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Dies irae~Apocalypsis serpens~(旧:影は黄金の腹心で水銀の親友)

作者:BK201
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第二十六話 死者の晩餐

 
前書き
遅くなりました。この話は最新話の閑話含めると二話なのでご注意を。 

 
―――諏訪原タワー付近―――

「さあ、少しばかり決戦のための余興に付き合って貰おうか」

そう言って俺たち三人の目の前に現れたのはアルフレートとその分体だった。きっと連戦に継ぐ連戦を強いられることになるだろうと予想していたし、この戦いもあると理解していた。そしてまずは奴自身が言う様に前座としてアイツ等と俺達の三対三(或いは四)の戦いになるものだとばかり思っていた。少なくともつい先程までは。

「天におられる我らの父よ (Vater unser im Himmel)
み名が聖とされますように み国が来られますように (Wie heiligen Namen zu sehen Gesehen als Reich komme)
みこころが天に行われるとおり (Dein Wille wie im Himmel getan werden)
地にも行われますように (Wie auf der Erde getan)
我らの日ごとの糧を今日もお与えください (Bitte gib uns heute unser tägliches Brot täglich von)
我らの罪をおゆるしください (Bitte vergib die Sünden unserer)
我らも人をゆるします (Außerdem können wir die menschliche)
我らを誘惑におちいらせず (Ohne in eine Versuchung für uns)
■からお救いください (Bitte erlöse uns von dem ■)
 創造 (Briah―――)
晃世界 主の祈り (Alfheim Paternoster)」

アルフレートは最初の一手目から全力だった。当たり前だ。敵と相対している最中で手を抜くなんていうことは誰もしない。そして俺を相手に一度使って見せている以上、切り札として隠すメリットも存在しない。だからこちらも当然の様に全力で叩き潰す。俺たちにはこの後の戦いも存在している以上、前回の様に長期戦による消耗をするわけにはいかない。

「日は古より変わらず星と競い (Die Sonne toent nach alter Weise In Brudersphaeren Wettegesang. )
定められた道を雷鳴の如く疾走する (Und ihre vorgeschriebne Reise Vollendet sie mit Donnergang. )
そして速く 何より速く (Und schnell und begreiflich schnell )
永劫の円環を駆け抜けよう (In ewig schnellm Sphaerenlauf. )
光となって破壊しろ (Da flammt ein blitzendes Verheeren )
その一撃で燃やしつくせ (Dem Pfade vor des Donnerschlags; )
そは誰も知らず  届かぬ  至高の創造 (Da keiner dich ergruenden mag, Und alle deinen hohen Werke )
我が渇望こそが原初の荘厳 (Sind herrlich wie am ersten Tag. )
創造 (Briah―― )
美麗刹那・序曲 (Eine Faust ouvertüre )」

「かれその神避りたまひし伊耶那美は (Die dahingeschiedene Izanami wurde auf dem Berg Hiba )
出雲の国と伯伎の国 その堺なる比婆の山に葬めまつりき (an der Grenze zu den Ländern Izumo und Hahaki zu Grabe getragen. )
ここに伊耶那岐 (Bei dieser Begebenheit zog Izanagi sein Schwert, )
御佩せる十拳剣を抜きて (das er mit sich führte und die Länge von zehn nebeneinander gelegten )
その子迦具土の頚を斬りたまひき (Fäusten besaß, und enthauptete ihr Kind, Kagutsuchi.)
創造 (Briah――― )
爾天神之命以布斗麻邇爾ト相而詔之 (Man sollte nach den Gesetzen der Gotter leben.)」

だからこそ創造を行える者は初手でそれを曝け出し、出来ない者も全力の一刀を放つことを求める。だからこそ、ここで今宵の一戦目が始まるはずであり、そしてそれは誰も、敵であるアルフレートすら疑っていなかったはずだった。

始まる激闘。その戦いの先手を打ったのは当然、この場において最速である俺自身。その一撃を難なく反らして見せたのはアルフレート。そして、これから後ろに控えていた二人の分体が迫り来るはずで、それをこちらの思惑通りに司狼と櫻井が押さえ込む、筈だったのだ。

「えッ――――?」

「あ……ガハッ……カリ、グラ……」

それが如何してこうなっている。蓮の頭には疑問しか浮かばない。今、目の前で起きている事実を理解することが出来ずにいた。何故……何故目の前の刃と影をぶつけ合っているアルフレートの腹から剣が(・・・・・)貫かれている(・・・・・・)!?

「終わりだ、アルフレート。長かった……今この時こそアンタを殺し、俺が確固たる個として降り立つための唯一にして絶好の機会だった」

「イヤァッ―――!?アルフレート!どうして!?何でよッ、カリグラッ!!」

理解できたことは敵であるカリグラと言う奴がアルフレートの腹部を突き刺し、それを見てパシアスが絶叫しながら錯乱していることだけだ。クソ、一体何がどうなってるんだ!?

