好き勝手に生きる!
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閑話その一「姉が出来ました!」
「あーけのちゃ~ん! お菓子くださいなー!」
とある家の玄関前でそんなことを言う僕。図々しいことを大声で口にしているが自重はしません。
「あら。いらっしゃい、レイくん。今日も遊びに来てくれたの?」
「おー、ママさん。こんちゃ! 暇だからお菓子もらいに来ました!」
出迎えてくれた女の人は朱璃ちゃん。朱乃ちゃんのママさんだ。僕はママさんと呼んでいる。
「ふふっ。ええ、いっぱい食べていきなさい。そうだ! どうせならお夕飯も食べていく?」
「ごちになりやす! 拙者、カレー希望ー」
「レイくんは本当にカレーが好きなのね」
勿の論なのですよ! あ、当然カレーは甘口ね。
「はいはい。それじゃあ、うんとよりを掛けて作りましょうかしらね」
朱乃ちゃんのお家のカレーは美味だから好きだ。ココ〇チのカレーにも負けてないと僕は思うのですよ。今から夕飯が待ち遠しいです。
ママさんの後に続き家にお邪魔する。朱乃ちゃんの家は平屋建てのお家で、玄関に入ってすぐ右の靴置き場には僕が挙げたウサちゃんのヌイグルミがある。
ピンク色のウサちゃんの胸には『N』の文字。某英会話教室のイメージキャラクターを忠実に再現した、僕お手製の逸品だ。何気にお裁縫は得意なのですよ。マイソーイングセットは紳士の必須道具です。
リビングへ続く廊下を歩くと、横の襖が突然スライドして朱乃ちゃんが飛び出した。
「捕まえましたわ!」
ギュッと向かい合う形で抱っこされる。あぅ、確保されたー。
「うふふ、レイくんは相変わらず抱き心地がいいですわね」
やはりそうなのですか。前々からよく抱っこされるなと思っていましたよ。
「ほら、朱乃。レイくんが困っているから離してあげなさい。気持ちは分かるけどね」
分かるのですか! さすがはママさん、ぱねぇ。
はーい、と床に降ろされる僕。お帰り大地。
「改めていらっしゃい、レイくん。今、丁度クッキーを焼いていた所ですよ。よかったら食べますか?」
「食べるー!」
この美味しそうな匂いはクッキーだったのか。匂いはリビングの方から漂っていた。すぐさまリビングに向かてダッシュ――しようとしたところを朱乃ちゃんに止められた。クッキー……。
「クッキーは逃げませんよ。それに今は焼いているところですから、もう少し掛かりますわ」
「むぅ……それは、仕方ないな」
なので私の部屋に行きましょう、と手を引かれ朱乃ちゃんの部屋に向かった。
「どうぞ」
「ん、あっがと」
朱乃ちゃんが淹れてくれたお茶を飲み、まったりと脱力する。ふぅー、やっぱりお茶はいいねぇ。落ち着くわー。
例の如く絶賛抱きしめられ中。もう朱乃ちゃんの膝の上が定位置になっちゃったよ。僕の髪を優しく梳く。
「レイくんの髪は触り心地がいいですわね、サラサラで。何かお手入れでもされてるんですか?」
「んー? 特には何もー。TS○B○K○のシャンプーで洗ってるだけだよー?」
資生堂のシャンプーは髪に大変よろしいのです。
「羨ましいですわ。何も手入れをされていなくてコレなんて」
「むふー、じゃあ今度、TS○B○K○貸してあげるー」
他愛のないことでクッキーが焼けるまで時間を潰していると、朱乃ちゃんが唐突にこんなことを聞いてきた。
「つかぬ事をお聞きしますけど、レイくんの親戚で背の高い男性の方はいらっしゃいますか?」
「んー、いないけど」
「そうですか……」
聞くところによると、朱乃ちゃんが小さい頃に助けてくれた男の人がいるらしい。そして、その男の人と僕の魔力の波長が似ているのだそうだ。
「もう一度合えたら、あの時のお礼が言いたいんです」
そう言って遠い目で語る朱乃ちゃんの顔が、何故か凄く綺麗に見えた。
「そっか、会えるといいね」
「はい」
しかし、僕の魔力に似ている人ねぇ。僕の魔力と波長の合う人なんて滅多にいないと思うけど、誰なんだろうね。
「でも、僕に親族はいないしなー。残念だけど心当たりはないねぇ」
「レイくんのご両親は?」
「僕に両親はいないよ。独りっ子さ~」
「……ごめんなさい」
「んー? 別に誤る必要はないよ。もう大分昔のことだしねぇ。今じゃ顔どころか名前すら思い出せないよ」
まあそんなもんさ、気にしない気にしない。
しばらく何かを考えていたが、おもむろにギュッと僕のお腹に回した腕を強めた。
「朱乃ちゃん?」
「――なら、私が姉になりますわ」
「え?」
「家族がいらっしゃらないのでしょう? 今から私がレイくんの家族ですわ」
朱乃ちゃんは僕の頬と自分の頬をくっつけた。
「ですので、あなたはもう一人じゃないのですよ?」
「家族、か」
別に寂しいと思ったことは一度もない。血縁者の顔も名前も覚えていないし、両親を欲しいと思ったこともない。一人で過すことに不便を感じたこともないし、不満もない。
――だけど、
「……なら、朱乃ちゃんはお姉ちゃんだね」
少しだけ、胸の辺りがポワッとした。
† † †
「姉よ、僕はクッキーを所望する! さあ、Halley! Halley! Halley! Halley! Halley! Halley! Halley! Halley!」
「あらあら、ちゃんとありますから、そう急かさなくても大丈夫ですよ。はい、あーん」
「あー」
――パクッ。モッキュモッキュモッキュモッキュモッキュ!
「うふふ、新しくできた弟は可愛いですわね」
「あら、なら私の息子にもなるのかしら?」
「お母様!」
僕の食べる姿を見学していた朱乃ちゃん――いや、朱乃お姉ちゃんの隣に、いつの間にかママさんが居た。僕でも気が付かなかったぞ……さすがはママさん。まじぱねぇ!
「それとも、戸籍登録をして本当に家族になっちゃう? 私は大歓迎よ」
「もう、お母様! そんな無茶なこと――……どうなのかしら?」
朱乃ちゃんが顎に指を当てて真剣にお考えの様子。そして、ママさんが意外と能動的だったことに僕はビックリだ。
「んー、僕はいいや。今の家も気に入っているしね」
僕の家は普通の二階建ての一軒家だが、魔改造した結果カオスな造りとなった。
結構、心血を注いで改造したからね。それなりに気に入っている。
「そう、残念ね……。でも、レイくんは私たちにとってもう家族なんだから、それだけは忘れないでね」
「ん……」
ママさんに優しく抱擁される。また胸の辺りがポワッとしたが、決して不快な気分ではなかった。
「それにしても本当にレイくんは可愛いわねぇ。女の子みたいで」
「そうですわよね、肌もスベスベで髪もサラサラですし」
「今度、朱乃の古着を着せてみましょうか」
「あらあら、レイくんならきっと似合うでしょうね」
親子でキャイキャイと会話の花を咲かせる。その間、僕はずっとクッキーに手を伸ばしていた。クッキー、うまー。
「どうです? 今度、着替えてみませんか?」
「んー? いいよー」
別に女物の服を着るくらい。それでお姉ちゃんが喜ぶなら安いものさね。
朱乃お姉ちゃんは胸の前で手を合わせて嬉しそうに微笑んだ。
その後は美味しくカレーを頂きましたとさ。
後書き
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