好き勝手に生きる!
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第四話「面倒なことが起こりそうです」
「堕天使の気配がしたと思って来てみたら、これはどういう状況なのかしら?」
紅い髪の女の人――確か、リアス・グレモリーちゃんだっけ? が、例のイイ笑みを浮かべて聞いてきた。
リアスちゃんの言葉にハッと正気に戻ったイッセーは僕の肩を掴むと揺さ振った。
「そうだよ……おい、レイ! あれは一体なんなんだ! 何したんだお前! ていうか、なんなのあのパンチは!?」
「うにゅぅうう、もちつけイッセェ~」
手をポンポンと叩き離してもらう。
「リアスちゃんの質問も、イッセーの質問も、ぜーんぶ見てた通りだよ~。チュッパチャップスうまうま」
隠れて一部始終を見ていたのは知っていた。だって全然気配隠せていないんだもん。それなのにワザとらしく聞くなんて、なんか気に入らないなぁこの人。
ポケットから取り出した飴を口に含む。やっぱりチュッパチャップスはコーラ味に限るね。
「そんなんで納得できるかーッ!」
イッセーがシャウトする。近所迷惑なので止めなさい。
「リアスちゃんって……まあいいわ。それよりも気付いていたのね……。それなら単刀直入に聞かせてもらうわ。あなた、一体何者?」
そうそう、変に回りくどくしないで始めからそう言えばいいんだよ。
「何者もなにも、僕は僕さ~」
「……ふざけているのかしら?」
「そんな滅相もにゃい」
「い・い・か・ら・答・え・な・さ・い」
「にはは~」
まったく手応えのない反応にリアスちゃんは額に手を合わせた。
「疲れるわ、この子……」
「あの――」
イッセーが恐る恐るリアスちゃんに話し掛ける。
「なにかしら?」
「先輩はあの男のこと、知ってるんですか?」
その言葉に、リアスちゃんは顎に手を当てて考え込む仕草をすると顔を上げた。
「そうね、それについても説明しなくちゃいけなわね。でももう遅いから、それは明日にしましょう。――あなたも、明日ちゃんと聞かせてもらうわよ」
「えー、やだ」
「……迎えの者を寄越すわ。ちゃんと明日来ること! いいわね!」
「ぶーぶー」
口を尖らせて不満を露わにする。おーぼーだ、おーぼーだ。
「頭痛くなってきたわ……」
「すいません、うちのレイが……」
なぜかイッセーが申し訳なさそうに頭を下げる。
「いえ、あなたのせいではないわ。きっとこれがこの子の持ち味なのでしょうね。個性的なお友達ね?」
「ええ。毎日、手を焼かされます」
それはご愁傷様、とクスッと微笑むと、リアスちゃんは紅い髪を棚引かせて背を向けた。
「じゃあ二人とも、また明日学校でね」
「はい、お休みなさい先輩」
「あのエロ魔神のイッセーが紳士的だ……!?」
なんという衝撃の事実。僕はあり得ないものを見るような目つきで隣に佇む友達を凝視した。
「ばっ、なに言い出すんだ、お前は!」
「だっていつもおっぱいおっぱい言ってるのに、なんか理性的なんだもの」
「ちょっ、レイ! なにも先輩がいるところで言わなくても――」
そんな掛け合いをする僕らにリアスちゃんが苦笑する。
「ええ、お休みなさい二人とも。良い夢を」
結局、リアスちゃんの姿が見えなくなるまで、僕らの漫才は続いたのだった。
† † †
あの訳の分からん夜が明け、翌日。
俺とレイは放課後の教室で昨日、先輩の言っていた迎えの人を待っていた。松田と元浜には用事があると伝え、先に帰ってもらっている。
それにしても昨夜は全然寝つけなかった。いや、あんな出来事があった後に爆睡とか無理でしょ、普通に考えて。
あの男は何者なのか。脳裏に過るのは男の背中にあった黒い翼。夢の中の夕麻ちゃんと同じ翼。これが意味するものは…………ダメだ考えても全く分からん。そもそも俺に頭を使った考え事は無理だ。
気になることといったらレイのことも気になる。寧ろそっちの方が強いな。
男が急に動かなくなったのも何やらレイの仕業のようだし、なによりあのパンチの威力。
……。
いやいやいや、普通に考えてありえないでしょ! なに、あのメガトンパンチ並――いや、それ以上の威力は!? 人が星になるとかどんだけって話だよ!
