好き勝手に生きる!
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第二話「ヤンデレ怖いよヤンデレ」
皆さん、こんにちは。兵藤一誠です。これから私は彼女と放課後デートです。くぅ~っ!
我が彼女、天野夕麻ちゃん。先日、告白されて晴れて俺も彼女持ちになったのだ。永かった……。生まれてこのかた十七年、とうとう俺にも春がきた!
今日は初のデートだ。リサーチも済んでいる。計画も完璧だ。最高の形で終わらせてみせる!
「早いね、イッセーくん。待った?」
夕麻ちゃんが校舎からやってきた。
「いや、俺も今来たところだから」
ふっふっふ、言った……言ってやったぜ! 一度言ってみたかったんだよな、このセリフ!
「じゃあ行こっか!」
そう言って夕麻ちゃんが俺の手を握り歩き出す。ゆ、夕麻ちゃんが、俺の手を……っ! 手、べたついてないかな……?
その後、俺たちは近場にあるショッピングモールを見て回ったり、洋服を手にしてあれが可愛い、これが似合いそうなど、女物の服を手にした夕麻ちゃんの笑顔に見惚れたり、高校生らしくファミレスで食事をしたりとデートを満喫した。
時刻は午後五時を回ったところ。俺たちは仲良く手を繋いで夕暮れの公園を歩いている。
こ、これはもしや、アレか? キスするシチュエーションではないだろうか……?
…………。
うぉおおおおお! 絶対そうだよ! 仲良くお手て繋いで夕暮れの中を歩いてるんだぜ!?人気もないし、これは神の啓示か? そうなのか!?
やっべぇえええ、めっちゃ緊張するぅぅぅぅぅ! ライフカードはどこだ! 俺に最良の選択を!
……とりあえず、少し落ち着こう。いずれは通る道だ。焦っていても得るものなんて羞恥に満ちた思い出だけだ。
それにしても、俺に彼女か……。エロ魔神って言われていた俺に彼女ができるなんてな。人生捨てたもんじゃないぜ。父さんと母さんは泣いて喜ぶだろうな。早く家族に紹介してあげたいな。
「どうしたの?」
黄昏ていた俺の顔を夕麻ちゃんが覗き見る。
やっぱり可愛いな、俺の彼女さんは。
「いや、なんでもないよ。ただ、幸せだなぁって思ってさ」
「そっか、私も幸せだよ」
夕麻ちゃんは手をほどき、二歩三歩と前に出るとクルッと振り返った。
「ねえ、イッセーくん。お願いがあるんだけど聞いてくれるかな?」
「な、なにかな、お願いって」
これはついに来るか!? 口の臭い、よし! じゅ、準備は万端だ。どっからでもかかってこいやぁぁぁ!
夕麻ちゃんは微笑み、そして――。
「死んでくれないかな?」
…………はい?
なんかありえない言葉が聞こえたんですけど……。
「ごめん、よく聞こえなかったみたいだ。もう一回言ってくれる?」
恐らく幻聴だろう。今度はちゃんと聞こうと集中するが、
「だから、死んでくれる?」
返ってきた言葉は無情な一言だった。
いやいやいや、可笑しいでしょ。さっきの流れからしたらここは、きゃっきゃうふふ、まてまて~的な展開でしょ! なに、死んでくれって!?
――実は嫌われていたのか、俺は。
衝撃の事実に心が折れそうになる。でも、せめて何がいけなかったのか聞かないと。
「何か気に障ることしたかな」と口にする寸前、
バッ。
夕麻ちゃんの背中から、黒い翼が生えた。
黒い羽が舞い、俺の足元に落ちる。
――……は、ははは、なんだよそれ……。もう、何がなんだか分かんねえよ……。
俺の混乱は極みに達していた。次から次へと続く事態に理解が追い付かない。
「楽しかったわ、貴方との恋人ごっこ。初々しい感じがしてね」
夕麻ちゃんはそんな俺にお構い無しに話を続ける。冷たい口調。その顔には嘲笑の笑みが浮んでいた。ちょっと前までの彼女からは考えられない。
――ブゥン。
重たい音とともに夕麻ちゃんの手に光り輝く槍のようなものが現れた。
「貴方は私たちにとって危険因子なの。だから今ここで死んでもらうわ。何の神器か知らないけど、恨むならそれを与えた神を恨みなさいな」
夕麻ちゃんが手にしてる槍がヤバいものだってのは本能で理解してる。俺は、ここで殺されるのか……?
