魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Episode ZERO:Vivere Est Militare....Fin
†††Side????†††
「・・・ち・・うえ・・・」
なに・・・?
「・・・起きて・・・さい・・・ちち・・え」
起きろ・・・?
「起きて下さい、父上。ここで眠っていては風邪をひいてしまいます」
「あ?・・・ああ、すまない。眠ってしまっていたか・・・」
いつの間に寝ていたのか、私は机に突っ伏していた。指を組んで「くぅーーーっ」腕を頭上に掲げでグッと伸びをすれば、体のあちこちからポキポキと鳴った。ぐるりと見回せば、ここがセインテスト王家の城であるグラズヘイム城、その執務室であることをが判った。何故、私は執務室の机で眠っていたのか? 寝惚けているのか思い出せない。
「父上。お休みになられるのであれば、寝室へどうぞ。風邪をひかれてしまいますゆえ」
「ありがとう、バンヘルド。しかし、まだ仕事が残っているからな。寝ていられないさ」
執務室に居た理由を思い出して、そう返す。先ほどから私を心配そうに見ているのは、ワインレッドの髪をオールバックにした30代くらいの男、バンヘルド。
私、アースガルドのセインテスト王ルシリオンと、氷零世界ニヴルヘイムの第二王女シェフィリスの子供だ。私とシェフィの子供。本心からそう思っているが、しかしバンヘルドが生まれた理由を思えば誤魔化していると言えるな。
「つい先日。父上は同じ事を言い、体調を崩されていました」
「う゛っ。いやいや、今日は大丈夫だ、問題ない」
「・・・・(じぃー)」
ものすごい見られているな。視線で穴が開きそうだよ、バンヘルド・・・。
「・・・・頼む、じぃーっと見ないでくれ。居心地が悪い」
「判りました。ですが、しばらく傍に控えさせていただきます」
完全自律稼働人型魔道兵器・“戦天使ヴァルキリー”。それが、バンヘルドの正体だ。私とシェフィが愛し合って、そして彼女が腹を痛めて生んだ子ではない。魔術を用いて誕生させた、戦争を終わらせるための戦力として創り出した人工生命体だ。
「もしかして・・・シェフィに言われたか?」
「はい。母上は父上の事を心配しておられます。無茶をしているようであれば、お止めするように、と」
「シェフィとて無茶をしていると思うが・・・?」
私とシェフィは、まだ完全とは言えない“ヴァルキリー”のシステムを究極にするために日々研究している。今現在、“ヴァルキリー”はバンヘルドを含めた3機がすでに稼働していて、3機が稼働準備中だ。今後の世代を究極に近づけるための実験部隊である第一世代の6機。この子たちの実践記録を活かして、次世代の“ヴァルキリー”を究極にする。
「母上の元には、リアンシェルトが控えておりますゆえ」
「そうか。ガーデンベルグはどうしている?」
「お忘れですか? イヴィリシリア様、セシリス様との実戦訓練です」
「ああ、そうだったか。ダメだな、まだ寝惚けているのかもしれない」
リアンシェルトというのは、先に挙げた稼働機の内の1機で、第一世代の副隊長を務めることになるシリアル02。ガーデンベルグもそう。第一世代の隊長を務めることになるシリアル01。ちなみにバンヘルドは03だ。試作機のシリアル00も居たが、すでに機能停止していて、今はゆっくり休ませている。にしても、だ。
「バンヘルド。お前、その体に不満とかないか?」
私を含めた“アンスール”の誰よりも年上の外見であるその体について、バンヘルド自身が何か思っていないか訊いてみる。
「不満ですか? 特にシステムに不具合も無く・・・・・・自己検査の結果も問題がありませんが」
「そうじゃなくて、何と言うか、外見年齢・・・とか」
「確かに、私の外見年齢だけが高く設定されていますね。ふむ、不思議には思います。ガーデンベルグとリアンシェルト、稼働準備中のグランフェリア、レーゼフェア、フィヨルツェンのどれもが10代20代の外見・・・」
バンヘルドが腕を組んで唸り始めた。アンスールメンバーの大半は10代だ。私は今17歳。一番年上は、無圏世界ニダヴェリールの王ジークヘルグの22歳だ。今後の“ヴァルキリー”の外見年齢は確定していないが、まず30代はない・・・と思う。
