IS インフィニット・ストラトス~転生者の想いは復讐とともに…………~
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number-23 the war ended
前書き
終戦。
「勝手なことをしてくれたなと、言いたいところだが今回は見逃してやる。」
麗矢たち七人が帰投すると千冬が待ち受けていた。
みんな限界を迎えて立っているのもやっとだったはずだが、横一列に並んでいる。――――麗矢を除いて。
麗矢は今一夏たちが並んでいる旅館の前にいるにはいるが、横たわって死体と化している。
無理もない。
麗矢は今回、単独で福音の第一形態を撃破。
福音を撃墜したのち、麗矢は墜ちるも水深推定1000メートル以上のところから急浮上。
もうこの時点で限界だったはずだ。
そこからさらに、自身に反動が来る《バルフィニカス》を多用。急停止、急発進、高機動戦を30分に亘って行う。
正気の沙汰ではない。
真耶が来て、女子五人と一夏の治療に入った。
六人は真耶に連れられて旅館の中へ入っていく。
その時、麗矢も連れて行こうとしたがそれを千冬が止めた。
すでに麗矢の傷は完治している。ISの自己治癒が発動して内蔵、骨に関してはもう大丈夫である。
外傷は痛々しいが。
千冬はそんな無茶に無茶を重ねた自分の生徒を起こした。
「おい、起きろ。もう意識を取り戻しているのは分かっているんだ。」
「…………まったく、冗談が通じない人だ。」
麗矢は目を開き、ゆっくりと体を起こしていく。
止血はしているが傷口をふさいでいない。
また開いてしまうが……麗矢本人が気にしていないのだから、別にいいのだろう。
「本当に無茶してくれたな。これでも心配したんだ。」
「へえ……それは珍しい。」
「お前のその性格どうにかならないか?」
「……無理でしょう。」
麗矢の性格は人を茶化しているようなそんな感じがするのだが、実際はもの大人しい性格だった。
今の性格は表の顔という表現が正しい。
ありのままの自分をさらけ出すことはない。
周りの人なんて、麗矢のなかではいるようでいない。
そう言った意味では、束に近い。
束は自分と自分が認めた人だけだったが、麗矢は第一に自分。
それは当たり前のことなのだが、麗矢は極端なのだ。
自分が生きていれば、命なんて二の次なのだ。
第一に平穏。
第二に命。
それが麗矢だ。周りの人なんて必要なだけしか関わろうとしない。
もともと何でも屋紛いのことをしてたのも、人と話す機会が少ないから自分にはちょうど良かったという理由でやっていた。
これを初めて聞いたとき、千冬は笑いを堪えられなかった。
「よくも心配させやがって。」
パシッと千冬は持っていた出席簿で麗矢の頭を軽くたたいた。
二人は笑った。
そんな時であった。――――後ろから声が聞こえたのは。
「夜神鳥麗矢。聞きたいことがあるんだ。」
シャルロット・デュノア。
デュノア社の社長の愛人との間に生まれた子。
そして、母親を誰かに殺された悲劇の少女。
「君が……僕の母さんを殺した。そうでしょ? 麗矢。」
「……さあ? 俺には何の事だかさっぱりわからないが。」
シャルロットがいきなり核心をついてくる。
麗矢は知らないと言い張る。
麗矢の隣で事の顛末を見る千冬。
麗矢とシャルロットは向き合う。
麗矢は地面に腰を下ろしたまま。
シャルロットは立って麗矢を見下すような感じになって。
「…………メテオライト・ウォーゲル。」
シャルロットが数瞬の沈黙ののち呟いた言葉。いや、人の名前。
その言葉に肩をピクッと動かして麗矢は反応した、否、してしまった。
その名前は麗矢にとって聞きなれたものだった。
麗矢が裏で暗躍するときに使っていた偽名。
なぜなら、自分の容姿から東洋人と思われることはなかった。
だから、自然なように西洋系の名前を付けたのだ。
「……やっぱり、麗矢だったんだね……。」
「…………ちっ、ああそうだ。参考までに何故分かったか教えてほしいね。」
「それは……ブレードを持つ時の癖にあったんだ。」
麗矢は頭に疑問符を浮かべた。
何を言われたのか分からなかったのだ。
「同じだったんだよ癖が。
僕の目の前で母さんが殺された時、母さんを殺した人はブレードを完全に握っていなかったんだ。
小指を完全に立てて、薬指を軽く浮かせて、三本の指で握っていた。
そして麗矢も同じ癖を持っていた。あの珍しい癖を。」
麗矢は自分のミスに頭を抱えたくなった。
あの時、完全に恐怖を植え付けたと思っていたから殺す必要はないと思っていた。
だが残っていた。
よほど鮮烈に残っていたのであろうか、シャルロットが直観的に記憶のどこかにとどめておいて、今まで忘れることが出来なかったということだ。
「で、お前はどうするんだ? 俺を殺すか、それとも許してやるか。この二択だな。」
シャルロットは唇を強く噛む。
瞳には恨みがこもっている。
自分の母親を殺した人がのうのうと生きていたことに、そして再び自分の前に顔を出した憎い相手を殺してしまいたいのだろう。
シャルロットは手を強く握りしめた。
そして口を開いた――――
「憎い。確かに憎いよ。殺してしまいたいぐらい憎い。復讐してやろうかって考えていたこともある。
だけど……だけど……!! 殺さない……! でも、許さない……絶対にっ!!」
声が震えている。
必死に自分を抑えているのだろう。
今にも麗矢を殺そうとして飛び掛かろうとしている自分の体を。
「そうか……。じゃあもうお前と話すことは二度とないな。」
「…………」
シャルロットは何も言わずに踵を返して旅館の中へ入っていく。
麗矢は立ち上がって、道路の方の石垣の上に再び腰を下ろした。
そして眺める。砂浜を、海原を、そして夕日が沈んで星の明かりが見えるようになった星空を。
「千冬、あんたは俺をどう思う。」
「ただの生徒で弟の護衛を頼んだ、あくまで仕事の間柄といったところだろうか。」
一言交わして二人は星空を眺めた。
言葉はない。
千冬は分かっているのだ麗矢の事情を。
人を殺したことは決して許されることではない。だが、麗矢は暗い世界の中で生きてきた。
街灯もない、月の明かりもない、星の明かりもない真っ暗な世界で生きていたこと。
それを千冬は少しながらも知っているのだ。
千冬から何か言うことはない。
いつの間にかいた束と麗矢と三人で星を眺める。
真ん中に麗矢、右側に千冬、左側に束。
「……ねえ、ちーちゃん。」
「なんだ。」
「れーくんのこと悪く思わないでね。」
そんな会話が麗矢のすぐそばで行われている。
そのことに麗矢は苦笑しながら、星を眺める。
自分のこの腐れ切った心を溶かしてくれるようなあの星々を。
後書き
シリアスに感じていただければ……
あれ? 千冬が何だかヒロインに……いや、そんなことはないはずだ、たぶん。
っていうよりつっかれたあ~~!!
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