好き勝手に生きる!
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第六話「気に入らねえ、気に入らねえなぁ……えっ、飴くれる?」
突然、リアスちゃんが悪魔にならないかなんて勧誘してきた。
「どういうことですか?」
「そのままの意味よ。悪魔に転生しないかって意味」
リアスちゃんが懐から何かの駒を取り出した。赤いその駒はチェスでよく目にする駒に似ている。そういえば僕チェスできないんだよね。将棋はできるのに。
「これは『悪魔の駒』と言って悪魔に転生できる駒よ。転生した悪魔は駒の特性を受け継ぐことができる」
「悪魔の駒……」
「冥界――地獄ではヒトをチェスの駒に見立てて相手のキングを取り合うレーティングゲームというのが流行っていてね。あなたたちには是非、私の眷属悪魔になって欲しいの」
……ふーん、自分の駒になれって言うんだ。なんか、胸の辺りがモヤッとして気に入らないなぁ。
それにしても、最後に冥界に行ったのはいつだったかな。随分と昔だったと思うけど、今の冥界はそんなのが流行ってるんだね。まああそこは娯楽が少ないからねー。
「い、いきなりですね」
「勿論、今すぐ返事をくれだなんて言わないわ。よく考えて返事をちょうだい」
思案顔で考えるイッセーはふと顔を上げた。
「悪魔になった場合のメリットはなんですか?」
「良い質問ね。悪魔になればまず寿命が延びるわ、万年単位でね。それと身体能力の向上。鍛えればオリンピックくらいなら制覇できるかしら。あとは階級ね」
「階級?」
「ええ。悪魔には下級、中級、上級、最上級と階級が存在していてね、力ある者は爵位を得られるわ。実力主義の社会だから上級悪魔に昇格して爵位でも賜れば大抵の願い事は叶えられるわね」
リアス先輩のその言葉に、イッセーの目が剥いた。震える唇で言葉を紡ぐ。
「な、なんでもですか? もも、もしかして、ハーレムも?」
「ええ」
「エッチなことも?」
「自分の眷属ならいいんじゃないかしら?」
プルプル身体を震わせたイッセーはやがて全身で歓喜の雄叫びを上げた。
「うおおおおおお! マジで!? 現実じゃ実現不可能だったハーレムが築ける!? やっべぇぇぇ、来たよこれ! ついに俺の時代かッ」
うわー、馬鹿丸出しの欲望。小猫ちゃんも呆れた目で見てるよ。というよりもゴミを見る目だよねあれ。
リアスちゃんは呆気にとられた顔をしてるし、木場くんは苦笑している。朱乃ちゃんは何故かクスクス笑っていた。ツボにでも入りましたか?
「なる! なります! ならせてください!!」
「えっと、本当にいいのかしら?」
「当然ですとも! ハーレムを叶えなれるなら火の中、水の中です!」
「そ、そう。じゃあこれからよろしくね。――あなたはどうするの?」
リアスちゃんが僕に聞いてくる。イッセーの目が「レイも悪魔になろうぜ!」と語っているけれど、僕の答えは決まっていた。
「僕はいいや」
「理由を聞いても?」
「だって眷属悪魔になるってことは、リアスちゃんの下僕になるってことでしょ? 僕は嫌だなぁ」
「レイ、リアス先輩のこと嫌いなのか?」
「うん」
イッセーの質問に躊躇なく頷く。リアスちゃんの顔が引き攣ったけど、本当のことだし。お構い無しに言葉を続けた。
「なんか気にくわないんだよね。それに悪魔に興味ないし。あ、レーティングゲームってのには興味津々だけどね?」
そう。気に入らない、気に入らないんだ。自分の駒になれって言ったり、僕の癪に障るようなことを言ってくる。そういえば始めて出会った時から気に入らなかったな。リアスちゃんには悪いけどね。
断る理由はそれで十分。
「見た目幼い子から、はっきり嫌いって言われると結構くるわね……」
あらら、落ち込んじゃった。
「はぁ……分かったわ。無理にお願いする話でもないし。でも、これだけは覚えておいて。あなたが私たちに敵対するのなら、その時は容赦しないわ。あなたの力はそれだけ危険なんだから」
木場くんたちから放たれる重圧感が増した。どうやら威圧してるみたいだ。突然空気が変わり、イッセーは一人オロオロしている。
僕は俯いて肩を震わせる。胸の奥から込み上げてくるものを抑えるので精一杯だった。
「……ふふふ……ははは、にはははははははは!」
ごめん、やっぱ無理! 抑えられないよ!
「何が可笑しいのかしら?」
「くくく……いやぁ、ごめんね。あまりに面白くてつい笑っちゃったよ。敵対したら容赦しない? 違う、違うなぁ」
――容赦しないのは僕の方だよ?
リアスちゃんたちへ向けた闘気に一同は身を硬くした。殺気でもないただの闘気。しかしそれだけで皆の顔には畏怖と驚愕、そして恐怖の色が宿った。ただ一人、闘気に晒されていないイッセーだけが困惑する。イッセーには向けてませんよ?