はは、なんだよそりゃ。好きな子に殺されるとかマジねえよ、畜生……。
俺は目の前に迫る『死』をただ黙して見ているしか出来なかった。
† † †
「ぶーん」
意味もなく頭にプロペラ生やして街中を飛ぶ。不可視の結界を張っているから騒がれる心配はない。
「ぶーん……んに?」
ふと眼下に視線を向けると、一組の男女が公園内を散策しているのが見えた。
あれは、イッセー……? ということは、隣にいる女の子が天野夕麻ちゃんかな?
「あれ? でもこの気配……」
あの女の子から感じられる気配はつい最近出会った堕天使と同じものだ。ということはあの子も堕天使なのかな? まあ、異種族での恋愛も珍しくないかな。堕天使っていうのが少し気になるところだけど、お互い好き合ってればなんの問題もないよね。
イッセーたちは公園で仲睦まじく手を繋いで歩いていた。
よかったね、イッセー。デートは無事成功かな。
微笑ましい気持ちで上空から見下ろしていた僕は、悪戯っ子が浮かべるような笑みを張り付け、気配を消して彼らを尾行する。
理由はもちろん面白そうだからだ。とはいえ、イッセーの邪魔をするつもりはない。彼は僕のお気に入りだからね。イッセーの恋を応援しますよ。
「うん?」
なにか様子が可笑しいな。何やらイッセーがショックを受けてるようだけど……。
その時、女の子の背から黒い翼が飛び出し、手に光の槍が出現した。
……えー、なにこの展開。何か知らないけどイッセー殺されそうだし。
まあいいや。今はイッセーを助けないと!
「ぶーん、急接近!」
プロペラの回転速度を上げて、猛スピードでイッセーの元に向かい両手を広げた。これでイッセーの身は安全だぜい!
――ドスッ。
鈍い音を立てて槍が僕の胸に突き刺さる。だけど僕が傷つくこと、ましてや死ぬことなんてあり得ない。
女の子は僕の登場に驚いた顔をしていたが、そんなの無視!
僕はイッセーを逃がそうと肩口に振り返り、
槍が僕を貫通して、イッセーのお腹に突き刺さっていた。
「あー!!」
素っ頓狂な声を上げながら慌てて槍を引き抜きイッセーに駆け寄る。お腹の傷口から流れる血はどす黒い。これは大動脈が切れた証拠。
つまりは、致命傷だ。
「人間? なんで人間が無事なの?」
女の子が僕を見て首を傾げる。
「……紅い……あの人の、色……」
「イッセー、しっかり! 今助けるからね」
虚ろな目をして何かを呟くイッセー。僕は直ぐ様、傷を治そうとして、
「あなたね、私を呼んだのは」
赤い閃光を放ちながら突如展開した魔方陣から紅い髪の女の人が出てきた。もう、なんなの次から次へと! 邪魔するなら潰すよ!?
「死にそうね。傷は……へぇ、おもしろいことになってるじゃない。そう、あなたがねえ。本当、おもしろいわ」
女の人はイッセーの傷口をみるとなにか得心がいったのか頷いていた。ていうか、全然面白くなんかないわ!
いつの間にかあの女の子もいないし、ああもう! 次に会ったらその存在を抹消してやる!
「ちょっといいかしら?」
女の人がなにか言ってるが今は無視。まずはイッセーが先だ。
「――『完全再生』」
傷口に手をかざすと、イッセーの傷がみるみると塞がった。顔色が悪いね。血が足りないのかな?
「――『増血』」
うん、血色が良くなったね。これでよしっと。
出てもいない汗を拭い一息つく。あー、柄にもなく焦っちゃった。人一人にここまで取り乱すなんて、僕も変わったものだな……。
「……もういいかしら?」
あ、忘れてた。振り返ってみると、すごくいい笑みを浮かべた女の人が立っていた。あー、これはあれだ。根掘り葉掘り聞かれるパターンだな。
……面倒。
僕は袖を捲って時間を確認する振りをすると早口で捲し立てた。
「あー大変だもうこんな時間早く帰ってとなりのオオトロの再放送を見ないとていうことでさようなら! イッセーをよろしくね~!」
シュタッ、と手を挙げて脱兎の如く駆ける。僕は風になるんだ。
背後には呆気にとられた様子の女の人の姿があった。イッセーを置いていったのが心残りだけど、まあ大丈夫でしょう。用心のためアレも施したし。
あー、明日面倒なことが起こりそうだ……。
後書き
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