「父上がお決めになったのですか?」
「いや・・・ヴァルキリーの外見や人格などは、基本的にシェフィが決める。私からもいくらか注文するけどな」
“ヴァルキリー”に男性型を作ろうと考えたのもシェフィだ。詳しい理由は聞いていないけど、何らかの将来における予行演習などと言っていた。一体なんの予行演習なのかはサッパリだ。とりあえず、それは置いておいて、だ。バンヘルドの大人びた外見も、シェフィの考えによるものだ。その理由として、
「バンヘルド。お前は、私はもちろんシェフィに期待されているんだよ。第一世代ヴァルキリー・・・ブリュンヒルデという名にする予定なんだけどな。そのブリュンヒルデの抑止力として、お前を選んだ」
「抑止力、ですか・・・?」
私は椅子から立ち上がり、執務机の後ろに在る窓枠へと腰掛けた。
「ああ。バンヘルド、お前の感情制御プログラムは徹底してあるんだ。ブリュンヒルデの感情による暴走を抑える司令塔とするために。で、シェフィは言った。隊長・副隊長を差し置いての司令塔になるなら、威厳のある外見じゃないとダメだよね、と」
シェフィのそんな思考に少しついて行けなかったが、楽しそうだったから見守った。それで完成したのがバンヘルドだ。話し終えると、バンヘルドが「威厳・・・。私に有りますか?」と訊いてきた。物静かで礼儀正しく、落ち着き払った佇まい。ガーデンベルグとリアンシェルトよりは威厳がある。
「ああ。お前が隊長だと言われても違和感がないくらいにな。バンヘルド。お前がブリュンヒルデを支えてやってほしい。父からの願いだ」
17歳で子持ちだとか。ゼフィ姉様がご存命であったならなんと言うだろうか。私が結婚し、子供を作るまでは元気でいると言っていたから、きっと年齢など関係なく喜んでくれるかもしれないな。
「了解しました、父上。父上と母上のご期待に添えられるよう、全力を注ぐ次第です」
強く首肯したバンヘルド。それに安心した私は、急な眠気に襲われた。第二世代の開発準備にもそろそろ手を付けないといけないために2日も徹夜した所為だろう。さすがにもう起きていられない。が、休む前にもう1つ、バンヘルドに伝えたいことが。
「バンヘルド」
「はい。如何しましたか? 父上」
「シェフィと決めて、お前たちヴァルキリーを最低でも200機は生み出すつもりでいる。そのくらいいなければ、今のヨツンヘイム連合の大戦力には到底敵わない。そして戦力を整え次第、私たちは苛烈を極めている戦場に出ることになる」
科学という技術を用いた巨大人型戦術兵器A.M.T.I.S(アムティス)に、最下層魔界から召喚した魔族、高ランクの魔術師軍団。味方に付けている世界数(大半が強迫によるものだが)も、私たちアースガルド同盟より多い。一度そこで区切る。バンヘルドは黙って耳を傾けてくれている。
「だから、力を貸してくれ。私たちに勝利を与えてくれ」
「もちろんです。そのために我らヴァルキリーは生まれたのですから。父上や母上はもちろん、アースガルド同盟の皆を守り、支え、必ずや勝利を捧げます」
バンヘルドが私の前で片膝をついて右手を自身の胸の上に添え、忠誠の姿勢を取った。ああ、何も心配しないで良いんだ。私たちは絶対にヨツンヘイム連合に勝つ。フノスの立案したアンスール・プロジェクト。私とシェフィのプロジェクト・ヴァルキリー。
そして共に戦ってくれる同盟世界の魔術師たち。みんなが力を合わせれば、連合如き。立ち上ったバンヘルドに向かって右拳を突き出す。少し戸惑った様子だったが、何をすればいいのか察したバンヘルドも拳を突き出し、
「勝つぞ、バンヘルド」
「はいっ、父上!」
コツンと突き合わせた。「あ、もうダメだ・・・」もう立っているのも辛い。幸いなことに執務室には横になれるほどに大きく長いソファが在る。フラフラとソファに歩み寄り、「さて。少し疲れた。一休みするよ」バンヘルドに告げる。
「あっ、お休みになられるのであれば寝室で・・・!」
フカフカなソファに倒れ込み「無理」一言だけ告げて、無意識にでも閉じようとしていた瞼を、もう抵抗せずに閉じる。
