万華鏡
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第十七話 甲子園にてその十八
里香がここまで見て言った。
「力もあるわね」
「そうみたいね。初球からいきなり振ったけれど」
「思いきりのいい性格みたいね。それにね」
「それにって?」
「センスあるかも」
里香は琴乃に述べた。
「あの人って」
「バッティングのセンスも?」
「ピッチャーは野球センスの塊って言われてるけれど」
だから打つのがいいピッチャーも多いのだ。そうしたピッチャーは昔からいる。
「あの人もそうかも」
「打てるバッターね」
「さっき清原の話が出たけれど」
この前置きから言うことだった。
「清原のチームメイトだった桑田投手」
「あの人ね」
「あの人高校時代は五番で」
PL学園の五番だった。尚四番は清原だ。
「その時から現役でも打つ方も凄かったのよ」
「へえ、そうだったの」
「ホームランも何本も打って」
「ひょっとして清原よりバッティングセンスよかったとか?」
「そうだったかもね」
里香はこのことは本気で言った。実際に桑田のバッティングセンスは下手なバッターより上だったのである。
「あの人は」
「そんな凄かったの」
「とにかく打てるバッターだったのよ」
「そうだったのね」
「その桑田投手みたいね」
里香も桑田には敬意を見せていた、その証拠に投手と付けている。
「凄い選手かも、本当に」
「とにかくツーベースよ」
琴乃はランナーが得点圏にいることにも言った。
「チャンスね」
「ここで打てるかどうかだよな」
美優もその二塁を見て言う。
「いつもここで打たないんだよな、阪神って」
「そうなのよね。ここでなのよね」
彩夏は眉を曇らせて里香に応えた。
「いつもね」
「チャンスに打たないんだよな」
阪神の特色の一つである。
「とにかく」
「全くね。だから勝てないのよね」
「金本兄貴の肩が駄目になってからな」
「チャンスに打ってくれる人いなくなったわよね」
「結局あれだよ。打つべき時に打たないと負けるんだよ」
得点が入らないからだ。零点ではピッチャーがどう頑張っても引き分けにしかならない、一点も取れずして野球は勝てない。
それで美優も今こう言うのだ。
「ここでは打って欲しいな」
「正念場みたいね」
景子もグラウンドをじっと見ている。
「ここで点取れなかったら負けるわね」
「かもな。完封でもしてくれないとな」
つまり今二塁にいるそのルーキーの調子が相当よくなければだというのだ。
「そうなるよな」
「阪神の弱点ね」
里香もグラウンドをじっと見据えている。その顔も真剣なものだ。
「伝統的に打たないチームなのよ」
「つくづく嫌な伝統だな」
「打たなくて撒けるのよ」
これは第一次ダイナマイト打線解体、そして初代ミスタータイガースがいなくなってからの悪しき伝統である。
「いつもね」
「全盛期の兄貴がいればね」
琴乃もかなり真剣にこう思っている。
「ここで点が入るわよね」
「頼りになる選手が一人いるだけで打線は違うから」
里香は今度はこのことを話した。
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