BLONDE
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第三章
私に会社の同僚がこんなことを言ってきた。笑顔で。
「君のそのブロンドはいいね」
「有り難う。褒めてくれるのね」
「うん、それで今の状況が落ち着いたら」
「何かあるのかしら」
「君のそのブロンドをじっくりと見たいけれど」
私の顔やスタイルではなく髪を見ての言葉だった。
「そうさせてもらっていいかな」
「一緒に飲みたいっていうのかしら」
その彼を横目に見て問い返した。魂胆はわかっていたから。
「そうなのかしら」
「まあそうなるね。どうかな」
「そうね。今の状況が落ち着いたら」
私も彼にこう返す。
「それもいいわね」
「誘いに乗ってくれたってことでいいのかな」
「そう思うのなら思っていいわ」
くすりと笑って彼に返した。
「貴方がそう思いたいのならね」
「言うね。それじゃあね」
「ええ。今の仕事が落ち着いてからね」
「そうしようね。それにしても君のそのブロンドは凄いよ」
この時も私の髪を見て言ってくる。
「まるで黄金をそのまま流したみたいだよ」
「髪には自信があるわ。けれど」
「けれど何かな」
「前の彼氏にもそう言われたのよ」
悪戯っぽく、今度はその笑顔になって彼に言った。
「前もね」
「あっ、そうなんだ」
「そうよ。奇遇な話だけれどね」
「奇麗だからね。本当に」
私のブロンドがという意味なのはわかる。
「それも当然だよ」
「けれど」
「別れたっていうんだね」
「ええ。お互いに忙しくなってね」
よくある話を。私は言った。
「そうなったわ」
「それはまた」
「可哀想だっていうのかしら」
「同情はしないよ。君は同情されて有り難いかな」
「同情は嫌いだから」
「そうだよね。君はそういう人だからね」
自分では強いつもりだ。むしろ強くありたい。それでこうした評価を受けていた。
その評価を受けたうえで。私は微笑んでその言葉も受けて。
ブロンドの下で笑った。それから言う言葉は。
「貴方は。最後まで一緒かしら」
「そうありたいと思ってるよ。けれどまずはね」
「ええ。今が終わってからね」
「一緒に飲もうよ。君のそのブロンドに乾杯させてもらうよ」
私は彼の言葉を受けて自慢のブロンドの髪を右手でかき上げた。長い髪がさらりと動く。
その輝きを見ながら私は思った。この髪で人を惹き付けるけれど幸せは他の事情で最後まで至らないこともある。前の彼氏の時と同じで。
このことを考えながらだった。私は彼の申し出を受けたことにも思いを馳せた。これからどうなるかわからない。けれどそれが幸せな結末を迎えらればいいと。そう願っていた。
BLONDE 完
2012・6・2
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