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【完結】剣製の魔法少女戦記

作者:炎の剣製
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第二章 A's編
  第四十五話    『シホの過去の話(後編)』

 
前書き
後編です。 

 





Side フェイト・テスタロッサ


シホがアーチャーとの戦いまでを語り終えて一息つき、

「結果を見ればかなりの成果だった。
なにせ三騎士が揃っているのだから…。イリヤももう私達と敵対しないと言うし後はギルガメッシュを倒すだけという話になったけど、そこから急展開を迎えたわ。
突如として溢れてきた黒い泥の中から慎二の義理の妹でリンの実の妹である間桐桜が黒い聖杯に染まって現れたのだから」
「黒い、聖杯…?」
「ええ。言っていなかったけど聖杯の中身は黒い呪いによって中身がごっそりと変わっていたのよ」
「呪い…」
「呪いの名は『この世全ての悪』、『アンリ・マユ』。
それは第三次聖杯戦争にまで遡るけど、アインツベルンは絶対勝利を約束してくれるサーヴァントを召喚しようとした。
そして召喚されたのが『アヴェンジャー』…復讐者というイレギュラークラスのサーヴァントだった。
でもそのサーヴァントはただ『悪であれ…』という呪いを一身に受けながら殺されたただの人間だったために禄に能力も力もなかった。
話によると召喚されてたった四日で敗退したって言うけどそこから真の呪いが始まった」
「始まったって、倒されたからもう戦う事も出来ないのに?」
「そうだけどそれとは別に聖杯とは倒されたサーヴァントの魂を吸収して聖杯の中身を満たすものなのよ。
それで当然アヴェンジャーの魂も吸収された。そして聖杯の中身はアヴェンジャーによって無色の力だったものから悪の色に染まってしまい、もし願いを叶えたら破壊と死だけを振り撒く最悪の願望器と変わってしまったの…。
切嗣は第四次聖杯戦争終盤になって聖杯の中身を浴びた事によって真実を知り、セイバーに令呪で聖杯を破壊させたけど中身の泥は溢れてしまって起こったのが大火災だったの」
「そんな…」

私の口からそう言葉が漏れた。
私達が絶句している中、リンディさんは冷静に言葉をのべていた。

「でしたらもし切嗣さんがそのまま聖杯に願いを叶えていたらどうなったのですか…?」
「おそらく世界は滅びていたでしょう。セイバーに聞いた事ですが切嗣の聖杯に願おうとした事は『絶対的恒久平和』というものだった。
もし叶えていたら破壊と死しか招かない聖杯はきっと『人々が地上からいなくなれば平和になる』と歪んだ願いに変わっていたでしょう」
「だから正義の味方として切嗣さんは見過ごす事ができないというので破壊を選択したのですね。まるで性質の悪いロストロギアですね…」
「まぁ…それで聖杯の話はこれで終わりにして話を続けます」

再開された話によると慎二という人は桜さんが殺してしまったらしくもういないという。

「後になって知った話しだけど桜は間桐の家の魔術である蟲に体を犯されていて体を改造されてしまっていた。
さらに体の中に第四次聖杯戦争で砕けた聖杯のカケラが埋め込まれていて聖杯の機能をその身に宿していたの。
イリヤは小聖杯だったから既にやられたライダーとキャスターとバーサーカーの魂を取り込んでいたはずなのにそれが全て桜の聖杯の方に渡ってしまい、三体のサーヴァントは黒く染まりながら復活し理性も完全に奪われ襲い掛かってきた」
「そんな…せっかく倒したのにまた復活しちゃうなんて…」
「それでなんとか逃げる事に成功した私達は、逃げる直前に桜がいった言葉『柳洞寺の地下の大聖杯の場所で待っています、先輩』という言葉に従って前準備をすることになった。
一度、衛宮の家に戻って作戦会議を行った。
そして私の体の中にはセイバーの鞘が埋め込まれていると言う事にアーチャーが気づかせてくれて私はセイバーに聖剣の鞘を返した。
さらにリンにも切り札が必要というからイリヤの過去から受け継いできたアインツベルンの記憶と私の投影の二人の力を結集させて宝石剣を実現させようとした。
だけどそこでイレギュラーな事態が起きた」
「イレギュラーな事態って?」
「イリヤの歴代から引き継ぎられている記憶に残っている宝石剣を作り出そうと限界まで解析をかけて投影しようと試みたまではいいんだけど…。
それが切欠で私は根源に少しだけ手を伸ばしてしまって第二魔法を会得してしまい、完成した宝石剣もどうまかり違ったのか私にしか仕えない代物と化してしまっていたの」

