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星河の覇皇

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第六部第五章 処刑その二


「そうした時に備えても必要だと私は思いますが」
「それは私もです」
 八条は金の言葉に同意した。
「そうした際により迅速かつ的確に行動出来るよう法整備を進めていくべきだと考えています」
「しかしそれには内務省との調整も必要ですね」
 金はここで自らの省の名を出してきた。
「お願いできますか」
「長官」
 金はここで手厳しい声を出した。
(まずったか)
 八条はそれを聞いて内心舌打ちした。
(まさか今の発言が逆鱗に触れたか)
 しかしそれは杞憂であった。
「私はそれについてお話する為にここへ来たのですよ。そう、実現の為に」
「といいますと」
「はい、私もそれに賛成です。よろしければ協力させて頂きませんか」
「よろしいのですか」
「はい、全ては連合の市民の安全の為です。喜んで協力させてもらいましょう」
「それでは」
「ええ。では今からその法整備についてお話をしましょう。それから」
「大統領とも話を進めていかなければなりませんね」
「そうですね。しかしまずは」
「おおよその構想を立てておきましょう」
 こうして二人は会談の入った。それから内務省と国防省の者の密接な会合が行われた。そしてキロモトや他の閣僚達との話し合いの末この非常時における軍の行動を規定する法案は金の名で議会に提出された。
「この法案は連合軍及び中央政府の権限を強化するものではないのか。これでは連合各国の自主性が侵害される怖れがある」
 こうした意見もあった。だが大半はこの法案に賛成であった。連合軍創設以来そうした法案の制定が求められていたからである。今までは各国の軍が行っていたが連合軍の創設によりそうしたこともなおざりになっていたのだ。従ってこの法案は程無く議会を通過して制定されることとなった。
「これでいいですね」
 金は八条の執務室に来ていた。そして法案の制定を祝っていた。
「はい。これで今夜は美味しい酒が飲めますね」
 八条はにこやかに笑ってそう言った。だが金はやはり笑ってはいなかった。
「私はお酒は飲まないのですが」
「そうなのですか」
 これは少し意外であった。韓国人は連合の中では酒好きで知られているからである。ちなみに最も酒が好きなのはロシア人である。
「体質ですか」
「はい。それよりも甘いものの方が好きです」
「そうですか」
 八条はそれを聞いて顔を少し綻ばせた。
「ではケーキなぞはどうでしょうか。丁度おやつの時間ですし」
「ケーキですか」
 それを聞いた金の目が一瞬光った。
「ええ。チーズケーキですよ。そして飲み物はウィンナーコーヒー」
「いいですね」
 目がまた光った。どうやらケーキやコーヒーには目がないようだ。
「よろしければどうでしょうか。私も一緒に食べる人が欲しいですし」
「よろしいのですか?」
「喜んで。如何でしょうか」
「では御言葉に甘えまして」
 その仮面の様な顔が一瞬であるが綻んだ様に見えた。そしてケーキが運ばれるまで彼女は何処かそわそわしているように感じられた。
(これは意外だな。あの金内相が)
 八条はそれを見て内心驚いていた。それ程までに衝撃的なことであったのだ。
 そしてケーキとコーヒーが運ばれてきた。彼女はそのケーキを見て確かに微笑んでいた。
「お砂糖はいりますか」
 八条は彼女に尋ねた。
「あの」
 彼女はここで言った。
「宜しければシロップとクリームもお願いします」
「シロップもですか」
「はい」
 見ればある。八条はシロップとクリームも彼女に手渡した。
「どうぞ」
「有り難うございます」
 そして彼女はまずシロップをケーキにかけた。それもケーキ全体が濡れる程である。
(えっ)
 八条はそれを見て思わず心の中で叫んでしまった。かろうじて口には出さなかったが驚かずにはいられなかった。
 そしてそれだけではなかった。ウィンナーコーヒーの上のクリームを食べた後でその残りのクリームだけでなく手許のクリームまでコーヒーに入れた。それもかなりの量をである。
 それに飽き足らず砂糖も入れる。角砂糖を十個も入れた。
(ううむ)
 八条はそれを見て内心唖然とする他なかった。甘党の者はそれなりに見てきたが彼女程のものは今まで見たことがなかったからだ。
「どうしました?」
 金は八条が驚いた顔をしているのを見て尋ねてきた。
「コーヒーもケーキもとても美味しいですよ。ただ」
「ただ!?」
「少し甘みが足りないような気がします。上品に仕上げているようですね」
「はあ」
 さらに驚かずにはいられなかった。どうやら彼女は普通の甘党ではないようである。
 そしてそのケーキもコーヒーも何事もないように食べ終えた。それから残りの話を終え彼女は内務省に帰った。
「木口君」
 八条は彼女が帰った後木口に尋ねた。
「はい」
「女性のことだがね」
「何でしょうか」
「甘いものが好きな人が多いとは聞いているが本当のところはどうなんだろうね」
「甘いものですか」
 彼は上司の思いも寄らぬ問いに少し面食らった。だがすぐに答えた。
「まあ世間ではそう言われていますね、確かに」
「そのようだね。ところで」
「はい」
 何か変な質問だと思わざるを得なかったが答えた。
「コーヒーに角砂糖を十個も入れたりケーキをシロップ漬けにして食べるのは最近では普通なのかな」
「まさか」
 彼はそれを笑って否定した。
「それだけ食べたら糖尿病になりますよ」
「そうだよね」
 八条も頷いた。わかっていることではあった。
(だが金長官は至って健康だ)
 それどころか内務省では健康維持の為に毎日の適度な運動まで求められている程である。
(では他で調整をしているのであろうが。ううむ)
 どちらにしろ彼にはもう一つ謎ができた。これは女体の神秘というものであろうか。

 
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