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万華鏡

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第十七話 甲子園にてその十四

「凄かったらしいのよ」
「そんなピッチャーがいたのね」
「前のピッチングはスライダー、高速のそれとシュート主体で」
「速さは?」
「それはよくわからなかったわ」
 そこまではというのだ。
「けれどコントロールはいいみたいね」
「じゃあその郭って人みたいな」
「だったらいいけれどね」
「とにかく投げてからよね」
「そう、それからだから」
 そのピッチャーの本質はわかるのは、というのだ。
「まずは見ましょう。そろそろはじまるいし」
「うん、じゃあね」
 ここでスターティングオーダーの発表になった。最後のピッチャーの名前を聞いて甲子園が揺れに揺れた。
「おいおい、ほんまやねんな」
「ほんまにルーキー先発かいな」
「大丈夫かいな、あいつで」
「ちょっと不安やな」
「ほんまやな」
 こうした声があがる。揺れは不安の揺れだった。
 だがそのピッチャーは落ち着いた顔でマウンドにいて試合前のピッチングに入っていた。右腕がオーバースローで唸っていた。
 その投球を見て里香が言う。
「ひょっとしてあの人」
「いける?」
「どうなんだよ」
「凄いかも知れないわ」 
 こう琴乃と美優に言ったのである。
「今シュート投げたけれど」
「そのシュートがなの」
「いい感じなんだな」
「ええ、今のシュート多分」
 遠目だが里香の目にはわかったのだ。
「指を引っ掛けただけで投げてるわ」
「指だけで?」
「肘を捻ってないんだな」
「シュート、スライダーにカーブもだけれど」
 里香は右手を投げる動作にして他の四人に話した。
「肘捻って投げるじゃない」
「ええ、そうしてね」
 景子も頷いて答える。
「スライダーやカーブが右から左で」
「シュートは左から右よね」
「そのシュートが、なのね」
「スライダーやカーブに比べて肘への負担が大きいから」
 捻る方向の関係でそうなっているのだ。
「それが指を引っ掛けるだけで投げられるってなると」
「肘への負担がないのね」
「そうなの。シュートも多く投げられて」
 彩夏にも話す里香だった。見ればそのピッチャーは今度はスライダーも投げていた、その高速スライダーである。
「スタミナの消耗も少なくなるわ」
「肘への負担って大きいのね」
「肘痛めるピッチャーも多いじゃない」
 それが変化球のせいであることは言うまでもない。
「それ特にシュートが問題になるけれど」
「シュートって怖いボールでもあるのね」
「そうなの。肘を捻る方向があれだから」
「けれどそれを肘を捻らずに投げられるから」
「凄いわよ、さっきの高速スライダーも」
 里香が言おうとするとこのことは琴乃が言った。
「今凄い曲がったわよね」
「ええ、かなりね」
 ここで里香も言う。
「ベースを左から右に横切る感じで」
「郭っていう人もあんなのだったのかしら」
「そう聞いてるから」
「じゃああの人やっぱり」
「凄いかも知れないわ」
 里香は喉をごくりと鳴らして言った。
「本当にね。それで」
「後は、よね」
「ストレート、これが肝心だけれど」
 やはりピッチャーのメインのボールだ。これがよくなくてはどんな変化球も完全には活きないからこそ余計にだった。 
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