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エターナルトラベラー

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第八十一話

 
前書き
そろそろカンピオーネ編も終局に向かいます。オリジナル設定が多少出てきますが、二次小説と言う事でご了承いただけますよう。 

 
あの日光の騒ぎからしばらく経ち、アーシェラもどうにか普通の生活に慣れてきた頃、アーシェラは朝のタイムサービスの特売をゲットする為にスーパーを一人で回っていた。

流石に平日の朝はアオ達を伴っての買い物は目を引く。あの年頃の子供は義務教育で学校に通っている年齢だ。

アーシェラも幼い外見ではあるのだが、見た目が外国人と言う事でどうにか誤魔化している。

買い物を済ませ、買い物袋を肩に担いでスーパーを出て家路へと急いでいた時、アーシェラの前に金髪の少女が現れた。

「あら、アーシェラ。あなたはいつから家政婦になったのかしら?」

と、出会いざまに嫌味を言ってくる少女。

「グィネヴィアか…。妾に何の用だ?」

現れた少女、名をグィネヴィアと言い、アーシェラと同じ神祖の一人だ。

「竜蛇の封印を解いた貴女が何故生きているのか、少々興味がありまして」

「答える義理は無いな」

「あら、つれないわね。同じ神祖のよしみでしょう?」

「神祖のよしみで忠告しておいてやろう」

と、アーシェラは問いには答えずに言葉を返す。

「この日本では騒ぎを起こさぬ事だ。ここには怖い連中が大勢居る。それこそジョン・プルートー・スミスすら簡単にあしらえる化物がな」

「あら、それは怖い。確かにこの国には神殺しがお一人いらしたものね」

グィネヴィアはおどけて言うが、それでもこの地でやらねばならぬ事があれば決行すると言う意気込みを感じる。

しかし、それを聞いてアーシェラはユカリ達の事は知らぬのだなと心の中で思った。

「そうそう、もう一つあなたに聞きたいことがあったの。以前あなたから聞いたこの国の古老達について何か新しく知った事は無いかしら?」

古老。彼らはこの国の霊的な組織を影で操っている者達の事だ。彼らはその身を幽世(かくりよ)に移し、そこで隠居生活を送りながらも現世(うつしよ)に強い影響力を持っているのである。

「以前報告した事で全てだ。それ以降に知りえた事が有ったとしても今の妾では話す事はできん」

「あら、神祖のあなたを縛する存在が居るのね」

「いいか、グィネヴィア。二度と妾に関わるな。それがお互いの為だろう。そして直ぐにこの国から出て行くといい」

それだけを言うとアーシェラは会話は終わったとグィネヴィアを通り過ぎて家路へと付いた。


「何なんですの?」

残されたグィネヴィアはアーシェラの行動をいぶかしみ、探りを入れてみる事にした。

幸い、アーシェラの後を付けるのは簡単で、アーシェラ自身も気付いていて放置している。その事が大層な自信に感じられ、益々混乱するのだった。

アーシェラとしては生命の危機に瀕しない限り戦闘行為をユカリに禁止されているし、妨害工作もいつまでも誤魔化す事は出来ないと思い、ユカリ達に判断を預けただけだ。

しばらく後を付けるとアーシェラは一軒の民家に入っていく。どうやらここがアーシェラの隠れ家らしい。

『待つがよい(いと)し子よ』

「小父様?」

突如、グィネヴィアの背後からくぐもった声が響く。

グィネヴィアが小父様と呼ぶその影はかの泉の騎士ランスロット。その原型になった槍の神の影であった。

彼は本当の名を封印し、今はランスロットを名乗っている。彼は神祖達の守り神であり、その中でもグィネヴィアとは特に縁が深い。その縁で今はグィネヴィアの守護を務めている神でもある。

