ホフマン物語
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第二幕その四
第二幕その四
「何があるんだ?」
「では中に来てくれたまえ」
「わかりました」
しかしホフマンはそれに気付くことなくそれに従った。
「では大広間に」
「はい」
こうしてホフマンとニクラウスはスパランツェーニとコッペリウスに案内されて家の中に入った。そして大広間にまで案内されたのであった。
大広間は赤いカーテンと緋色の絨毯で色彩られた綺麗な部屋であった。右端に軽食や酒が置かれたテーブルがあり左端に客達が入って来ていた。その中にホフマンとニクラウスもいた。
「綺麗な部屋だな」
「うん」
何も知らずただ喜びを露わにするホフマンに対してニクラウスは慎重に周りを見ていた。
「今のところ何もないか」
「ニクラウス」
ホフマンはここで彼に声をかけてきた。
「何だい?」
「いや、何か気になってね」
「何に関してだい?」
「君のことがだ」
「僕のことか」
それを聞いて内心少し残念に思った。
「うん。何かそわそわしていないか」
「別に」
彼はこう言ってそれを否定した。
「君の気のせいだろ」
「そうか。ならいいんだが」
「だけど。気をつけてはおいた方がいいね」
「何に関してだい?」
「それもすぐわかるよ。その時後悔はしないようにな」
「何だかよくわからにけれどわかったよ」
ホフマンは頷いた。
「まあもうすぐ天使もここに来るしね。その加護を期待しようよ」
「天使、かい」
「ああ」
「それが・・・・・・いやいい」
ニクラウスはそれ以上話そうとしなかった。そうしている間にスパランツェーニが大広間の中央にやって来た。
「皆さん」
彼は客達に対して言った。
「私は今日皆さんに紹介したい者がおります」
「それは一体」
客達がそれに問う。
「我が娘です」
「娘!?」
客達の中にはそれを聞いて不審に思う者もいた。
「娘さんですか」
「はい」
「貴方に娘さんがおられたのですか」
「言いませんでしたっけ」
「初耳ですぞ」
「やっぱりおかしいな」
ニクラウスはそれを聞いて一人呟いた。
「何かあるのか」
「そして娘さんの御名前は」
「オランピアです」
「彼女のことだ」
ホフマンはそれを聞いてその顔を晴れやかなものにさせた。
「ニクラウス、聞いたな」
「ああ」
ニクラウスは疑わしげな目でスパランツェーニを見ながらそれに応えた。
「どうにもね。はっきりと」
「そう、僕もはっきりと聞いた」
二人の聞いているものは同じものでも考えているものはまるで違っていた。
「確かにね。もうすぐだ」
「ではオランピアがここに来ます」
「いよいよだ」
「いよいよだね」
二人の表情は完全に異なるものとなっていた。ホフマンは飛び上がらんばかりであり、ニクラウスは用心という鎧を纏った顔であった。二人はその顔のまま右手の扉が開くのを見守っていた。
やがてまるで蝋の様に白い顔の少女が入って来た。プラチナブロンドの髪に大きな緑の目を持っている。唇は赤くまるで薔薇の様であった。
顔立ちはこの世のものとは思えない程美しかった。まるで童話の挿絵の中の妖精がそのまま出て来たようであった。
身体も細くまるで針の様である。その身体を白い絹のドレスで包んでいた。
「何て美しいんだ」
ホフマンはその姿を見て思わず息を飲んだ。
「そうだな」
「君もやっと納得してくれたんだね」
ニクラウスが頷くのを見て嬉しそうに応えた。
「ああ」
ニクラウスは頷いた。そして言った。
「まるで」
「まるで。何だい?」
「この世のものじゃないみたいだ」
「皆さん、こちらにいるのがオランピアです」
スパランツェーニは彼女が横に来たのを確かめてからまた言った。
「如何でしょうか」
「嘘の様な美しさです」
客達もホフマンと同じ様な返答であった。
「幻みたいだ」
「美しいのは姿だけではありませんよ」
スパランツェーニは思わせぶりに笑いながら述べた。
「歌も。素晴らしいのです」
「まことですか」
「はい」
スパランツェーニは頷いた。その間オランピアは表情一つ変えてはいなかった。それどころかピクリとも動きはしない。ただ父の横に立っているだけであった。
「どんな楽器の演奏にも合わせますが。どれが宜しいですかな」
「そうですな」
「ハープなんかはどうでしょうか」
ここで若い男の客が言った。
「おや、コシュニーユさん」
それを聞いて他の客が声をあげた。どうやらこの若い客の名はコシュニーユというらしい。
「ハープがお好きでしたか」
「あの様にこの世のものとは思えない方にはハープの声こそがいいと思いますが」
「成程」
客達はそれに納得した。
「それではハープで宜しいでしょうか」
「はい」
客達はスパランツェーニの声に頷いた。
「私共に異存はありません」
「それで宜しいです」
「わかりました。ではハープを」
「畏まりました」
主の言葉に従い使用人達が下がる。そして暫くして大きなハープを持って来た。
「それではいいな、我が娘よ」
「はい」
オランピアは父の手が肩に触れると頷いた。まるで機械の様に向き質な動作と声であった。ニクラウスはそれも見ていた。
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