それは凄いことだと思う。
偶然とはいえ魔法に手が届いてしまったんだから。

「それで当然リンは怒り狂って事態をどう収めようかと思った矢先に突如として空間が裂けてそこから大師父…キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグが姿を現したの」
「何のために?」
「なんでも『第二魔法に至ったものが現れたか』なんて言っていたっけ…。それで上機嫌でリンに自身の宝石剣を貸し与えてしまうという大盤振る舞いをしたのよ」

さすがシホの師匠さん。
伊達に吸血鬼になって長くは生きていないと言う訳だね。

「そして最後に私は固有結界を展開するほどの魔力を集めるためにイリヤの魔術刻印の一部を私の体に移植してパスを繋げて準備はすべて済んだわけね。
そしてまず柳洞寺に向かっていって、リンはランサーとアーチャーと一緒に地下へと先に潜っていった。
だけどまだ生き残っていたのか門番に縛り付けられていたアサシンが最後の試合をしたいと言ってきてセイバーがそれに挑んでいった。
勝負は互角の戦いをしていって、だけど最後にセイバーの一閃でアサシンは笑みを浮かべながら消えていった。その魂はしっかりとイリヤが回収したと言う。
そして門を潜るとやっぱりというべきかギルガメッシュが柳洞寺の中心部で佇んでいた」

ついに始まるんだね。シホとギルガメッシュの最終決戦が。

「セイバーはイリヤの護衛につけて私はギルガメッシュと対峙し、イリヤの魔力も十全に送られてくる事を確認して戦いが始まった。
最初はやっぱりギルガメッシュが優勢で私はなんとか投影を繰り返して弾き返す事しかできないでいた。
それが幾度も続き、私の魔力と体力はつきかけてきたがそこで私はある勘違いをしている事に気づいたの」
「勘違い?」
「そう、私の剣製は剣を作り出すことじゃない。そんな器用な真似はできない。私が出来るのは自分の心を形にすることだけだったのよ。
そして唱える。私の呪文詠唱を……………それによって私は固有結界『無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)』を初めて展開した。
そこからはもう物量による絨毯攻撃の嵐、ギルガメッシュが武器を展開するより早く叩き落し、それを何度も繰り返し遂には乖離剣を取り出そうとした腕を斬り飛ばすにまで及んだ。
最後の止めを刺そうとしたけど、突如としてギルガメッシュは地面から湧き出てきた聖杯の泥に包まれて飲み込まれしまい呆気ない幕切れを迎えて退場した。
恐らくだけど地下での戦いが凄まじかったからギルガメッシュの魂を取り込んで力を増そうと桜は考えたんだと思う」
「リンさん達の方は?」
「私達が向かった時にはすべて終わっていた。桜はアーチャーが投影したルールブレイカーを本来の桜の意識が取り戻せている間にリンが桜に突き刺して呪いを解きリンがその体を受け止めていた」
「それじゃもうこれで決着は着いたって事?」
「いや、最後に大聖杯の破壊の仕事が残っていたんだけどそこには言峰綺礼が立ち尽くしていた。その体からは黒い瘴気が湧き出ていてとても正気ではない状態だった」
「ここに来て言峰綺礼が出現してきたのかい…」
「執念深いね…」
「まぁ数はこちらが優勢でもあって、でもランサーが俺が仕留めると言って言峰と戦い最後には心臓を貫いて勝利を納めていたわ」
「好き勝手使われていたんですから当然の結果という訳ですね」

リンディ提督がそう言う。
確かにそこまでの憎悪をランサーは抱いていたって訳だよね。

「そしてセイバーは私とアーチャーの戦いを見た結果で『過去をなかったことにし、別の道を選ぶことによる国の救済』という自身の願いは間違っていたと言った。
そして剣先を大聖杯に向けて宝具を開放して、完全に大聖杯は破壊され聖杯戦争は永遠に消えていった。
生き残ったセイバー、アーチャー、ランサーもそれぞれ答えを得て消えていったわ。……………これで聖杯戦争までの話はお終いです」

シホの言った終わりと言う言葉に私達は安堵の息を吐いていた。
結果的に見れば第四次聖杯戦争と比べれば死傷者もそんなに出ずに終わらすことが出来たんだから。
でも私は心の中でそれでも死人が出たんだ…という思いに気持ちがダウンしていた。