そのランスロットが手前から感じる気配を察してグィネヴィアを止めたのだ。

『神殺しが居るな』

「草薙護堂さまでしょうか?」

『5人…いや6人だ』

「何がですか?」

『神殺しの気配がだ』

「なっ!?」

ヴォバン侯爵が倒された今、現存する殆どの神殺しの全てが集っている事になる。

流石にこれにはグィネヴィアは驚いた。

『逃げるがよい。向こうも我に気がつく』

「はっ、はいっ!」

グィネヴィアはランスロットの進言に返事をすると直ぐに踵を返す。流石に今の状況では多勢に無勢で有ったからだ。

十分に距離を開けてから一息つくと、グィネヴィアは息を整えてから考える。

ランスロットが言っていた事が本当であるとして、なぜそれほどの数の神殺しがあの場所に集まっていたのか。

日本の草薙護堂、中国の羅濠教主、アメリカのジョン・プルートー・スミス、イタリアのサルバトーレ・ドニ、そしてイギリスのアレクサンドル・ガスコイン、そしてアイーシャ夫人。

一人一人が強大な力を持ち、それ故に唯我独尊を地でいくカンピオーネ達が一堂に顔を会わせる事があるだろうか?

アレクサンドル・ガスコインの事はグィネヴィアは因縁浅からぬ仲で多少は知っているが、常識人ぶっておいて、結局は他人が自分の意思に従う事が当然と思っている人物だ。

羅濠教主もそんな感じだったのは会って見た今実感として分かる。

カンピオーネが集まるなど、不発弾が一箇所に固まって、衝撃が加わればいつ爆発してもおかしくないような感じだ。

「……慎重に調べなくては成りませんね」

独り言のようにグィネヴィアは呟き、心の中で悪態を吐く。

事を起こそうとした寸前でこの事態。しかし、ここで出遅れれば憎きガスコインが邪魔をしてくるかもしれない。

数日、本当に遠くからアーシェラの居る家を観察してみたが、グィネヴィアの知っているカンピオーネの姿は一人も確認する事は出来なかった。

むしろまつろわぬアテナが出入りしているという事態にまでなっていた。

そして、あの家に出入りするのは女性が一人と子供が五人。

「……まさか、新たな神殺しが誕生していようとは…これは大きな誤算です。…この国で事を起こせば7人もの神殺しが誅殺する為に駆けつける事でしょう…」

『何、我が全ての障害を蹴散らしてやる…と、言いたい所だが。流石に数が多いな』

「はい…」

ランスロットの声にグィネヴィアも項垂れる。

「かなり厳しい事になりそうです。今よりも更に慎重に事を進めなければ…」

『ふむ。…いっそ、もっと派手にしてみるのも良いのではないか?』

「小父様?」

一体どういう事だ?とグィネヴィアはランスロットに問い掛けた。

『他の神殺しやまつろわぬ神を挑発してこの国へ呼び寄せればよい。後は勝手に燃え上がるだろう』

「なるほど…後は隙をついて目的の物を手に入れ、その後わたくし達が全てを駆逐すればよいと言う事ですね」

『権謀術数を使ってこそ戦と言うものだ』

「さすが小父様です。では手駒を集めに参りましょうか」

グィネヴィアはニヤリと笑うと目的は決まったと日本を後にするのだった。

日本を出たグィネヴィアはカンピオーネやまつろわぬ神等にちょっかいと挑発をして日本へと向かわせるように誘導し、ランスロットに新しい武器をと救世の神刀を打ち直したエクスカリバーを携えて再び日本の地を踏みしめる事となる。