「ずっとだ、六十年以上前から俺はその目が気に入らなかった。俺はカリグラなんてテメエの都合のいい人形じゃない。俺は■■■■■だ。捨てた名、いやお前に捨てさせられた名を言葉にすることすら出来ない。だが誰も俺を知らなくとも俺を忘れようとも俺自身が…俺だけが知っているんだ。魂の契約?分体の定め?そんなもの知ったこっちゃない。俺は、誰の指図も受けやしないんだよ!!」

アルフレートの腹を突き抜けた黒円卓の(ヴェヴェルスブルグ)聖槍(・ロンギヌス)をカリグラは引き裂く。腹を横切りにされ、普通なら致命傷であろう傷、しかし聖遺物を持つものならおそらくは耐えれるであろう傷、にもかかわらず腹部を押さえるアルフレートは今にも消え入りそうな程消耗しているのが分かった。

「オイオイ、仲間内で今更裏切りか?」

「いいや…違うね。これもまたきっと予定調和なのさ」

司狼の問いかけに力無く答えるアルフレート。明らかに魂の総量は消費し続けている。まるで呪いでもかけられたかのように死神に手を引かれているのが分かる。

「違う!お前の脚本に俺は逆らった!アンタの願いはここで終わりなんだよ!!俺はアンタを殺してこいつ等の力を奪い俺だけの自由を得るんだ!!」

叫ぶように宣言するカリグラ。刺された本人であるアルフレートはそれをまるで反抗期の子供を相手に仕方ないと言うかのような苦笑を浮かべる。何でコイツは目の前で殺そうとしている相手にそんな表情が出来る。

「さて、余興にしては随分不恰好になってしまったね。已む得ないな……お膳立てに専念しようじゃないか」

血を口から垂れ流すように零しながら、まるで人形のように無機質に話し出す。

「司狼ッ!櫻井ィ!?」

瞬間、アルフレートの足元に魔方陣が浮かび上がる。そして周りの景色が歪み周囲を見渡せば側にいたはずの司狼と櫻井はいなくなっており、俺がいる場所も明らかに先ほどいた場所と違っていた。その魔術は明らかに実力として有り得ないものだ。いや、俺自身魔導に疎いといえるが、だとしても常軌を逸していることは確実といえる。何故ならその魔術の発動の瞬間を時間を引き伸ばしているはずの俺が見逃したんだから。

「さあ、僕自身が唱える最後の詠唱だ」


何かがひび割れる音が聞こえる。上を見上げるとラインハルトがこちらを嗤いながら見下ろしていた。その様子もアルフレートも同じように見て、笑みを返しながら言う。

「ああライニ、この魂を此れ迄捧げれなかったことを、そしてこれから先に逝ってしまう事を赦してくれ」

『構わんよ、卿は私に尽くしてくれた。忠実な配下としても我が友としても私はそこまで礼儀知らずでは無いつもりだ。来たるべき時まで休め。そして私が率いる軍勢(レギオン)に身を委ねるがいい』

アルフレートの言葉に返すようにラインハルトの声が聞こえてくる。

「貴方の勝利を願って、我々に栄えある勝利を(ジークハイルヴィクトーリア)

そう言った瞬間、第八のスワスチカは他ならぬアルフレート自身の魂によって開かれ、今にも消え入りそうなアルフレートと共にオーケストラの様に荘厳とした詠唱が始まる。

『蘇る そう あなたはよみがえる (Auferstehn, ja auferstehn, wirst du, )
私の塵は短い安らぎの中を漂い (Mein Staub, nach kurzer Ruh )
あなたの望みし永遠の命がやってくる (Unsterblich Lebin wird, )
種蒔かれしあなたの命が 再びここに花を咲かせる (Wieder aufzubluhn wirst du gesat! )
刈り入れる者が歩きまわり (Der Herr der Ernte geht )
我ら死者の 欠片たちを拾い集める (und sammelt Garben Uns ein, die starben. )』

先輩の声が聞こえる。悲しみを帯びた声でまるで打ち震えるかのように。

『おお 信ぜよわが心  おお 信ぜよ 失うものは何もない (O granbe, mein Herz, o glanbe. Es geht dir nichts verloren! )』

次に聞こえた声は何故か懐かしさを感じさせた。俺が戦うことになるのは間違いなく奴だと確信させられる。そう感覚が訴えてくるのだ。

『私のもの それは私が望んだもの  私のもの それは私が愛し戦って来たものなのだ (Dein ist, dein, was du gesehnt Dein, was du geliebt, was du gestritten! )』

櫻井が戦うであろう相手の声。俺が最初に戦った三騎士の一人であり、堅実で圧倒的な魂の総量とそれに見合う研鑽された高い実力。小細工などでは勝てない、それでも櫻井は勝つと言った。

「おお 信ぜよ  あなたは徒に生まれて来たのではないのだと (O glaube , : du wardst nicht umsonst geboren! )
ただ徒に生を貪り 苦しんだのではないのだと (Hast nicht umsonst gelebt, gelitten! )」