「でも、聖杯戦争は終わったけどその半年後に奇跡のような出来事が起こった。
私は直接関わってはいないんだけど…言峰綺礼に殺されていたと思っていたランサーの元マスター『バゼット・フラガ・マクレミッツ』。
その人が死ぬ間際にアヴェンジャーと契約して“生きて聖杯戦争を継続したい”という願いを持って仮死状態で生き長らえて四日間だけの聖杯戦争を夢の中で再現した」
「どうして四日間だけなの…?」
「さっきのアヴェンジャーの話で第三次聖杯戦争では四日間で退場したっていったでしょ?
だから聖杯戦争を継続できても四日間しか持続できなかったの。
そして驚く事にその夢の世界ではサーヴァント全てとマスター全て…言峰綺礼以外の死んだ人も含めて生きていてしかも戦いもしないで日常を謳歌しているといったまさに理想の世界が展開されていた」

そんな世界があったら私はどうしていたのだろう?
やっぱり願うなら母さんとリニス、アリシアにアルフが誰も欠けていないで一緒に暮らしている世界なのかな…?
だけどユーノの言葉で現実に戻される。

「まさに夢だからこその世界だね…」
「ええ。それでアヴェンジャーも衛宮士郎という仮の器を被って日常を楽しんでいた。
時には各サーヴァント達と四日間だけど修行し、また最初の一日目に戻されては技量を上げていき…、
なぜかいる大師父とも宝石剣と第二魔法『並行世界の運営』の使い方を習って技量を上げていったり…、
時には皆で遊び、酷いときには敵・味方・魔術師・一般人・サーヴァントというしがらみを関係なく夜にドンちゃん騒ぎを起こしたり…、
時には夜にセイバー達とこの繰り返す四日間を違和感に思い巡回を始めていたりと…。
私の体で好き勝手し放題をしていたわ。最悪なことにギルガメッシュの『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』の『中の武器全部解析させて!』なんて暴挙にも出たし…」
『ぶっ!?』

なんて無謀な事を!?
私達は誰もが吹いてしまった。

「私の人格を被っていたからって私ですらそんな暴挙は犯さないわ。さすがにそこまで命知らずじゃないし…。
でもそれが成功してしまった。なぜかというとギルガメッシュはその時、魔法の薬で子供の姿になっていて大人の姿からは性格は百八十度回転して想像できないほどの利口な子供になっていたの。
それで何かは話したくないけどでっかい対価を背負って変わりに解析できたというの。心が広かったのね、その小ギルガメッシュは。世界は繰り返すからその口約束も無効になると言うのに…」
「あ…」

まさにしてやったりな光景が即座に私の頭の中に浮かんだ。
アヴェンジャーはとても策士だ。

「でもバゼットは少しずつだけど疑問を感じ始めた。なぜ四日間だけなのか、本当は私はどうなったのか…と。
そして繰り返していく内に失っていた記憶が蘇ってきて、『私は死んでいるのでは?』という事に思い至りこの繰り返す四日間を終わらそうとしているアヴェンジャーに対して繰り返しが終わるのを拒んだ」
「人間の生存的本能から来る行動ですね、分かります」
「次第に行動はエスカレートしていき遂には元自身のサーヴァントであったランサーと対峙した。結果はお互いの死という事になったけどランサーは俺の役目は終わりだといって消えていった」
「どうやって相打ちになったの?」
「相打ちになった理由だけどその前にバゼットは『伝承保菌者(ゴッズホルダー)』というものを持っていた。
伝承保菌者(ゴッズホルダー)』とは人間でありながら神代から受け継がれてきた数少ない現存した宝具を持ちそれを作り出せる者を指す異名。
バゼットが持っていた宝具は『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』。別名、逆光剣フラガラック。
その効果はカウンターに特化していて、因果を歪め、『相手よりも後から攻撃、先に命中させた』を『相手より先に攻撃した』という事実に改竄してしまう恐ろしい宝具なの。
それで一度セイバーのエクスカリバーですらも発動した瞬間にキャンセルされて殺されてしまった」

そう言ってシホは空中にそれを投影してみせた。
丸い鉄球みたいだけどこれが発動した瞬間に剣になるらしい。
これでセイバーさんのエクスカリバーがキャンセルされたなんて…。

「どんなものでもキャンセルされてしまうから必殺の一は使えないのよ。
それで話は戻すけど相打ちになったのはお互いに因果を捻じ曲げる特性を持っていたから。
ランサーのゲイ・ボルクはすでに心臓を貫いていると言う結果を残して放つ魔の槍。だからキャンセルされても心臓は貫いているわけでそれでお互いに死んでしまったのよ。
それでまた繰り返し、尚も拒むバゼットにアヴェンジャーは強引に、でも納得いく説得をしてとうとう説き伏せた。
そして四日間ではなく五日目の明日をバゼットは歩き出して夢の世界は終幕を迎えた。そして仮死状態から復活したバゼットは再び私達の前に姿を現したの。
……………ここまできて何もなければ後はハッピーエンドで終われたんだろうけどね」

そこでシホが憂鬱気な表情をしだす。
なにかあったんだろうか?

