皇帝ティートの慈悲
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第一幕その八
第一幕その八
「そして」
「そして?」
「例え皇后になろうともあの方への想いは変りません」
「どうしてもか」
「罪になることはわかっています」
覚悟についても言及した。
「ですが。全てを正直に申し上げようと思い」
「今ここにというわけだったのか」
「その通りです」
覚悟を決めてこくりと頷いた。
「ですから。私は」
「そうか。ならばいい」
「えっ!?」
「いいと言ったのだよ」
驚くセルヴィリアに対して優しい声と目で語っていた。
「君のその心は受け取った」
「では。私は」
「アンニオのところに行くのだ」
そしてあらためてこうも告げた。
「君が愛する者の所へ。行くのだ」
「ですが陛下、私は」
「愛を偽ること」
今度ティートが言ったのはこれであった。
「それこそが最大の罪なのだから」
「愛を偽ることが最大の罪」
「そしてもう一つ最大の罪がある」
彼はまた言った。
「愛を引き離す罪だ」
「それもですか」
「私はこの二つの罪を決して許しはしない」
皇帝の言葉である。
「断じて。だからこそ君はアンニオの所に行くのだ」
「ですが陛下。それでは」
「私は他の者の愛を壊すことはない」
言葉は少し変っていたが心は同じだった。
「決して。だからこそだ」
「陛下・・・・・・」
「尊い絆はこれからも増えるべきだ」
今度は二人を褒め称える言葉を口に出した。
「君達の様に。それでは」
「それでは」
「行くのだ」
またアンニオの所に行くように勧めた。
「私はここにいる。だから」
「宜しいのですね」
「私の。皇帝の言葉だ」
だからこそ。絶対の言葉だというのである。
「信じてくれ。だから」
「わかりました。それでは」
心の奥底から熱いものを感じつつティートに対して頭を垂れて述べた。
「陛下、これで」
「二人で永遠に」
「有り難うございます」
セルヴィリアは去りティートは一人になった。すると彼は一人呟くのだった。
「素晴らしい。あの愛こそが素晴らしい」
二人のことを想い呟いていた。
「それがローマの栄光を支える。私の周りにもさらに多くのこの気高き素晴らしい心があらんことを」
これは彼の祈りの言葉であった。
「そうすればローマの栄光は永遠のものとなる。私もまた今の様な重い苦しみを味あうことはないだろうに。欺瞞と隠された真実を見極める為に苦しむことも」
最後にこう祈り場を後にした。この頃ヴィッテリアはセストを側に置き憤怒に震えていた。
「あの娘が后にですか」
「はい」
「何ということ」
怒りに震えながらの言葉だった。セストはそれを聞くだけしかできない。
「恥ずべき恥辱、何故あの娘を」
「ヴィッテリア様」
「それでセスト殿」
怒りに震えるその顔をセストに向けて問うてきた。
「手筈はどうなっていますか」
「まだ何も」
首を横に振ってヴィッテリアに答えた。
「何もしていません」
「何も?よくそれで私の前に」
「貴女様は中止せよと言われたと記憶していますが」
「確かに」
ヴィッテリアもそれは認めた。だが。
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