「まあ、僕から敵対することはないから安心しなよ。余程、僕の機嫌を損ねたりしない限りわね」
「……覚えておくわ」
「うんうん、忘れないでね」
さて、もうここにいる必要はないし、帰ろっかな。帰ってジャ○プ読まないと。
「じゃあ僕はもう帰るね。ばいちゃ~」
空間跳躍を発動させて僕は自宅に転移した。
しかし、まさかイッセーが悪魔になるだなんて思ってもみなかったよ。でも、人間社会より悪魔の方が性に合っているかもね。実力が正当に評価されるところだし。ハーレムくらいなら上級悪魔にでもなれば手に入るでしょ。
さて、今後どうするかな僕は……。
† † †
「じゃあ僕はもう帰るね。ばいちゃ~」
へにゃっとした笑みを浮かべた彼――姫咲レイくんは手を振りながら忽然と姿を消した。そう、なんの前触れもなく。
「……朱乃」
「ええ、転移魔法によるものではないですわね。それどころか魔力も感じられませんでした」
転移魔法なら転移魔方陣が展開されるはず。けれどそれがなかったいうことは、少なくとも魔法によるものではないということ。
「神器でもないのなら、これも彼の力ということでしょうね」
「ものすごい闘気でした……」
小猫ちゃんの言葉の通り、凄まじいまでの闘気が彼から感じられた。こちらの身動きがとれなくなる程の。相手に呑まれるようでは私もまだまだですわね。部長の――リアスの『女王』として精進しないと。
「ではイッセー、早速悪魔に転生してもらうわ。覚悟はいいかしら?」
「はい! お願いします!」
「良い返事ね。では、あなたに『兵士』の駒を八つ与えます」
八つ? 兵藤くんに与える駒の数を聞き、目を見張る。
歴史に残るような潜在的能力がないと八つも消費しない。嘗ての偉人たちのような。
兵藤くんは駒を全て消費するという意味を理解できていないのかキョトンとしてするも、祐斗さんが説明すると、
「マジで? えっ、うそ、俺にそんな隠された才能が!?」
と興奮した様子でガッツポーズをした。ふふ、面白いわね彼。
「さて、転生も済んだことだし、改めて紹介するわね。祐斗」
祐斗さんは前に出ると爽やかな笑顔を浮かべた。学園中の女子が虜になるのも分かりますわね。
「僕は木場祐斗。知っての通り同じ二年だよ。僕も君と同じ眷属悪魔でクラスは『騎士』。これからよろしくね」
「……搭城小猫、一年生。同じく悪魔で『戦車』。よろしくお願いします」
「三年生、姫島朱乃ですわ。オカルト研究部の副部長をさせて頂いています。これでも悪魔で『女王』を任されています。今後もよろしくお願いしますね。うふふ」
「そして、私が彼らの主でありこの部の部長を務めるリアス・グレモリーよ。家の爵位は公爵。よろしくね、イッセー」
毅然とした声で部長が微笑むと、兵藤くん――いえ、イッセーくんは顔を赤くした。あらあら、これは……うふふ。部長にも春が訪れたかしら?
私たちをソファーに座らせた部長はレイくんについてイッセーくんに質問する。
「イッセーとレイは普段一緒にいるのよね。あなたから見て、レイはどんな子なの?」
「子供ですね」
即答するイッセーくんに部長や祐斗さんは深く頷いていた。確かに見た目だけでなく精神的にも子供っぽく見受けられましたわ。
「なんっていうか……レイは自分本位で行動してるんですよ。そりゃ誰しもそういった面はありますけど、あいつの場合はそれが顕著だ。好き嫌いが激しい子供のままというか……って、そういやあいつ、まだ十五歳だったな」
「十五歳? 中学三年生じゃない」
「なんでも飛び級したらしいですよ。俺も詳しくは知りませんけど」
「変ね……飛び級した生徒の情報なんて入っていないわ。これは調べる必要がありそうね」
「えっ……大丈夫なんですか」
不安そうな顔で聞くイッセーくん。余程大切なお友達なのね。部長は不安を取り除くように優しく微笑んだ。
「大丈夫よ、調べるだけだから。悪いようにはしないわ ――祐斗から見てどう? 面識あるのよね」
「そうですね、概ね兵藤くんと同じ印象を受けました。彼は良くも悪くも自分に正直です。レイくんの持つ魔力は部長より少ないですが、それでも僕は勿論、朱乃さんを越える程の魔力を有してます。加えて彼の戦闘技術。侮れませんね」
祐斗さんが真剣な表情で彼が座っていたソファーを見つめる。そういえば木場くんは何度か彼と手合わせをしていると聞きましたわね。
「……強い? あなたが剣で負けるとは思えないけど」
「強いですね。毎回軽くあしらわれます。それも余力を残して。一太刀も届きませんよ」
肩をすくめる祐斗さんに私たちは少なからず驚愕を露にした。裕斗さんの剣士としての腕前は兵藤くんを除いてここにいる全員が知るところ。『悪魔の駒』の力を使わなかったとはいえ、祐斗さんが一勝も出来ないなんて……。
「やはり欲しいわね、彼……」
部長が顎に手を当てて言う。確かに彼ほどの逸材は喉から手が出るほど欲しいでしょうね。でもそう簡単にいくかしら?
「正攻法はまず無理だと思いますよ。レイは意外と頑ななところがありますから、一度決めたことはテコでも動きません。何かあいつの気を引けるものがあればいいんですけど」
「気を引けるものね……」
「……お菓子なんかどうでしょう。姫咲先輩、ずっと飴を食べてました」
イッセーくんはお友達なだけあってよく見ていますわね。小さく手を上げる子猫ちゃんに部長は頷いた。
「試してみる価値はありそうね。でも一先ずは様子を見ましょう。下手に刺激して彼の逆鱗に触れたくないわ」
それは私も同意見ですわ。彼と私たちの力量差は明らかですもの。
…………。
それにしても気になるのはあの方の魔力。遠い昔に出会ったあの人の魔力に酷似していた。
遠い昔の記憶、私の大切な『思い出(宝物)』の一つ。私と母の恩人にして、初恋の人。
顔はローブで隠れて見えなかったけど、あの人の見上げるような長身と心落ち着く低い声は今でも色褪せない。
――あの人の縁者かしら……?
もしそうなら、あの人の居場所が分かるかもしれない。
私は期待に高鳴る胸をそっと抑えるのだった。
後書き
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