からスペルカードを発動させる。発射された極太レーザーは数人の兵士を巻き込みながら一直線に飛んで行った。


「霧雨魔理沙……」

「私だけじゃないぜ!」

「うわああぁぁぁ!!」


魔理沙がそう言うと同時に数人の兵士が悲鳴をあげてその場に倒れこむ。

その兵士の体には何本ものナイフが突き刺さっていた。


「十六夜咲夜……」

「手荒い訪問ね。あとで門の修理代……請求させていただきますから」

「咲夜さん……すいません……」

「いいえ。よく耐えたわ……美鈴」


咲夜は美鈴の肩をポンとたたくと男を睨みつける。男はそれをみて、なぜか笑みを浮かべていた。


(さすが……やはりこの世界の住民は強い。だからこそやりがいを感じるもんだ)

「何かおかしいことでも?」

「いいや……さて、そろそろ両わきに待機させてあるやつらも動けばどうだ?」

「……」

「しかたないか……鈴仙」


少年の合図とともに、男たちの両わきに4人の姿が現れた。


「なるほど……きみが例の少年か、里中俊司」

「門を破壊するなんてな……RPGでも持ってきたんですか?」

「そういったところだ。さて……これからどうするんだ?」


そう言って男が右手をスッと上に上げる。

それが合図となって、男の背後からさらに数十人の兵士が姿を現した。


「まだこんなにも人が……」

「やっぱり……ギリースーツか」

「この世界の人間は我々が持っている知識を持っていない。ギリースーツを使えば簡単に目を欺くことができる。まあ…少年は気付いていただろうがな」

「……」


圧倒的な人数差だった。

戦闘能力では個人では上だろうが、人数でカバーされているこの状況では有利とは言い難い。俊司は頭を働かせて打開策を考える。

だが、その思考は一瞬で途切れてしまった。


パラパラパラパラ……


俊司の耳に飛び込んできたのは、懐かしい何かのプロペラが回るような音だった。


「……?」

「どうやら援軍のおでましね……」

「何かこっちに飛んできますよ!」

「飛ぶ……それにこの音……まさか!?」


俊司はあわててその姿を確認する。




そして少年の目に飛び込んできたのは、見覚えのあるヘリだった。




それも一機だけではない5・6機はあるだろう。

外の兵器が結界を超えて幻想郷に現れたのだ。結界をこえるなど外来人ですら普通はむりだ。だが、革命軍はそれ以上のことを成し遂げていたのだ。

冷や汗が俊司の背中を伝っていく。


「なんで……なんであんなものがここに!?あんな兵器が結界をこえてこれる訳が……」

「我々も試行錯誤を繰り返してるんだ……さて、どうする?」

「くそっ!みんな走れ!!早く屋敷に入るんだ!!」

「えっ……どうしてですか俊司さん!!」

「とにかく走れ!!全滅するぞ!!」


訳も分からないまま、咲夜たちは俊司の言うとおり屋敷に向けて走り始める。




それと同時に、ヘリは一斉掃射を開始していた。 
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