「無理って・・・。父上に風邪を引かれては、私が母上に叱られて――はぁ。お休みなさいませ、父上」
◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦
そこは円形の大ホール。直径は100mほどはあり、天井までの高さは20mほど。
薄い水色のクリスタルのような材質をした六角形のブロックを敷き詰めた石畳、滑らかに曲線を描く壁面やドーム状の天井もまた同様の材質で出来ている。壁際には、水槽のような支柱が一定間隔を開けて何柱もそびえ立っている。
そんなクリスタルの大ホールは窓も無ければ明かりになるような松明なども無いのに、とても明い。大ホールを構築しているクリスタルすべてが光明として機能しているからだ。
「バンヘルドが逝ってしまったな・・・」
大ホールに若い男の声が響く。大ホールの中央には、背もたれの形状が風船の側面のような肘掛け椅子――バルーンバックアームチェアが8脚。1脚は他の7脚よりも大きく、そして装飾も派手だ。それはさながら王の座る玉座。
今の声は、その玉座と向かい合うように横に並んでいる残りの7脚の内、中央の席に座っている青年が発したものだ。銀の髪にアップルグリーンの瞳、黒の長衣・スラックス、灰色のロングコートという出で立ち。名をガーデンベルグ・ブリュンヒルデ・ヴァルキュリア。しかし今は“ヴァルキュリア”ではなく“エグリゴリ”と名乗っているが。
「だな。・・・・もとより単独で挑んで勝てるとは思ってもいないしな」
一番左端に座る青年が僅かに俯きながら呟いた。オリエンタルブルーのツンツン髪、ワインレッドの鋭い瞳、前開きの黒ハイネックタンクトップ・レザーパンツ・白のロングコートという出で立ちの青年、シュヴァリエル・ヘルヴォル・ヴァルキュリア。
シュヴァリエルのその言葉に、他の椅子に座る“エグリゴリ”がガーデンベルグの右隣の空席に目をやる。今は亡きバンヘルドの椅子だ。数千年と行方を晦ましていた“エグリゴリ”が全機揃っている。そう。ここは、“エグリゴリ”の本拠地。そこは、ルシリオンも知っている場所。彼にとって全ての始まりにして終わりになる地。しかし訪れることが出来ない地。
「・・・本当に、これで良かったのかなぁ・・・?」
バイオレットのショートヘアは、カチューシャ付けていることでインテーク化、クリムゾンの瞳は猫目で、口も猫のように端が上がっている。ハイネックの黒セーター、白のロングコート、コートの裾から覗くズボンは黒、茶色のブーツという出で立ち。レーゼフェア・ブリュンヒルデ・ヴァルキュリア。“夜天の書”とシュリエルリートを砲撃で殺した張本人だ。
彼女の視線がバンヘルドの空席から玉座――よりずっと奥へと向けられる。他の“エグリゴリ”もそちらへ目を向けた。天井より下がる赤い垂れ幕に挟まれるような形で存在している扉。その奥に、一体何が在るのだろうか。“エグリゴリ”全機の瞳には、深く様々な感情が見え隠れしていた。
◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦
“エグリゴリ”の居る大ホールの奥に在った扉の先。ここは何かしらの儀式を行う祭壇のある部屋。大ホールとは打って変わって煉瓦造りの六角形の寂れた部屋で、6つの角には燭台が設けられている。しかし火は灯っていないため、室内は暗闇になるはず。しかし室内は微かにだが明るかった。
部屋の最奥に設けられた祭壇の上に、桃色に光り輝く球体上の膜が浮いていた。それが明かりの替わりとなっていた。膜の中には、何か黒いモノが漂っている。それは、ルシリオンだった。両腕・両足どころか胸部から下が全て消え失せている姿。
ベルカ・クテシフォン砂漠での堕天使バンヘルドとの決戦。その結末は、バンヘルドの完全破壊で終わった。が、勝利直後にそれは起きた。レーゼフェアとフィヨルツェンの2機による奇襲攻撃。シュリエルリートはレーゼフェアに殺され、ルシリオンはフィヨルツェンの魔道によって肉体を破壊された。そんな彼は消滅せず、確かに存在している。もはや死体と言われても不思議ではない惨い姿で。