目の前でアルフレートは死にそうな貌をまさに死相を見せながら謳い上げる。

『生まれて来たものは 滅びねばならない (Was entstanden ist, das muβ vergehen. )』

『「―――滅び去ったものは よみがえらねばならない (Was vergangen, auferstehen! )―――」』

ラインハルトが声を上げ、それに追随する屍の使者達。

『震えおののくのをやめよ (Hor auf zu beben! )』

『「―――生きるため 汝自身を用意せよ (Bereite dich zu leben! )―――」』

『おお 苦しみよ 汝は全てに滲み通る (O Schmerz! du Alldurchdringer! )』

『「―――おお 死よ 全ての征服者であった汝から 今こそ私は逃れ出る (Dir bin, o Tod! du Allbezwinger, ich entrungen! )―――」』

もう止まらないのか。先輩を救うことは出来ないのか。そう思いながらもきっと救ってみせると考える自分がここにいる。

『祝えよ 今こそ汝が征服されるときなのだ (Nun bist du bezwngen! )』

地獄への開闢の時を迎え、ラインハルトは謳い上げる。

流出 (Atziluth―――)
―――壺中聖櫃 (Heilige Arche――)

頭の中でまるで自分のようで、しかし全くの別人である奴の声が聞こえる。

『不死創造する (Goldene Eihwas )』

『「生贄祭壇 (Swastika )―――」』

俺は止めることなど当然出来ず、今ここにラインハルトの最悪の流出は完成した。




******



アルフレートは力尽きたのかその場に倒れこむ。その様子を見て満足気に勝利に酔うカリグラとその美貌を蒼白にしながら泣き顔を見せ駆け寄るパシアス。その様子は対照的であり、事実互いに相反する感情を持つことが分かる。そしてカリグラはもう此処に用は無いといった様子で立ち去る。
片や行き過ぎた愛情を彼に曝け出していた、そしてもう一方は抑え切れぬ憎しみを内に秘めていた。だが、それは彼にとって必然でしかないのだろう。斃れ臥したアルフレートの五感は既に停止し始めている。既に視覚と触覚は失っており、直に残りの感覚器官も機能を停止することは明らかだった。

「パシアス、そこに居るか?」

ハッとした様子でアルフレートを覗き込むパシアス。

「ええ、ええ、私は此処に居るわ。私を置いていかないでアルフレート。貴方が死んでしまうなんて嘘でしょう?」

涙声で縋る様に言葉を続けるがアルフレートは別段何も感じていない。強いて言うなら鬱陶しいといった感情が沸き立つぐらいだった。それでも現状の自身を把握している以上使える戦力は無駄に出来ないと思いパシアスに呼びかけた。

「パシアス…最後の命令だ」

「ッ………はい、ご命令をッ」

その声は震え、口惜しさを感じさせるものだったが愛した人の為にと最後の命令を待つ。

「喰らえ、そして討て。それだけだ」

何を、そして誰を討つのかを瞬時にパシアスは理解した。喰らえというのはアルフレートを、討てというのは藤井蓮を、自然と刺した張本人であるカリグラなどの事は思い浮かばすパシアスはアルフレートの意図を履き違えずに解していた。だが、だからといってその命令を聞けるかいえば少なくともパシアスに関しては否だった。

「貴方を……愛した貴方を他ならぬ私の手で喰らえと、奪えと、そう仰るのですか?無理です。そんなこと私には出来ません。貴方をこの手で失えなんて……そんなこと私には出来ないッ!」

愛してるが故にその命は聞けなかった。討つということに関してなら別段構わない。だが彼女にとって総てと言っても過言でないアルフレートを自らで喰らうなどと言うことは出来ないと。アルフレートはそれを見ながら面倒だと思う。
いつもいつもどんな言葉を掛けようとも曲解して自分を大切に思ってくれていると思い込む。直接的な拒絶を見せれば自分の殻に閉じこもる。畜生にも劣るんじゃなかろうかと時々本気で考えたりもしていた。そしてそれはあながち外れてはいないともアルフレートは思っていた。

「君が六十年たって未だに愛しているというなら尚の事喰らえ。君の本質は喰らうことだ。なら僕を喰らってその愛を示せ。そうすれば永遠に僕は君と言う存在の内で君の愛に答えよう」

嗤いながらアルフレートは思う。愛する気など欠片も無いのによくもまあ嘘八百並べれるものだと。しかし、パシアスの方はその言葉を聞き、曲解を終え自己完結したのかアルフレートを喰らうことを決心していた。

「絶対に、絶対に何時か貴方を救ってみせるわ。だから今だけ……さよなら」

(ああ、さよならだ。尤も今だけじゃなく永久にだろうがね。ようやくこの七面倒な世界で繋がりを創り上げたんだ。もう俺は(・・)この世界の住人に用は無いよ)

そしてアルフレート・ヘルムート・ナウヨックスはこの世界で死を迎えた。

 
 

 
後書き
主人公(偽)は死亡しました。アルフレート本人の復活予定はありません。
結局まともにアルフレートの創造が使われることはなかった。自分で書いておきながら何だけど詠唱とか探したりしただけに悲しい。
ラインハルト戦で使いはするつもりなので期待してください。 
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