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ホフマン物語

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第四幕その三


第四幕その三

「似ているな」
「似ているって?」
 ニクラウスがそれに問うた。
「今まで会った博士や医者にさ。そっくりだとは思わないか」
「気のせいだろう」
 ニクラウスはそう答えた。内心はどうかわからないが表では何もわからないといった様子であった。
「だといいけれどな」
 ホフマンはまだ懐疑的にこう述べた。
「僕の気のせいであれば」
「気にし過ぎだよ」
「そうかな」
「そうさ。じゃあ行こう」
「パーティーにか」
「見たところ醒めてきているじゃないか。後はおしゃべりや賭け事をしながら酔いを醒ましていこう」
 ここで不意に勝負事を口に出してみせるのであった。
「賭け事か」
「得意じゃないか、そういうことは」
「まあね」
 ホフマンはここでニヤリと不敵に笑った。
「伊達に今まで遊び歩いたわけじゃない。昼の僕と夜の僕は別人さ」
「じゃあ夜の君の出番だ。見てくれ」
 そう言って空を指差す。
「もう夜の帳が覆おうとしている。昼の君の出番は終わった」
「夜の僕の出番か」
「そうさ。夜の君を皆が待っている。さあ行こう」
 そう言って促す。
「仕方ないな」
 ホフマンは苦笑した。そして彼も立つ。
「じゃあ行くか」
「ああ。今夜位は気軽に楽しもう」
「そうだな。それじゃあ皆で」
「今年最後の日を祝おう」
 こうして二人はシュレーミルのパーティーに向かうことにした。道と場所は店の者に聞いた。そして二人は店を後にしたのであった。
「あの男、よいかもな」
 先程のゴンドラが店の側にまでやって来た。それに乗っていた黒い男はホフマンの後ろ姿を見ながらニヤリと無気味な笑いを浮かべて呟いたのであった。
「女を求めておる。表ではどう言い繕っていてもな」
 ホフマンの失恋の痛手を見抜いていた。恐るべき眼力であった。
「ジュリエッタを使うとしよう。そしてまたわしの手に魂が入る」
 呟きながら上着のポケットに手を入れた。そして異様に大きなダイアを取り出した。
「鏡が回れば雲雀はそれに惹かれて罠にかかる。命を失うと知っていてもそれにかかる。だがそれは人も同じことじゃて」
 悪魔的な言葉であった。ダイアには彼の邪な笑みが映っていた。
「狩人はそれを承知で罠を張るのじゃ。雲雀の命を、そして人の魂を狙ってな」
 無気味な呟きは続く。
「人には鏡を使う。さあダイアを回るがいい」
 そう言い終えるとその場を後にした。ゴンドラに乗り何処かへ去って行った。
 ホフマンもニクラウスもシュレーミルの豪華な別荘でのパーティーに参加していた。そしてその中にはジュリエッタもいた。彼女はホフマン達と楽しく談笑していた。
「そうだったのですか」
「はい」
 彼女はホフマンの話に聞き惚れていた。少なくとも表の顔ではそうであった。
「クラインザックさんは。その様な方だったのですか」
「あれは本当の話でして」
 ホフマンは上機嫌で語る。
「面白いものでしたから詩にしようかと考えております。傑作になると思いますよ」
「期待していますね」
「有り難うございます」
「ただ、どうも貴方の作品は怪奇的なものが多いですね」
 ホスト役であるシュレーミルがそう話を振ってきた。
「そうでしょうか」
「先にお話させて頂いた二つの作品も。他の作品にも多いですよね」
「よく御存知で」
「印象に残るのですよ、どうにも独特で」
「現実的でない、と」
「いえ、逆に現実味を感じます」
 彼は言った。
「だからこそ怖い。本当に側にあるように思えましてね」
「実際にあったことを元にしていますからね。先程も申し上げましたが」
 彼はこう答えた。
「それならばそうも感じられるでしょう。僕にとっては思い出したくもなかった話でしたが」
「おや」
「まあ今度は軽快な作品を書きたいですね」
「そのクラインザックさんの作品ですね」
「はい」
 ジュリエッタの言葉に応えた。
「きっと傑作になりますよ。楽しみにしておいて下さい」
「わかりました。それでは」
「マダム」
 ここで手足が長く、腹だけが出た虫に似た外見の男がジュリエッタに声をかけてきた。
「あら」
「ダペルトゥット船長が来られましたよ」
「船長が」
 彼女はそれを聞いて妖しげな笑みを浮かべさせた。
「何の御用かしら」
「それは御自身でお確かめ下さい。離れの部屋でお待ちです」
「わかったわ。申し訳ないですが」
 ホフマン達に顔を戻して言う。
「少し席を外させて頂きますね」
「ええ、それでは」
「失礼します」
 頭を下げてその場を後にする。そしてジュリエッタは賑やかなパーティー会場を後にして離れの静かな部屋に向かった。そこにあのダイアを持っていた黒い服の男がいた。
「何の御用件ですの?」
 ジュリエッタは妖艶に微笑みながら彼の声をかけてきた。
「頼みがあってな」
 彼は笑いながらそれに応えた。
「ここに一人背の高い若者が来ているな」
「詩人のホフマンさんかしら」
「そう、あの男だ。今度はここにいる」
 彼は思わせぶりにこう述べた。
「ここで会ったが何とやらだ。あの男の魂を欲しい」
「魂を?」
「そうだ。協力してもらえるか」
「報酬次第ね」
 ジュリエッタは妖しげな笑みのままこう言葉を返した。
「安くはないわよ」
「それはわかっているさ」
 ダペルトゥットも笑いながらそれに返した。
 
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