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セビーリアの理髪師

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20部分:第二幕その四


第二幕その四

「ロジーナですわ」
「はい。それではですね」
 ここで彼はにこやかに言う。部屋の隅にハープシコードを見つけるとそれを出してきた。
「早速レッスンをはじめますが曲はどれが得意ですか?」
「無駄な用心のロンドを」
 ロジーナはにこやかに笑って答える。
「それを御願いしますわ」
「ではおじ様」
 ロジーナはここですっかり手持ちぶたさになっていたバルトロに声をかけた。
「今からはじめますので」
「うむ、わかった」
 紳士でありたいと考えるバルトロはその言葉に素直に従った。そうして彼が立ち去ると伯爵は本当の顔を見せてロジーナに近付くのだった。
「では。いいかな」
「ええ」
 殆ど恋人同士の顔になっている。その顔で言葉を交えている。
「ロンドを」
「無用心のロンドだったわね」
「いや、ここは変えよう」
 だが伯爵はこう提案してきた。
「貴女に相応しい歌に」
「私に!?それは一体」
「そうだね。情熱的なものがいいね」
 伯爵はにこりと笑って述べた。
「激しい愛の炎が燃える心にはっていうのはどうかな」
「ああ、あのアリアね」
 そのアリアはロジーナも知っていた。それもよく。
「じゃああのアリアを」
「うん。それじゃあ」
 伯爵は上手にハーブを弾きはじめる。そうしてロジーナはそれに乗って歌いはじめたのであった。
「激しい愛の炎が燃える心に対してはどんな横暴な力も残酷な力も無力です。如何なる攻撃に対しても愛は常に勝つもの」
 演奏は続く。それに合わせてロジーナの歌も続く。
「ああ私の愛しい方」
 ここで伯爵を見る。伯爵もその視線を受けて微笑む。
「若し貴方がそれを御存知なら私をお救い下さい」
「ううむ、素晴らしい」
 歌が終わった。伯爵はハーブを止めてロジーナを褒め称える。
「これは私が教える必要はないかも」
「あらあら」
 ロジーナはその褒め言葉におどけてみせる。
「そんなお世辞を仰っても何もありませんわよ」
「いや、これがあるのですよ」
 しかし伯爵はこう述べる。
「貴女の笑顔が見られます」
「あら、お世辞を」
「では最後をもう一度だけ」
 その笑顔を見る為のもう一度だった。ロジーナもそれに乗る。
「では」
「ええ。愛しい方、どうか私をお救いになられうっとりとさせて下さい」
「ううむ、お見事」
 伯爵はまた彼を褒め称える。
「やはり。そうでなければ」
「はい。歌はこうでなくては」
「いやいや」
 しかしそれに異議を呈するものが出て来た。バルトロが今自分の部屋から出て来たのである。そうして二人に対して言うのであった。
「その曲は少し」
「御気に召されませんか?」
「いいことはいいですな」
 そう伯爵が化けている音楽教師に述べる。
「だが。わしの若い時の曲とは全然違って」
「はあ」
「モーツァルトの流れですかな」
 彼は言う。
「それから出て来たような曲ですな」
「モーツァルトは天才ですよ」
 伯爵は穏やかな笑みと共にそう述べる。
「オペラではまさに端役なしですしどの曲も」
「まるで天使の歌声のようだ」
 バルトロも言う。
「そう仰りたいのですな」
「その通りです。あれだけの天才は今まで出ませんでしたし今後も」
「しかしですな」
 バルトロはここぞとばかりにまたしても異議を呈した。
 
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