「イリュリアとの第一ゲーム、バンヘルドとの第二ゲーム・・・」
桃色の膜が放つ光がギリギリ届かない隅っこのところに、人影が1つ佇んでいた。闇で姿は見えないが、声からして幼い少女のようだ。その声は“エグリゴリ”の誰の物でもない。
「どうでしたか? 良い思い出を作ることが出来ましたか?」
少女がルシリオンに語りかける。その声には自分が犯した行為への僅かな罪悪感に含まれていた。だがルシリオンは応じない。死んでいるわけではない。もし死んでいるのだとしたら、間違いなく消滅しているからだ。意識が完全に途切れている。彼が目を覚ます時、それは彼の肉体が完全に修復された時になるだろう。静まり返る中、ルシリオンから「バン・・ヘルド・・・」囁き程度の声が漏れた。
「夢を観ているのですね。良い夢ですか?」
寝言らしいソレについて、少女は答えなど返ってこないことを知りつつも尋ねた。
「・・・次・・・。第三ゲームは・・・」
少女の面前に、空間モニターのような物が5つと展開された。そこには映っていたのは、青い石。栗色の髪をツインテールにした娘。金色の髪をツーサイドアップにした娘。フェレット。オレンジ色をした毛並みの大きい狼。
「ジュエルシード。高町なのはさん。フェイト・テスタロッサさん。ユーノ・スクライアさん。アルフさん」
少女が口にした名前。それら全てがモニターに映る者たちの名前だ。
「あなた達に踊ってもらいましょう。すべて貴方の為。・・・ルシリオン様・・・」
少女は最後にそう呟いて、その姿を忽然と消した。
†††Side????†††
ルシリオンさん達が居なくなってからもう4年。わたしはもう21歳となり、アムル領の領主としてすでに政を行っている。この4年の内でいろいろなことが起きてしまった。聖王戦争の勃発。尊敬するオリヴィエ様の死。クラウス殿下の王位継承。
オリヴィエ様の死をきっかけに、クラウス陛下は戦にのめり込んで行ってしまった。今日もまたどこかの戦場へと出向いて行ったと思う。ルシリオンさん。ごめんなさい。せっかく平和な時間を作っていただいたのですが、今のベルカの戦火はもう留まることを知りません。
「「ママ~。どこぉ~?」」
アムル領の本都(と言えるほど広くないけどね・・・)となったアムル。修復した屋敷の執務室の窓から、中央広場にそびえ立っているグラオベン・オルデンのみなさんの石像を眺めていると、廊下の方からわたしを呼ぶそんな声。落ち込み気味だったけど、その声でいや~な空気が吹っ飛んじゃった。
「は~い♪ ママはここですよぉ~❤」
執務室の扉を開けて廊下に出て、愛おしい娘と息子にわたしの居場所を教える。わたしと目が合うと、2人は「ママーっ❤」って両腕を広げながらトテトテ駆けて来た。
(や~ん、可愛い~❤)
頬に手を添えてウットリ見守る。ルシリオンさん。わたし、あなたの子供を産んじゃいましたっ❤
双子の姉弟ですよっ。お姉ちゃんの名前は、ルル。弟くんの名前は、ベディヴィア。
もう4歳です。やんちゃです。でも愛嬌があって、母親のわたしはメロメロなんですっ❤
でも残念です。ルシリオンさん。夫であり父であるあなたがわたし達の傍に居ません。すごく逢いたいです。2人ともルシリオンさんの髪型ソックリなんですよ。瞳と髪の色はわたしと同じで、髪は茶色、瞳は青。どうせならルシリオンさんの銀の髪や紅と蒼の虹彩異色を継いでもらいたかったなぁ~なんて。
「あぅ・・っ?」
「「あ」」
ベディが転んだ。絨毯が緩衝材として衝撃を和らげてくれるはずだから、そんなに痛くないんだけど・・・。でも幼い子供は痛いとか痛くないとか関係なく、ビックリしただけで泣いちゃう。さっそくうるっと瞳を涙で濡らしちゃうベディ。すぐに駆け寄りたい衝動に駆られる。でも大丈夫。ベディの傍には、頼りになるお姉ちゃんが居るんだから。
「大丈夫? ベディ。泣いちゃダメ。ママが悲しんじゃうから」
「あ、う、うん・・・ぼく、泣かないよ」
「えらいよ、ベディ! ルルお姉ちゃんもありがとねっ♪」
ルルはベディの手を引っ張って立ち上らせて、よしよしって頭を撫でる。ルシリオンさんのクセのような頭なでなでをするルル。
(これは遺伝なのかな?)