「アヴェンジャーのツケが回ってきたの。繰り返してきた記憶で得た知識、経験、見た宝具…そのすべてが私に引き継がれて濁流のように一気に押し寄せてきた。
結果は見る目もなくフィードバックのせいで一ヶ月間立ち上がるどころか手足すら動かす事もままならない闘病生活という事態にまで及んだわ」
『うわぁ…』

それで私達は多分とても複雑な表情になっているだろう。
得た対価を考えればかなりのものだけど、一方的な押し付けみたいな感じでシホはそれを味わってしまったんだから。

「…まぁもう過去のことだからいいわ。
そして高校卒業までの間、私は必死に魔術、知識の鍛錬をリンに教わりながら繰り返して卒業と同時に今まで溜め込んでいた資金を使い世界に飛び出していった。
己の理想を実現するために最初はフリーランスの魔術師としてNGOにも在籍をして人助けをしていました。
その頃はまだ何度も助けた人達の笑顔を見れて満足していたわね。
でもある時、悲劇がおこった」

それで再度私達は緊張する。シホの話はここからが本番と言うばかりの雰囲気だったから。

「死徒という吸血鬼が突如として現れて、町に住んでいる人々を次々と血を吸い殺していき自身の配下にしていき死の町と化していく光景。
私の仲間も抵抗はしたけど次々とやられていって配下にされてしまってそれで初めて己の無力さと現実を叩きつけられた。
それでなにかが切れた私は形振り構わず宝具を開放し死徒ごと死の町を滅ぼした…」
『……………』

私達は無言でシホの後悔の篭った言葉を聞いていた。

「それから私は自身を鍛えながらも依頼を受けては違法魔術師や死徒と何度も戦った。これ以上悲しむ人達を増やさない為に…。
だけど結果、魔術協会は過剰に魔術を使いすぎた私に対して封印指定の烙印を押して、執行者、賞金に目がくらんだ魔術師、代行者…。
様々な機関から追われる様になった。
その最中で何人もの理解ある人に匿ったりしてもらったりして助けてもらっていたけど次第に私の逃げる範囲は減っていった…。
そしてそれでも人助けをやめなかったある日の事、イリヤが倒れたという一報を信頼できる知人に教えてもらい魔術で匿ってもらいながらも冬木の地に戻った」
「どうして、イリヤさんは倒れちゃったの…?」

なのはがそうシホに聞く。

「イリヤは元々切嗣とホムンクルスであるイリヤのお母さん、アイリスフィール・フォン・アインツベルンとの間に生まれたハーフ。
だから小聖杯の機能を埋め込まれていて生まれる前から、そして生まれた後も人体改造を施されていて体は十歳くらいの姿で止まってしまい、さらに短命になっていたの。
その事を初めて知った私はもう助けられない事を悟り、イリヤが息を引き取るその時まで一緒になって暮らした。それが一番最後の平穏の時間とも言えたわ…」
「イリヤさん、かわいそう…」
「でも、シホと最後まで一緒に過ごせたのはある意味では幸せかもしれない」
「そうだね…」
「その時にはまだイリヤが私のために全部を投げ打ってまで助けようとしてくれていた事も知る事が出来ず、リンに後の事は任せて私はまた世界へと発っていった。
そしてある時、最大の分岐点が私に迫ってきた」

分岐点…?それって…。

「ある魔術師が実験の為に町一つとそこに住む人々すべてを生贄にして大魔術を執行しようとした。
その魔術はもう私一人では止める事は不可能な代物だった。これでは町一つが滅びてしまうと焦りに駆られていた時だった。
急に周りの時間がすべて停止し、まるで頭に直に響いてくるような声が聞こえてきた」
「それってまさか…」
「そう、世界に…。世界は私にいった。『死後を対価に差し出せば人を超越した力を手にいれ人々を救う事が出来るぞ?』と。
その時の私には実に甘美な響きに聞こえた。生きた英霊になればこの事態も解決できるかもしれないと。
でも、そこでイリヤの死に際の最後の言葉で『シロウは私の分まで生きて、幸せになってね…。絶対世界と契約しちゃ駄目だよ?』という言葉が思い起こされた。
そしてエミヤの生涯も思い出して私は身を引きちぎられるような思いをしながらも世界からの誘いを断った。
その次の瞬間だった。止まっていた時間は急速に動き出して町は一瞬で跡形もなく滅びてしまい魔術師は倒したものの失ったものは大きくしばらくは立ち直れなかった」
「…イリヤさんとの約束が英霊エミヤとシホさんの道を違えたのですね」
「はい。エミヤの記憶とイリヤとの約束がなければ私もきっと世界と契約をしていたでしょう」