世界どころか宇宙だって軽く狙える右だぜ? WBCなんて目じゃないって!
あー、もう、ホント訳わからん。ここ最近変な事件起こりすぎだよ。なんか最近、夜になると身体が異様に軽くて力が漲る感じがするし、逆に朝は怠くなる。どこのヴァンパイア?
レイは自分の机に座って足をぶらぶらさせて漫画を読んでいた。あいつの席は窓際の丁度真ん中の列だ。人の気も知らないでくつろぎやがって……。
「なあ、レイ」
「んー?」
「……いや、やっぱなんでもない」
レイって本当、何者なんだろうか。昨日ははぐらかしてたけど、今日はちゃんと聞けるといいな。こいつも、俺の大事なダチなんだからさ。
「や、どうも」
待つこと十分。爽やかな笑顔とともに木場がやって来た。
同学年であり学園一のイケメン男子、モテない非イケメン男子の永遠の敵、木場裕斗。ヤツの登場でクラスの女子どもがキャーキャー騒ぎ出した。うぜぇ。
「いやー! そんな野獣に話し掛けないで!」
「木場くんが穢れちゃう!」
「木場きゅん×兵藤……」
「いいえ、ここは木場くん×レイくんよ!」
「おお、それぞ真理!」
「野獣なんかより天使のレイくんよね!」
「3Pなんてのもありかも」
「どっちが受け!?」
超うぜぇ。なんで俺がヤツなんかとカップリングしなくちゃならないんだ!
「あー、木場くんだ~」
レイが手をぶんぶん振る。その姿に苦笑した木場も小さく手を振り返した。
「なんだ、知り合いだったのか?」
意外に思えたので聞いてみると、レイは笑顔で首肯した。
「彼とは少し前から交流を持っていてね」
木場も頷いている。
「へぇ……で、なんのご用ですかね」
面白くなさそうに返す俺。排他的な喋り方になるのも仕方がない。なにせイケメンは敵なのだから。
木場は気にした様子もなく、相変わらずのスマイルで続ける。
「リアス・グレモリーの使いで来たんだ」
――!
そうか、リアス先輩の言っていた迎えはこいつか。意外といえば意外だが、まあいい。付き合ってやろうじゃねえか。
「……OKOK。で、どうすればいい?」
「僕についてきて」
女子の悲鳴が増した。
あー、うっせ! 静かにしやがれってんだ。……そういえばレイのやつ、怖いくらいに静かだな。いつもは騒がしいのに、どうしたんだ?
レイの方を見てみると、奴は机に突っ伏して眠っていた。
「うぉい、なに寝とるんじゃい!」
ついレイの頭を叩いてしまったが全く起きる気配がない。熟睡してやがる……。
なんか、毎回ペース崩されるなこいつに。
木場も困ったように笑っていた。
「相変わらずだね、レイくんは。彼ほどマイペースな人、他には知らないよ」
確かにな……。
気持ちよさそうに眠っているこいつが少し羨ましく思えた。
「仕方ない。レイくんは僕が背負っていくから」
「いやいいよ。ダチの面倒はダチがみないとな」
木場の申し出をやんわりと断り、レイを背負う。軽いな、ちゃんと飯食ってるのか?