わたしのところに辿り着いた2人をギュッと抱きしめて、頬に口づけをする。シュテルンベルクの血を引く女性にのみ発現する能力クス・デア・ヒルフェはもう発動しない。たぶんルルに引き継がれちゃったんだね。けど、もう必要ない。ルシリオンさんが居ないんだから。
「ママ。あのね、アギトお姉ちゃんとアイリお姉ちゃんが帰って来たって、隣のお姉ちゃんが言ってたよ」
「ルファせんせーとモニカせんせーも一緒だって!」
「そっか。今回も無事に帰って来てくれたんだね。お迎えに行かないと!」
モニカとルファは医師として、アムルのみならず近隣の街や村にまで出向いて医療に従事している。アギトとアイリはその護衛として同行。ルシリオンさん達が居なくなってすぐの頃、4人は本当に泣いてばかりいた。当然と言えば当然かな。モニカとルファはろくに挨拶も出来なかったんだから。
アギトとアイリは、みんなと最後まで一緒に戦えなかったことに後悔していた。だけど泣いてばかりじゃ示しがつかないって自力で立ち上がってくれて。医者の師であるルシリオンさんとシャマルさんに笑われないようにって、モニカとルファはすごく頑張ったんだ。
(一時はどうなるかと思ったけど。やっぱり大好きな人の事を思えば、沈んでばかりいられないもんね。・・・けど)
アギトとアイリは、みんなの代わりに戦場に出ようとした。だけどわたし達、そしてクラウス陛下やオリヴィエ様にすら止められた。
(ルシリオンさんの遺言みたいなものらしいんだけど・・・)
ルシリオンさんがクラウス陛下たちに、アギトとアイリを戦場に出さないようにしてほしいって、頼んでいたってことを後で知った。でも2人は首を縦に振らなかった。戦える力を持ってるんだから、その力をわたし達アムルやシュトゥラの為に使いたいって。
最初の数ヵ月は押し問答で平行線だった。けど最終的にクラウス陛下が折れて、最前線には絶対に出ない事だけを2人に誓わせた。もし戦争が起きた場合、後方の援護・支援の任に就くことになって、これまでに何度かその任に就いてきた。
「ただいまっ、エリーゼ、ルル、ベディ!」
「アイリ、お腹空いたぁ。アンナに何か作ってもらってよ~」
「こら、アイリ。まずは・・・」
「判ってるって。ただいま、エリーゼ、ルル、ベディ♪」
玄関にまで下りてくると、すぐにアギトとアイリと逢うことが出来た。2人はお腹を鳴らしてフラフラ気味。わたし達は2人に「おかえりなさいっ♪」出迎えの挨拶。家族みんなで、アンナの居る食堂へと向かう。うん、シチューの良い香りがエントランスにまで漂ってくる。
アンナはルシリオンさん達が居なくなっても気丈に振る舞ってた。わたしとルシリオンさんがお別れする直前に、ルシリオンさんに想いを断られちゃったみたいで。それにちゃんとお別れもしたって言っていた。強いなぁ。わたしなんてやっぱり泣いたもん。
「ただいま、アンナっ。美味しいお昼ごはん、お願いしますっ!」
「「しま~すっ」」
アイリが食堂に着くなり元気いっぱいに挙手。ルルとベディヴィアもマネして挙手。あ~ん、可愛い❤ で、アイリは「変なこと教えちゃダメだぞ」って、アギトから注意されちゃった。アギトってば、ルルとベディヴィアのお姉ちゃんみたい。厨房に居るアンナもそんな様子に微笑んでる。
「それじゃ久しぶりに家族みんなで昼食ね。みんな、手を洗って」
「「「「はーい!」」」」
厨房に入って手を洗う子供たちを、わたしとアンナは見守る。ルシリオンさん。シグナムさん。シャマルさん。ヴィータ。ザフィーラさん。シュリエルさん。みんなとの思い出を胸に、わたし達は生きていきます。あ、シグナムさん達に1つお願いが。もしどこかでわたし達の子孫に出逢ったら、その時はよろしくお願いしますね。みんなが大好きなルシリオンさんと、そしてわたしの大事な子供の子孫ですから♪
◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦
ベルカ。騎士と言う、己の誇りに命を懸け、守るべき国の為、民の為に戦場を駆け、散って逝った者たちが生きていた世界の名。