シホは苦渋の決断をしたんだ。

「そこで一度『正義の味方』という理想に反してしまったために想いは砕けてしまいました。
でももう私は引き返せないところまで来てしまっていた。
裏からだけではなく表からもとうとう罪を着せられて指名手配されてしまい全世界から追われる身になってしまった。
そして逃げ回る日々で代行者との戦いでなんとか撃退したけどボロボロになった体で横たわり後は死を待つような体になっていた。
そんな時に大師父、リン、世界屈指の封印指定の人形師『蒼崎橙子』が私を助けてくれた」

そしてシホはどこからか一枚の手紙を私達に見せるように取り出した。
その内容を見て私は涙を流した。
そこにはイリヤさんのシホに対しての想いが何度も書かれていた。

「私はそこでイリヤの想いを知り、もう手遅れだということも知り後悔しました。
だからもう間違わないようにイリヤの想いも魂に刻んで事実上一回死んでからイリヤの体を素体にした人形に乗り移りました。
そして大師父から『シホ・E・シュバインオーグ』という新たな名をもらい、『全てを救う正義の味方』ではなく新しく芽生えた『大切な人達を守れる正義の味方』という理想を目指す事になりました。
ちなみにセイバーの鞘ですがまたコーンウォールで発掘したって言っていました。
だけど、そこで異常が発生して私は口調、仕草、思考が変化して現在の私になり、
そして世界を越えてこの世界に来た時に世界からの修正で『魂は一生変化しない』という定義を無視して男性から女性の魂に塗り替えられてしまったんです。
そしてこの体は9歳が基準で作られた為に完全に私は精神と意識が9歳そのものになってしまったんです」
「なるほど…。それが今現在のシホさんを形作っているのですね」
「はい。だからこの体はあまり傷つけたくないんです。大切に扱っていかなきゃイリヤに対して失礼だから…。
あ、後これはお父さん達には伝えていない事なんだけど実はイリヤの魂はイリヤの魔術回路と融合していて緊急時の時のみ覚醒するというのが時の庭園で判明したんです」
『ええーっ!?』

驚いた。イリヤさんはてっきりもう死んだものかと思っていたのに形を変えてシホと一緒にずっといたんだ。
話によるとあの時、やっぱりシホの力だけじゃエクスカリバーの投影は不可能だったらしい。
その時にイリヤさんの意識が覚醒して全魔術回路を直結して魔力を大幅にアップしてどうにかエクスカリバーを投影したという。
全部話し終わったシホは少し遠慮がちに顔を少し背けながら、

「…お父さん達にはこんな私でも幸せを目指してもいいんだよ、と言われたから後ろ向きな気持ちはもうないけど、やっぱりこれだけは聞いておきたいの。
みんなはこの話を聞いて私を気持ち悪いと思わない? 私は様々な秘密の露呈を恐れてずっと元は男性だという事を隠して、騙して、欺いてきた。これは許されないことだわ…」
「そんなことないよ!」
「そうだよ、シホ! 誰だって秘密は持っているものなんだから!」

なのはとユーノが声を上げた。

「確かにシホの話す秘密は管理局には伝えられないからな」
「そうだよねー。きっと大事になること間違いないし」
「だからそう気を病まなくてもいいんですよ、シホさん」
「それにあたしらは以前のシホの事はこうして話で聞いた以外はほとんど何も知らないんだから遠慮なんてすることないよ」

クロノ、エイミィ、リンディ提督、アルフも言葉を発した。
だから私も、

「シホはシホだよ。私達の友達、シホ・E・シュバインオーグという可愛い女の子。それは変えようが無い事実だよ。だから胸をはって、堂々とすればいいんだよ」
「…うん。ありがとう、皆さん」
「よかったですね、お姉様…」

シホは俯きながら涙を一滴流した。


 
 

 
後書き
これで過去話は終わりです。 
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