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星河の覇皇

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第八部第三章 異邦人その二


「彼はまだ二十代です。その若さで艦長というのは」
「さっき言ったように義勇軍は能力主義だ」
「はい」
「もっともこれは連合軍自体がそうなのだがな。少なくとも建前は」
 実際には完全にはいってはいない。ある程度年功序列もあれば各国の利害の衝突もある。どうしてもポストや階級が大国出身の軍人のものになってしまうのだ。大将、艦隊司令クラスまでは艦隊が多く、ポストもまた多い為それは顕著ではないが元帥となると違う。八条はそうしたことを嫌い、あくまで能力主義に徹しているのが救いであるがそれでもやはり限度というものがあった。特に連合においては二十人までと定められている元帥においてはそれが顕著に出る。アメリカ出身のマクレーンや中国出身の劉が元帥となっているのは彼等の能力故だが祖国の影響もやはりあるのである。アフリカ諸国や新興諸国に元帥のポストが少なく、太平洋諸国に多いのはやはり偶然ではないのである。日本人の元帥がいないのは長官である八条が日本人であるというのもやはり関係していた。ここにも連合の持つ複雑な利害関係があった。
「だが実際にはそうそう建前のようにはいかないものだ。何事もな」
「全くです」
「エウロパはエウロパで貴族主義でいっているがな。ああした階級社会とどちらがましなのかはわからんが」
「それはもうわかっていることです」
 だがミケンズはここでこう答えた。
「わかっていることか」
「はい。総監は確か猟師の家に生まれられたのですね」
「ああ。恐竜相手のな。かなり大変だぞ」
 それはもうさながら軍の攻撃のような狩りであった。巨大な恐竜を追い、そしてそれを仕留めるのである。重装備で動くかなりのハードな仕事であった。
「見入りがよくてな。代々それを営んでいる。親父も妹の夫婦も今もやっているよ」
「そうですか。私の家は銀行員です」
「ほう」
「一介のサラリーマンといったところです。父はようやく支店長になりましたが」
「いいのではないか。そちらの銀行のことを知っているわけではないが」
「まあ順調な出世ですね。しかし軍に入ると言ったらあまりいい顔はされませんでした」
「何故だね」
「サラリーマンになって欲しかったそうで。けれど私はたまたま大学の軍学部に合格しまして」
「それで軍に進んだと」
「はい。親は一浪して他に進んではどうかと言ったのですが。浪人するのも嫌でしたし」
「そして軍人になったか。人の人生はわからないな」
「全くです。しかし言い換えると誰でも軍人になれるのです」
「うむ」
 それは同意であった。
「そして将校になれる。無論他の職業にも就ける。エウロパにはないものでしょうね」
「階級社会ではな。どうしても制限される」
「そうした制限がないだけ連合はエウロパよりも遥かにいと思いますが」
「各国の衝突があってもか」
「エウロパでもありますし、それは」
 これは事実であった。エウロパも多くの国家で構成されており、それぞれの国の間での利害の衝突がやはりある。だが中央政府の権限が強い為連合のそれ程顕著ではない。だがあるのは事実である。
「各国の衝突があるといっても実力がやはり影響するのも事実です」
「それはそうだな」
「エウロパでは貴族以外の高級将校なぞ殆どいないではありませんか」
「政治家や高級官僚にもな」
「はい。それを考えるとやはり我が連合の方が何かとよろしいかと。少なくとも道は遥かに開けております」
「道か」
「はい」
「それが多くあり、開けているからこそよいのだとは限らないかも知れないがな」
「といいますと」
「いや、何でもない」
 だがラビルヘンはそれには答えなかった。
「まあ義勇軍は徹底的に実力主義でいこう。いいな」
「そうするのですか」
「そうだ。火事場に飛び込む部隊だ。精鋭主義でいくぞ」
「それならば」
 ミケンズも同意した。
「私には異論はありません」
「わかった」
 彼はそれを受けて頷いた。こうしてサハラ義勇軍はそれまでとは違った軍となるのであった。そして能力のある者は各国の利害関係や年功序列に関係なく取り立ててられていったのであった。それはグータルズもそうであった。
「まさかこの艦を与えられるとは思わなかったな」
 彼は新造されたティアマト級巨大戦艦の艦橋に入るとそう呟いた。
「感慨深そうですね」
「艦長になるとは夢だからな」
