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セビーリアの理髪師

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25部分:第二幕その九


第二幕その九

「雨ですな」
「そうだ。急がなくては」
 バルトロは焦った顔で述べる。
「今のうちに公証人を呼んで」
「ロジーナさんと結婚されるのですか?」
「そうだ。駄目か?」
「それは難しいかと」
 バジリオは外の方に顔を向けて答える。
「この雨ですから。嵐ではないですか」
「しかしだ」
「それにですね」
 バジリオは言葉を続ける。
「公証人さんは今日は駄目ですよ」
「どうしてだ?」
「フィガロさんのところに御用があるんですよ」
 バジリオはそう述べる。
「フィガロの!?」
「何でもフィガロさんの姪御さんが結婚されるそうで」
「馬鹿な、そんなことは有り得ない」
 バルトロはそれをすぐに否定した。
「あいつに姪はいないぞ」
「何とっ」
 バジリオはそれを聞いて口を大きくさせてしまった。その細長い顔がそれによりさらに細長く見える。まるで茄子のようになってしまっている。
「初耳ですぞ、それは」
「いや、まさか」
 ここでバルトロの推理も働いた。珍しいことに。
「その姪というのはまさか」
「ロジーナさん」
 二人はすぐに気付いた。気付いて愕然となる。
「大変ですよ、それ」
「そう思うな、早いうちに手を打たないと」
 彼等は言い合う。
「これはいかん、先生」
「はい」
 バジリオはバルトロの言葉を受け取る。
「すぐに行ってくれ、いいか」
「わかりました」
 力強く頷いた。
「それではすぐにでも」
「わしもわしで手を打とう」
「何か切り札があるのですな?」
「うむ、この手の中にある」
 不敵ににやりと笑って答える。
「任せておいてくれ。では先生は」
「わかりました。外に出ますので」
「雨の中済まないな」
「報酬は弾んで下さい」
 バジリオはにこりと笑ってそう返した。
「嵐の分は」
「わかった。いつもの倍だ」
「有り難うございます」
 そんな話をしてすぐに立ち去る。バルトロは一人になるとすぐに部屋の鐘を鳴らした。そうしてロジーナを呼ぶのだった。
「ロジーナ、来なさい」
「はい」
 ロジーナはすぐに降りてきた。バルトロは立ち上がって彼女に顔を向ける。その顔は異様なまでににこにこ、いやにやにやしたものであった。
「御前に渡したいものがあるのだ」
「何でしょうか」
「うむ、これだ」
 ここで先程あの怪しげな音楽教師から貰った手紙をロジーナに手渡す。ロジーナはその手紙を見て怪訝な顔になった。バルトロはその顔を見ながら言葉を続ける。
「その手紙はな」
「ええ」
 先程受け取ったそれはロジーナがリンドーロに渡したものである。それをどうしてバルトロが持っているのかが大きな謎であった。彼女にとって。
「あの音楽教師と床屋は食わせ物だ」
「またどうしてですの?」
「その手紙でわからないか。あの二人は御前を裏切ったのだよ」
「そうだ。だからこそそれがわしの手に渡り御前の手に渡る」
 そう語る。そうしてさらに言葉を続ける。
「全てはな。あの二人は御前を騙していた」
「私を!?」
「この手紙をアルマヴィーヴァ伯爵に渡すつもりだったのだ。それをわしが取り上げたのだよ。他ならぬ御前の為にね」
 これは嘘だったがロジーナにはそれはわからない。彼にとって都合のいいことに。
「嘘っ、そんな」
「わしは嘘は言わない。医者だぞ」
 この言葉は嘘である。
「わかるな。御前は伯爵に売られるところだった」
「あの二人・・・・・・」
 ロジーナはその言葉を信じて怒りに震える。
 
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