天之逆鉾(あまのさかほこ)?」

いつもの夕食時、甘粕が普段は口にはしない裏社会関係の用語を口にした。

「はい。日本神話でイザナミとイザナギが日本を作り上げたとされる神器です」

「へぇ。それで、それがどうかしました?」

アオが甘粕に聞き返した。

「それがですね、近々掘り起こされる予定です」

神話の時代の神器がまさか埋まっているとはとアオ達は皆少々驚いている。

「何でそんな事を?」

「我々が封印、管理していたのですが…どうやら天之逆鉾を狙っている人たちが居るようでして…それならばいっそ一番安全な所に預けてしまおうと…」

アオの問いに甘粕はそう答えた。

「グィネヴィアだろうな。あやつはこの国で何かをしようとしていた」

アーシェラにはその天之逆鉾を狙っている誰かに心当たりが有ったようだが、何をしようとしていたまでは分からないとアーシェラが言う。

「アーシェラさん、お伺いさせて欲しいのですが。そのグィネヴィアの目的に心当たりは有りませんか?」

「前も言ったと思うが、グィネヴィアの目的は最強の鋼を蘇らせる事だ」

「最強の鋼?」

アーシェラの答えにシリカがそれは何?と聞き返す。

「詳しくは知らない。ただ、世にチャンピオンが多く誕生するとそれを滅する為に現れ、殲滅すると自ら眠りに着くと言う」

「ええ!?」

「えっと…」
「それは…」

「多いってどれくらい…?」

なのは、フェイト、シリカ、ソラの悲鳴。

声には上げていないがアオもユカリも内心で驚いている。

「世に7人もの神殺しが誕生する事すら本来であれば稀有な事だ。それでも多いと言うに、今は12人。これはいささか異常よな」

ソラの問いに答えたのはアーシェラではなくアテナだった。

「それで、その一番安全な所って何処なんですか?…まさか(うち)とか言わないですよね?」

きな臭い話題のため、そうなのはが牽制する。

「いえいえまさか!あなた方の手を煩わさせる訳には行きません。預ける予定なのは草薙さんですよ」

「確か同じカンピオーネでしたっけ。能力はどんな物なんですか?」

フェイトが、会った事はあるが普通の一般人であった草薙護堂を思い出し、そんなに凄い能力なのかと興味をもったらしい。

「あ、もちろん能力は秘匿する物だって言うのは分かるつもりなんですが…」

「それについてはユカリさんにお聞きしたらどうですか。以前、ユカリさんは草薙さんと戦った事がありますから」

「え?そうなの、母さん」

アオがそれを聞いて視線をユカリに移した。

「そう言えば有ったわね」

「どんな能力だったんですか?」

と、シリカ。

「えっと…いろいろな能力を使ったわね。最初が怪力、次が高速移動、最後が脚力強化だったかしら?」

「ふむ…」

ユカリの言葉を聞いたアテナが何やら思い至ったらしい。アテナは智慧の女神でもある。実際に会った護堂の印象と、今もたらされた少ない情報で真相にたどり着いたようだ。

「何か分かったの?」

ユカリがアテナに問う。

「おそらく、あ奴が倒した神はヴィシュヌかウルスラグナであろうよ。どちらも10の化身を持つと言われる神よな。おそらく後者であろうか」

「ウルスラグナ?」

「ゾロアスター教の勝利の神でその姿を10の化身に変身すると言う。と成れば10の能力を身につけてもおかしくは無いな」

「さすがアテナさまです」

甘粕が肯定する。

「強かった?」

ソラが簡潔にユカリに聞く。

「武術の(たしな)みは無かったわね。動きは素人そのもの。たいした脅威ではない。その点で言えば翠蓮さんは凄かったわね」

体捌きに技のキレ。翠蓮の武はどれを取って見せても至高だった。

「とは言え、発揮する能力が強力だと言う事も超常の力を持つ相手では良くある事なのだろうから、武術の優劣が強さに直結はしないのだろうけれどね」

そうアオが幾ら武術で圧倒できでも油断は出来ないと纏めた。

「と言うわけでして、遠からず厄介事が起こるでしょうからお気をつけくださいと言う忠告でして」

「組織としては伝えずに俺たちを巻き込んでしまえと言う方針もありそうですが?」

「これは耳が痛いですな。…はい、事実、上は伝えずにユカリさん達が巻き込まれたら不慮の事故だったと言う感じで最悪は利用する事もやぶさかでは無いようでして…」

それでも教えてくれたのは甘粕の独断で、ユカリ達に対する誠意であり、また打算だった。

「組織としては仕方ないでしょうね。特に守る立場と言うのは清濁併せ呑まなければならない場面が多々あります…。が、それでも気持ちの良い物では無いね」

アオは少し前は一国の王様だった。当然奇麗事では済まされない事態が多々あったのだ。それ故、アオは理解はするし、しょうがないとも思うが、それでも利用されるのは嫌だと言ったのだ。