 艦艇に乗り込む将校にとっては皆そうである。
「やはり思うところああるさ」
「そうですか」
 傍らにいる部下はそれに応えた。
「ですがこれだけの巨艦となると動かすのはかなり難しそうですね」
「そうだな。それは今から実感している」
 艦橋だけでもかなり違っていた。まるでホールの様な巨大さであった。
「だからこそやりがいがあるが」
「この艦が動かしにくいか」
 ここで後ろから声がした。
「?」
 グータルズと部下は後ろを振り向いた。そこにはレイミーがいた。
「あ、閣下」
「この艦は特別でね」
 レイミーはにこにこしながら二人に語った。
「操艦にもコンピューターの技術をこれまでよりも使っているんだ」
「そうなのですか」
「そうだ。だから操艦もこれまでの艦とは全く違うよ。もっともこれは他の艦艇にも言えることだが」
 操艦も重要であった。それが容易ならば作戦や戦術がたて易いからである。
「だから艦艇の乗組員も連合のものはサハラやエウロパより少ないのですね」
「よくわかってるね」
 レイミーはそれについて問われさらに機嫌をよくした。
「そのそれだけ乗組員の居住についても考慮できる」
「居住ですか」
「そうだ。何か不都合があるかね」
「え、いえ」
「それは」
 二人はレイミーの不思議だと言わんばかりの言葉に言葉を詰まらせた。徴兵制であった彼等の祖国においては居住なぞは考慮されていなかったのだ。あくまで実戦の為である。兵役は義務なのであるから当然であった。
「貴官達も居住に対して不満はないかね」
「不満ですか」
「それは特に」
「そうか。それならばいいんだ」
「はあ」
「居住に問題があっては士気やモラルにも関わるからね。それには配慮しているつもりだ」
「そういうことにも配慮が為されているのですか」
「そうだ。貴官達も劣悪な状況に長くはいたくはないだろう」
「はい」
「誰だって同じだ。そういうことだ」
「わかりました」
 答えながらも別世界にいるようであった。やはり彼等にとっては全く次元の違う話であった。
「次にこの艦のことだが」
「はい」
「グータルズ大佐、貴官は前は砲術士官だったね」
「はい」
 グータルズはそれに答えた。
「これと同じ型の艦に乗っていたという。実際に砲を取り扱ってどう思ったかね」
「そうですね。コントロールが容易でした」
「ほう」
「そしてその火力に驚きました。まるで要塞です」
「要塞か。これはいい」
「しかも艦載機まで多いですし。あちらについては詳しいことは知りませんが」
 そちらは航空士官が取り扱っているのである。知らないのも当然であった。
「だがどれだけの数が搭載されているかは知っているね」
「はい」
「この艦は空母の側面もある。それはよく認識してくれ」
「わかりました」
「そして通信や電子も違うのだ」
「それもですか」
「この艦は艦隊の旗艦となる。通信技術も最新のものを多量に取り入れている」
「はあ」
「一個艦隊を統率する能力は優にある。だがそれだけではない」
「といいますと」
「相互に連絡を取り合うことが出来るのだ。それにより艦隊ごとで連携がとり易い」
「そこまで」
「どうだ、凄い艦だろう」
「はい」
 グータルズは感銘すら覚えていた。
「こんな艦は聞いたことがありません」
「それだけに造るのには苦労したよ」
 レイミーは感慨深そうにそう呟いた。
「しかしそれだけの介があった」
「はあ」
「これからも頼むよ。そしてこの艦を使って戦いに勝って欲しい」
「わかりました」
 グータルズはそれを受けて敬礼した。そして彼等はまた訓練の場に戻るのであった。
 レイミーは艦を降り地球に戻った。彼にもまた仕事があるのである。
「さてと」
 グータルズは艦長の椅子に座りあらためて艦橋全体を見渡した。
「この椅子を暖めている暇はないだろうな」
「はい」
 部下はそれに答えた。
「ところで貴官の官職氏名は何というか」
「ハッ」
 問われたその部下は敬礼をして答えた。
「ラシード=ウッディームです。階級は少佐であります」
「そうか。どの国の出身か」
「アガデスです。残念ながら今はもうありませんが」
「アガデスか」
「はい」
 モンサルヴァートにより滅ぼされた国の一つである。
「私もだ。立場は同じだな」
「はい」
「ならば共に戦おう。そして」
「彼等に復讐を」
「うむ」
 グータルズの目の光は強くなっていた。そしてその目は遥かなエウロパを見据えているのであった。 
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