ベルカに住まう全ての命の為と、ベルカ統一を掲げる幾多の国が争い、滅び、分裂して新たに生まれ、また争って滅ぶ。そんなサイクルを続けてきたベルカは、とうとう決着つかずのまま滅びの終着点へと辿り着いてしまった。次元世界を襲った大規模次元震。ベルカを含めた幾つもの世界が崩壊してしまった。
そんなベルカは、史実として語り継がれていくことになる。だが、その内容の大半は戦についてであり、半ば内容が食い違っていたり半透明だったりと曖昧だが。そんな語り継がれるベルカ史の戦の中でも特に有名なのが、イリュリア戦争と聖王戦争の2つ。
たった一国に世界を滅亡されそうになったイリュリア戦争。その結末まで。そのイリュリア戦争の話の中――いや、ベルカ史実の中でも有名なのが、ある1人の英雄の名。
――オーディン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロード――
聖王女オリヴィエ。覇王イングヴァルト。雷帝ダールグリュン。冥王イクスヴェリア。殺戮王テウタなど、名の有る王たちと肩を並べる者の名前。彼は王ではなかった。アムルという町の医者だ。しかし、肩書などまったく意味の無いモノにするほどの実力を持っていた。
ベルカ歴史書にも彼の名が記される。イングヴァルトやオリヴィエと懇意にし、ダールグリュンやイクスヴェリアとも顔見知り。そして世界を滅ぼすに足るイリュリアの兵器を単独で破壊したという。その強さに敵国にはシュトゥラの悪魔・魔神と恐れられ、シュトゥラでは魔導騎士という称号を得ていた等々。
しかしそんな彼もまた人間だった。イリュリア戦争終結から聖王戦争勃発までの間に、オーディンは死亡したとされている。その辺りの情報は多くは無い。病死・事故死・戦死。歴史学者によって見解が分かれるが、中でも有力とされているのが、戦死した、というものだ。兵器“エグリゴリ”。時折見られるこの単語。オーディンとこの“エグリゴリ”の間には因縁があり、彼の目的が“エグリゴリ”の破壊にあった、とされている。
イリュリア戦争後、オーディンが“エグリゴリ”と戦うためにシュトゥラを離れた、という文献が見られる。覇王イングヴァルトの手記にもそう記されている。オーディンはその時期より後、表舞台には出ていない。その事から、オーディンは“エグリゴリ”に敗れて戦死した、という推測が生まれるのだ。しかし真実のほどは定かではない事を注記する。
武技において最強と謳われる聖王女オリヴィエと肩を並べる、魔導において最強の魔神オーディン。
彼の足跡は聖王戦争勃発前までだ。が、彼とシュトゥラのアムル領領主エリーゼ子爵の間には双子の姉弟が居たとされる。
姉ルル・セインテスト・フォン・シュテルンベルク。弟ベディヴィア・セインテスト・フォン・シュテルンベルク。
2人は成長した後、シュトゥラの騎士・魔神の後継騎として、数々の武勲を立てたそうである。そしてその血は延々と受け継がれて・・・・。
――序章・騎士の世界ベルカでの魔術師と騎士による物語は、これにて閉幕。
第一章・魔術師は時を越え、再び魔導師と邂逅する物語。そして彼は選択を迫られる。
その先に待っているのは喜劇か、または悲劇か。それが判るのはもう少し先の未来――
Next Episode....EpisodeⅠ:Te Ratio Ducat,Non Fortuna
後書き
ボン・ディア。ボア・タルデ。ボア・ノイテ。
エピソード・ゼロ、ようやく終了です。結構かかりましたなぁ~。
さて。まずは、エリーゼが未亡人になっちゃいました(何やらせてんだ、私は・・・orz)。
まぁ、ルシルと結婚はしてませんが。そういう事にしておこうか、と。
そして・・・お待たせしました(のか?)、次章から『リリカルなのは』本編の開始です。
本編中に出て来たように、ジュエルシード事件から開始です。あ、次に投稿するモノは、エピソード1の本編ではないのであしからず。
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