「じゃあ行こうか」
木場の先導の元、向かった先は校舎の裏手にある旧校舎だった。少し前までは使われていた校舎だが今はもうそんな面影は無く、ただ不気味な空気を醸し出していた。
「ここに?」
「うん、部長がいるよ」
部長? ああ、リアス先輩のことか。でも何故に部長?
木造の床を軋ませ二階に上がる。使われていないにも関わらず埃や汚れは見当たらなかった。
「ここだよ」
二階の奥まで進み、とある教室前に着くと木場は足を止めた。どうやら目的地に着いたようだ。
戸に掛けられたプレートには『オカルト研究部』と書いてある。オカルト研究部?
なんか先輩のイメージに合わないな……。勝手ながら先輩は華のある部活に所属してると思っていた。テニス部とか。
オカルト研究部ねぇ。ああ見えて、とんがり帽子にローブを纏って魔術書を片手にぶつぶつ呟いてるのかな? ……陰がある感じがしてイイかも。
「部長、連れてきました」
木場が声を掛けると、すぐに返事が返ってきた。
「入ってちょうだい」
やっぱり、部長はリアス先輩か。
教室に入ってまず最初に目に入ったのは床一面に書かれた巨大な模様。これは魔方陣?
その他にもよく分からない文字や五芒星、六芒星がそこらかしこに書かれていた。さすがはオカルト研究部、パネェぜ……。
教室にはソファーやデスクといった家具がいくつか置かれていた。どれも高級品に見えるのは気のせいだろうか。
お? 誰かいるな。ソファーに座っている女の子と目が合う。
小柄な体躯でちょこんとソファーに腰掛け黙々と羊羹を食べていた。
確か一年の塔城小猫ちゃんだ。愛らしいその姿は男女問わず人気が高く、マスコット的な立ち位置にいる子だ。俺にロリ属性は無いけど確かに可愛いなこれ……。
こちらを見ながら表情を変えずにもりもり羊羹を食べる小猫ちゃん。なんか無表情ってのが怖いな。
「こちら、兵藤一誠くん。寝てるのが姫咲レイくん」
「えっと、どうも兵藤です」
「……塔城です」
小猫ちゃんがペコリと頭を下げた。あ、これはご丁寧に……。
挨拶が終わると再び羊羹の咀嚼に戻る小猫ちゃん。羊羹好きなのかな?
取りあえず、レイをソファーに寝かせる。しかし、本当に爆睡してんなコイツ。
「待たせたわね。昨日ちょっとシャワーの時間がなかったものだから、いま汗を流してたの」
背後からリアス先輩の声が。
振り向くと、そこには胸元を第二ボタンまで開けた扇情的な格好をした先輩の姿があった。
な、なんつー格好をしてるんですかあなたはぁぁぁ!
シャワーを浴びていたためか頬が上気して色っぽく見える! うおおおおお、これを見ただけでも来た甲斐があるってものだぜぇぇぇ!
「……いやらしい顔」
ギンギンに目を血走らせてリアス先輩のお姿を凝視する俺に、小猫ちゃんがボソッと声を漏らす。いやらしくてゴメンね!
「あらあら。部長、もしかしてこの方々が?」
先輩の後ろから黒髪をポニーテールにした女の子が現れた。って、マジか!?
三年の姫島朱乃さん。学園のアイドルの一人にして日本の和を体現したかのような大和撫子。リアス先輩と併せて二大お姉さまと称されている。まさかこんな至近距離でお目にすることが出来るなんて!
「初めまして、姫島朱乃と申します。以後、お見知りおきを」
「ひ、兵藤一誠と言います! よろしくお願い致しますっ!」
やっべぇ……リアス先輩といい、朱乃先輩といい、二大お姉さまと会話しちゃったよ……。俺、一生分の運を使ってるんじゃないだろうか。
「これで全員揃ったわね。――ようこそ、オカルト研究部へ。歓迎するわ」
そう言ってリアス先輩は、にっこりと笑った。
レイよ、いい加減起きろ……。
後書き
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