「巻き込まれる覚悟はしておきなさいと言う事ね」

「そうだね…」

「なんか最近面倒事が次から次へとやってくる感じだね」

ソラの言葉になのは、フェイトが返す。

「でも…本当は何も無ければ良いんですけどね」

と言ったシリカの呟きに皆沈黙で同意する。

「まぁ、神殺しが平穏など無理であろうものよな」

ぼそりと呟かれたアテナの言葉を否定できる人はその場にいなかった。




12月25日 クリスマス

「さて、これで仕込みは済みましたわ小父様」

『後は期が熟すのを待つばかりぞ』

「はい。今日は素敵なクリスマスになりそうですわ」

万全の準備で日本の地を再び踏んだグィネヴィアとランスロット。

方々回って神と神殺しを挑発し、さらにイギリスで憎きアレクサンドルとプリンセスアリスが封じたまつろわぬアーサーの封印具を強奪して来たのだ。

まつろわぬアーサーの封印を解きそれを御する為には聖杯に貯まる力を注がねば成らないが、満願成就目前に出し惜しみはしない。

更にグィネヴィアは魔女として啓示を授かり、クリスマスの日に日本にて何か事が起きるだろうと言う流れに乗る為に今日まで計画を延期して万全の準備を整えてきたのだ。

「サルバトーレ卿は先ほどこの国にいらしたみたいですし、神殺しの方々は導火線に火をつけるのが得意な方ですから、放って置いても自ら行きそうですが、一応誘導しておきましょう…あら、この神力はメルカルト様ですね」

遠くから日本へと嵐に乗ってやってきたまつろわぬ神の神力を魔女特有の直感で感じ取り、そう断定する。

メルカルト。

フェニキアの神王であり、彼の神の名前は『バアル』

聖書なんかで広く知れ渡る現れるベルゼブブの原型であり本来は嵐を司る天空神である。

彼は草薙護堂に敗れた後その体を消失させていたがこの世を去ったわけではなく、その身を休め再生させていたのだった。

『ペルセウスの奴も来たようだぞ』

「本当でございますね」

ペルセウス。

メドゥーサを殺したギリシャ神話の英雄であるが、その実態はギリシャ神話のヘリオス、ペルシャ神話のミトラスが合わさった神格である。

彼も草薙護堂が打ち負かした神だ。

本来であればアテナの助力を経てペルセウスを打倒するのであったが、ユカリがアテナを懐柔した結果アテナの助力を得れなかった護堂は、近くに居たドニの横やりもあり、何となく共闘の末ペルセウスを撃破する。

本来は、アテナに導かれた護堂がペルセウスをリリアナの助力を経て短期で撃破し、それでも太陽の属性を持つゆえに再生し逃げ延びた所を近くに居たサルバトーレ・ドニが止めを刺すのだが…しかし、やはり物語はズレてくる。

ペルセウスを追い払えればいいだろうと言う護堂の考え方によりドニも見逃した結果ペルセウスは逃げ延び、再起を計っていたのだ。

ドニはペルセウスが再起を計り、もう一度自分の前に立ちふさがるならそれはそれで面白いとでも考えたのだろう。

「お二方とも草薙さまとは因縁の深いお方。操るのは簡単でございました」

『そうか。ならば最後の仕上げと行こうか、愛し子よ』

「はいっ!」

最強の鋼を蘇らせる。その妄執に取り付かれたグィネヴィアはその先に何が待つかを考えずに進み出した。
 
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