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ホフマン物語

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第四幕その八


第四幕その八

「それでは」
「はい」
 またカードが配られてきた。やはり五枚ずつである。
「まずは私が」
「ええ」
 ダペルトゥットがカードを交換する。今度は三枚だ。
「ふむ」
 カードを見てから一言漏らす。だが表情は変えない。
「それでは次は僕が」
「どうぞ」
 ホフマンは二枚交換した。それから二人は一枚ずつ交換した。
 ダペルトゥットはもう一度交換した。今度は二枚であった。
「ストップ」
 彼はここで止めた。そして互いにカードを見せ合う。まずはダペルトゥットが見せた。
「フラッシュ」
 見ればクローバーのフラッシュであった。三、五、八、十一、十三が並んでいた。彼は不敵な笑みを浮かべていた。
「私の勝ちですな」
「さて、それはどうでしょうか」
 だがホフマンはそれに対して全く動じてはいなかった。
「というと」
「僕のカードです」
 そう言って自分のカードを見せる。見ればそれはフルハウスであった。
 ニのスリーカードに八のワンペア。どちらが勝ったのか、言うまでもないことであった。
「これで宜しいですね」
「ええ」
 ダペルトゥットは憮然として答えた。ホフマンはそれを見てホッとした様に一息吐いた。
「これで二つ目か」
「そうだね」
 ニクラウスはそれに頷いた。見れば彼の影が戻っていた。ダペルトゥットの顔はあからさまに不機嫌なものとなっていた。
「これで最後ですな」
「はい」
 ホフマンは彼の問いに頷いた。
「次に賭けるのは」
「おわかりだと思いますが」
「確かに」
 ダペルトゥットはそれに頷いた。
「では貴方は貴方御自身ですね」
「ええ」
 ホフマンもそれに頷いた。
「それで宜しいですね」
「私の方は構いません」
 彼は言った。
「自分の手にあったものがわざわざ帰って来てくれるのですから」
「自信がおありなのですね」
「私は最後には勝つのが常ですから」
「ほう、それは」
「最後には、ね。おわかりでしょうか」
「ですがそれは何時かは終わるもの」
 ホフマンはしれっとして返す。
「それが今なのです」
「それはやってみなくてはわかりませんよ」
 ダペルトゥットは笑いながら返した。
「勝負をね。では宜しいですか」
「はい」
 ホフマンはまた頷いた。
「でははじめましょうか。最後の勝負を」
「はい」
 二人はそれぞれ五枚のカードを手に取った。そしてまずはカードを見た。
 ホフマンは動かない。ダペルトゥットはそれに対してしきりにカードを換える。どうやら口とは裏腹に内心かなり焦っている様であった。
 ダペルトゥットは何度も換えるがやはりホフマンは動かない。ダペルトゥットはそれを見てさらに焦りを感じている様であった。
「宜しいですか」
 ホフマンはそんな彼に冷やかに声を浴びせた。
「もうこれで」
「ええ」
 彼は憮然としながらもそれに応えた。
「ではこれで」
「ストップ」
 それを合図に二人はそれぞれカードを見せた。ダペルトゥットは九のスリーカードであった。
 対するホフマンはストレートであった。八、九、十、十一、十二が見事に並んでいた。最後の勝負もホフマンの勝ちであった。
「運がよいようで」
「僕には幸運の女神がついておりますから」
 ホフマンはにこやかに笑ってこう返した。
「幸運の女神ね」
「はい。それが僕に全てをもたらしてくれました」
「彼女の心も」
「そうです。ではそれを」
「わかりました」
 ダペルトゥットは憮然としながらもそれに応えた。そして懐から一個の女性のガラスの像を出して来た。
「これで宜しいのですね」
「有り難うございます」
 ホフマンはにこやかな笑顔のままそれに頷く。
「お見事でした」
 ダペルトゥットは憮然とした顔を作って言う。そしてそう言いながら席を立った。
「私がカードで負けたのははじめてでしたよ」
「そうだったのですか」
 ホフマンは涼しい顔を作った。そして言葉を返した。
「全く。今までは勝ってきたというのに」
「誰でも敗れる時はありますよ」
 慰めの言葉ではあるがそれは慰めではなかった。
「悪魔でもね」
 鋭い目でダペルトゥットを見据えながら言う。横目でジロリと見ていた。
「悪魔でも」
 何も知らないシュレーミルがそれに問う。
「思わせぶりな言葉ですね」
「何、ほんのジョークです」
 ホフマンはそれにはしれっと何も知らない様子で返す。
「ほんのね」
「それにしては言葉が鋭かったですが」
「そうでしょうか」
「何はともあれ大晦日の勝負はこれで終わりですな」
 ダペルトゥットは会場を後にしようとする。そして去り際にこう述べた。
 
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